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FGOで学園恋愛ゲーム

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二十六話:体育祭


 柔よく剛を制す。
 この言葉を知っている者は多いだろう。
 しかし、この後の言葉を知っている者は意外に少ない。
 柔よく剛を制し、剛よく柔を断つ。

 圧倒的な力は時に、人間が生み出した技術を根こそぎ破壊しつくしてしまう。

【いったぁーッ! ヘラクレス選手、またしても一人で綱引きに勝利っ!!】
「はーはっはっは! いいぞ、実に清々しいな、ヘラクレス! 流石は俺の大英雄だ!!」

 宙に舞っていく相手を眺めながら、3年生のイアソンは高らかに笑い声をあげる。
 傍らには岩のような筋肉を持ちながら、紳士的に相手にお辞儀をするヘラクレス。
 パワー勝負でヘラクレスの右に出る者はいない。

「圧倒的だな。これでは体育祭の終わりを待つまでもなく、決まってしまうなぁ」
「あの、イアソン様。先程吹き飛ばされた人達の手当てに行ってもいいでしょうか?」
「構わんよ。敗者により敗北の屈辱を……まて、そのナイフはなんだ、メディア?」
「治療用のナイフですよ?」

 心底不思議そうな顔で答えるメディア・リリィに、流石のイアソンも相手に同情を見せる。

「よし、落ち着け。敗者のプライドを踏みにじるのは全競技が終了してからにしよう」
「わかりました。皆さんが困らないように、今のうちにナイフを研いでおきますね」
「はっはっはっ! ……敵に回さなくて本当に良かった」
「何か言いましたか?」
「いや、なんでもないさ」

 どこか恐ろしさを感じさせる笑みに、肝を冷やしながら彼は得点表に目をやる。
 現在、イアソン達白組がリードをしている状況だ。
 高校の体育祭となれば、そこまで本気で取り組む学校も少ない。
 しかし、だからと言って負けてやるほど、素直な性格の人間はこの学校にはいない。

「くだらん…実にくだらん催しだ。だが、雑種共の身には合った催しか」
「ほお、気が合うな、黄金の。確かにこの催しは王たる余達には不釣り合い。しかし、民の英気を養うという意味では悪くはない。もっとも―――」

「「誰が頂点かなど語るまでもないがな!」」

 一方の赤組の王様コンビこと、ギルガメッシュとオジマンディアスはくだらないと語り合う。
 基本的に手を貸すことはしない二人だが、自軍負けることを認める性格ではない。
 そして、微妙に二人の間で意見がずれていることに気づかない。

「ファラオと偉大なる王が敵にならなかったのは行幸ですが……気が落ち着きません」

 そんな二人の様子に、ズキズキと胃を痛めている3年のニトクリス。
 二人のことを尊敬している彼女ではあるが、意見のずれがなくなったときに、どんな惨事が起きるのかと考えると、気が休まらない苦労人である。

「フ、最も偉大な者の前で恐縮する気持ちはわかるが、そう固くなるな、ニトクリスよ」
「全くだ。天上の王の威光を素直に受け入れればいいだけよ」
「言うではないか、太陽の」
「そちらこそな、黄金の」
「「ふははははは!」」

 願わくば、この勘違いがばれませんように。
 そうニトクリスは、胃の辺りを抑えたくなりながら願うのだった。

『ニトリがんばれ……』
「ちょっと! よそ見してる暇があったら玉投げなさないよ!」

 その様子を、涙ながらに見つめていたぐだ男だったが、ジャンヌ・オルタの声で現実に戻る。
 現在は玉入れの真っ最中。赤組のぐだ男は何としてでも点を稼がなければならないところなのだが。

『でも、投げても弾き出されるし……』
「だから、もっと投げろって言ってんでしょ!」
「こちらとしては、諦めてもらえると助かるんですけどねぇ」

 先程から赤組の球の半数が、白組の玉によって叩き落されている。
 それを成し遂げているのは、オレンジの髪に飄々とした態度が特徴の2年のロビンフッドだ。
 彼は相手が投げる球をことごとく自身の玉で弾き飛ばし、なおかつ自分の玉はかごに入るように調節するという離れ業を披露している。

「この…! 汚い、汚いわ! 流石は森の賢者!!」
『ジャンヌ・オルタ。それはオラウータンに失礼だよ』
「いや、俺に失礼でしょーが! ほんっと、今のが煽りじゃなくて天然だからやりづらい」

 ぶつくさと文句を言いながらも、目は油断なく戦況を見つめるロビン。
 そして、再び飛んできた赤玉を撃ち落とそうとする。
 が、視認するのもやっとな速度で飛んできた玉に逆に撃ち落とされてしまう。

「……なんですか、そりゃ」
「僕はこういう催しはあんまり好きじゃないんだけど……射撃の腕を競うんなら負けられないね」
『ビリー…!』

 寝ぼけまなこをこすりながら、一人の青年が現れる。
 寝ぐせのついた金髪に細い瞳。
 普段はのんびりとしているが、早撃ちに関しては右に出る者はいない、ビリー・ザ・キッド。

「一度、君とは競い合ってみたかったんだよね、グリーン」
「へいへい、そりゃあ光栄なこった。こっちとしては、ごめんこうむりたいんですけどねぇ」
「じゃあ、負けてくれる?」
「無理な相談ってやつ。一応、チームのために頑張るつもりなんでね」

 お互いにニヒルな笑みを浮かべ、球を持つ。
 どちらも欠片も動かなない。完全なる静。
 それが動に切り替わる瞬間を互いに探り合う。
 そして、遂に―――


「それでは、時間になったので球を投げるのを終了してください」

『続きは来週!』
「いや、ないわよ!?」

 お互いに投げることなく終わってしまったのだった。





「たくッ! 結局あんたがよそ見してたから、あの森の賢者(オラウータン)に負けたじゃない!!」
『ほへんなひゃい』
「真面目に答えなさいよ!」
「すまない。両頬をつねられながらでは喋れないのではないだろうか……」

 試合終了後に、両頬をつねられ、ジャンヌ・オルタの八つ当たりを受ける、ぐだ男。
 ジークフリートが心配して止めに入るが、ジャンヌ・オルタは聞き入れずにグニグニとぐだ男の頬をいじり続ける。

「うっさいわね。別にいいでしょ。こいつの頬も腹立つことに柔らかいし」
『輝く白さ、驚きの柔らかさ!』
「それは洗剤でしょ! て、いうか普通に喋れてんじゃないの!」
『ふぉう、ふぉうふぉふぉう』
「あからさまにごまかしてんじゃないわよ!」

 今度は首根っこを掴まれて、ブンブンと振り回され始めるぐだ男。
 その様子にどうしたものかと、オロオロとするジークフリートの肩を、天草がポンと叩く。

「あれは彼らなりのコミュニケーションですよ。心配しなくても大丈夫です」
「そういうものなのか……なら、邪魔者は退散するとしよう」

 生暖かい視線を向け、立ち去っていく二人にジャンヌ・オルタは怪訝そうな顔をする。

『どうしたの?』
「……最近あんたといると変な目向けられる気がするんだけど」
『そう言えば、そんな気が』

 最近は何故か二人でいると、生暖かい目を向けられることが多い。
 ぐだ男の方も覚えがあるのか顎に手を当てて考える。

『他にも色々と変化があるような……』
「そう言えば、テケテケ槍女が私達が一緒に居るのを見る度にペンをへし折っていたような」
『最近、寝ていると天井から清姫の声と視線が聞こえるような……』

 二人して顔を見合わせて黙り込む。
 普段がおかしいために気づいていなかったが、明らかに彼女達の様子がおかしい。
 そして、自分達に何かしらの被害が及ぶ予感が拭いきれない。

「ああ…白昼堂々とお姉様と見つめ合うなんて……ふふふふ、殺意が沸いてしまいます」
「正妻の余裕を欠いてはだめです。ええ、昨日も旦那様のベッドを温めていたのは私ですもの」
「先輩…本当に先輩とジャンヌ・オルタさんは……」

 殺意の波動を振りまくブリュンヒルデに、目から光の消えた清姫。
 そして、どこか遠くを見つめながら呟くマシュ。
 本能が、彼女たちには近づいてはならないと警鐘を鳴らす。

『おうちかえりたい……』
「ちょ! あんただけ逃げようとしてんじゃないわよ! というか、何が起こってんの? あんた、また変なことしたでしょ!」
『いや、俺は何も……』

 顔を寄せて問い詰めるジャンヌ・オルタだったが、そのことがさらに彼女達を煽ることになっているのには気づかない。
 そもそも、なぜ彼女達がおかしな状態になっているのかというと、それは一つの勘違いからだった。




「た、大変なことを聞いてしまいました……」

 ある日の放課後、ぐだ男に抱きつくジャンヌ・オルタの姿と、ジャンヌの応援しているという言葉を知ってしまったマシュ。

「どうしましょう…。お二人は本当に付き合って……」
「どうした、マシュ。そんなところでボーっとして」
「アタランテさん…!」
「何か悩みがあるのなら、話してみろ。黙っていても何も解決しない」

 3年陸上部のアタランテに声をかけられる。
 ケモ耳お姉さんという、その手の趣味の人にはたまらない属性を持つ女性だ。
 子供に優しく、どこか子供っぽいマシュにも気を使ってくれる。

「はい、実は―――」

 好きという感情を理解していないが、慕っていた先輩に相手ができたというショックから、簡単に口を開いてしまうマシュ。
 しかし、その話を聞いている者がいた。

「た、大変なことを聞いてしまいました」

 アタランテとマシュの話を、偶然盗み聞きしてしまった沖田が頭を抱える。
 盗み聞きなどする気はなかったが、偶然では仕方がない。

「どうしましょう……。このまま黙っていることも……」
「なんじゃ、沖田。そんなところで頭を抱えて、また持病かのう」
「ノッブ…!」

 艶やかな黒髪に爺言葉、第六天魔王の異名を持つ織田信長ことノッブが現れる。
 入学当初からの腐れ縁で、友人のような、宿敵のような関係を築いている。

「実は―――」

 取り合えず、ノッブだけには話してみようと口を開く、沖田。
 だが、彼女と同じように話を聞くものが居た。

「た、大変なこと聞いてしまったわ」

 偶々通りかかったマルタが、どうするべきか混乱に陥る。

「どうしたのかしら? マルタさん」
「マリー…! 実は―――」

 マリーに今聞いたことを伝えるマルタ。
 しかし、またまた話は聞かれていた。

「大変なことを聞いてしまった」
「どうした?」
「実は」

 連鎖は止まることなく続いていき。

「大変な―――」
「どうし―――」
「実は―――」

 そして、伝説へ……。





『一体何が起きたんだろうなぁ……』

 そんな、ジャンヌの勘違いから始まった負の連鎖に気づくことなく、ぐだ男は呟く。
 ジャンヌ・オルタもイライラとぐだ男をつねるが、原因には気づかない。
 現状では二人以外は全員が知っているという、外堀が埋められた状況なのだ。

「……考えても無駄ね。今は面倒な競技でもやっておきましょう」
『そう言いつつ、楽しんでるよね?』
「私は負けるのが嫌いなだけよ。それから、あんた放送で呼ばれてるわよ?」
『あ、障害物競走にも出てたんだった』

 諦め、目の前の競技に集中するジャンヌ・オルタ。
 ぐだ男も徒競走に出場することを思い出し、スタート地点に歩いていく。
 その様子に、二人の様子を見つめていたブリュンヒルデと清姫も留飲を下げる。
 だが、しかし。

「あ、ちょっと……」
『ん、なに?』

 ジャンヌ・オルタがぐだ男を呼び止める。
 振り向いた彼の姿に彼女は頬を赤らめて俯き、どうしたものかと悩むそぶりを見せる。


「その……が、がんばりなさいよね」


 恥ずかしそうにそっぽを向きながら、激励の言葉をかけるジャンヌ・オルタ。
 彼女のいじらしい態度に、ぐだ男も頬を染めるが軽く手を挙げて応える。

『頑張ってくるよ』
「……フン」

 素直でないながらも、頬を緩ませて恋人同士のような甘酸っぱい空気を醸し出す二人。
 そんな空気に、周りの多くの者は生暖かい視線を送るが、彼女達だけは別であった。

「ふふふ…ふふふふふ……困りますね」
「ええ…私達以外のるーとなんて困りますね」
「あ、あの、お二人とも怖いです……」

 底冷えするような、綺麗な笑顔を浮かべながら笑う、ブリュンヒルデと清姫。
 マシュが二人の様子に恐れ戦いているが、二人の表情は変わらない。

『なんだろう、急に寒気が……』

 果たして、ぐだ男は数々の試練を越え、ゴールすることができるのだろうか。

 
 

 
後書き
噂は噂であり、噓を言っているとはカウントされないのできよひーの目をもってしてもうんぬん。
まあ、一番はぐだ男とジャンヌ・オルタが喧嘩(イチャイチャ)しているせいですが(笑)

次回、十二の試練(真顔) 
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