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遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~

作者:久本誠一
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ターン55 科学水龍と神の雷

 
前書き
前回のあらすじ:ゾンビ生徒はコントロール奪取能力を持つカードをマルタンが操っていることが原因だった……?そんな中、発電所のシステムがひっそりと息を吹き返す。 

 
『いいかね三沢君、我々は~……』
「はい、博士!」

 ついに僕らの元いた世界とのコンタクトに成功した……のはいいけれど、ツバインシュタイン博士と三沢の会話は専門的すぎて門外漢の僕には何がなんだかさっぱりわからない。まあ、三沢本人が理解できているのだからそれでいいだろう。
 それよりも、僕には気がかりなことがあった。先ほど突然地面からそびえ立ったあの何本もの柱、どうも嫌な予感がする。

「おい、清明!」
「オブライエン!」

 そのタイミングで丁度来てくれたのはオブライエンとそのゆかいな仲間たち。ブルーベレーとか何とかいうチーム名で呼ばれる、オブライエン本人がこの世界に来てから突貫工事で鍛え上げた選りすぐりの猛者たちだ。そのブルーベレーがサッと発電所の周囲を囲むように散らばり、一瞬の隙も見せずに警戒態勢に当たる。その様子を見て頷いたオブライエンが、見張りの仕事を取られて一気に暇になった僕に語りかける。

「すまなかったな、清明。まず結論を言うと、やはりあのデュエルは囮だった。マルタンの狙いは発電所でも食料でもなく、あの柱の根元にあるらしい。すでに十代が彼を追っている」
「十代が?1人で?」

 多分、十代なら1人でも勝つだろう。彼はそういう男だ。僕が今から追いかけたとしてもできる事なんてせいぜい露払いがいいところだろうし、それ以前に足を引っ張る可能性すらあるだろう。その話題はそれまでにして、1つ気になることについて聞いてみた。

「そういえばオブライエン、ゾンビ生徒ってどうなってるの?ちょっと減ったりとかしてない?」

 ついさっき三沢は、明らかにマルタンの息のかかったコントロール奪取能力持ちの悪魔族カード、憑依するブラッド・ソウルを撃破した。もしこれで生徒たちのゾンビ化が解けているなら、それに越したことはない。
 だが、オブライエンはそんな希望的観測に対してあっさりと首を横に振った。

「駄目だな。あの3人は正気に戻ったようだが、むしろその後で不意を突かれて襲われ、ゾンビ化した生徒が何人かいる。ちゃんとした数はまだ把握できていないが、楽観はできないだろう」
「そう……」

 となると、他にもまだ洗脳担当のモンスターが潜んでいるのだろうか。だとすると、それをいちいち探すよりも頭、つまりマルタン自身を直接叩く方がよさそうだ。十代には、いつも負担ばかりかけてるけど。
 すると後ろの通信で聞き覚えのある声がした。ぼやけた映像を見ると、そこには見覚えのある顔2つが。

『清明!』
「夢想!それにエド!」
『僕をおまけ扱いとは、相変わらずいい根性だなお前は。まあいい、今の話は聞いていたか?すぐテニスコートに向かってくれ』

 相変わらず年下とは思えないほどデカい態度のエドがなんか言ってるけど、んなもん無視だ無視。たかだか数日顔を見てないだけなのに、なんだかもうずいぶんと顔を見ていないような気がする。

「夢想……」

 何か言おうと思っていたはずなのに、何もセリフが出てこない。顔を見たら言いたいことはいくらでもあったはずなのに、その全てが吹き飛んだ。天上天下古今東西、男は美少女の涙にゃ弱いって相場が決まってるもんよ。

『よかった……本当によかった……って、私……!』
「……ごめん」

 申し訳なさや嬉しさなどがこみあげてきていっぱいになり、博士やエドの目も気にせず泣きじゃくる夢想の顔を直視できず、目を逸らしてそれだけ返すのが精一杯だった。多分放っておくといつまでもそうしていただろうから、そのあたりで一度映像の前から引き離してくれた皆にはむしろ感謝すべきだろう。

「……ゴホン。では博士、もう一度確認します。見つかったレインボー・ドラゴンの石板からカードが完成しだいこちらの世界に転送装置を使って送り込み、その精霊の力を利用してアカデミアを元の場所にワープさせる。ただしレインボー・ドラゴンのカードを送るためには膨大なデュエルエナジーが必要となるため、こちらとそちらの世界でそれぞれデュエリストを用意してそのエナジーを賄うためにデュエルさせる……これでよろしいですね?」
『ワシにもこんな青春があったもんじゃのう……いや、失礼した三沢君。その通り、これで理論上は完璧じゃ。これで君たちを、この世界に帰還させられる。ただ次元の裂け目はとても不安定なものであり、失敗の可能性を少しでも抑えるためになるべく迅速に行動してもらいたい』
「はい、博士。よし、テニスコートに行くぞ!」
「ブルーベレー、お前たちもついて来い。俺たちも行くぞ!」

 テニスコートに向けて全員が出発する。僕もついていこうとして、もう1度だけ振り返った。またこちらを覗き込んでいた夢想と再び目が合い、どうしていいかわからず咄嗟に親指を立てていた。それを見て一瞬あっけにとられた顔をするも、優しく微笑んで同じくサムズアップで応える夢想。そこで発電システムの調子が一時的に悪くなったらしく、画像が急に乱れて何も見えなくなった。砂嵐状態のテレビのようにザーザーと無意味な音が流れたままの映像に背を向けて、すでにいくらか先行しているメンバーと合流しに向かった。……本当駄目だなあ、僕。へタレとか臆病とか言われても言い返せそうにないや。

『へタレ。臆病。これでいいか、マスター?』
「……そういうのはいらないです」

 なんでこの神様からナチュラルに悪口言われなきゃいかんのだ。流石に空気読めてなかったと反省してくれたのか、それ以降向こうからコンタクトは取ってこなかった。





「そんな……あいつらは……!」
「嘘、でしょう……?マルタン、本当にあの封印を……」

 僕や明日香が言葉を失ったのも、無理はないと思う。あれからブルーベレーの皆さん、そしてクロノス教諭という多大な犠牲を払いながらもなんとかゾンビ生徒たちを潜り抜けテニスコートにたどり着いた僕たち。そこでツバインシュタイン博士の指示に従いデュエルエナジーを発生させるためのデュエル……向こうの世界からはヘルカイザー、こちらからはヨハンが出ることを決め、たまたまナポレオン教頭がアカデミアに借り受けていたデュエルシステムの機械を使っての史上初の試み、次元を隔ててのデュエルが行われようとしていた。お互いにデュエルの準備もしっかり完了し、広いスペースが必要だから、とかそんな程度の理由でドーム状の屋根を開いて……その結果、すでに解放された3幻魔のうち三沢のところに居るウリアを除く2体、ラビエルとハモンの実体化した姿をばっちり見上げることになっていた。

「こっちはもうデュエルするだけだってのに……!」

 ヨハンの声には早く元いた世界に帰りたい、という焦りや初めて見る3幻魔への畏怖の他にも、ずっと待ち望んでいたレインボー・ドラゴンをまだこの手にできないのかという苛立ちが見え隠れしている気がする。まったく、こんな時でもデュエル馬鹿ってのはこうだから困ったものだ。
 よく見ると3幻魔の足元には、左腕が怪物のような奇妙な形になっているマルタンがいる。そのマルタンと僕らの目が合うと、何事か頭上のラビエルとハモンに向かって話しかけた。すると2体の幻魔がそれに頷いてそれぞれ青と黄色のエネルギーの塊を放出し、それがかわす間もなく僕らの目の前まで来て光と同じ色のマントをつけた人型の悪魔……幻魔の殉教者、と呼ばれる姿になる。そのうちの1体、ラビエルの放った青マントの殉教者が口を開いた。

「久しぶり、だな。遊野清明」
「ああ、まったくだね。もう2度と会うことはないと思ってたんだけど?」

 忘れもしない1年の最後、セブンスターズとの戦いに始まった闇のデュエルの日々、そしてその締めくくりとなったラビエルとの死闘の記憶が甦る。思えばあの時も、こうして殉教者の姿を取ったラビエルとデュエルしたんだっけか。

「私がその名を覚えた人間は、お前ただ1人だけだ。光栄に思うがいい」
「そりゃどうも、だ」

 あっちはそう言うが、僕にとってもラビエルの名前は忘れられない。なにせあのデュエルは僕にとって初めての、最終的に勝利できなかった闇のデュエルだ。チャクチャルさんの力をもってしてさえ、あの時の僕には引き分けるだけで精一杯だった。その結果魂を抜かれたはずの僕が、なぜこうして今を生きているのか……ユーノもチャクチャルさんも何も教えてくれないけど、なんとなくあの2人が何かしてくれたような記憶がおぼろげながらある。

「我々がこうして解放されたのは、お前たちのやろうとしていることを止めるためだ」
「つまりマルタン様が、お前らを倒せとさ。最も我の狙いはただ1つ、裏切り者のウリア!お前を倒す、ただそれだけだ!その後自慢の機械を粉々にされたくなければ、我の挑戦を受けろ!」

 そう言って黄マントの殉教者が三沢を……より正確に言えば、三沢のデュエルディスクとその中に眠るウリアをすごい剣幕で指差す。どうやらそれを受けて、三沢とウリアが何かテレパシーでの会話をしたらしい。覚悟を決めた表情でデュエルディスクを構え、ハモンの方へと歩きだす。それを止めたのは、意外にも向こう側で見ていたツバインシュタイン博士だった。

『待ちたまえ、三沢君!』
「申し訳ありません、博士。しかし奴の狙いは俺です、幸いここから先の操作に専門知識は必要ありませんし、俺が席を外しても……」
『違う、そういうことを言っているのではない。この転送システムはデュエルアカデミアほど巨大な質量を持つ物体を運ぶにはデュエルエナジーが足りていないが、これぐらい小さなものならば今の状態でも飛ばすことができる!戦う前にこれを受け取ってくれ、三沢君!』

 そう言って何かケースのようなものを投げる博士。弧を描いて転送装置の真上に飛んで行ったそれが装置から放たれた光を浴びると、次の瞬間にはテニスコートの真上に突然現れた。重力に従い落ちてきたそれをキャッチし、中身を確認した三沢の顔がパッと輝く。

「これは、俺のデッキじゃないですか!」
『うむ。やはり使い慣れたものが一番良いじゃろうからな。健闘を祈っておるぞ、三沢君』
「ありがとうございます、博士!」

 これまで使っていた借り組みで寄せ集め状態だった炎属性のデッキを引き抜く三沢。そこからウリアのカードを取りだして送られてきた新たなデッキに入れ、それをデュエルディスクに差し込んだ。

「さあ、待たせたな」
「まずはウリアとそのおまけを倒す。それが終われば、我に屈辱を味あわせたあの女を……」

 あの女、というのは夢想のことだろう。綺麗な逆転勝利だったからねえ。しかし三沢をおまけ扱いとは、大胆というか傲慢というか。
 ともかく2人のデュエリストが、特に示し合わせる風もなくテニスコートの両端に分かれる。そこから互いに構えを取るのも、ほぼ同時だった。

「「デュエル!」」

「先攻は俺からだ!カードを3枚セットし、カードカー・Dを召喚!召喚したこのカードをリリースすることでデッキからカードを2枚ドローし、このターンのエンドフェイズになる。俺はこれで、ターンエンドだ」

 先手を打った三沢は、まずドローから仕掛けた。フィールドに現れすぐ消えた平べったい車の効力により手札を増やし、3枚の伏せカードでハモンのターンを迎え撃つ準備を固める。

「我のターン!永続魔法、天変地異!さらに永続魔法、デーモンの宣告を発動!」

 殉教者の背後に、僕らには読めない悪魔文字がびっしりと書かれた巨大な石板がせり上がる。だけどそれより問題なのは、あの天変地異のカードだ。天変地異とデーモンの宣告が揃った時、そのプレイヤーは1ターンに1枚のカードをドローできるのと等しい……なにせ超有名なコンボだ、僕だって知っている。

「天変地異の効果により、互いのプレイヤーはデッキを表側表示にする。そしてデーモンの宣告は1ターンに1度我のライフ500を支払うことでカード名を宣言し、デッキトップがそのカードならばそのまま手札に加えることができる。このターンは……ほう、強者の苦痛か」

 天変地異の効力でデッキが表側になっているこの状況では、どんな馬鹿だってデッキトップの中身なんて外すわけがない。当たり前のようにデッキの一番上にあったカード、強者の苦痛を手札に入れた。

 ハモン LP4000→3500

「さらに我は番犬-ウォッチドッグを召喚。バトルフェイズに入るが、このカードは攻撃力0なため攻撃はせずメイン2に移る」

 番犬-ウォッチドッグ 攻0

「ウォッチドッグは召喚したターンのメイン2にのみ効果を使うことができる。手札の魔法カード1枚を捨て、デッキから永続魔法1枚を場にセット。この効果で我は2枚目のデーモンの宣告をセットしそのまま発動、500ライフを払いバッド・エンド・クイーン・ドラゴンを宣言。当然これも手札に加える。カードをセットしてターンエンドだ」

 ハモン LP3500→3000

「止められない、か……」

 3枚も伏せてあるのだからなにか1枚ぐらい妨害系のカードがあるかとも思ったが、現実はそううまくはいかないようだ。全ての効果を素通しした結果、ハモンのデッキは大きく回転し始めてしまった。

三沢 LP4000 手札:3
モンスター:なし
魔法・罠:3(伏せ)
ハモン LP3000 手札:5
モンスター:番犬-ウォッチドッグ(攻)
魔法・罠:デーモンの宣告
     デーモンの宣告
     天変地異
     1(伏せ)

「俺のターン、ドロー!来い、ハイドロゲドン!」

 久々に見るその姿は、水素をモチーフとした4つ足の恐竜。となるとあれは間違いない、6つの属性デッキの中でも三沢が最も愛用する、ウォーター・ドラゴン軸の水属性デッキだ。

 ハイドロゲドン 攻1600

「……あれ?」

 攻撃力ではハイドロゲドンが上なうえ、あのカードはモンスターを戦闘破壊するたびに同名カードをリクルートする能力がある。つまりこのままハイドロゲドン2連撃を加えれば三沢の勝利……なのだが、なぜかその本人が動こうとしない。あの伏せカードがいかにもな罠なのは僕だって見ればわかる。だけど、案外ブラフの可能性だってあるしとりあえず攻撃してみないと始まらない、なんて僕なんかは思うけど。
 そして躊躇いつつも、最終的には三沢も同じ結論に達したらしい。

「バトルだ、ハイドロゲドン!ハイドロ・ブレス!」
「リバースカードオープン、レインボー・ライフ!手札1枚をコストとし、このターン我の受けるあらゆるダメージを回復に変換する!」

 ハイドロゲドン 攻1600→番犬-ウォッチドッグ(破壊)
 ハモン LP3000→4600

「しくじったか……?だが、ハイドロゲドンのモンスター効果発動!相手モンスターを戦闘破壊し墓地に送ったことで、デッキからハイドロゲドンを特殊召喚する!」

 ハイドロゲドン 攻1600

 本来ならば追撃をするはずのハイドロゲドン。だがレインボー・ライフの効力はターンの間ずっと続くため、ここで攻撃したらみすみす敵のライフを増やすだけになってしまう。

「それで終わりか?ならば我のターン、ドロー!……ほう、どうやらお遊びは終わりのようだな。我はデーモンの宣告の効果を2回使い、降雷皇ハモンとツインツイスターをそれぞれ手札に加える!」
「降雷皇……ハモン!」

 ハモン LP4600→4100→3600

 ついに手札に加えられた3幻魔の一角、ハモン。そしてその特殊な召喚条件は、すでにフィールドに揃ってしまっている。

「まずは手札より、バッド・エンド・クイーン・ドラゴンのモンスター効果!自分フィールドに永続魔法が3枚以上存在するとき、このカードは手札から特殊召喚できる!さらに自分フィールドから永続魔法3枚を墓地に送ることで、我はフィールドに降臨する!出でよ、降雷皇ハモン!」

 バッド・エンド・クイーン・ドラゴン 攻1900
 降雷皇ハモン 攻4000

「早い……!」

 思わずそんな声が出る。【天変地異コントロール】のギミックをフルに生かして必要なカードを高速で手札に揃え、バッド・エンド・クイーン・ドラゴンと降雷皇ハモンの永続魔法3枚というサーチの利きにくい召喚条件をこれだけのターンで満たしてくるだなんて。三沢ですらようやくハイドロゲドン2体を並べただけで、まだエースモンスターのウォーター・ドラゴン召喚の条件すら満たしていないというのに。
 改めて実感する。あの時は相手が夢想だったから印象がぼかされていただけで、このハモンもやはり3幻魔……凄まじいまでの実力者だ。どうして僕の周りには、人格に一癖もふた癖もあるくせにやたら強い奴ばっかり集まるんだか。

「行け、バッド・エンド!ハイドロゲドンを破壊しろ、トラジェディ・ストリーム!」
「くっ……リバース発動、デモンズ・チェーン!これにより降雷皇ハモンは効果が無効となり、攻撃が不可能になる!」
「愚かな、先ほど手札に加えたカードを忘れたか!速攻魔法、ツインツイスターを発動!手札から強者の苦痛を捨て、フィールドの魔法か罠を2枚まで破壊する!デモンズ・チェーン及び真ん中の伏せカードには、そのまま墓地へ送られてもらおうか!」
「ぐっ!」

 2本の竜巻が巻き起こり、三沢の発動した2枚のカードがそれに飛ばされて消えていく。だが攻撃封じのコンボが破られてなお、三沢の目から闘志が消えることはなかった。

「もちろん忘れるわけがない。俺はツインツインスターにさらにチェーンして破壊されるカード、強欲な瓶を発動していた。これによりデッキからカードを1枚ドローできる。そして今俺が発動したデモンズ・チェーンは、このカードを通すための囮だ!リバースカードオープン、銀幕の障壁(ミラーウォール)!このカードが存在する限り、相手攻撃モンスターは銀幕に写る己自身を攻撃し、攻撃力が半分となる!」

 バッド・エンド・クイーン・ドラゴン 攻1900→950(破壊)→ハイドロゲドン 攻1600
 ハモン LP3600→2950

「くだらん真似を……!だが、少なくとも貴様の場の永続罠の数はまだ1枚のみだな」
「確かにな、だがこのくらいは必要経費だ。さらに相手モンスターを破壊し墓地へ送ったハイドロゲドンの効果で、デッキから3体目のハイドロゲドンをさらに呼び出させてもらおうか」

 ハイドロゲドン 守1000

「だが、たとえ攻撃力が半減しようと我が一撃ならば!喰らいて滅びよ、失楽の霹靂!」

 大量の雷が銀幕の壁を叩き割り、今度こそハイドロゲドンに届く。確かに数値的なダメージこそだいぶ抑えられたものの、それでもこの世界で3幻魔の一撃だ、三沢の体にかかる負担は想像するだけで恐ろしい。

 降雷皇ハモン 攻4000→2000→ハイドロゲドン 攻1600(破壊)
 三沢 LP4000→3600

「さらに我が特殊能力発動。相手モンスターを葬った時、追加で1000ポイントのダメージを与える!受けて見よ、地獄の贖罪!」
「ぐわあああっ!」

 三沢 LP3600→2600

「どうした、これで終わりか?ならばカードを1枚伏せ、永続魔法、強欲なカケラを発動。ターンエンドだ」

三沢 LP2600 手札:3
モンスター:ハイドロゲドン(攻)
      ハイドロゲドン(守)
魔法・罠:銀幕の障壁
ハモン LP2950 手札:3
モンスター:降雷皇ハモン(攻・銀幕)
魔法・罠:強欲なカケラ
     1(伏せ)

「ぐ……俺のターン!このカードは……よし、銀幕の障壁は維持コストとして毎ターン2000のライフを要求するが俺はそのライフを払わず、このカードを自壊させる」

 三沢を守るために張られていた鏡の幕にひびが入り、粉々に砕け散る。と同時に、障壁によって減らされていたハモンの攻撃力がまたしても元に戻ってしまう。

 降雷皇ハモン 攻2000→4000

「なんだ、まだライフは残っているのに自壊させるのか?」
「黙って見ていろ!俺はオキシゲドンを召喚し、魔法カード……ボンディング-H2Oを発動!フィールド上に存在する2つの水素(ハイドロゲドン)と1つの酸素(オキシゲドン)を結合させ、デッキから水の化身を呼び起こす!出でよ、ウォーター・ドラゴン!」

 ウォーター・ドラゴン 攻2800

 満を持して現れた、三沢のエースたる水の化身。だが銀幕の障壁が消えて攻撃力4000になったハモンの前では、その攻撃力も届かない。これなら障壁を維持していれば……そう思った直後、彼が別のカードを手札から出した。

「装備魔法、幻惑の巻物を発動。このカードを降雷皇ハモンに装備しすることで、その属性を俺が自由に決めることができる。そして炎属性を宣言することで、ウォーター・ドラゴンの効果を適用。このカードが存在する限り、あらゆる炎属性モンスターと炎族モンスターの攻撃力は0となる!」

 降雷皇ハモン 光→炎 攻4000→0

「バトルだ!ウォーター・ドラゴンで降雷皇ハモンに攻撃、アクア・パニッシャー!」
「小癪な真似を……だがまだ甘い。カウンター罠、攻撃の無力化を発動!攻撃は無効となり、バトルフェイズは終了する!」
「そんな、三沢の攻撃がかわされた!?」

 大きく広げられたハモンの黄金の翼が盾代わりとなり、ウォーター・ドラゴンの吐き出した水のブレスを弾いて逸らす。明後日の方向へと飛んで行った水流が、砂漠のはるか遠くに着弾して重い音が響いた。

「これで、ターンエンドだ……」

 ウォーター・ドラゴンの効果が生きている以上まだ絶体絶命というほどでもないが、今のターンでとどめを刺し損ねたことを悔やみつつターンを終える三沢。一方ハモンは今のカウンターに気をよくしたのか、余裕の面持ちでカードを引き……僕らにとっては運のいいことに、引いたカードはそのまま召喚できるモンスターではなかったらしい。少しだけイラッとしたままに、自らの分身を再び立ち上がらせる。

「スタンバイフェイズ、我のフィールドから永続魔法1枚を墓地へ送ることでバッド・エンド・クイーン・ドラゴンは蘇生が可能となる」

 バッド・エンド・クイーン・ドラゴン 攻1900

 先ほど返り討ちに会い葬られたドラゴンが、強欲なカケラを墓地に送ることでまたもやフィールドに現れる。最初からドロー目的じゃなくて、この蘇生効果を使うためだけに使ったということか。

「速攻魔法、サイクロンを発動。我はこのカードで幻惑の巻物を破壊する」

 幻惑の巻物が破壊され、ハモンの属性が炎から光に戻ってしまう、これでせっかくの属性変更も台無し、ウォーター・ドラゴンの効果から逃れてしまった。

 降雷皇ハモン 炎→光 攻0→4000 

「バトルだ、我自身でウォーター・ドラゴンに攻撃!失楽の霹靂!」

 降雷皇ハモン 攻4000→ウォーター・ドラゴン 攻2800(破壊)
 三沢 LP2600→1400

「追撃の地獄の贖罪!」
「うおおおおっ!」

 三沢 LP1400→400

 テニスコート中に、三沢の絶叫が響く。無理もない、あの場で三沢が受けているのは、実体化した精霊による本物の雷撃なのだから。

「まだだ……!ウォーター・ドラゴンには、もう1つの効果がある!」

 そう。ウォーター・ドラゴンは破壊されても、墓地からハイドロゲドン2体とオキシゲドン1体を蘇生する特殊能力を備えている。その3体のモンスターを壁にすれば、ハモンの攻撃は防げずともバッド・エンド・クイーン・ドラゴンのダイレクトアタックは受けずに済む。

 ハイドロゲドン 守1000
 ハイドロゲドン 守1000
 オキシゲドン 守800

「くだらんな。速攻魔法、エネミーコントローラーを発動!この効果によりハイドロゲドンを攻撃表示に変更する!バトルだ、バッド・エンド!」

 バッド・エンド・クイーン・ドラゴン 攻1900→ハイドロゲドン 守1000→攻1600(破壊)
 三沢 LP400→100

「バッド・エンドがバトルによりダメージを与えた時、相手は手札を1枚選んで墓地へ送り、我はカードを1枚ドローする。残った最後の手札1枚、墓地へと送ってもらおうか」
「……ああ、いいだろう」

 確かにハモンの言うとおり、残り1枚しかない手札では選んでも何もあったものではない。デュエル序盤から使われることなくずっと手札にあったカードが、ゆっくりと墓地へ送られた。
 これで三沢はハンドレス、対するハモンは今のドローも含めてまだ3枚も手札を残している。状況は不利……だけど、まだ負けたわけじゃない。きっと何かできる事があるはずだから、まだ三沢の目は死んでない。

三沢 LP100 手札:0
モンスター:オキシゲドン(守)
      ハイドロゲドン(守)
魔法・罠:なし
ハモン LP2950 手札:3
モンスター:降雷皇ハモン(攻)
      バッド・エンド・クイーン・ドラゴン(攻)
魔法・罠:なし

「俺のターン、ドロー!」

 最後の最後に三沢が引いた1枚のカード……それを、静かにフィールドに伏せる。あのカードがなんにせよ、次のハモンのターンで決着がつくだろう。

「このカードをセットして、ターンエンドだ」
「我のターン。我が一撃で残ったモンスターのうちどちらかを攻撃すれば、地獄の贖罪により貴様の敗北は確定する……結局ウリアの奴は出てこなかったが、まあいい。もはや考えることもあるまい、ハイドロゲドンに攻撃する!失楽の―――――」
「この瞬間、リバースカードオープン!」

 ハモンが全身から走らせる稲妻が、三沢の目の前に出現した巨大な鏡に全て吸収される。その鏡は目の前の風景を模写するのではなく、かすかに覗いて見えるその中にはハイドロゲドンとオキシゲドンが1体ずつ写りこんでいた。

「馬鹿な!?」
「俺はフィールド上の2体のモンスター、ハイドロゲドンとオキシゲドンをゲームから除外することで永続罠、ディメンション・リフレクターを発動した。このカードは発動後に闇属性レベル4の魔法使い族としてフィールドに特殊召喚され、その攻守は相手モンスター1体と同じになる」

 ディメンション・ミラージュ 攻4000 守4000

 鏡が吸収した稲妻のエネルギーを内部に溜め込み、自らの力へと変換していく。最初はうっすらと、だが次第に力強く、鏡そのものの表面が内部から光を放ち始めた。

「そしてディメンジョン・ミラージュは特殊召喚に成功した時、自らの攻撃力の数値分だけ相手プレイヤーにダメージを与える!これで終わりだ、降雷皇ハモン!」

 臨界点を超えたエネルギーは破壊光線として真っ直ぐに解き放たれ、防御姿勢を取ったハモンの黄金色の翼をあっさりと突き破ってプレイヤーとしてのハモンを直撃する。

「ぐ、ぐおおおお………!!」

 ハモン LP2950→0





「なぜだ、なぜ我が2度も人間ごときに……!」
『その理由を知りたいか?』

 ソリッドビジョンが消えてゆく中、その場に倒れこむハモン。うわごとのようになぜだ、なぜだと呟き続けるその姿に、どこからともなく声が降り注いだ。

「……その声、ウリアか……フン、我の無様な姿を嗤いにでも来たか?」
『まさか。いいか、お前が敗北した原因はただ1つ。人間を侮っていたことだ』
「何?」

 ゆっくりとハモンを諭すウリアの声。僕らも、ラビエルも、誰も何も言わなかった。

『以前の私もそうだった、だからこそ敗れた。今回お前は私との戦いを求めるあまり、真の相手である目の前のこの人間のことを見ていなかった。だからこそ私はこのデュエルの前、この人間に密かに頼んだのだ。万一私のカードをドローしたとしても、このデュエルに限り私を召喚しないでくれと。案の定お前は常に心のどこかで私が場に現れることを意識してのデュエルしかできず、その結果実力を十分に発揮することができていなかった』
「それでは、まさか貴様は……!」
『ああ、そうだとも。バッド・エンド・クイーン・ドラゴンにより墓地に送られたカード、あれが私だ。お前はいつまでも手札で召喚条件を満たしていない私、そして墓地に送られ蘇生もできない私の幻影を無意味に意識し続けていたのだ』
「まったく……このハモンともあろうものが見事に裏をかかれた、ということか……」

 その台詞を最後に、黄マントの殉教者が最初にこちらへ飛んできたのと同じような黄色い光となって砂漠の向こう、マルタンの方へと飛び去っていく。これで残る妨害役はラビエルただ1人、ここまで来たら僕も引くわけにもいかないだろう。

「ハモンめ。まあいい、遊野清明。いざ、あの時の決着をつけようではないか」
「……オーケイ。僕も1年前とは違うってことを見せたげるよ、っと!」

 あの時は引き分けに終わった相手。あれから丸1年と少しの間に、どちらがより成長できたのか。その答えを、今からカードに聞いてみよう。 
 

 
後書き
あえてウリアVSハモンをさせない名采配(自称)。
決してやりたいようにやってたらいつまで経っても三沢のフィールドに永続罠が3枚揃わなかったとか、なんかもう最後ライフ削るのがめんどくさくなってきて豪快バーンで締めたとかそんなんじゃないです。ええ、ないです。ないったらないです。ウリアの影を常に意識させることで気を逸らしつつ、ウリア以外のカードでとどめを刺すという恐るべき心理フェイズです。多分。……そういうことにしておいてください。 
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