| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

FGOで学園恋愛ゲーム

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

七話:恋する乙女


 ぐだ男のベッドの上でぐだ男とアストルフォが汗をかきながら見つめ合う。

『……使ってほしい?』
「う、うん……使ってほしい」

 静かな瞳で見つめるぐだ男に対しアストルフォは肌を上気させる。

『じゃあ、もっと感情を込めておねだりしないとなぁ』
「すぐに使ってほしいよぉ……」

 恥ずかしそうにアストルフォは懇願する。
 しかし、それだけではぐだ男は納得しない。

『もっと! なりふり構わず辛抱たまらん感じで懇願するんだ!』
「ボクもう我慢できないよぉ! 今すぐ好きに使ってぇ!!」

 息を荒げ、火照った肌に艶めかしい汗を流しながらアストルフォは叫ぶ。
 ぐだ男はそんなアストルフォに満足気に頷き静かに手を伸ばす。


『よし、じゃあエアコンつけようか』


 リモコンのスイッチを押すぐだ男。
 爽やかな冷気に当たりながらアストルフォはゴロリと横になる。

「あー、暑かったぁ。もう、こんな暑いのに扇風機だけじゃ無理だよぉ」
『家のエミヤ(おかん)が使いすぎは体に悪いって言うから』

 同じようにベッドの上に転がりながら訳を話すぐだ男。
 冷房を使いすぎると自律神経が弱まり結果的に熱中症などにかかりやすくなる。
 その危険性をエミヤは注意しているのだが暑いものは暑い。

「……あの、先程のやり取りは意味があったのでしょうか?」
『ただの遊び。ジャンヌもやる?』
「い…いえ、私にはとてもできません」

 禁断の道に進んでしまうようにも見えたやり取りに顔を赤らめるジャンヌ。
 学校帰りに二人に遊びに誘われた彼女であるが他人の家であそこまでくつろぐことはできない。

「やればいいのに、楽しいよー」
「貴女はもう少し節度をもった行動をしてください。人のベッドの上でくつろぐなんて……」
「えぇー、いいじゃん別にぃー」
『俺も別に構わないし』

 完全に脱力した状態で寝転がる二人にはジャンヌの言葉は届かない。
 そのことに溜息をつきながらジャンヌは二人の下に行き―――

「しっかりしなさい!」

 デコピンをお見舞いする。

「いったー……なにすんのさぁ」
「二人共ダラケ過ぎです。節度のある生活をするべきです」
『ここにもおかんが……』

 元来、優しくそして厳しい彼女は怠惰を許さない。
 相手のことを思ってのことだがスパルタ的な指導に二人はうめき声をあげる。

「もうすぐしたら涼しい時間になるので散歩にでも行きましょう」
「えぇっ!? おにー! あくまー!」
『俺達をエデンから追放するというのか…!?』

 死刑宣告にも等しい提案に猛抗議を上げる二人。
 だが、ジャンヌの意思は曲がることはない。

「文句言いません! ダラダラしていても何も良いことはありませんよ!」
「全くだ。彼女言う通り少しは運動してきたまえ。テスト明けで体も鈍っているだろう?」
『いつの間に入ってきたの、エミヤ』

 気づけば勝手に部屋に入ってきたエミヤがジャンヌの援護に回っていた。

「言い争う声が聞こえてきたので何事かと思ってね。それと、散歩に行くのならお使いを頼まれてくれないか?」

 そう言って食材のメモを渡してくるエミヤ。

『……しょうがないか』
「では、頼むよ。それと牛乳はできるだけ賞味期限が長いものを買ってくるように」

 嫌そうな顔をしながらもメモとお金を受け取り頷くぐだ男。
 そんな彼に一言プラスしてエミヤは台所掃除に向かっていくのだった。

「それでは決まりですね。近くのスーパーまで歩いて向かいましょう」
「しょーがないなぁ。ボクもついていくよ」
『それじゃあ、準備するから二人は先に玄関に行ってて』

 二人に先に行ってもらっている間に財布を取り出しポケットに入れる。
 それから二人を追って廊下を歩いていたところで再びエミヤに声をかけられる。

「待ちたまえ。エコバックを忘れているぞ」
『あっちで袋を貰うのはダメなの?』
「忘れたのか? あそこのレジ袋は有料だ」

 さも当然のように語るその姿はやはりおかんであった。
 ぐだ男の方もそれは重々承知しているので頷くだけで特に何も言わない。
 しかし、今回は珍しくエミヤの方から一言付け加えてくる。

「それにしても……良い娘じゃないか。君が気になるのも分かるよ」
『え!?』

 そんなに分かりやすい態度でジャンヌに接していたのかと焦り振り返るぐだ男。
 だが、彼の行動にエミヤはニヤリと笑うばかりである。

「なるほど、やはりか」
『謀ったな、エミヤ!』
「私とて弟分が想いを寄せる相手は気になる。まあ、頑張りたまえ」

 生温かな目で見つめられ、顔を赤くしながらぐだ男は撤退する。
 そんな青春真っ盛りの弟分の後姿を満足気に見送りエミヤは今度は風呂掃除に向かうのだった。

『お待たせ』
「ぐだ男ー、なんだか顔が赤いよ?」
『な、何でもない』

 二人の元に辿り着いたところでアストルフォに尋ねられブンブンと首を振るぐだ男。
 そして、エミヤの言葉を思い出してチラリとジャンヌの方を盗み見る。

「どうかしましたか?」
『ううん。それより早く行こう』

 しかし、すぐにばれてしまい顔を赤くして外に出る。
 アストルフォは何も疑わずにその後ろに続き駆け出す。
 ジャンヌだけはぐだ男の行動を不審に思い首を傾げるが何も言うことなく彼に続くのだった。





「クーちゃん! クーちゃん! あのパン見た目も可愛くてすっごく美味しそう!」
「あ? 欲しけりゃ買えばいいだろ」
「そういう返しが欲しいんじゃないんだけど、クールなクーちゃんも素敵だわ!」
「……疲れる」

 スーパーに辿り着いた三人が初めに見たものは二人のカップル。
 ではなく、一人の男にベタ惚れしている女性とそれを雑に扱いながらも拒まない男だ。

『……逆方向から回ろう』
「あ! 誰かと思ったらぐだちゃんじゃない! 両手に花なんてやるわね」

 逃げようとしたぐだ男だったがあっさりとメイブに見つかり手を振られる。
 大学生である彼女は入学と同時に同じ大学のクー・フーリン・オルタに一目惚れする。
 しかしながら、何度告白しようとそっけなく断られるだけらしい。

「いいわねー。私もクーちゃんと出会う前は良くイケメンハーレムを作ったものよ」
「い、イケメンハーレム……」

 メイブの言葉に顔を赤らめながら引くジャンヌ。
 そんな様子にメイブは楽しそうにジャンヌに詰め寄る。

「興味ある? 強くてカッコイイ男が自分によがる様って最高よぉ」
「け、結構です。そもそもそういうことは不埒です。主が許されません!」
「ふーん。だってよ、ぐだちゃん」

 慌てながらもしっかりとメイブの言葉を拒絶するジャンヌ。
 その言葉にメイブは意味あり気な視線をぐだ男に向ける

『どうしてこっちを向くんですか?』
「別にー。ぐだちゃんもどっちつかずじゃダメよってこと」
『この上なく説得力がない!』
「うふふふ、恋多き男は素敵よ。でも、一途な男はもっと素敵よ」

 まるで現在の心境を見透かされたような瞳に罪悪感がぐだ男の胸に押し寄せる。
 メイブは最後に軽くウィンクを残しクー・フーリン・オルタの元に戻ろうとする。

「て、クーちゃん置いてかないでー!」

 しかしながらクー・フーリン・オルタは彼女を無視して一人で進んでいる。
 完全に邪険に扱われているがメイブはめげることなく駆け出していくのだった。
 恋する乙女とは恐ろしいものである。

「変わった人だね」
『うん。通称、101回振られたメイブ』
「な、なんというか……そこまでいってめげない心は逆に尊敬しますね」

 三人でメイブという女性について話をしながら立ち去ろうとする。
 だが、どういうわけかそのメイブ自身が鬼気迫る表情でこちらに走って来ていた。
 そして、その後ろには―――


「チーズは嫌いなのよー!!」


 ―――雪崩のようにチーズが押し寄せて来ていたのだった。


『牛乳はともかく、ジャガイモにニンジン、玉ねぎ……カレーでも作るのかな』
「ぐだ男君、現実逃避しないでください」
『でもオニキがいるから大丈夫だよ』

 ぐだ男は特に気にすることなく背を向けて野菜売り場に向かう。
 ジャンヌとアストルフォは大丈夫かとメイブに目を向けるが間一髪のところでクー・フーリン・オルタが彼女を助け出したので安心してついていくのだった。

「無事か?」
「く、クーちゃんが私を…! もうこれは運命ね! クーちゃん結婚し―――」
「―――断る」

 後ろの方でそんなやり取りが行われていたが三人共振り返らず食品を籠に入れていく。
 結局のところクー・フーリン・オルタの尻尾が棚に引っかかった為の事故だったらしい。
 因みに、後で店に怒られ並べ直したらしいがメイブは初めての共同作業と喜んでいたとか。

『後は卵と牛肉と醤油、それとお菓子は一人300円までだって』
「あ、じゃあボク、卵を持ってくるね。それからお菓子」
「では、私は牛肉を。アストルフォ、貴女は先にお菓子の方に行かないように」
「ぶー、それぐらいわかってるよ」
『じゃあ、俺は醤油を』

 時間をかけても仕方がないので残りの食材は三人で手分けすることにする。
 手にぶら下げた籠とは反対の手にメモを見ながら調味料コーナーに向かう。

『メーカーまで細かく指定するなんて……やっぱりこだわるなぁ』

 料理には妥協はしないという意思がひしひしと伝わる文字を眺めながら目当ての品を探す。

『あった』

 見つけた商品はエミヤ以外にも人気があるのか後一つとなっていた。
 一先ず見つからないということにならず良かったと息を吐き商品に手を伸ばす。
 しかしながら、彼の手は商品ではなく別の物と触れ合うことになった。

『「あ…」』

 触れ合う柔らかな手。驚いて隣を見るとそこには着物を着た両家のお嬢様のような娘がいた。
 相手も驚いているらしく金の瞳をパチクリとさせていた。
 その間にぐだ男の脳内にはどうするべきか選択肢が展開される。
 自分の物だと強引に奪うか、相手に譲るか。
だが、片方の選択肢はあってないようなものだった。

『どうぞ』

 醤油を手に取り少女に渡す。
 少女はぐだ男と醤油を交互に見て困ったように尋ねる。

「よろしいのですか、それでないとダメなのでは?」
『いいよ、別に。頼んだ人も話せば分かってくれるし』

 そう話しながら値段と味が良さそうな別の醤油を籠に入れる。

「……お優しいのですね。それに“嘘”でもありませんし」
『そうかな? でも、良いことをした気持ちになれたからありがとう。それじゃあ』

 少女と別れジャンヌとアストルフォを迎えに行くぐだ男。
 故に彼は気づくことがなかった。
 少女が獲物を見定めた蛇のような瞳をしていることに。



「あの優しさ……間違いありませんわ。やはり(・・・)、あの方こそ―――ぐだ男様(安珍様)



 少女、清姫はうっとりとした表情を浮かべながらぐだ男の後姿を凝視し続けていたのだった。





 ジャンヌとアストルフォとのお使いの翌日、ぐだ男はいつものように学校に来ていた。
 結局、醤油の件は『女の子には優しくしなきゃいけないよ』という言葉を守ったので不問であった。

「おい、ぐだ男。知ってるか?」
『何、モードレッド?』
「なんでもこの中途半端な時期に転校生が来るらしいぜ」
『後、少しで夏休みだよね?』
「だから、中途半端って言ってるだろ」

 モードレッドからもたらされた衝撃の情報に目を見開くぐだ男。
 既に7月、後は夏休みに入るだけである。
 こんな時期に転向してくるということは余程のことがあったのだろうと想像する。

『何はともあれ仲良くできたらいいな』
「お前いっつもそれだな。まあ、らしいっちゃ、らしいか」

 呆れた顔で頷きながら自身の席に戻るモードレッド。
 それと同時にタイミング良くチャイムが鳴り三蔵ちゃんが入ってくる。

「みんな、おはよー! 今日はビックニュースがあるわよ! 御仏も驚くぐらいのね」

 いつもよりもハイテンションな三蔵ちゃんのテンションだが誰も驚かない。
 何だかんだ言ってこうした情報は生徒の方が早く伝達したりするのだ。

「あれ? 何だか、みんな悟ったような顔をしてるけど……良い兆候ね! 立派な仏弟子…じゃなかった、大人になれるわよ!」

 一瞬拍子抜けしたような顔をするがすぐに気合を入れなおす様は流石と言えるだろう。

「今日は新しい仲間を紹介するわ。さあ、入ってきてちょうだい」

 三蔵ちゃんの言葉に従い扉が開かれ転校生が姿を現す。
 真新しい制服に身を包んださらりとした髪が特徴的な美少女。
 そして特徴的な金色の瞳。

『……あ』

 見覚えのある姿にぐだ男は思わず声を上げる。
 黒板の前に立ち自身の名前を書いていく少女。
 そして、振り返り優雅にお辞儀をする。


「今日からこのクラスでお世話になります―――清姫と申します。
 皆様どうかよろしくお願いいたします」


 礼儀正しい所作と丁寧な物腰に拍手が送られる。
 その光景に満足そうに頷き三蔵ちゃんが緊張をほぐすための質問をする。

「それじゃあ、清姫さん。何か好きなものはあるかしら?」

 しばらく質問の内容に考え込んでいた清姫だったが満面の笑みを浮かべ答える。
 場が騒然となる特大の爆弾を。



「―――旦那様(ぐだ男様)です。好きな人も好きな食べ物も全部」



 時が止まる。清姫の言葉に全員がポカンとした顔で固まる。
 ついで全員がぐだ男の方をガン見する。
 しかしながら当の本人も何が起きたかわからずにポカンとした顔のまま座り続けていた。

「これからよろしくお願いしますね。旦那様(ぐだ男様)

 語尾にハートマークがついているような、愛嬌たっぷりの声で言われる。
 だが、彼女の瞳どこまでも蛇であった。


 ―――ぐだ男の恋物語は急速に動き始める。

 
 

 
後書き


突然の転校生と既に会っているというのは王道物ですよね(白目)


さて、そろそろキャラも揃ってきたので個別√入ります。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧