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ワーグナーの魔力

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第四章

「ヒトラーもまたね」
「ワーグナーの息子さんの奥さんと結婚するってお話も」
「あったよ」
 彼の息子であるジークフリート=ワーグナーの未亡人とだ、実際にヒトラーとそのワーグナー未亡人との結婚の噂は当時かなり強くあった。
「彼にしては珍しくね」
「ヒトラーにしては」
「女性の話が少ない人物だけれど」
 権力者によくある話である漁色の話は少ない人物だった。
「それでもね」
「そうした話もあったんですね」
「本にも書いてあったね」
「あの本とは別の本を読みましたけれど」
「ああ、他の本も読んでるんだね」
「ワーグナーの本を、先生にお借りした本にも書いてましたけれど」
 ヒトラーとワーグナー、そしてワーグナー未亡人との話がだ。
「そうした話もあったんですね」
「ヒトラーはとにかくワーグナーが好きでね」
 極めて熱烈なワグネリアンであったのだ。
「それでなんだ」
「当時のドイツではまさに国家の音楽だったんですね」
「ベートーベン以上にね」
 ヒトラーはベートーベンも好きだったという。
「そうなっていたんだ」
「そうなんですね、あと」
「あと。何かな」
「ワーグナーは音楽だけじゃないんですね」
 プロホヴィッツはシュツルムにこうも言ったのだった。
「文章も書いてるんですね」
「うん、脚本も書いていたしね」
「自分の作品の」
「それも彼が最初だろうね」
「自分の作品の脚本も書いた人はですね」
「そう、普通の作曲家は作曲だけしているんだ」
 自身の作品のだ。
「モーツァルトもベートーベンもね」
「イタリアのヴェルディやプッチーニもですね」
「けれど彼は違っていた」
 ワーグナーはというのだ。
「脚本も書いていたんだ」
「自分の作品の全てを担ってましたね」
「演出等もね」
「全部ですね」
「指揮者でもあったしね」
「多才な人だったんですね」
「それでね」 
 シュツルムはあらためて言った。
「色々な文章も書いていたんだ」
「図書館にそうした本もありますけれど」
「もう読んだかな」
「いえ、まだです」
 そうした本はとだ、プロホヴィッツは即座に答えた。
「そうした本もあるって見ただけで」
「それじゃあだね」
「これから読んでみようって思ってますけれど」
「じゃあ読むといいよ」 
 教師としてだ、プロホヴィッツにすぐに言った。
「彼の文章もね」
「それじゃあ」
「しかし、君はね」
「僕は?」
「来てはいけない世界に来てしまったね」
 ここで笑ってだ、シュツルムはこうプロホヴィッツに言ったのだった。 
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