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魔法少女リリカルなのは innocent ~海鳴に住む鬼~

作者:88打
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鬼、戦地を駆ける

 
前書き
対戦形式:タッグバトル
制限時間:30分
ステージ:廃墟街(夜)
飛行:禁止
勝利条件:相手チームの全滅 

 
~廃墟街ステージ 夜~

月明かりが照らす廃墟の街、幹太と賢斗の二人はビルの屋上から試合開始の合図を待っていた

「……大丈夫か?」

「だ、大丈夫です」

賢斗はあからさまに緊張していた。先程まで一方的にやられていた相手ともう一度勝負すると考えると、当然のことだろう

「作戦はさっき話した通りだ。開始と同時に一気に距離を詰めるぞ……」

「は、はい……」

相手の片割れ…金髪の少年、宗輝の武器は弓矢。しかし此方には後衛で使える武器もスキルカードも無いため幹太達は相手が仕掛ける前にできるだけ距離を詰める必用があった

そして今……開始の合図が鳴り響いた

「行くぞ!」

「ハイ!」

開始と同時に二人はビルから飛び降り。一直線に相手の方へと向かった

「……くるぞ!」

「ハ、ハイ!」

前方から黄色の魔力弾が五発、まっすぐに飛んできた

「邪魔だ!」

幹太はそれらを金棒の一振りで全て叩き潰した

「……幹太さん!上です!」

「!!」

「もらったぁ!!」

付近に隠れていた桜馬が左側から幹太に攻撃を仕掛ける。振り下ろされた斧を幹太は金棒で受け止めた

「幹太さん!次が来ます!」

「わかってる!……オリャア!!」

「ぬお!」

幹太は桜馬を押し返し、魔力弾をジャンプでかわした

「やぁあ!」

「ぬぅ!」

体勢を崩した桜馬に賢斗が追撃を仕掛ける

「悪くない連携じゃが……そのようなか細い攻撃では、ワシの鎧は小揺るぎもせんわ!」

しかし見た目通りに軽い賢斗の攻撃はあまり効果がなかった

「……」

その最中、幹太はチラリと空の様子を見て、賢斗に小声で話し掛けた

(…………まだ早いな)

「賢斗……合図するまでもう少しねばってくれよ……」

「ハイ……頑張ります」

「何をこそこそと……来ないなら此方から行くぞ!」

その後、幹太と賢斗は二人の攻撃を受けはしないものの一向に反撃せず、ただ時間だけが過ぎていった

(……そろそろか)

桜馬の攻撃をいなしながら幹太はしきりに空を見ている

「賢斗!今だ!」

「ハイ!」

合図とともに二人はスキルカードを発動させた

「な!……これは……」

その直後、辺りには1m先も見えない程の深い霧が立ち込めていた

「スキルカード"灰幻霧(カイゲンム)"この霧の中ではお前は俺達を感知することはできない……」

「ちょこざいな……ぬお!」

桜馬は右側からの攻撃を運良く回避した

「と言っても……流石に相手の1m以内に入るとばれるけどな……」

「……クッ!!」

あらゆる方向から来る突然の攻撃に桜馬は防戦一方になっていた……しかし、ここで桜馬はある違和感に気付く

(何故じゃ……何故、二人で攻めて来ない?この状況なら二人係りでワシを倒すことくらい容易いはず……まさか!)

「宗輝!もう一人がそっちに行きおったぞ!」 

『此方でも確認しました。レーダーには霧の中に二人分反応しかありません……恐らく、幻術で姿を隠してると思います……』

「アララ……流石にばれるか……」

どうやら桜馬の予測は適中していたらしい

「成る程……霧で此方の援護射撃を妨害、お主がワシを引き付けている間にもう片方で宗輝を倒す……か。確かに、宗輝の軽装備相手ならあのか細い攻撃でも十分に通用する…………が、しかし」

「しかし?」

「残念じゃったな!宗輝にはあらかじめ、ワシが周囲にプロテクションをかけておいた。たとえ幻術で姿を消していても。プロテクションが壁となり、奇襲を掛けることは不可能じゃ!」

すでに勝ったと言わんばかりに桜馬は勝ち誇った顔をしていた

「しかし惜しいのぉ……二人係りでワシを倒してから宗輝を倒しに行った方が勝率があると思うんじゃが……」

「……そうだな……確かにそうだ」

「なら何故…「けど」…ん?」

「それじゃダメなんだよ……」

次第に周囲の霧が晴れていく……

「…………な!」

桜馬の目はまるで信じられないものでも見ている様だった……

「何故……宗輝が……やられておるのだ!」

目の前には体力が0になって倒れている宗輝と傷一つついてない賢斗の姿があった

「気になるか?……気になるよなぁ……」

幹太は次第に不敵な笑みを浮かべる

「それじゃ……終わりにしようかぁ……」

幹太の言葉と同時に賢斗が桜馬に斬りかかる。トリッキーな動きで相手を翻弄している

「ふん!いくら機動力があるからといっても、その小さな剣でワシを倒すことなど……!!」

一瞬の出来事だった……桜馬が一瞬…賢斗を視界から外した瞬間。賢斗は姿を消していた

「こ……これは!幻術?……いや、こんな早く発動できる幻術のスキルカードなぞ……クソ、プロテクション!」

突然の出来事に混乱している桜馬は取り合えずプロテクションで自分の周囲をドーム状に覆った

「どうだ!これなら何処から攻撃を仕掛けても……「いや…もう君の敗けだよ」……なに!」

桜馬の顔が強ばる……それも当然だ。何故ならさっき消えた人物の声が後ろから……しかもドーム状に張ったプロテクションの内側から聞こえて来るのだから……

「君達に言われた言葉をそのまま返すよ……ゲームオーバーだ」

「おのれぇぇぇ!!」

賢斗の小太刀二刀が桜馬を背後から切り裂き。このゲームの勝者が決した







~廃墟街ステージ ビルの屋上~

ゲームの勝者が決定した後、俺達四人はこのステージで最も高いビルの屋上にいた。先程の戦闘の答え会わせをするためだ

「結局……どうしてやられたのか。検討がつきませんね」

弓使いの男、宗輝は今だ自分がどうやって倒されたのか解らないでいた。相方の桜馬も同様に腕を組み頭を悩ませていた

「んじゃまぁ……答え会わせといくか……」

「そうですね……」

賢斗は自分のスキルカードを取り出した……

「俺はこのゲームが始まる前に、コイツに二枚のスキルカードを渡していた…………」

一つは"シャドウムーブ"

もう一つは"バックスアタック"

「シャドウムーブは影の中を自由に移動出来るスキル……お前らのプロテクションの内側に入り込んだのは、このスキルおかげだな。しかもこのスキル、移動速度がライトニングタイプ顔負けなんだよ」

「それじゃ……お主が頻りに空を確認していたのは……」

「このステージ……一定時間が経つと月が大きな雲に覆われる時があってな……それを待っていたんだよ」

そうでもしないとあの金髪に近づくのに、いちいち影のなかを出たり入ったりしないといけないからな……

「バックスアタックは普通に使ったらただの攻撃スキルなんだけと、コイツはチョット特殊なスキルでな……相手の背後から攻撃を食らわせた時のみ威力が数倍になるんだよ……」

でも……よほど幻術の上手い奴か、スピードのある奴じゃないと背後を取るのは難しいだろうけどな

「成る程……私達は見事に術中にはまったとゆう訳ですか……参りました」

「しかし……やはり解せんのじゃが……」

「あん?なにが解せねぇんだよ?」

「これ程のスキルカードを持っていて。尚且つ、そこまでの腕を持つならば。何故……お主は一人でワシらを倒そうとしなかった?」

「……確かに、最初の霧を張った段階でまずお前……桜馬だったか?お前は確実に倒せてたよ……けどな、さっきも言ったけどそれじゃダメなんだよ」

そう言って、俺は賢斗の肩に手を乗せた……

「コイツが……自分自身の力で乗り越えないと、これから先もこのゲームを楽しく遊べないだろ?」

「たった……それだけか?」

「ゲームにおいては此がいちばん重要だろ?」

「……そうじゃな、参った!ワシらの完敗じゃ!」

宗輝と桜馬の二人は賢斗に向かって頭を下げた

「賢斗さん……この度は大変失礼いたしました。もう二度とこのような事はいたしません」

「ワシもじゃ!スマンかった!」

二人の言葉からは、確かに誠意が感じられた……

「うん……いいよ。僕は君達を許す……だから……これからはちゃんとこのゲームを楽しんでね」

「ありがとうございます……」

「スマン……スマンのぉ……」

これで一件落着……かな?

「てか……なんでお前らはあんな事やってたんだよ?」

「実はその……私も彼も個人戦のランキングに伸び悩んでまして……」

あぁ~成る程……

「でも……此れからは自分の力で。頑張りたいと思います!……失礼します!」

「今度は、一対一の真剣勝負でやろうな!」

そう言い残して、二人は去っていった……根はいい奴らなんだな

「俺達も戻るか……」

「ですね……」





~ホビーショップT&H フードコート~

揉め事が無事に解決した後、俺達はフードコートでお茶を飲んでいた

「幹太さん、今回は本当にありがとうございます。……それでその……本当に貰っていいんですか?このスキルカード?」

賢斗は俺が渡した二枚のスキルカードを見せて尋ねる

「いいよ、元々俺にはあんまり合わなくてな……」

「……そうですか」

などと言っているが、本当は以前使った時に相手の子供達をマジで泣かせてからトラウマで使っていないだけなのだ……

「まぁ、それがあれば大抵の奴には負けないと思うけど……それでも油断すんなよ」

「ありがとうございます」

ふと、時間を確認する。そろそろ改装が終わっているころだろう

「それじゃ……俺はそろそろ帰るわ」

「あ!僕もそろそろ帰らないと……」

エレベーターで下まで降り、出口まで歩く

「それじゃあ幹太さん。またいつか、一緒にやりましょうね」

「あぁ、お前も男なんだから……もっとシャキッとしろよ?」

すると、賢斗の表情が固まった……

「あ……あの……幹太さん……」

「ん?どした?」

「僕…その…………女………です……一応……」

「…………え?」






~赤子庵~

T&Hから帰ってきた俺は店側の玄関から家に入った。賢斗が実は女という事実にまだ少し混乱している

「ただいまー」

「あら、おかえりなさい……どうしたの?」

「……いや、なんでも…………」

改装の終わった我が家を、俺は一頻り見渡す

「…………なんか、あんま変わってないな……」

元々あったテーブル席をエンタークンに変えたのだが……エンタークンには木目の様なペイントが施されており。店の外観や内装と完全にマッチしている

「無理言ってデザインを変えて貰ったのよ~」

成る程……家のお袋が原因か……

「そういや……お袋達は今日どうしてたんだよ?」

店は業者の人でいっぱいだったので二人は何処かに出掛けてたようだが……

「あ!そうそう……実は今日、お父さんの実家に行ってね」

「わざわざ遠見市まで行ってきたのかよ……」

俺の親父の実家は隣町の遠見市にある。親父の実家は染物屋で、俺の着ている着物はいつもそこから調達している

「それでね…………ホラ、見てこの子。可愛いでしょ」

お袋が見せてきた携帯の画面には一匹の白い毛並みをした兎だった

「なんでも、叔父さんが山菜取りに山に行ったらこの子を見つけてね。それで…脚をケガしてたみたいだから、助けたんですって」

じいちゃんらしいと言えば……じいちゃんらしいけど……

「でも叔父さんの所で飼えないから家でひきとることにしたの」

「あぁ……そういや婆ちゃん、動物苦手なんだっけ……コイツの名前は?」

「さっきお父さんがつけたんだけど……"あずき"ちゃんだって、可愛いわね~」

あずきって…………なんともまた…………

「それで?今コイツは何処に居るんだ?」

「それがね~、あんたの部屋に入ってベットの上から動こうとしないのよ……」

「なんじゃそりゃ?」

半信半疑で二階に昇り、部屋の扉を開ける……

「………………」

言葉が出なかった……何故なら……

「……んみぅ」

ベットの上に居たのは兎ではなく……兎の耳と尻尾を生やした小学三年生程の白く長い髪が特徴的な一人の少女が寝息をたてながら幸せそうに眠っていた……

「お袋ーーーーーーー!!!!」

俺は思わず叫んでしまった…

 
 

 
後書き
~オリジナルスキルカード紹介~

・灰幻霧(かいげんむ):使用者を中心に50m範囲を霧で覆う。使用者とその仲間以外は1m先も見えない程視界が制限される

・シャドウムーブ:影の中を移動するスキル。移動速度はライトニングタイプにもひけをとらないが空中ステージや影の少ないステージではあまり使えない

・バックスアタック:特殊な攻撃スキル。普通に使えばたいした威力は無いが、相手の背後にこのスキルを当てた場合のみ威力が数倍に跳ね上がる。しかし判定がシビアなので使い所が難しい  
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