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ゲート 代行者かく戦えり

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装甲車両解説(日本編)その2

「82式指揮通信車」(260両)

全長:5.8m

全幅:2.5m

全高:2.4m

重量:13.6t

主武装:12.7mm重機関銃M2(1500発)

副武装:62式7.62mm機関銃または5.56mm機関銃MINIMI(4800発)

エンジン:いすゞ10PBI 4ストロークV型10気筒液冷ディーゼル

最大速度:100km/h

航続距離:600km

乗員数:8名


82式指揮通信車は、
日本において第二次世界大戦後初めて実用化された装輪装甲車である。陸上自衛隊で名前の通り指揮・通信を担当する車両として使用され、
主に師団司令部や普通科連隊本部、特科連隊本部などに1983年から配備されている。陸上自衛隊では、悪路走破性の高さから戦闘車両は無限軌道による装軌式を採用してきたが、
1974年に防衛庁(当時)は装輪式の車両の機動性研究を行う事を決定し、生産は小松製作所が担当。
1両当たりの価格は1億円近いと推定されている。


諸外国では、一般的に指揮通信車は既存の装甲戦闘車両(主に車内容積の広い装甲兵員輸送車か歩兵戦闘車)に通信機材などを追加する形で開発されることが多いが、本車は当初から通信機能に特化した車両として開発されたので珍しい。82式指揮通信車の車体は圧延防弾鋼板の溶接構造で、エンジンが車体中央部左側(第1輪と第2輪の間)に配置され、その前後を操縦室と指揮・通信室が挟む形になっている。


エンジン右側には狭いながらも通路があり、前後は一応往来が可能である。車体前部の操縦室内には右側に操縦手席、
左側に助手席があり、それぞれの上面には後ろ開き式のハッチが設けられている。助手席上面のハッチ前方には銃架が設けられており、必要があれば62式7.62mm機関銃を装備することができる。


操縦室の前面と左右側面の窓には、上開き式の装甲シャッターが取り付けられている。車体後部の指揮・通信室は天井が一段高くなっており、内部での作業を行い易くしている。
指揮・通信室の内部配置は外から見た場合、右側タイアハウス上に通信機器や小さな折り畳みテーブルが配置されている形になる。


座席はそれらを取り囲むように配置され、6名の指揮・通信要員が搭乗する。上面にはハッチが2つあり、右側のハッチ前方には銃架が設けられており、主武装である12.7mm重機関銃M2がマウントされている。なお左側のハッチは後期生産分から、やや大きめのキューポラに変更した。


乗員の乗降には車体右側面の第1輪と第2輪の間、車体左側面の第2輪と第3輪の間、それに車体後面に設けられているアクセスドアを使用する。また車体右側面に3基、左側面に2基、
後部ドアに1基ガンポートが備えられており、ある程度歩兵戦闘車的な使い方もできるようである。エンジンは、いすゞ自動車製の10PBI 4ストロークV型10気筒液冷ディーゼル・エンジンを搭載している。これは戦前・戦後を通じ、
日本の装甲車両が搭載する初の液冷エンジンである。


足周りは油圧コイル・スプリングの6輪独立懸架方式で、路上最大速度は100km/hとなっている。オフロードについては垂直障害物なら60cmまで、溝なら幅1.5mまで横断可能である。
その反面浮航性は無く、渡河能力は水深1mまでである。


コンバットタイヤを装備しており、冬季間は車両に合うスタッドレスタイヤが無いため、夏タイヤにチェーンをはめて走行をする。後に本車輌をベースとした87式偵察警戒車と化学防護車が開発された。また、同じく小松製作所が製造している96式装輪装甲車の開発にも経験が活かされ、開発期間の短縮に繋がった。自衛隊特地派遣部隊が現地に持ち込んだ車両の一つであり、現地では前線で司令部代わりに代用されることがある。






「化学防護車」(80両)

全長:6.1m

全幅:2.5m

全高:2.4m

重量:14t

主武装:12.7mm重機関銃M2(1500発)

エンジン:いすゞ10PBI 4ストロークV型10気筒液冷ディーゼル

最大速度:95km/h

航続距離:600km

乗員数:4名


化学防護車は、核兵器や化学兵器が使用された状況下において、放射線や汚染状況を調査、測定するNBC偵察車両である。
82式指揮通信車を改設計して開発され、
1987年(昭和62年)に制式採用された。
主に陸上自衛隊の中央特殊武器防護隊(大宮駐屯地)、各師団および旅団内の化学防護小隊などに配備されている。小松製作所製造、調達価格は約2億円。


本車は82式指揮通信車をベースに各部の密閉度を上げ、化学剤や放射性物質から乗員を防護するようにしたもので、車内には空気浄化装置が取り付けられており、防護マスクや防護衣を装備すること無く、放射線の測定や毒ガスの検知が行えるようになっている。また原子力災害時には、高速中性子を減速する特殊なパネルと鉛ガラスから成る中性子遮蔽セットを車体前部に装着することができる。
定員は4名であるが、
操縦士と測定員2名での運用が標準と推測されている。


測定機器としては、
GSM-4ガスサンプラー(化学物質測定用)、地域用線量率計3形(放射線測定用)や携帯測定機器が搭載されている。また、
車体後部にはマニピュレーターが備えられており、安全に汚染された土壌のサンプルを採取できる。


マニピュレイターは車体後部に設けられた窓から目視で、
もしくはTVカメラの画像を見ながら手元のジョイスティックで操作される。
マニピュレイターの反対の後部左側には風力・風向計が立てられ、汚染地域を示す小旗の設置装置が装備されている。このほか、気象測定装置や汚染地域を可視化するマーカーとして、黄色三角旗の投下機を備えている。


総重量が82式指揮通信車に比べて重くなったため、最高速度は低下している。
自衛用に12.7mm重機関銃M2を車体後部に有し、73式装甲車や96式装輪装甲車で採用された物と同じく車内からの遠隔操作が可能で、乗員を外気に晒すことなく使用できる。1999年(平成11年)に発生した東海村JCO臨界事故での教訓から、中性子防護板(中性子線対応)が開発され、
原子力災害時など必要に応じて車体前面に取り付けることができる。


また、1999年度以降に取得した車両は化学防護車(B)となり、車体側面に装備していた風向センサが起倒式になり、車体後部天井に置かれている。長らく自衛隊の車両は緊急車両として扱われることがなかったが、化学防護車は緊急車両として認められ、赤色灯、
サイレンが装着されるようになった。
細菌などを検知する能力はないため、
生物兵器の検知には73式大型トラックを改造した生物偵察車が用いられる。


これまでの活動は主に第101化学防護隊と、その後身である中央特殊武器防護隊により行われている。
本車両は、1995年(平成7年)に発生したオウム真理教による地下鉄サリン事件の際に初めて出動し、
物質特定などを行った。東海村JCO臨界事故の際も現場近くに待機したが、活動は行われてはいない。
2011年の福島第一原子力発電所事故でも中央特殊武器防護隊所属車両が派遣されている。自衛隊特地派遣部隊が現地に持ち込んだ車両の一つであり、現地では主にそこでの風土病や未知のウイルス発見などの採取任務に使用されている。






「87式偵察警戒車」(250両)

全長:6m

全幅:2.5m

全高:2.8m

重量:15t

主武装:80口径25mm機関砲KBA-B02(800発) 74式車載7.62mm機関銃(4800発)

エンジン:いすゞ10PBI 4ストロークV型10気筒液冷ディーゼル

最大速度:100km/h

航続距離:600km

乗員数:5名


87式偵察警戒車は日本の小松製作所が開発し、82式指揮通信車に続いて制式化された陸上自衛隊が使用している国産の偵察戦闘車(装輪装甲車)である。陸上自衛隊各師団や旅団の偵察隊、戦車連隊本部などに配備され、
優れた路上機動性を活かしての偵察警戒と、側方警戒行動が主たる任務である。


陸上自衛隊では創成期にアメリカ軍から装輪式のM8装甲車とM20装甲車の供与を受けたが、未舗装路面の多かった当時(1950年代)の日本の道路における機動力に不安があったこと、60式装甲車などの装軌式車両や主要装備の調達が優先されたことで配備は少数に留まり、就役期間も短かった。


更にこれまで陸上自衛隊の偵察隊といえばジープやオートバイ程度しか装備しておらず、実質的には斥候隊以上の能力は無かった。例外は北海道の第7師団ぐらいで、ここには威力偵察用に74式戦車が配備されている。87式偵察警戒車を威力偵察に用いるのはいささか荷が重過ぎるが、それでも空地火力の脅威に晒された中では、はるかに安全確実に偵察任務を遂行できるといえよう。


その後、経済発展に伴って道路網が整備されると装輪式車両の機動力への不安要素が取り除かれ、
1982年には装輪式である82式指揮通信車が制式化された。87式は82式に次いで制式化された装輪式戦闘車両であり、威力偵察を主任務とし、
それまで偵察機材として使われていた73式小型トラックや偵察用オートバイには無かった火力や装甲防御力を持つ。


87式偵察警戒車の車体は圧延防弾鋼板の全溶接構造で、浮航能力は持っておらずNBC防護装備も無い。
82式指揮通信車と同じ車体下部設計の大半を共有している。
3軸6輪形式が採用されており、パワートレイン関係のコンポーネントは82式指揮通信車のものが流用されている。しかし82式指揮通信車ではエンジンは車体中央部に配置されているが、87式偵察警戒車では車体後部右寄りに移動している。


これは、車体中央部に砲塔が配置されたためである。乗員は5名で、内訳は操縦手、前部偵察員、砲手、車長、後部偵察員となっている。車体の前部には右側に操縦手席、左側に前部偵察員席が置かれている。車体中央部には全周旋回式の2名用砲塔が搭載されており、砲塔のすぐ後ろの車体後部左側に後ろ向きの後部偵察員席がある。


6輪の車輪には、ある程度被弾しても走行を継続できるコンバットタイヤ(サイドウォール強化型ランフラットタイヤ)を採用した。スノータイヤは無いので、
積雪時や路面凍結時にはタイヤチェーンを巻く必要がある。
NBC防護装備や浮航能力は有していない。


車体右側面の第1輪と第2輪の間および、左側面の第2輪と第3輪の間には乗降用のドアが設けられている。また車体後部左側には、後部偵察員席と車体後面の乗降用ドアを繋ぐ狭い通路がある。前部と砲塔の乗員は車体前部右側のドアから乗降を行うが、操縦手席と前部偵察員席の上部にもそれぞれハッチが設けられている。


また後部偵察員は車体左側面のドア、
または車体後面のドアから乗降する。
なお、後部偵察員はペリスコープを使用して後方の監視を行う他、車体後面左側の乗降用ドアの上部に備えられたTVカメラからの後方映像を車内モニターで監視する。砲塔は車体と同じく圧延防弾鋼板の全溶接構造で、砲塔内右側に車長、左側に砲手が搭乗する。


車長、砲手、操縦士、前部偵察員、後部偵察員の5名が乗車する。車体前部右側に操縦士が、左側に前部偵察員が、車体中央部の砲塔右側に車長が、左側に砲手が配置される。砲塔直後の車体後部左側に後ろ向きに後部偵察員が乗車する。後部偵察員はペリスコープや車体後面左側に備わるTVカメラにて後方監視を行う。
また、操縦士及び砲手用に微光暗視装置を搭載している。
車長、砲手、操縦士、前部偵察員の席の上面に各々専用のハッチがある。偵察用に砲塔に地上レーダーを搭載可能である。


砲塔上面には右側に6基のペリスコープを備えた車長用キューポラ、左側に砲手用ハッチがそれぞれ設けられている。また砲塔の左右側面には、3連装または4連装の発煙弾発射機が各1基ずつ装備されている。兵装には威力偵察や警戒任務に用いるため、NATO諸国などで広く使用されているスイスのエリコン社製の80口径25mm機関砲KBA-B02を、
日本製鋼所でライセンス生産したものが搭載されている。


25mm機関砲KBA-B02はガス圧作動、二重給弾方式の機関砲で、
弾種選択レバーの操作によって徹甲弾系と榴弾系を切り替えられるようになっている。APDS(装弾筒付徹甲弾)を使用した場合砲口初速は1335m/秒で、射距離2000mで傾斜角30度の30mm厚装甲板を貫徹する能力があり、
対地・対空のどちらにも使用できる。
主砲の俯仰角は-10~+45度だが、後方約110度の範囲は俯角が取れない。


主砲の右側には、
74式車載7.62mm機関銃が同軸に装備されている。その他の性能は、概ね82式指揮通信車と同じである。なお特殊装置として、操縦手および砲手用に微光暗視装置を搭載している。87式偵察警戒車は車両の性格としてはスペインのVEC装甲偵察車に良く似ており、
最先端でも独創的でもないが平均的な水準の車両といえるだろう。自衛隊特地派遣部隊が現地に持ち込んだ車両の一つであり、現地では威力偵察任務において使用されている。






「96式装輪装甲車」(780両)

全長:6.85m

全幅:2.5m

全高:1.85m

重量:14.5t

装甲:圧延鋼板

主武装:RWS式12.7mm重機関銃M2(2100発)&96式40mm自動擲弾銃(600発)

エンジン:三菱6D40 4ストローク直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル

最大速度:100km/h

航続距離:600km

乗員数:2名+12名


96式装輪装甲車とは、陸上自衛隊が60式装甲車、73式装甲車の後継車両として1992年(平成4年)から小松製作所が開発を開始し、1996年(平成8年)に制式化された装輪装甲車。陸上自衛隊で初めて制式採用された装輪装甲兵員輸送車でもある。
本車の開発と生産は小松製作所が担当。
陸上自衛隊では1980年代以来同社を通じて各種の装輪式装甲車を開発してきたが、この96式装輪装甲車はその集大成ともいえる車種である。


本車は8×8型の装輪式APCで主として普通科部隊に装備され、
作戦機動に引き続き敵の脅威下に戦場機動して人員輸送等に用いられる。8輪のコンバットタイヤを装備し、パンクなどで空気が全て抜けてもある程度は走行を継続できる。また、
CTIS(中央タイヤ圧システム)と呼ばれる空気圧調整装置により、状況に応じて空気圧を変更することが可能。通常は前から数えて第3軸と第4軸が駆動するが、
全軸駆動に切り替えることもできる。
方向転換は前方の第1軸と第2軸で行う。


車体は圧延鋼板による溶接構造で、榴弾砲の破片や小銃弾などを防ぐことが可能。操縦手席の上には3基のペリスコープが備えられたハッチが設けられており、
アームによって真後ろに開く面白い造りになっている。乗員配置は前方から右側に操縦士席、その後方にキューポラをそなえた銃手席、その左側には分隊長兼車長席があり、その後方に左右それぞれ6名、合計12名分のベンチシートが向かい合わせに並ぶ後部乗員席がある。操縦士及び銃手席の左側は消火装置を備えたエンジンルームで、この消火装置は車内外両方から作動させることができる。


兵員室の天井には左右に各2枚ずつ横長のハッチが設けられており、左右側面にはそれぞれ2カ所に防弾ガラス付きの小さな視察窓があって、
車内から外部の様子を視察することが可能になっている。
73式装甲車の上部には重量のある2枚の大型ハッチがあったが、本車では小型軽量化された4枚のハッチとなった。


窓にはマジックテープで留めるブラインドが取り付けられるが、素材は合成繊維で、装甲としての働きは無い。73式に備わっていた後部乗員室床面の緊急時脱出用ハッチ、車体側面ガンポート、浮航性能などは備えていない。ガンポートは設けられていないため、乗車したまま車外を射撃するには天井のハッチから身を乗り出す必要がある。


搭乗兵員の乗降には、車体後面に設けられた油圧駆動式のランプドアを使用する。車体上面最後部の左右にはそれぞれ4基ずつ発煙弾発射機が装備されており、
これらの発射機は車体前部左上面に装備されているレーザー警報装置の作動によって、自動的に発煙弾を投射させることが可能である。


機関は三菱ふそうトラック・バス製の6D40 直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力360hp)と、
前進6段/後進2段の遊星歯車式自動変速機の組み合わせで、
パワーパックとして一体化されている。
サスペンションはトーションバー(捩り棒)方式が採用されており、
タイアは車内から空気圧の調整が可能で若干の被弾であれば走行が可能である。


後部乗員室後端部の後部ハッチの両脇上部に左右各1基のベンチレータ(換気装置)を備える。また、
NBC兵器防護のための空気清浄機も搭載されており、作動時には空気配管とガスマスクの付属品であるゴムホースを介して、各人が装着するガスマスクに直接、
清浄な空気を供給できる。ベンチシート後端の足元にあたる部分に左右各1基のヒーターがあるが、
クーラーは装備されていない。


内部容積は73式装甲車と比較して広くなり、後部ハッチと床面部分をのぞくほとんどの内面にクッション材が内張りされたことで、車内の居住性と静粛性が向上した。なお、移動間は分隊長・車長などが交代で車両上部から周囲の安全確認を行わなければならない。近年では操縦士用のワイヤーカッターや、キューポラの左右に上半身を保護する装甲板を追加するなどの改修が行われている。


後部乗員は車体後方の油圧式ランプドアから乗降する。これは車内外から操作可能で、エンジン停止時でも乗降できるよう、片開きの手動ドアも取り付けられている。最後部には車両牽引用のフック、
トレーラーなどに電気やブレーキ用圧縮空気を供給するソケット、弁があるが、
本車が牽引するためのトレーラーなどの車両は採用されていない。


RWSを備え付けているので、回しハンドルによる旋回俯仰、
倍率なしペリスコープのJM1照準潜望鏡、
電気作動による機械式の引き金で車内から遠隔操作できる。
RWSは、軍用装甲車などの装甲戦闘車両や軍用船舶に装備されている遠隔操作式の無人銃架・砲塔の事を指す。兵士は車内から搭載カメラの映像を見ながら操作を行い、敵弾に身を晒す事無く安全に攻撃を行う事ができる。搭載カメラには暗視装置が装備されている物が多く、偵察・監視任務にも適している。


車両後部には左右各1基の4連発煙弾発射機が装備されている。
また、73式と同じく70式地雷原爆破装置(地雷原の啓開器材)を車体に搭載することが可能になっている。自衛隊特地派遣部隊が現地に持ち込んだ車両の一つであり、現地では駐屯地や勢力範囲外の場所(危険性が予測される場所)での自衛官などの輸送に使用されている。






「軽装甲機動車」(2800両)

全長:4.4m

全幅:2.04m

全高:1.85m

重量:4.5t

装甲:圧延鋼板・防弾ガラス

主武装:62式7.62mm機関銃または5.56mm軽機関銃MINIMI(4800発)

エンジン:いすゞ 4ストローク直列4気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル

最大速度:100km/h

航続距離:600km

乗員数:4名(上面ハッチを開け、後部座席間に機関銃手を座らせた場合は5名)


軽装甲機動車は、
陸上自衛隊と航空自衛隊に配備されている装輪装甲車である。陸上自衛隊初の4×4型装輪式装甲車である。本車の開発はこれまで82式指揮通信車、87式偵察警戒車、96式装輪装甲車など陸上自衛隊の装輪式装甲車の開発を一手に担ってきた小松製作所が担当している。普通科などの隊員の防御力と移動力を向上させるのが目的の装甲車であり、
性能や想定する任務は、歩兵機動車(Infantry mobility vehicle=IMV)に類する。また航空自衛隊も、基地警備用に採用している。


陸上自衛隊では軽装甲機動車を普通科の各分隊に2両ずつ配備し、相互支援を行う運用法を想定している。これは敵がゲリラコマンドによる浸透戦術を使ってくるような場合、従来のように分隊全員(7~8名)が1両の車両に乗車して行動するよりも、3~4名ずつに分散して乗車した方が、敵の動きに柔軟に対応することができるという考え方に基づく。


軽装甲機動車の車体は通常の装甲車と同じく圧延鋼板の溶接構造であるが、装甲材質については通常の装甲車に多く用いられる防弾鋼板ではなく、よりコストの安い民生用の高張力鋼板(といってもかなり高グレードで強度の高いもの)が用いられている。車体寸法は、陸上自衛隊が保有するCH-47大型輸送ヘリに2両搭載できるようコンパクトに設計されている。
また本車は、パラシュートによる空中投下も可能である。


軽装甲機動車は外観やサイズがフランス陸軍のVBL装甲車とよく似ており、しばしば比較対象として挙げられるが、両者は開発の経緯やコンセプトが異なっており模倣したという指摘は間違いである。
軽装甲機動車の方が重量もサイズもやや大きい。乗員室前面のウィンドウは台形のやや小型のものが2つ設けられているが、これは視界がやや狭くなる代わりに乗員室の構造強度を高めており、VBL装甲車の前面ウィンドウも同様のデザインになっている。タイアは、ブリヂストン製のランフラット・タイアを履いている。


軽装甲機動車の装甲防御力は車体前面が12.7mm重機関銃弾の直撃に耐えられる程度、車体側面は7.62mmライフル弾の直撃に耐えられる程度とされている。
車体重量が4.5tということから考えると軽装甲機動車の装甲厚は前面が10~15mm程度、側面が8~12mm程度と推測される。
ちなみにVBL装甲車の装甲厚は5~12mmで、
装甲防御力は軽装甲機動車と同程度といわれる。


軽装甲機動車には車体の左右側面に各2枚ずつと車体後面に乗降用のドアが設けられており、それぞれのドアには防弾ガラス製の窓が備えられている。車体側面ドアの窓については、
上方に開いて外部の視察や射撃を行えるようになっている。


また乗員室上面には左右開き式の大きな円形ハッチが設けられており、ここから外部を視察したり、
前方に備えられている折り畳み式の防盾付き機関銃マウントに武装を装着して射撃を行うことができる。つまり乗員が天井ハッチから身を乗り出して、5.56mm機関銃MINIMIや62式7.62mm機関銃、01式軽対戦車誘導弾などの火器を使用できる設計になっている。


一部の車両には、
車体上面ハッチに全周旋回可能なターレットと防楯付き銃架が取り付けられており、MINIMIや89式小銃を据え付けて射撃することができる。
ターレットの下にはブランコのような形をしたベルトが取り付けられており、
射手はここに座って射撃を行う。また、
上面ハッチ全周をカバー可能な装甲板の追加。機関銃手をワイヤートラップから保護するためのワイヤーカッターの追加。防弾ガラスを7.62mm小銃弾(普通弾)に抗たん可能なものに変更する等、
様々な改良が加えられている。


本車は現用AFVで必須となっているNBC防護システムを装備している他、陸上自衛隊のAFVとして初めてエアコンを標準装備した車両でもある。
また2005年度以降に導入された軽装甲機動車では、細部に改良が施されている。
乗員室側面と後面の窓は防弾性が向上しており、車体後面にはスペアタイアと燃料携行缶用ラックの取り付け具や牽引フックが新設されている。


軽装甲機動車は用途に応じて細部の装備が異なっており、
陸上自衛隊の車両には以下の5種類のヴァリエーションが存在する。

☆中隊長車
通信機能を強化するため、車内に大型無線機を搭載している。アンテナ・マストも大型のものが用いられ、右側アンテナの取り付け位置が運転席ドアの上方に移動している。車両によっては、車体の左右側面後部に4連装の発煙弾発射機を装備している。

☆小隊長車
車体の左右側面後部に、それぞれ4連装の発煙弾発射機を装備している。車両によっては、右側アンテナの取り付け位置が運転席ドアの上方に移動している。

☆機関銃搭載型
乗員室上面の円形ハッチの前方に、防盾付き機関銃架を介して5.56mm軽機関銃MINIMIを装備している。

☆対戦車ミサイル搭載型
乗員室上面の円形ハッチから01式軽対戦車誘導弾(略称:軽MAT)の射撃を行うため、射界の妨げにならないよう乗員室上面に装備品を取り付けていない。

☆偵察型
機関銃搭載型と同じく5.56mm軽機関銃MINIMIを装備し、
乗員室上面後部に大型ラックを設けている。また中隊長車と同じく車内に大型無線機を搭載し、右側アンテナ取り付け位置も運転席ドア上方に移動している。


部隊では、汎用車である1/2tトラック(通称ジープ)の代わりとしても使用されている。そのため、使用部隊からは「車体が大きくて重い」、「防弾性向上のためにフロントガラスが2分割され、中央にピラーが走っているために視界(特に左方の)が悪い」、「エンジンの騒音とタイヤの振動が大きく、椅子の悪さも相俟って、
長距離移動時の疲労がジープより更に大きい」などの、ジープと比較しての不満が出ている。乗車人数が少ないので、
同じ人数を運ぶためにはより多くの車両が必要となる。


そのため、東日本大震災の際には、災害派遣されたLAVをメインに装備する部隊が、駐車スペースの確保に苦労するという事態も生じた。ただし、エアコンの効きはジープより良好であると言われている。また、燃費が悪いため、燃料補給や整備の負担が大きいとの声もある。一方、
戦闘車両としては、
車内が狭いために4名分の装備が収まらないという問題が指摘されている。


また、重心が高く横転しやすいとの指摘があるのに対しては「最近の装輪装甲車両全般がその傾向にある」としながらも、不整地走行能力は他の装輪装甲車両と比較しても悪いと評価する自衛官もいる。自衛隊の海外活動では頻繁に使用されており、現在までにイラク派遣、ハイチPKO、南スーダンPKO、ソマリア沖海賊の対策部隊派遣などに参加している。そして自衛隊特地派遣部隊が現地に持ち込んだ車両の一つで、
現地では純粋な偵察任務や巡回任務などに利用されている。






「輸送防護車」(40両)

全長:7.2m

全幅:2.5m

全高:2.65m

重量:14.5t

装甲:STANAG 4569レベル1以上Vハル、モノコック構造

主武装:機関銃3丁(前方×1、後方×2)

エンジン:キャタピラー 3126E 7.2L6気筒ターボチャージド・ディーゼル

最大速度:100km/h

航続距離:800km以上

乗員数:操縦士1名 戦闘員10名


輸送防護車は、オーストラリアで開発された装輪装甲車(歩兵機動車、MRAP)のブッシュマスターを、中央即応集団が海外での邦人救出活動に使用する車両として輸送防護車の名称で採用したものだ。
イラク戦争やアフガニスタン紛争に参加しており、実戦でIED(即席爆発装置)に対する耐性を実証している。アメリカ軍のMRAP計画(耐地雷/待ち伏せ防御)の車種としては最終的に選定されなかったが、開発国のオーストラリア陸軍および空軍のみならず、オランダ陸軍やイギリス陸軍などでも運用されている。


ブッシュマスターの原型になったのはアデレードにあるペリーエンジニアリング社が、アイルランドのティモニー・テクノロジー社の技術協力のもとで開発した車両で、このライセンス権を購入したタレス・オーストラリア社(旧ADI社)がベンディゴでさらなる改修を加えて完成した。
その後オーストラリア陸軍が1998年に行った「ブッシュレンジャー」トライアルで南アフリカ共和国のタイパン装甲車に勝利して同軍に採用された。


ブッシュマスターは非装甲車両(ソフトスキン)である「ランドローバー・ペレンティー」の後継装備であり、兵員の防護輸送やパトロールを主任務としているため、基本的に兵員は戦闘前に下車させる。
そのため軽装甲であり、オーストラリア陸軍に採用されているASLAVやM113のような、装甲兵員輸送車や歩兵戦闘車のように乗車しての戦闘はあまり考慮されていない。


ブッシュマスターは北オーストラリアでの作戦に最適化された設計をしており、10名の兵士とその装備品を積載した状態で3日間行動可能な燃料と物資を積載することができる。設計段階では空調装置と飲料水冷却供給装置の両方が取り付けられる予定だったが、
飲料水冷却供給装置についてはコスト削減のためにとり外されている。ただし、
配備後に兵士から不満が上がったため取り付けが再考されている。


歩兵輸送仕様の車両に関しては前方のハッチに5.56mmもしくは7.62mmの機関銃1丁もしくは「CROWS」リモート・ウェポン・ステーション1基、
後方の2つの上部ハッチにはMINIMIのような5.56mm機関銃を1丁ずつ取り付けることが可能。車体は装甲化され、7.62mm弾に対する耐弾性(STANAG 4569レベル1以上)を持ち、かつ爆風を逸らすV字型車体(Vハル)の底面を持つモノコック構造を採用することで、
地雷やIEDに対して強い耐性を有している。空輸に関しても考慮されており、C-130輸送機やC-17輸送機、Mi-26輸送ヘリコプターに積載することができる。


V字型なのは車体下面で地雷やIEDが爆発しても、爆風や衝撃を逸らしてダメージが少なくなるよう、
底部が船の底部のような形をし、車体直下でのTNT火薬9.5kgの爆発力に耐えることができる。また車体がひっくり返っても乗員を保護するよう工夫が施されているからだ。この地雷防御に関しては、
床下の燃料タンクと飲料水タンクも対地雷防御の一助として利用されている。
更にこれらのタンクは、車両の重心を下げて走行安定性を向上させることにも貢献している。


ブッシュマスター装甲車のスタイルは通常の装輪式APCとはだいぶ異なっており、どちらかといえばトラックのシャシーにバン型の装甲車体を取り付けた廉価な車両という印象を与える。被弾面積の低減よりも車内容積の確保が優先されており、全高が高い反面車内は広々としている。車体は圧延防弾鋼板の全溶接モノコック構造で装甲防御力は5.56mm弾、7.62mm弾の直撃に耐える程度であるが、5.56mm徹甲弾、7.62mm徹甲弾に対抗できるアップグレード・キットの装着も可能である。


床下には容量380リットルの燃料タンクと容量300リットルの飲料水タンクが備えられており、これは10名の完全武装の兵員が3日間行動できるよう計算されたものである。エンジンは車体最前部のボンネットに収納されており、変速機や冷却装置と一体になったパワーパックとして容易に交換できるようになっている。


ボンネットの後方は操縦室となっており操縦室内には右側に操縦手、左側に車長が搭乗する。操縦室の前面と左右側面には防弾ガラスの入った大きなウィンドウが設けられており、
良好な視界が確保されている。各ウィンドウには装甲シャッターなどは備えられておらず、銃弾が飛び交うような最前線での行動があまり考えられていないことが分かる。戦場での防御力よりも、長距離移動時の操縦し易さが優先されているからだ。


座席は諸外国のAPCで一般的なベンチシートではなく、1名1名に独立した乗用車級の高級シートが与えられている。これも、長距離移動時の疲労軽減を重視した結果である。兵員室の内部は広く床から天井までは1.5mあり、
向かい側の席の兵員の膝とは20cm以上の距離を確保している。更に車体の側面や床下には非常に多くの収納スペースが設けられており、徹底して居住性を重視していることが窺える。兵員の乗降は基本的には兵員室後面のドアから行うが車体上面にも5カ所にハッチが設けられており、前方中央のハッチには5.56mmまたは7.62mm機関銃を装備することもできる。






「NBC偵察車」(80両最終的に120両調達予定)

全長:8m

全幅:2.5m

全高:3.2m

重量: 約20t

主武装:12.7mm重機関銃M2(1500発)

エンジン:水冷4サイクルターボチャージャー付きディーゼル

最大速度:95km/h


NBC偵察車は、陸上自衛隊のNBC(核・生物・化学)兵器対処用の装輪装甲車(NBC偵察車両)である。
軽装甲機動車や中距離多目的誘導弾と同様に、制式化ではなく部隊使用承認の形で採用されているため、○○式という名称は付けられていない。陸上自衛隊の、
NC(核・化学)兵器対処用の装備である化学防護車と、B(生物)兵器対処用の装備である生物偵察車を一本化したNBC兵器対処用の後継車両であり、化学科に配備される。特地に送る予定は今の所ない。


NBC兵器による広域にわたる汚染地域などの状況を検知・識別機材などにより偵察を行い、必要な情報を収集する事で早期に状況を解明し、
適切な対応を取る事で影響・被害を抑える事を目的に開発された。4軸8輪の大型装甲車両で、前任装備である化学防護車の全長6.1m・全高2.38mに対し、本車は全長が8mと長く、全高も3.2mあるなどNBC兵器分析機器のための車内容積も充分に取られている。


NBCフィルタにより車内は清浄化されており、中性子線などに対する放射線防護方法も考慮されている。自衛武装として車体中央上部左側に遠隔操作式の12.7mm重機関銃M2を1基を有する。化学防護車もそうであるように、NBC偵察車両はNBC汚染下の各種地形で活動できる防護装備と機動性を有し、かつ種々の観測・分析機材を搭載できる大きな容積を確保しうる装甲兵員輸送車の派生型とされることが多く、本車両のように専用の装甲車体を開発した例は他に無い。


化学防護車と生物偵察車の一本化及び将来の装輪戦闘車両ファミリーとの共通化を図る事により運用性が向上するほか、
整備コストやライフサイクルコストの抑制が可能になるとされている。化学防護車で検体等の採取用に車体後部に設けられていた大型のマニュピレーターは細かい作業に不向きで扱い辛い上に故障等も多く、現場からは不評であった。なので本車ではコスト削減も兼ねてマニュピレーターの装備は見送られた。代わりに車体後部にグローブボックスのような機能を持つモジュールが設置され、これを用いて車内から安全に検体等の採取を行える様になっている。






「生物偵察車」(50両)

全長:7m

全幅:2.9m

全高:3.6m(気象観測装置を除く)

重量:4t(車重は除く)

乗員数:2名


生物偵察車は、生物兵器により汚染された地域を偵察する事を目的とした、トラック型の装輪偵察車両である。陸上自衛隊の化学科が装備しており、全国の特殊武器防護隊に主に配備されている。陸上自衛隊は核兵器・化学兵器により汚染された地域を偵察する車両として化学防護車を保有しているが、生物兵器により汚染された地域を偵察する為の車両などの装備は保有していなかった。


しかし、生物兵器の世界的な拡散や、
生物剤の広域感染・無差別殺傷性が脅威として懸念されていた事から、生物兵器に対処する為の装備を導入する事となった。その一つとして導入されたのが生物偵察車であり、73式大型トラックの荷台にスミス・ディテクション社製の、生物剤雲(エアロゾル)の検知及び、炭疽菌や天然痘ウイルスといった主要な生物剤の識別を行う装置を搭載した車両である。






「16式機動戦闘車」(60両:最終的に360両調達予定)

全長:8.45m

全幅:2.98m

全高:2.87m

重量:26t

主武装:52口径105mm低反動ライフル砲(50発)

副武装:74式車載7.62mm機関銃(主砲同軸/4800発) 12.7mm重機関銃M2(砲塔上面/1200発)

エンジン:4ストローク直列4気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル

最大速度:100km/h

航続距離:800km(推定)

乗員数:4名


16式機動戦闘車(略称MCV)は、陸上自衛隊初の本格的な火力支援用の装輪式装甲車である。本車の開発の中心となったのは、防衛省技術研究本部(TRDI)の陸上装備研究所(神奈川県相模原市)である。積極的に戦闘に参加する点から「戦闘車」に分類されている。試験運用も兼ねて自衛隊特地派遣部隊が現地に持ち込んだ車両の一つであり、現地では戦闘任務や威力偵察任務に使用されている。


機動戦闘車の試作・生産の主契約者は、これまで陸上自衛隊の全ての装輪式装甲車の開発に携わってきた小松製作所ではなく、戦車開発を専門に手掛けてきた三菱重工業が指名されている。この理由については様々な憶測があるが、本車が対戦車戦闘用の車両であることから戦車開発の経験が豊富な三菱が選ばれたとも考えられる。


三菱重工業は機動戦闘車の車体部の開発を担当し、車体を構成する防弾鋼板は三菱長崎機工が開発した。機動戦闘車の開発には他にも多くの国内メーカーが携わっており、主砲を日本製鋼所、FCS(射撃統制システム)を三菱電機と日本電気、
弾道計算機を横河電機、視察照準用の光学機器をニコンとトプコン、画像処理関係を富士フイルム、
砲安定化装置を多摩川精機が担当している。機動戦闘車は2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ以降の世界情勢を念頭に、2004年に策定された防衛計画の大綱を基準に開発された新ジャンルのAFVである。


この種の車両に期待される任務は普通科(歩兵)に対する火力支援であるが、
防護力の重視によって車重量が嵩んでいる戦車とは違い、
路上での高機動力や軽量さを活かした緊急展開任務が主となっている。この車両は戦車には該当しないが、大口径の主砲を砲塔に備える姿から、俗に装輪戦車と呼ばれることもあり、戦車が担っていた任務を一部代替すると目されている。
そのために機動戦闘車はまるで戦車のように直接的な火力支援や、対戦車戦闘をできることを目標にされている。


特筆すべきはその火力が74式戦車と同等であることと、装輪車両の弱点である命中精度の低さを高度な射撃管制と能動的な揺動抑制(アクティブ・サスペンション)によって克服が目指されている点である。しかし、履帯(クローラー)を有しないため戦場機動力に劣り、重量に制限があるため同世代の主力戦車に準ずる火力や装甲を与えることは困難である。それゆえ機動戦闘車は戦車を完全に代替するものではなく、10式戦車と並行して配備される見通しである。


機甲師団や教育部隊など戦車が必要不可欠な部隊は別として、本州や四国といった戦車の重要性が低いと看做されている部隊では戦車の運用を諦めることが想定されている。
そこで16式機動戦闘車が全国へ配備されることによって、
この車両が戦車の担っていた歩兵支援を代替する存在と見込まれている。


他国ではイタリア陸軍が似たような運用を行っており、イタリア半島北部は戦車のレオパルト1A5やアリエテが、南部はチェンタウロ戦闘偵察車が配備されている。もしも南部で戦闘が発生した場合、
チェンタウロ戦闘偵察車は北部の戦車が南部へ到着するまでの時間稼ぎの役割を果たすのだ。


島嶼部に対する侵略事態やゲリラ・特殊部隊による攻撃などの多様な事態に対処するため、優れた空輸性および路上機動性などの機動展開力、敵装甲戦闘車両などを撃破可能な火力を有する機動戦闘車を開発する計画である。陸上自衛隊の戦闘部隊が装備し、
普通科部隊に対する前進掩護および建物への突入支援などを担うものとして防衛省が計画した。


陸上自衛隊の現有装備である74式戦車および89式装甲戦闘車は、被空輸性や路上機動性が不足するため、戦闘地域へ迅速に展開することができない。一方、87式偵察警戒車や軽装甲機動車などの装輪装甲車では、軽戦車など(周辺国では中国人民解放軍の05式水陸両用突撃車や03式空挺歩兵戦闘車、
ロシア連邦軍のスプルートSD 空挺戦車など)を撃破する火力や目標発見後速やかに射撃する能力が不足するため、普通科部隊への火力支援が困難である。


ほかの代替手段については、アメリカなどにおいて同様の戦闘車両を装備しているが、いずれも要求性能(小型、現有弾薬の適合性、拡張性など)を満たすものはない。また、将来装輪戦闘車両の研究成果を反映する可能性を考慮すると諸外国からの導入は非効率であることから、
本装備の開発が決定された。


本車は、車体上部に砲塔を有する装輪式の戦闘車両。機動戦闘車のタイアについては国産品に適当なものが無かったため、陸上自衛隊の装輪式装甲車として初めて輸入品を採用しており、ミシュラン社製のタイヤを使用した車輪(ブリジストン製のスタッドレスタイヤを装備している車輌も確認されている)、片側四輪ずつが車体底面のサスペンションを介して車体を支持する。


単に重量を支えて高速で走行するだけならば既存の国産品でまかなえたのかも知れないが、本車のタイアは主砲発射時の衝撃を受け止めるという機能を要求されたため、実績のある外国製品を採用したわけである。これらの足周りによって、
機動戦闘車は路上最大速度100km/hという高い機動性能を発揮する。本車の航続距離については明らかにされていないが、チェンタウロ戦闘偵察車の路上航続距離が800kmであることから、それに近い値ではないかと推測される。


機動戦闘車のサスペンションは、三菱重工業とダイキン工業が共同開発した油気圧式サスペンションが採用されており、
全輪が独立懸架されている。同じ8輪装甲車である96式装輪装甲車と同様、駆動方式は8×8と8×4を選択できるようになっていると推測されており、最近の装輪式装甲車では必須の装備となっているCTIS(タイア空気圧中央制御装置)も備えていると思われる。


サスペンションは、
直立に配された油圧シリンダーおよびダブルウィッシュボーンによって構成され、全輪独立懸架方式が採用されている。
動力は車体底面の中央にドライブシャフトを通し、このシャフトからディファレンシャルギアを介して各輪へ動力を伝達する。操舵は前方2軸が旋回して行われる。


車体底面に配された緩衝機構および駆動系統には装甲が施されておらず、車体底面形状も地雷またはIEDに抗する設計を採用したものではない。このため、底面からの攻撃に対する脆弱性を危惧する評価がある。ただし、
装軌車両と比べ底面と地面の間の空間が相対的に広く、また八輪駆動の場合、
車輪を1~2個破壊されても走行可能であるため、本質的に戦車よりも底面攻撃に対する耐性は高いといえる。


車体と砲塔は共に圧延防弾鋼板の全溶接構造になっているが、その防御力に関しては一切明らかにされていない。ちなみにチェンタウロ戦闘偵察車は車体前面で20mm機関砲弾の直撃、それ以外の部分で12.7mm重機関銃弾の直撃に耐えられるとされており、本車もそれと同程度の防御力は備えていると推測される。機動戦闘車の砲塔の形状は10式戦車の砲塔によく似ており、砲塔前面には楔形の空間装甲が採用されている。


また砲塔側面にも空間装甲が導入されており、通常このスペースは雑具箱として使用される。これらの空間装甲は容易に着脱できるようにモジュール式の構造になっており、こういうところも10式戦車の砲塔と同様である。


また機動戦闘車の車体の前面と側面には、基本装甲の上に防弾鋼板と思われるモジュール式の増加装甲板がボルト止めされている。このように車体と砲塔の増加装甲をモジュール式にしているのは、10式戦車と同様に必要に応じてより防御力の高い増加装甲を取り付けられるように設計したためではないかと推測される。


車体前方左側には出力570hpのディーゼルエンジン、補器類、
オートマチック変速機を一体化したパワーパックが収容される。機関から排出されるガスは車体左側に設けられた排気孔から排気される、この後方のルーバーはラジエーター用のもので、パワーパック上面には吸気口が設けられている。車体前方右側、パワーパックと併置して操縦席が配されている。


操縦はパワーステアリングつきのハンドルで行われる。また、高速走行時には操縦ハッチ上部に風防を付ける。車体中央部にはターレットおよび砲塔を備えた戦闘室がある。この戦闘室には車長、砲手、装填手が搭乗する。車体後部は弾薬庫兼多目的スペースとなっている。車体後面には乗降も可能な弾薬搭載用のドアが設けられている


砲塔は、前部が楔形形状を持つ鋭角的な形状を採用し、また、要部には中空式の増加装甲を取り付けている。砲塔には、
国産の52口径105mmライフル砲および7.62mm同軸機銃を備え、砲塔上部には12.7mm重機関銃M2を搭載する。砲塔両側面には4連装発煙弾発射機がそれぞれ装備される。後方から見て、砲塔中央におかれた砲の右側前方に砲手、その後ろに車長が位置する。砲を挟んで左側には装填手が位置する。砲塔後部は砲弾ラックである。


砲塔に自動装填装置は採用されず、人力装填のみとなっているが、これは、砲塔設計時のレイアウトや重量との兼ね合いから装填装置の搭載が断念されている。
砲塔前面の左右にはレーザー検知器が装備されているが、
これは全周に対する警戒能力はなく、
検知域は前方180度と側方の一部のみである。


後方から見て砲塔上部中央の右側には、
車長用の全周視察装置つきハッチが設けられている。この前方に大きなフードのついた砲手用サイトが装備される。中央部にはGPS、左側に装填手用ハッチ、この前方には全周旋回サイトが置かれる。また、砲塔後部に起倒式のタレス社製環境センサが置かれる。


機動戦闘車の主砲は、74式戦車の主砲であるイギリスの王立造兵廠製の51口径105mmライフル砲L7をベースに、日本製鋼所が新たに開発した52口径105mm低反動ライフル砲である。
主砲射撃時の反動を吸収するため、砲身先端には多孔式の砲口制退機が装着されている。砲弾は74式戦車の主砲と同じく93式105mmAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)と、91式105mmHEAT-MP(多目的対戦車榴弾)を使用することが可能である(共にダイキン工業製)。


砲身が1口径延長されており、また、ライフリングに合わせて螺旋状に開口された多孔式マズルブレーキを備える。後方から見てこの砲口付近の左側に砲口照合装置が設置されている。対となるレーザー送受信部は防盾左側上部の開口部に設けられている。この下部に同軸機銃孔が開いている。砲を挟んで右側には砲手用の直接照準眼鏡が装備される。本車は10式戦車から反動の制御技術、FCSなどの技術が流用されており、
側面方向に砲を指向しつつ走行と射撃が行える。


本車両の武装に105mm砲を採用したのは、
74式戦車の弾薬を転用するためである。
現代では技術の進歩によって105mm砲用APFSDSの性能は飛躍的に向上しており、
ベルギーで2002年に開発されたM1060A3は侵徹力が460mmに達している。これは90式戦車で使用されているJM33の原型であるDM33に匹敵する。


16式機動戦闘車は8つのタイヤで走行し、
舗装路面上を長距離にわたって高速で移動できる。その一方で、装輪車両全般に共通する問題として、車輪の特性に起因する不整地走行性能の低さが懸念されている。駆動方式に装輪式を採用した理由として、装軌式に比べて優れた路上機動性を有すること、
前述のように一定の路外機動性を実現する目処が立ったこと、比較的構造が簡単なことに加えて将来装輪戦闘車両の研究成果を反映できることから、開発・取得・維持費などを含むライフサイクルコストが低く抑えられることなどが特徴として挙げられる。



装甲の薄い本車両では精度の高い射撃を実施して、高い機動性を活かして退避を行うことで被害を軽減する必要がある。
そのため、同車の射撃統制装置は第3世代戦車に相当する高い能力が付与されている。射撃統制装置は、レーザー測距器、
弾道計算機、砲スタビライザーなどで構成されており、行進間射撃も可能で高い初弾命中精度を実現している。脅威度の高い目標を車長が発見した際は、その目標へ優先的に照準を指向できるオーバーライド機能を有している。 
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