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FGOで学園恋愛ゲーム

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二十五話:正夢


 9月1日。日本全国の学生が、この日だけは来て欲しくないと願う一日。
 夏休みが終わり、学校が始まる。誰だって憂鬱で夢でも(・・・)見ていたくなる日だ。
 ジャンヌ・オルタもそんな生徒の一人であった。

「ああ…眠い。最後の日だからってゲームしすぎたわ」

 最近買った『七人の贋作英霊~この恋は真作~』のやり込みで、重い瞼をこする。
 ここまで多くの生徒とすれ違ったが、同じような行動をする者が多かったのは似たような理由だろう。

「それにしても、養父ルートは反則だったわね。ギャグルートだと思ってたら、思いの外シリアスで感動してしまったわ……」

 昨日のゲームの内容のせいで、未だにゲームの世界に居るような感覚に陥りながら歩く。
 そのせいか、いつもはつまずかないような段差に足を引っかけてしまう。

「あ…!」

 重力に従い、体が地面の方へ傾いていく。
 まずいと思い、目を瞑り衝撃に備える。
 しかし、次の瞬間に感じたのは固い床の感触ではなく、温かく柔らかい感触であった。

「大丈夫ですか? お姉様」
「あ、ありがとう」
「ふふふ、お姉様は私がいないとダメですね」

 目を開けた先にいたのは、クスクスと笑うブリュンヒルデの姿であった。
 まるで、乙女ゲームのありきたりな展開のような出来事に驚きながらも、礼を言う。

「しっかりしてくださいね、お姉様。でも、そんなところが可愛いですけどね」

 何故か、流れるような仕草で髪を撫でながら、そんなことをのたまうブリュンヒルデ。
 普段であれば、ジャンヌ・オルタも振り払って終わりだっただろう。
 だが、プレイ中に誤って突入してしまった百合√を思い出し、叫んでしまう。

「こんなルートに入ってたまるかぁ!」
「あ! お姉様、そんなに走ると危ないですよ!」

 夢見心地(・・・・)のせいか、このままではブリュンヒルデ√に入ってしまうと思い込み逃走を図る。
 しかしながら、フラグは強烈なまでに立ってしまっていた。
 駆けだそうとした瞬間に、進行方向に腕を突き出され制止される。
 要するに壁ドンをされたのである。

「困ります……そんなことされると…私、抑えきれませんよ?」
「や、やめなさいよ…ッ」
「ああ、その表情……我慢できません」

 ジャンヌ・オルタの顎に手を添えて、キスをするように引き寄せるブリュンヒルデ。
 余りにも自然な動作に、ジャンヌ・オルタは何もできず、無防備に体を差し出す。
 二人の顔と顔が近づいていき、唇が触れ合おうとした瞬間だった。


『無理やりはダメだよ』


 横から力強い腕が伸びてきて、ジャンヌ・オルタの体を引き寄せる。
 分厚い胸筋の感触と、どこか落ち着く香りが彼女を包み込む。
 そのことに驚いて見上げると、少し怒ったようなぐだ男の顔が瞳に映るのだった。

「無理やりだなんて……お姉様が魅力的すぎるのが悪いんです」
『それはわかるけど、怯えちゃってるよ』
「な!? べ、別に怯えてなんてないわよ!!」

 震えていたのがばれて必死に否定するが彼女の言葉は聞き入れられない。
 ただ、子供をあやすようにポンポンと背中を叩かれるだけである。
 そのことがさらに彼女の羞恥心を煽り、涙がにじみ出てくる。

『ああ、もう……可愛い顔が台無しだよ』
「か、可愛いとか言うな!」
『ほら、涙拭いて』

 普段のぐだ男とは思えないような、キザな動きで涙を拭きとられる。
 具体的には指で拭うというものだ。
 ジャンヌ・オルタはますます、恥ずかしくなり顔を赤くしてうつむく。

『顔が赤いよ、熱でもあるの?』
「べ、別にそんななんじゃ―――」

 そこまで言って、彼女の思考は完全に停止する。
 少し近づければ、唇が触れ合うほどの距離にある彼の顔。まつ毛の長さまで分かってしまう。
 額をつけて熱を測るぐだ男に文句すら言えない。
 まるで夢でも(・・・)見ているようだ。

『熱があるね。保健室に行こう』
「熱なんてないわ―――キャッ!?」

 抵抗を試みたところで、お姫様抱っこをされて可愛らしい悲鳴を上げる。
 その時点で、彼女の許容量は限界を超えていた。
 あー、うー、と言葉にならない声を上げて、恥ずかし気にぐだ男の胸に顔をうずめる。
 その間にも彼は人目も気にせずに保健室に向かっていく。

『そんなことして、何がしたいの?』
「うぅ…こっちが聞きたいわよ。あんたこそ……私をどうしたいのよ」
『……聞きたい?』

 保健室に到着し、彼女をベッドに寝かせ、ぐだ男は甘く低い声を出す。
 部屋には他に人はおらず、二人きりの状況である。

『俺だって、男なんだよ?』
「ま、まって、あんた何する気…?」

 ギシリと、ベッドが軋む音が響く。
 彼女の上に覆いかぶさるようにぐだ男が乗ってきた音だ。
 彼は狂おしさを込めた息を吐きだしながら、紅潮した彼女の頬を優しく撫でる。

『ジャンヌ・オルタ。俺は……君のことが―――』





「お姉様、起きてください。もう休み時間ですよ」
「ゆ、夢だったのね」

 ジャンヌ・オルタが目を開けると、そこは見慣れた教室であった。
 どうやら、寝不足の影響で一時間目から居眠りをしていたらしい。

「顔が赤いですが、大丈夫でしょうか?」
「ッ! 少し離れなさい!」

 先程の夢の内容を思い出して、顔を赤くするジャンヌ・オルタ。
 その様子に心配をして、手を伸ばしてくるブリュンヒルデだったが警戒から避けられてしまう。

「お姉様…?」
「な、なんでもないわ。それより次の授業ってなに?」
「はい。たしか、数学だった気が―――」
『大変だ!』

 何とかごまかして、ブリュンヒルデの気を逸らすことに成功するが、今度は別の騒ぎが起こる。
 廊下からぐだ男の叫び声が聞こえ、何事かと振り返る。


『バベッジ先生が…! バベッジ先生が―――ドアに挟まってる!!』


 教室のドアに挟まり、蒸気を噴出しながらSOSを出す、チャールズ・バベッジ。
 水陸両用、鋼鉄のフォルム。
 ロマンに満ち溢れた体を持つバベッジであるが、私生活ではこうした不便もある。

『大丈夫ですか、バベッジ先生!?』
「我は正常に稼働しているが、動くことができない。押してもらえると助かる」
『わかりました! アストルフォ、こんな時こそ怪力スキルを発動するんだ!』
「まっかせてー!」

 ドアに挟まったバベッジを救出すべく、実は怪力なアストルフォが立ち上がる。
 後ろに回り込み、そのロマンあふれるボディに手をかけ、一気に押し込む。

「そりゃ!!」

 スポンと、効果音が聞こえるようにバベッジが抜け出していく。
 途中、ミシリとドアが歪むような音が一瞬聞こえてきたが、そこは敢えて無視をする。

「動作機能、正常状態。機体損傷なし。手間をかけてすまなかった」
「このぐらい平気、平気。でも、今度も引っかかったら面倒かなぁ」
「うむ、その通りだ。機体を小型化できるように、今後調節するとしよう」

 何とか脱出に成功し、アストルフォに礼を言うバベッジ。
 そんな様子を呆れたように見つめながら、ジャンヌ・オルタはチラリとぐだ男の顔を盗み見る。

「あり得ない…あり得ない…なんで、あんな奴のことを夢に見たのよ……」

 夢の内容を思い出しながら首を振る。
 正直に言うとブリュンヒルデ以上にダメージが大きい。
 あれは完全に個別ルートに入ったイベントだ。

「いくら、昨日やりこんだからって、あんな夢見るなんてあり得ないわよ……」

 夢に整合性を求める必要性はないだろうが、夢の中であのような展開が起きたのだ。
 嫌でも、自分が相手のことを想っているのではないかと疑ってしまう。

「夢でも選ぶとかないわ。事故よ、事故って変なフラグ立てたのよ、きっと」

 必死に勘違いだと自分に言い聞かせ、心を落ち着かせる。
 そこへ、心配したブリュンヒルデが話しかけてくる。

「お姉様……ゲームのやり過ぎは体によくありませんよ」
「そんなの私の勝手でしょ! ……てか、なんで知ってんのよ、あんた」
「愛の力です」
「愛って怖い!」

 愛の力に戦慄するジャンヌ・オルタ。
 愛とは最後に勝つものであり、不可能を可能にする魔法の言葉である。
 そう、愛さえあれば、溶岩に飛び込みクロールをすることも容易いのだ。

「とにかく、何か悩みがあったら相談してくださいね」
「あんた……さっきのは私を笑わせる冗談だったのね」
「いえ、先程のは純愛120%です」
「あんたを信頼した私が馬鹿だったわ」

 真顔で答えるブリュンヒルデに、ガクリと肩を落としながらも彼女は少し嬉しそうな顔をする。
 なんだかんだと言って、誰かに心配されるというのは嬉しいものである。

「……そうね。もしよ、もし。私が、す、好きな人ができたって言ったら、あんたはどうするの?」
「婚姻届けの用意なら既にできています」

 まるで、教科書を取り出すかのような自然な動作で、引き出しから婚姻届けを取り出すブリュンヒルデ。

「待ちなさい。なんでそんなもの持ってるのよ。というか、18歳以下は無理でしょ」
「女性同士なら年齢が下がるのでいけます!」
「同性なのに、選ばれるのは自分だって、根拠が欠片もない自信はどこからくるのよ?」
「諦めなければ夢は必ず叶います!」
「ダメだわ、こいつ……早く何とかしないと」

 一切曇りのない瞳で言い切る、ブリュンヒルデ。
 対するジャンヌ・オルタは、どこか遠くを見ながらため息を吐く。
 なぜ、こんな奴に好かれてしまったのだろうかと。





 放課後の訪れを知らせるチャイムが鳴り響く。
 特に部活にも、委員会にも所属していないジャンヌ・オルタは家路へと向かう。

「今日は隠しルートの親戚のおじ様ルートをやらないと……流石に体育祭前に終わらせないと死ぬわ」

 ボーっとする頭で、今後の予定を立てながら廊下を歩く。
 全ルートを攻略するまでは、寝不足からは逃れられない。
 そもそも、寝ている暇などない。全クリ前に休むなど言語道断だ。

『久しぶり、ジャンヌ。元気だった?』
「はい。ぐだ男君の方もお変わりありませんか?」

 そんなことを考えながら、廊下を歩いていたところで見慣れた姿を見かける。
 ぐだ男に姉のジャンヌが、楽しそうに会話をしている光景。
 いつもならば、無視をして通り過ぎるところだが、今日は苛立ちから無視ができなかった。

「フン、情けない顔して……一発引っ叩いてあげるわ」

 姉に笑みを向けるぐだ男の姿に、なぜか心がささくれ立ち、気づかれないように近づいていく。
 そして、射程圏内に入り、手を振り上げようとしたところで事故は起こる。

『あれ? 何してるの、ジャンヌ・オルタ』
「ばっ!? いきなりこっちに来られたら、止まれな―――」

 ジャンヌ・オルタの存在に気づいたぐだ男が、何事かと寄ってくる。
 彼女はこのままだとぶつかると判断し、必死にブレーキをかけるが急には止まれない。
 その結果、勢い余ってぐだ男に抱きつく形になる。

『……え、えーと、これは』
「一体何を…?」

 困惑した様子になる二人の顔が面白いが、今のジャンヌ・オルタにはそれを笑う余裕などない。
 なぜ、このような事態に陥っているのか自分でもわからない状況。
 さらに、夢で感じたような温もりと匂いで頭が正常に働かない。
 そのため、自分でも何を言っているのかわからないうちに言葉を紡いでしまう。


「あ、あんたが…私のことを見てないのが悪いのよ…!」


 顔をトマトのように赤くし、上目づかいで見つめながら悪態をつく。
 自分がぶつかったのが悪いのではなく、ぐだ男の不注意が悪いという責任転嫁だ。
 それが終わると、恥ずかしさのあまりに当初の目的も忘れて、一目散に逃げだしていく。

『ジャンヌ・オルタ…?』
「……ぐだ男君、追ってあげてください」
『え?』
「あの子はきっと、あなたが自分を見てくれないことに嫉妬してしまったんです」

 フンスと胸を張りながら断言するジャンヌ。
 妹のことなら、なんでもお任せという姉の意地であるが、今回ばかりはただの勘違いである。

『いや、あれ、こけたことの言い訳じゃ……』
「違います! こう、啓示がキュピーンと降りてきてるんです! 自分だけを見て欲しいという気持ちだと!」

 神は言っている。そんな啓示に覚えはないと。

「お姉ちゃんは知っています。あの子は恥ずかしがり屋で寂しがり屋なんです。自分の気持ちを上手く相手に伝えられない。そのせいか、私を昔みたいにお姉ちゃんって呼んでくれないんですよ!」
『いや、それは誰でも恥ずかしいよ』

 何やらスイッチが入ったのか、おかしなテンションになるジャンヌ。
 具体的には、経験値がどんどん増えそうな空間のテンションである。

「私はお二人を応援しています。だから、あの子のことをお願いします」
『いや、だから、多分勘違い……』
「お願いします!」
『ア、ハイ』

 強引に説得をされ、死んだ目で頷く、ぐだ男。
 もはや、抵抗することはかなわない。

「さあ、あの子を追ってあげてください!」
『もう、どうでにでもなれ』

 完全に乙女ゲーの知識が偏っているジャンヌを置いて、ぐだ男は走り出す。
 結局、予想通りに誤解だったので、コンビニのおでんと引き換えに許してもらったのだった。
 しかし、ジャンヌのあらぬ誤解は、新たなる火種の元となる。


「た、大変なことを聞いてしまいました……」


 三人のやりとりを見ていた、メガネの後輩の声が、夕暮れの校舎に静かに消えていくのだった。

 
 

 
後書き
次回は体育祭でも書こうと思ってます。

アストルフォ√設定

なんやかんやあって過去に戻ってしまったジャンヌとジャンヌ・オルタ。
二人はどちらも√後であり、ぐだ男を攻略すべく姉妹で争う。
と、思いきやぐだ男がアストルフォに惚れる異常事態に。
二人はぐだ男を正常に戻すべく協力して誘惑してくる。
果たしてぐだ男は己の愛を貫くことができるのか……。
なお、他に√が増えていればそこのヒロインも逆行してくる。


本√は真実の愛とギャグを貫くものとなっております(笑)
後、ハーレムはないです。あくまでもアストルフォがヒロインの√です(曇りなき瞳) 
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