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テキはトモダチ

作者:おかぴ1129
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3.捕虜じゃないよ 〜電〜

 艦娘用のベッドでは艤装をつけた集積地棲姫の身体を寝かせるには横幅が足りなかったため、急遽ベッドを二つ並べて彼女を寝かせていた。人間用医療器具のピッピッというビープ音だけが医務室に鳴り響いていていた。

「……」
「とりあえず一安心なのです……」

 私は入渠を後回しにして、彼女が目を覚ますまでの間一緒にいようと決心した。どのような状況であれ、自分が目を覚ました時に周囲に誰もいないというのは心細い。それが見慣れぬ場であればなおさらだ。ならばたとえ面識のない私であっても、一緒にいたほうが心強いのではないか……彼女が敵だということも忘れ、私は彼女が心細くならないようベッドの脇にパイプ椅子を準備して、彼女が目覚めるまでは見守ろうと決心した。

 集積地棲姫は私達が運んでいる間、ずっと意識を失っていた。おかげで暴れることもなく、治療もすんなりと出来た。ただ艤装だけは深海棲艦のそれがどういったものなのかいまいちわからず、それだけは彼女の身体に今も装着している状態だけれど。

 艦娘ではないから高速修復材が使えるかどうかもわからず、それ以前に入渠で傷が癒えるかどうかもわからない。もっというと、今やっている治療にしても深海棲艦に効果があるかどうかも分からない。何もかもが手探りの状況の中で、ベッドに寝かせた彼女の胸が呼吸で上下していたのを確認したときは、私の胸に大きな安心が訪れた。

 今、集積地棲姫は包帯を体中にぐるぐるに巻いている状況だ。チャームポイントだと思われるメガネも外して枕元に置いてある。戦闘の時は私たちに向けた敵意の為に歪んでいた彼女の表情も、今は眠っているためとても穏やかで優しい。

「とっても綺麗な人なのです……」

 眺めていると、なんだかつんつんしたくなってくるほっぺただ。いけないことだけど、少しだけなら……そう思い、好奇心に負けて集積地棲姫の真っ白いほっぺたをつんつんとつついてみる。私たち艦娘や人間と変わらない、すべすべで肌触りのいい綺麗な肌だ。

「ん……」

 いけない。なんだかずっとつんつんしていたい。私は彼女の眉間にシワが寄っていることにも気づかず、集積地棲姫のほっぺたをつんつんといわず次第にむにむにしはじめていた。

「なにやっとるんだ?」

 体中の血液が逆流した。ビクッと波打った私の身体が硬直し、額に冷や汗がにじみ出てくる。ガチガチに固まった首でなんとか振り返ってみると、そこには司令官さんがいた。なんだか不思議そうに私の事を眺めていた。

「し、司令官さん……」
「お客さんは起きたのか?」
「い、いやあの……」
「ほっぺたつついてたよな今?」

 言えない……『あまりに普通の人と同じで綺麗な肌だったからつっつきたくなった』だなんて恥ずかしくて言えない……

「べ、別になにもしてなかったのです……」
「ほーん……」

 下手っぴな私のウソを信じたのか通じなかったのかは分からないが、司令官さんはこれ以上私を追求はしなかった。司令官さんは私の隣に来て集積地棲姫の顔を覗き込むと、私と同じくそのほっぺたに興味を持ったのか、彼女の顔をじーっと見つめた後……

「人間と変わらんな。なんかつっつきたくなる……」

 とぼそっと口ずさんでいだ。

「司令官さんもつっつきたくなるのです?」
「うん。なんかこう……つっつきたくなるな」

 よかった……集積地棲姫のほっぺたをつっつきたくなるのは私だけではなかったようだ。

「ニヤニヤ」
「? 司令官さん?」
「いや別に……ニヤニヤ」

 意地悪そうな表情がちょっと気になるけれど。

「お客さんはまだ目覚めんか」
「はいなのです。司令官さんは?」
「いや、電がいるって言うからちょっと様子を見にきた。お客さんて言っても相手は敵だし。こっちに攻撃意思がなくても……ねぇ」
「……」

 司令官さんと二人で集積地棲姫の寝顔を眺める。いくら怪我をしているとはいえ、相手は現在の私たちの敵、深海棲艦の集積地棲姫だ。目覚めた瞬間パニックになって大暴れする可能性もあるし、最悪、未だにつけっぱなしの艤装で鎮守府に壊滅的なダメージを与える可能性もある。

 先の戦闘で、私たちが集積地棲姫への効果的な攻撃手段を持たないことは明白だ。もし彼女が本気で暴れてしまえば、それこそ手がつけられなくなる。私はここにきて、自分がしでかしたことの重大さを少しずつ実感しはじめていた。

「……司令官さん」
「ん?」
「ごめんなさいなのです……」

 つい謝罪が口をついて出る。あの時は彼女をひとりぼっちにしておけなくて……あのままほおっておけなくて夢中で連れてきたけれど、私はとんでもないことをしでかしてしまったのではないだろうか。司令部から処分されるかもしれない。この鎮守府に迷惑をかけてしまうのかもしれない……。

 そんな私の心配をよそに、司令官さんはいつもの死んだ魚のような目のまま私の頭をくしゃくしゃっとなでてくれた。

「何言っちゃってんのよ」
「……」
「まぁ確かにとんでもないことをしでかしてくれたけどね。こいつを連れてきたこと自体を怒るつもりはないし、処分もないから安心しなさいよ」
「はいなのです」
「それにまぁ、悪いことにはならんでしょ。多分」
「んん……」

 不意に集積地棲姫の眉間にシワが寄り、身体がもぞもぞと動き始めた。私たちの会話の声が大きすぎたのかも知れない。起こしてしまったようだ。

「お目覚めかな?」
「そうみたいなのです」

 頭に巻いた包帯で片方が隠れた目をうっすらと開き、集積地棲姫が目を覚ました。大暴れするかもしれない。その時は、私が司令官さんを守って彼女を拘束しなければならない。そんなことを考えながら彼女を見守る。もぞもぞと動いた彼女は、薄目のまま周囲の様子を確認しているようだった。

「ここは……?」

 静かに響いた集積地棲姫の声。戦闘時のような雄々しい声ではない。高すぎず低すぎない、とても綺麗で耳触りのいい心地いい声だ。

「目が覚めたのです?」
「どこだ……ここは……」
「ここは電たちの鎮守府なのです」
「お前は……さっき、私と戦闘になった……」
「電です」

 彼女の瞳がこちらをちらっと一瞥し、その後首をゆっくりと動かして顔をこちらに向けた。戦闘中はまったく気が付かなかったが、彼女の左目はとても綺麗な水色をしていた。

「……メガネは?」
「はい?」
「私のメガネ。かけていたメガネはどうした?」
「枕元のテーブルに置いてあるのです」

 彼女から見て私たちの反対側に置いてある、枕元のテーブルを見る集積地棲姫。そこには彼女のメガネが置いてある。そのメガネをかけたいのか、彼女は右腕を動かそうとするが……まだ傷は痛むようだ。痛そうに顔を歪ませ、メガネをかけるのを諦めたように再び天井を見つめた。

「……運がいいな。怪我だらけでなければ、即座に大暴れしていたところだ」
「……」
「ここはお前たち艦娘と人間の本拠地の一つなんだな?」
「はいなのです」
「私は捕虜か……」
「あの……」

 彼女は残念そうに……すべてを諦めたかのような疲れた笑顔を浮かべ天井を見つめた。違う。私はそんなつもりで彼女をここに連れてきたのではない。私は彼女をひとりぼっちにしておけなくて……傷だらけのままあの海域にひとりぼっちにしておけなくて、ここに連れてきたというのに……。

「寝起きのところ申し訳ないが確認する。お前は深海棲艦の集積地棲姫だな?」

 彼女と私の会話を隣で冷静に聞いていた司令官さんが静かに口を挟んだ。いつものような気が抜けた話し方ではないところを見ると、やはり相手が深海棲艦ということもあって、TPOをわきまえた話し方をしようと思ったのだろうか。

「そうだ。……お前は?」
「この鎮守府の責任者で司令官だ。この鎮守府の運営とこの子達の管理を任されている」
「……そうか。捕虜の私はこれからどうなる? 尋問か? 言っておくが私は重要なことは何も知らないから拷問をしても意味がないぞ」
「あの……」
「それとも別の場所に連れて行かれて慰みものか? お前たちは女の形をしていれば人間以外でもいいのか? 虫酸が走る話だ」
「あの……あの……」

 彼女の言葉を聞いていたら悲しくなってきた。私はそんなつもりで彼女を助けたわけではないのに……知らないうちに少しずつ溜まってきた涙を我慢していると、司令官さんが再び口を開いた。

「正直に答えてほしい。これはお前の命に関わる」
「だから拷問をしても何も知らんと……」
「いや機密がどうちゃらって話じゃない」
「?」
「お前らはさ、傷の治療はどうしてんの?」
「……なんだと?」
「いやさ。なんせ俺達って深海棲艦の治療なんて初めてだからさ。正直今やってる治療が効果があるのかさっぱり分からんのだわ」

 司令官さんがいつものペースになりはじめた。確かに司令官さんの言うとおり、今彼女にほどこしている治療法が効果があるかはわからない。彼女の目が覚めたのなら、直接彼女に確認してみた方がいいだろう。早く彼女の傷も治してあげたいし。

「……機密ではないが、話す理由もないっ」
「そこんところをなんとか頼むよ〜……ここまで連れてきてさ。治療出来なかったら気持ち悪いじゃない。ね?」

 ぷいっとそっぽを向いて私たちから顔を背けた集積地棲姫に対し、司令官さんは困った顔を浮かべていた。司令官さんの表情は明らかに困った人が浮かべるそれだが、最近はそれすら無責任な演技なのではないだろうか……と疑い始めている私は悪い子なのだろうか……司令官さんのことを知れば知るほど、彼の困り顔はとてもウソっぽい。

「お願いだから教えてよー……お前を助けさせてよー……むしろ俺たちを助けてよ……」
「……いつもは入渠といって、40度前後まで温めた特殊な薬液に身体を浸して疲れと傷を癒やしている。そうすれば、よほどひどい傷でなければ治る」
「ありがと。んで、今の傷具合でその治療を行えば完治はしそうか?」
「多分。この程度なら問題ないはずだ」

 集積地棲姫はまだ司令官さんのことをよく知らない。故に、司令官さんの嘘くささにはまだ鈍感だ。困り果てた顔の司令官さんの追求をかわしきれなくなったのだろうか。集積地棲姫は案外と素直に自身の治療方法を白状した。

 うん。この人はきっといい人だ。でなければ、司令官さんの困り顔にこんなにあっさりと白旗を上げたりはしないだろう。

「ほーん……ならうちの入渠施設と高速修復剤が役に立つかもな」
「……ここにもあるのか」
「うん。というわけであとで入渠しちゃおっか。高速修復剤も使おう」
「お前と共にか? やはり私は慰みものか」

 はわわわわわわわ。司令官さんは集積地棲姫と……集積地さんと一緒にお風呂にはいるつもりなのか……

「んなわけないでしょうが……」

 ほっ……安心した。

「電」
「はいなのです」
「お前さんもまだ入渠してないだろ?」
「……ッ!」

 確かに私は入渠せずにそのまま集積地さんに付き添っていたけれど、なんでそんなことまで司令官さんはお見通しなのか。破れた服は着替えたし、汚れだって見えるところは綺麗に拭きとったはずなのに。

「電も集積地棲姫と一緒に入渠しろ。もったいない気もするが、なんなら高速修復剤を使ってしまってかまわん。傷が癒えたら今日はそのまま寝ちゃえ。詳しい話は明日だ」
「はいなのです」
「そんなわけで集積地棲姫。今日は電の言うことをよく聞いて、いい子でいるように」
「私への尋問は明日か……捕虜の扱いにしては随分と厚遇じゃないか」
「……だそうだが。電、お客さんに説明を」

 司令官さんはそういい、私の肩をぽんと叩いてくれた。よかった。司令官さんは私の葛藤に気付いていたのか。私は今、目の前ですべてを諦めたうつろな眼差しで天井を見つめる集積地さんに、私がどういうつもりで彼女をここに連れてきたのかを説明した。

「はいなのです。集積地さんは捕虜ではないのです」
「捕虜ではないのか……なら私は何だ?」
「とりあえずはお客さんなのです」
「お客さんか……敵に対してつくづく高待遇だな」
「だから入渠して傷を癒やしたら、今日はそのままおやすみするのです」
「だそうだ。とりあえずこの部屋の鍵はさせてもらうが今晩だけだ。後、お前さんの世話は電が責任をもって行う」
「はいなのです」

 これで一応、彼女に必要な説明はすべて終わった。あとは彼女が……集積地さんが納得してくれればいいんだけど……でも難しそうだ。うつろな目は変わらず、私たちからぷいっとそっぽを向いて全然私達の方を見てくれない。

「……んーとさ」

 司令官さんが自分の頭をポリポリとかきながら困ったような声をあげた。相変わらずこの人の声色は冗談なのか本気なのか判断しづらい。

「もうちょっと愛想よくしてちょうだいよ。仮にも電はお前さんの命の恩人だよ?」
「誰も助けてくれなんて言ってないっ。そっちが勝手に助けて命の恩人だなんて恩着せがましく言われても困るっ」
「そうかい。まぁいいけどさ。とにかく電と一緒に入渠しちゃって」
「入渠中、私がその駆逐艦を人質に取るかもしれんぞ?」
「その点は心配いらん。なんせ頼んでもないのにお前を監視しているやつがいるからな。なぁ青葉?」

――ギクッ!?

 気のせいか天井から冷や汗が滴り落ちる感覚を覚えた。……まさか青葉さんが天井裏からずっと私たちのことを観察してたのだろうか。

「ほぉ……」
「それに……口に出さないだけで電のことが心配で仕方がない軽巡洋艦がいつの間にか入り口で見張ってるし。なぁ球磨?」

――クマッ!?

 今度はドアの向こう側からガタンという音が聞こえてくる。どうやら私たちはずっと球磨さんと青葉さんに見守られていたようだ。まったく気が付かなかった……。

「要は監視つきということだな」
「そういうこと。イヤだろうけど、立場上仕方ないと思ってちょうだい。それさえ我慢してくれれば、こちらも妙に事を荒立てたりするつもりはないから」
「……分かった」
「んじゃ二人ともお風呂入っといで。俺は執務室に帰るわ。電、今晩だけは鍵忘れないでよ?」
「はいなのです」
「んじゃおやすみー……」

 さっきまでの集積地さんに負けず劣らずのうつろな眼差しになった司令官さんは、枕元にある集積地さんのメガネを手に取り、眠そうにあくびをした後左手をダランと挙げて医務室を出て行った。ドアを開けた途端に、

「お勤めご苦労さん」
『なんでバレたクマ?』

 という会話が廊下から聞こえ、その会話が最後まで聞こえることなくドアが閉じられた。医務室には、私と集積地さんが残された。

「じ、じゃあ集積地さん」
「……」
「一緒に入渠しに行くのです」
「……やだっ」
「そ、そんなこと言ってたら傷が治らないのです」
「つーん……」

 困った……集積地さんが私の言うことを聞いてくれない。

「ほら、一緒に行くのです」
「つーん……」
「わがまま言ってたらダメなのです」
「ぷーい……」

 集積地さんはいちいち口で『つーん』『ぷーい』と言いながら私にわがままを言って困らせてきた。こうやってわがままを言ってくれるってことは、さっきよりは打ち解けることが出来た証拠なのかもしれないけれど……でも困った。このままでは彼女の傷を治療することが出来ない。

 しかも。わがままを言って困らせてくるくせに……

「じーっ……」
「……?」
「ぷいっ」
「……うう」

 私が困り果ててもじもじしてたらこっちのことをじーっと見つめてくる。で、私がそれに気付いて集積地さんの方を見るとそっぽを向く。なんなんだこの人は。

 もうこうなったらやけくそだ。

「じ、じゃあ集積地さんっ!」
「……」
「どっちがいいか選ぶのですっ!」
「……」
「もしこのまま入渠してくれなかったら、電はこのまま集積地さんの頭から、だばーっと高速修復剤をぶっかけちゃうのですっ!」
「……!?」
「そして今晩一晩は、高速修復剤でビショビショになったベッドで気持ちわるーい思いをしながら寝ることになるのですっ!」
「そ……それはイヤだ……」
「体中がビショビショに濡れちゃうから、寝てるうちに風邪をひいて明日から鼻づまりに苦しめられることになるのですっ!」
「うう……鼻づまりは辛いな……息苦しくて眠れないもんな……」

 あ、いい感じに反応してくれた。この調子で説得したら入渠してくれそうだ。困り顔でうっすら目に涙を浮かべている今なら、説得に応じて入渠してくれるはずだ。

「でも入渠したら傷も痛くなくなるし、身体もさっぱりさらさら。心地いいベッドのシーツにつつまれて、ふかふかで気持ちよく熟睡できるのです」
「ク……ッ!」
「そして! お風呂上がりには司令官さんが赤城さんに脅迫されてポケットマネーで準備してる美味しい牛乳が楽しめるのですっ! しかも瓶牛乳!!」
「風呂上がりに牛乳!? しかも瓶だとッ!?」
「あの牛乳はとっても美味しいのです……電も毎日のお風呂上がりの楽しみにしているのです……こぼれないように紙蓋をパカッって開ける時のあのドキドキ……火照った身体に染み入る牛乳の心地いい冷たさ……」
「瓶の口が自分の唇に触れた時のあのひやっとした感触……ひ、卑怯だ……瓶だなんて卑怯だッ……!!」
「さあ! 素直にお風呂に入るのと、この場で頭から高速修復剤だばーってされるの、どっちがいいか選ぶのですっ!」
「クッ……私は……一体私はどうすればいいんだ戦艦棲姫ッ……!!」

 どうやら集積地さんは心の中で相当に葛藤しているようで、ギュッと歯を食いしばり体中をぴくぴくさせていた。あと一息。あともう一息で、集積地さんはきちんと入渠してくれるはずだ。ここで最後のダメ押しだ。

「ちなみにフルーツ牛乳もあるのです」
「入渠しよう」

 よかった……なんとか入渠してくれる気になったようだ。フルーツ牛乳の話をした途端に入渠を決意してくれたところを見ると、フルーツ牛乳が好きなのかな?

 体中傷だらけの集積地さんになんとか立ち上がってもらい、彼女を入居施設に案内した。彼女はその両手にとても大きなガントレットのような艤装を取り付けている。私はその大きな手を取り、メガネがなくて前が見えづらい彼女を入居施設まで案内した。

 その後一緒に入渠して分かったことだが、彼女の艤装はやはり私たちと同じように着脱式らしく、その大きな艤装を外して入渠していた。

「あ……」
「? どうかしたか?」
「な、なんでもないのです」

 ガントレットのような大きくて冷たい艤装の内側に隠れていたのは、傷だらけだけどとても綺麗な、純白の手だった。


 
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