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ウルゼロ魔外伝 超古代戦士の転生者と三国の恋姫たち

作者:???
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ルーク、天和と出会うの事

同時期。
江東の方面に広がる大地、呉。
亡き孫堅の代から三代に渡り、怒涛の戦いが続いた地域。蜀や魏と比べると元水賊が勇将として活躍している等、水軍が鍛えられている。王である『孫策(真名は雪蓮)』が、母である孫堅の死後分裂してしまった呉を統一し『江東の小覇王』と呼ばれることで有名だ。
しかし、この国の首都である建業の城内にその王である雪蓮の姿がない。一方で政務をこなしていた呉王の妹…『孫権(真名は蓮華)』が呉の軍師にして大都督『周瑜(冥琳)』と対談していた。
「遺跡ですって?それも見たこともない様式の?」
机の反対側に座る冥琳に、蓮華は尋ねてみると、冥琳は頷く。
「ええ。それも長江の底にも届くほどの地下まで続いていると、調査に向かった明命及び亞莎の二部隊からの報告です。彼女たちには引き続きその二箇所の調査を続行させています」
「長江は海のように深い。そんな場所にまで届くほどの遺跡があるなんて…」
信じられない。蓮華でなくても驚く話だ。謎の遺跡、見つかったのは蜀だけではなかったのだ。
「しかも明命の方では、気になるものをいくつか発見されたと」
「気になるもの?」
「街の残骸と、巨人の石像群です。それも、かなり痛んでいましたが、たった二つだけ傷一つなく現存しているものがあったと」
「巨人の石像…」
蓮華は何か怪しいと思った。
長江の底にまで通じるほどの地下に広がる遺跡。そしてそこに存在する巨人の石像なんてそんなもの、これまでの先人たちが知らないはずがない。そもそも巨人といわれるような巨大な石像が、群といわれるほど作れるような余裕などあるとは思い難い。秦の始皇帝でさえ国中のありとあらゆる人間を使って万里の長城やら兵馬俑やらを作り上げたことにどれだけの費用と人材を必要としたのか。当時の人たちはそれだけでも気が遠くなるような苦労だったはず。それを巨人といわれるような代物を、かなりの数を作るなど…。
「冥琳…その遺跡に関する文献は?」
「現在、文官たちを集めて、例の遺跡に関連する資料・文献がないか調べています」
「…穏には、任せていないわよね」
なぜかここで蓮華がいい辛そうにいうと、冥琳は苦笑した。
「ご心配なく。あれに任せておいたらかえって難航することは重々承知済みですから」
「ほっ…」
どうも今の穏と呼ばれた人物、何かしら厄介なものを抱えているようだ。
「ところで蓮華様、雪蓮はいずこに消えたかわかりますか?」
雪蓮と冥琳は正史での孫策と周瑜と同じく、昔ながらの親友同士だった。だから仕える主と部下の関係ではあるが、こうして呼び捨てにできるほどの仲だ。
目くじらを立てながら冥琳は蓮華に問うと、逆に蓮華も尋ね返してきた。
「姉様を?見てないの?」
「…そのご様子だと見ておられないようですね…まったく、あやつのだらしのなさは三国同盟以来磨きがかってしまったようで…」
どうも雪蓮は王でありながら時々仕事をさぼる癖があるようだ。
「はあ…妹として詫びさせて、冥琳」
「いえ、蓮華様が謝罪なさることはありません。以前からよくありましたから、もう慣れました。でもあやつは呉王であるうえに孫家の人間。しっかりしなくては蜀と魏の連中にも示しがつきませぬ。全くどうしたものか…」
「話なら聞かせてもらったわ」
思わず蓮華は「ひゃ!?」と悲鳴を上げて飛び上がりそうになった。何せ、彼女と同じ髪の色と肌を持つ女性が、急に窓の外から姿を見せたのだ。
この女性こそ孫策…真名は雪蓮だ。性格は蓮華と比べると天真爛漫、悪く言えば我儘な女性だ。
「…どこに行ってたんだ、雪蓮」
冥琳がメガネの奥からギラリと鋭い視線を向ける。見るからに怒っていらっしゃる。
「そ、そんなに怒らなくたっていいじゃな~い。ちょっと街の知り合いのおじいさんと喋ってただけよ」
「では、その酒瓶は一体なんなのでしょうねぇ…?」
視線がとげとげしいまま、冥琳は雪蓮の担いでいる小瓶を指さす。酒瓶のことを指摘され、しまった!と雪蓮は焦りを見せた。背中に隠そうとしていたがもう遅い。
「こ、これはね…その…祭が吞みきれないからって私に」
「あの祭殿が酒を?そんな奇異なことがあるものね…」
祭…名は黄蓋。蓮華と雪蓮の母である孫堅の代から呉に仕えてきた宿将。かなりの酒好きで、酒がかかわる話になると年甲斐もなく子供のように言い逃れをすることも。そんな人がそもそも『呑みきれない』なんてことを言うはずがないと冥琳は瞬時に見切った。
「ぶー!いいじゃない!最近政務ばっかりで張り合いないもの!あ~あ、外で体動かしたい~」
子供みたいにふくれっ面になる雪蓮。とても噂の小覇王とは想像もつかない姿である。元々彼女は戦場で戦うことの方を好む好戦的な女性だ。かといって戦うことだけを全てとするような戦闘狂でもない。
「姉様は呉の王なのですよ。三国同盟が成った今こそ政務に励まないといけないのに…」
我が姉ながら、なんという体たらく…蓮華は家族として、武人としての姉を尊敬こそしているが、こういう時は正直呆れてしまう。
「蓮華まで堅いこと言うんだから~」
「当たり前です。そうよね、冥琳」
「ええ、全く持って蓮華様のおっしゃる通りです」
「二人とも、そんなに堅いんじゃ将来、父様みたいないい旦那さんが見つからないわよ?」
「「余計なお世話です/だ!!!」」
さすがに逆鱗に来たのか怒鳴りだした。特に蓮華は顔が真っ赤だった。
…余計なお世話と蓮華は言うが、魏と呉には最近問題視されていることがあった。今の雪蓮の話から読み取ると、世継ぎ問題だとわかるだろう。蜀にはすでに天の御使いである一刀の存在がそれを解消できるため除外できるが、二国には一刀のような、国の重要人物たる男がいない。魏は…あまり大きな口では言えない私情が大きな障壁となって男性を重要人材として取り入れる機会がない。呉もそのような障壁こそないものの、簡単に言えば『出会いがない』のである。
「余計なお世話とかいっても、これは我が孫呉にとって重要な問題なのよ?桃香たちとは違って、私たちには天の御使いに匹敵するほどでなくても、孫家にふさわしい男がなかなか現れないというこの現状は由々しき事態。冥琳もこれには一理あるとは考えているでしょ?」
「それは、まあ…」
雪蓮に言われた通り、まだ王政に依存しているこの世界で確かに世継ぎ問題は大事だ。跡継ぎに関しては、一人だけ候補はあるにはある。それは雪蓮と蓮華の妹、孫尚香(真名は小蓮)だ。だが彼女が王位に就くのは、雪蓮も蓮華も亡くなったときだけだ。因みに唯一小蓮は珍しく正史に当たる人物と性別に変更がない。
「いっそ、北郷一刀だっけ?あの子を種馬として呉に迎え入れてみようかしら?そして呉の将たちと見合わせて…」
「ね、ねねね姉様!?」
何やら危ない発言を繰り出す姉に、目を丸くして蓮華は悲鳴を上げた。
「ねを連呼しすぎよ蓮華」
「誰のせいです!別に私は…その…」
ここで口を濁した蓮華。こうはいうものの、年ごろの女らしさを簡単には捨てきれないようで、本音ではいい相手を巡り会えた桃香たち蜀の将たちがうらやましかった。
一刀の生きていた現代世界は、神聖なる天の世界としてあがめられている。神話が真実同然に扱われているこの時代では崇拝されていると同時に、逆らった時の恐怖心もある。天の血を手に入れた風評を得れば、天の加護を得ようとそれに従いついていく人間もいるのだ。それだけ天の御使い=一刀の存在は蜀以外でも大きいのだ。
「だが、それを蜀の者たちが許せるのか?」
「そうよ、それが問題なのよ」
冥琳の言い分に、頭を抱える雪蓮。蜀の人間は独占欲が強い。雪蓮も以前一刀と仲良く会話している桃香たちを見てそれを察していた。呉に来いなどと言えば大騒ぎ間違いなし。魏だってもし、蜀から呉へ天の御使いが来ることになったら同盟の存在が危ういものとなると指摘するはずだ。
「はあ…せめてもう一人天の御使いが…それも一刀と仲良くできそうな子が下りてきたらいいのに…」
雪蓮は空を見上げながら、さらに注いだ酒を飲みだしながらぼやいた。
「まるで空から金でも降って来いとでも言っているようだな…」
はたから見たらだらしのないニートだ。冥琳ははあ…とため息をついた。
すると、もう一人窓のそばに、それも上空から一人の女性が下りてきた。
「あ、本当に下りてきた…って思ったら思春じゃない」
親方!空から女の子が!なってファンタジックなことも言えるような雰囲気でもない。この女性の鉄のような雰囲気からして。
「…?何を仰っていたのか理解しかねますが、その辺りでおやめになってください。雪蓮様」
雪蓮の持つ酒皿を指さして、思春と呼ばれた女性は注意する。
思春…名は甘寧。元水賊の頭で、水上での戦ぶりと工作兵としての力と武を買われ、普段は蓮華のお目付け役として活躍する呉の将。大概の相手を突き放すなど、冷たく見られがちな、元水賊にしては生真面目な性格をしている。
「蓮華様の命令であなた様を探していたのですが、探す手間が省けました」
「思春を使ってまで私を探すなんて、逃げ出した飼い犬じゃないんだから~…」
「…ご自身の日ごろの行いを振り返ってください」
「冷たいわね…」
思春から酒を取り上げられ、妹から痛いところを突かれて雪蓮はブーたれる。この後、雪蓮は結局サボっていた仕事をさせられるために思春に連行された。監視役に思春と、蓮華との対談を終えた冥琳がついたことで、サボっていた分自由時間が大きく削られ幾度も涙したくなったという。



「あの、さっきはありがとうございました!」
突如路地裏に引っ張られたルークだが、その引っ張られた張本人から礼を言われていた。その人物はというと、さっきあの三人組に脅されていた黄色いリボンで長い桃色の髪を結った少女だった。
「あ~…いやいや、気にすんなって。あの糞犬親父共がムカついただけだから!」
いきなり引っ張られて驚いたが、てっきり逃げ出したと思っていた少女からお礼を言われ、さらには衛兵の目から逃れるために無理にでも引っ張ってきてくれた彼女に対してルークは気恥ずかしげに頬を指先でポリポリと掻いた。
「け、けど…女一人で出歩くのは危ねぇだろ。誰か一人くらい付き人がいた方がいいんじゃねぇか?」
気恥ずかしさから少しでも逃げようと、ルークは話を変える。すると、少女はどこか気まずさと寂しさを混ぜたような暗い表情を浮かべた。
「黄巾の乱から…ずっと一人なの。ちーちゃんと、人和(レンホウ)ちゃんがいなくなったから…」
いるにはいたのか、とルークは理解した。そして、その二人がこの少女にとって大切な人であったことを察した。
「あ…悪いな。なんか、やなこと聞いちまったみたいだ」
「あ、いえいえ!いいんです。事実だから」
逆に少女も相手の気持ちを落としてしまったかと思ってルークに気にしないでほしいと言った。
「ところで、あなたってあまりこの辺りでは見慣れない格好をしていますけど、どこかの貴族の方なんですか?」
「え!?…えっと…実は…ちょっとした事情で帰り道が分からなくなってな。今その手がかりを探してたところだ」
あながち間違いじゃなかったが、それ以前に異世界の出身だから意味がない。
(そうだ。俺考えてみれば立派な迷子じゃねぇか…!!くっそ~、故郷とは全く異なる世界だからとはいえ、16にもなって迷子とか…)
正直自分から迷子なんですって認めることと同然のセリフを言うのはしたくなかったが、背に腹は代えられなかった。何せこの世界での自分は、文字通り孤独だ。なんの繋がりも後ろ盾もない。
「そうなんですか?」
「あ、ああ…」
「ああ、ちょうどよかった!」
ちょうどいい?少女の発言にルークは首をかしげた。首をひねるルークに、少女はすかさず尋ね続けてきた。
「あの、そういえばお名前はなんていうんですか?」
「名前?俺は…ルークだ。ルーク・ド・ラ・ヴァリエール」
「るう…く?へ?」
ルークのフルネームを聞いて、少女は首を傾げた。
「えっと…ごめんね。姓と名と、字は?」
「は?」
改めて尋ね直した少女だが、問い返しに入っていた『字(あざな)』という単語に、今度はルークがなんのこっちゃと困惑した。
「あざなってなんだ?姓は…ヴァリエール。名はルークって答えられるけどよ」
「字がないんですか?」
「まぁ、そういうことになるな。呼びにくいならルークでいい」
「変わった、名前ですね」
「そうか?」
でも考えてみたらそうかもしれない、と自分で納得した。連中からすれば自分の名前が一風変わっているように聞こえて当然だろう。
「じゃあルーク…さん、せっかくだし、私の旅に同行して!」
「は?」
少女のいきなりの提案に、ルークは目が点になった。
「さっきのあなたの怖い人たちを追い払ったとき、すごく強いんだなって思ったの。私、見ての通り闘うことができないから護衛になってくれる人がほしかったの。でも、傭兵さんを雇うのってお金がかかっちゃうから…」
歌を歌い、聞いた人たちから心づけを必ずもらえるわけじゃない。それでも彼女はたった一つの稼ぎ手段である歌のみでなんとかこれまで生活し続けてきた。でも、ストリートライブだとお金を確実にもらえるわけでもないし、もらえる分のお金なんて大した額にならないから護衛を雇うこともできなかった。
相手と拳をぶつけ合わせるほどの力さえもない少女は、それでもたった一人で危険な旅を続けてきたのだ。今回運よくルークという救いの手が下りてきたのはよかったのだが…。
(またあのような三人組のような奴らが自分を襲ってこないとは限らない…か)
「けどよ、逆に俺みたいなどこの誰とも知れない野郎を護衛にして大丈夫か?」
ルークはそこが心配だった。自分と彼女はつい先ほど始めて会ったばかりだ。そんな相手から男女二人っきりの旅を持ちかけるなど、正気の沙汰じゃないとまでは言わないが、普通はしないもののはずだ。
「さっきの怖い人たちよりずっとマシだもん」
しかし少女もまた反論する。確かにルークの理屈も正しいが、だからといって女の子一人旅をこのまま続けさせることの方が、危険が伴う。
「お金は今払うことはできないけど、いつか払うから!ね、お願い!」
両手を合わせて必死に頼み込んでくる少女。ここで拒否を選択することもできただろう。この少女のことをルークはまだよく知らないのだから、まだ信頼するには早計なのだから。
「…わーったよ。俺もあいにく迷子同然の身だし、どっかに帰り道を探る術があるかもしれないからな」
だが、ルークは彼女の護衛役として旅に同行することにした。理由としては、やはり故郷であるエスメラルダ…ハルケギニアへ帰還する道筋を探るためである。一人で当てもなくさ迷っても意味がない。なら手がかりの可能性のある方を選ぶのが建設的だ。
「もしかして、ルークさんって、外国の人?」
さっき紹介された名前の響きがあまりに聞きなれないものであることからか、少女は尋ねる。
「多分…そうなるんだろうな。
それと、さん付けしなくていい。ルークって気軽に呼べよ。あんたは別に、俺の部下でも家臣でもねぇんだから。
それより、あんたの名前をまだ聞いちゃいなかったな」
「私の、名前?え、えっと…」
自分が名前と問われた途端、なぜか少女は答えにくそうに目を泳がせた。
「なんだよ。聞かれたら困るのか?」
たかが自己紹介だろう?自分とは違って名乗れないとでも言うのか?ルークは貴族気質からか、この少女のその対応が少々無礼に思えてきてしまう。だが、少しの間をおいてから、彼女は名乗った。
「私…『天和(テンホウ)』っていうの」
「てんほう…?」
やはり異世界なのだ、と思った。トリステインは愚か、ハルケギニアでもエルフたちの国でも聞きなれないタイプの名前に、改めてここが自分の故郷とは異なる世界なのだと実感した。
が、そう思った途端に、ぎゅるるるるる…とルークの腹の虫が鳴り出した。
「ぐ…」
そうだ、俺腹減ってたんだった…。すっかり自分が空腹だったことを忘れたルークは、腹の虫をモロに聞かれて赤面した。
「ルークって、かわいい♪」
「や、やかましい!」
くすくすといたずらっぽく笑う天和に、ルークはムキになって怒鳴った。だが全く迫力がないから天和は気圧されもしない。
しかし、思えば天和はとてもかわいらしく、そして胸は大きく腰も締まっていて、スタイルも抜群だった。まるでアイドルグループの出身のような理想的な体系である。他の女子たちから見れば羨ましく見られてもおかしくない。
(待てよ…これってある意味チャンスじゃ…ってなに考えてんだ俺って奴は!!テラはともかく、また叔母上たちからふしだらだって説教かまされちまうだろうが!)
年頃の少年らしく、期待を寄せてしまったルークはすぐに自分がスケベな妄想を抱きかけたことを呪った。
そんなこんなで、ルークは天和の旅に護衛として同行することになった。
また飯の件だが、残り少なくなっていた天和の荷物にしまいこまれたままのあまりものを食べることでしのいだ。…舌の肥えたルークにとって、あまりよい味とはいえなかったらしい、というのは余談である。


その頃…。
現在のこの大陸…後に中国と呼ばれるこの国のほぼ中心部に位置する場所には、ある遺跡が眠っていた。だが三国同盟が成り立ってしばらく経ったある日、行軍中の呉によって発見された。その遺跡は現在確認されている遺跡とはまるで雰囲気も様式も異なり、発見した呉軍の兵たちを驚かせた。
その遺跡の調査を任されていたのは、建業で雪蓮たちへの報告に合ったように、呉の将の一人である呂蒙、真名を亞莎が監督していた。
遺跡は石垣のピラミッド上に積みあがったものが、長年の年月で土の下に埋まり、外観はもはや山にしか見えない。
その山の間に、一人の少女が陣を構えていた。見た目はどこか…中国の妖怪であるキョンシーのような格好をしている。彼女が呂蒙、真名を亞莎(アーシェ)という。
「呂蒙様、こちらが出土品になります」
亞莎が構えている陣の天幕に、一人の男性の武将が、部下に出土品を運ばせながら来訪した。
「お疲れ様です馬忠さん。早速ですが見せてもらえますか?」
「は。おい、例のものを」
馬忠と呼ばれた武将は、部下の兵士に出土品を机の上に置くように命じる。
「変わった出土品ですな。呂蒙殿、なにか覚えはございますか?」
馬忠は机の上に並べられた出土品を見て、発掘させたと気に見たときも抱いた感想を口にした。
「いえ、私もこの大陸の歴史には心得がありますが…」
亞莎は、特徴的な片眼鏡の奥に隠れた瞳から出土品を見る。
発見された出土品は、いずれも変わったものばかりだった。かの古代王朝『秦』の始皇帝が遺したという『兵馬俑』とも、後に『万里の長城』と呼ばれる長距離の城壁とも雰囲気が異なる。
出土品のひとつは、円錐の形をした銀色の塊だ。といっても、塊というにはずいぶんと形が整えられている。彫刻として作られたものだろうか。
さらにもう一つ見つかったものは、I字型の、翼のような意匠に掘り込まれたものだ。剣のように持ち手の部分があるが、武器とかそう言った類には見えない。ひび割れていて土ぼこりが酷く、相当古びた青銅製の道具である。
(何かの祭具のようにも見えますが…かなり古い。一体いつごろの遺品なのか…)
「馬忠さん、他に見つかったものはありますか?」
「今のところは…文字らしき印を多数刻んだ壁でしょうか。ですが、我々の使う文字とはまるで異なっていて誰も読むことができませぬ」
「そうですか…」
遺跡には文字らしきものが壁に刻まれているらしいが、それらも自分たちが知っているものとはまるで異なるらしい。
「私も直接見てみましょう。案内してください」
「御意」
亞莎は馬忠に遺跡への案内を求め、馬忠はそれを受け入れて亞莎を遺跡へ案内した。


入り口は山岳の脇に口を開けていた。そこから地価に続く長い階段を下りて行き、地下に開かれた広場に着く。そこには馬忠の言っていた通り、壁や床に埋め込まれた石版に、文字がいくつか刻まれていた。また、壁にもその遺跡が作られた当時の文化の名残なのか奇妙な彫刻がいくつも掘られている。
「だめですね…これは私も読めません」
松明で壁に刻まれた文字を見てみる亞莎だが、これは彼女でも解読することができなかった。彼女…呂蒙は学問に秀でており、この大陸において深く名を刻んだ偉人たちの文献や旧王朝の歴史資料をいくつも読んだ。だがいずれの書物においても、この文字に該当するものはなにもない。
だが、亞莎はこの事実について何かおかしいと思った。
「しかし、奇妙ですね…これほどの遺跡を、これまで名を残し続けてきた方々の目に留まることもなかったなんてありえません」
この大陸にはいくつもの王朝が栄えていた。夏、殷、周、秦…そして現在、『高祖』との呼び名でも呼ばれている『劉邦』が興し、後にその子孫である『光武帝』が再興した漢。これらの栄えていたいずれの時代でも、数々の偉人たちが名を挙げ、そして乱世に散っていった。だが彼らが偉業を成し続けている時間も、この場所もまた戦場になることもあれば、道中に訪れることもあったに違いない。それ故に、この遺跡が『今の時代、それもほんの1年以内にも満たない時期の間に』発見されたという事実が奇妙だった。まるで、開放されるべきときを、この遺跡自身がずっと待っていたかのようだ。
それに…亞沙は自分の肌に、この遺跡から発せられる空気を感じ取っていた。
(…いやな感じがする。なんなの…?)
どうしてか、この遺跡はこうして立っているだけで、喉を締め上げられているようないやな気分になる。
「どうかされましたか?」
「いえ、少し夜更かししすぎて体調が悪くなったかもしれません」
気を使ってくる馬忠に、亞莎は首を横に振った。
「それは大変ですな。一度天幕に戻られてお休みになられてはいかがですか?」
「すみません、そうします」
亞莎は一刻も早く出たくなっていた。馬忠の言葉に甘え、彼女は一度地上に出て、自分の天幕に戻り、馬忠らが回収した出土品の方を監察することにした。


「じゃあ、この国じゃ黄色いリボンをつけたチンピラたちが国の各地で暴れた乱が起こって、あんたの妹たちはそのときにはぐれた…ってことか」
その頃、江陵を出たルークは天和の護衛として、彼女と共に北に向けて旅に出た。
江陵を出るとき、自分を怪しんだ警備兵と鉢合わせするのではと思ったが、天和はそれを聞いて気を使ってくれたのか、その警備兵が休憩などで居ない時期を見計らってくれたおかげで、何事もなく江陵を出ることができた。
現在二人は、山道を通っていた。下には川が流れている。そこは偶然にも、山の麓に陣とっている亞莎たち呉軍のすぐ傍だった。
「うん、私はなんとか逃げ出せたんだけど、ちーちゃんと人和ちゃんが、騒ぎに巻き込まれちゃって…」
そのちーちゃんと人和ちゃんとは、天和の妹たちの名前らしい。
「でも、きっとどこかで生きてるって信じてる。だから大陸を渡って、二人のことを聞いて回ってるの」
戦争ではぐれてしまった肉親を探しても、死ぬまで会えないままなんてことはありえないことではない。それでも天和の意思は強かった。なんとしても妹たちと再会するというその意識の強さに、ルークは関心を覚えた。
「ルークにも家族は居るんだよね?ちゃんと会えたらいいね?」
「…ああ」
天和のその一言に、こうも考える。彼女は妹たちとはなんとしても会うという強い目的意思を持っている。だが一方でルークの心には、ある不安がよぎっていた。
そう、故郷に帰れるかどうか…ということだった。
結局自分の故郷について、天和は聞いてこなかった。珍しい身なりの迷い人兼恩人、もとい護衛として捉えていたが…一人異世界に突如放り込まれてしまった不安は拭えない。
(…俺は、トリステインに戻れるのか?この世界はどう見ても、異世界の存在自体知らないままの世界に違いないし…)
つまり、元の世界に戻る術など、この世界で見た街の文明レベルから見れば、絶望的だった。一体、メカの一つもないこんな旧文明ぶり満載なこの世界に、どうやって別の世界に旅立つ手段があるというのだ。
(くそ、何で俺がこんな目に…あの糞犬眼鏡…次にあったら絶対にボコしてやる…!)
自分は、確かに問題行動は多かったかもしれないが、決して悪意があったつもりでやったわけではない。寧ろ、いまだに差別意識を抱く奴や、悪意を持って人に害をなす悪党を懲らしめていただけじゃないか。自分でさえ、疎ましく思うことのあるこの力を、あえて有効活用していた…ただそれだけだ。
その怒りの矛先を、自分を襲ってきたあの白装束たちと、それを率いていた眼鏡の男に向けた。
ふと、眼鏡の男のことを思い出して、気になることを思い出す。自分を拘束した際に奴が発した言葉だ。

『たとえウルトラマンの血と力を受け継いで生まれたあなたでも』

俺が……ウルトラマンの…なんであいつがそんなことを知っているんだ。会った事もないあの男が…なぜ?
そもそも真実なのか…と疑ったが、証拠として当てはまりそうな要素があることに気がついた。それは、自分がどういうわけか生まれもって手にしていた、この異常な身体能力。
その理由が、ウルトラマンというキーワードと密接な関係にあるとしたら…。
(お袋はこのことを知っていたのか?俺の体に備わっているこの力の秘密を…
仕事を言い訳にあちこち回って…俺に一体何を隠してやがる…!?)
くそ、変な奴に襲われるわ、そいつのせいで怪獣たちが故郷で暴れるわ、おかげで異世界に飛ばされてしまうわ…元から抱えていた悩みも含めて、色々と訳が分からない。
(お袋にこの力はなかった…だとすると、やっぱり俺の親父は……!)
「ルーク、どうしたの?」
「え…!?」
「顔が変だよ」
顔に出ていたのか、気になった天和がルークの顔を覗き込んできた。
「顔が変って…ぶ、無礼な奴だな…なんでもねぇよ!気にすんな」
(いや、不安に思っても仕方ねぇ。ここで手をこまねいてたって、それこそ家に帰ることができるはずもないんだ)
弱気になっている自分に、自分なりに喝を入れることで不安を押さえ込んだ。女の子の前で憂い顔なんて浮かべるものじゃない。きっと母たちならそんな自分に『それでもヴァリエールの男か』と叱り飛ばしてくるはずだから。
今の自分は、半場その場の成り行きではあるが、天和の護衛だ。ちゃんと守ってやらないといけない。
「…なぁ、天和。今は次の目的地までどれくらいかわかるか?」
ルークは、次に自分たちが訪れる予定の場所のことをたずねることにした。
「うーん、ごめんね。私そこまで地理には詳しくないの。そういうことはほとんど人和ちゃんに任せてきたから」
「おい!?」
その返答はいかにも投げやりというか適当なものだった。
なんとなくこいつが緩い感じのキャラなのは読み取れていたが、できればルークは自分の今の状況からして、そのようなずぼらなところはないことにしてほしかった。しかし事実、天和はのほほんとしたキャラであることは明白で、そのキャラの通りなのか結構やってること覚えていることが適当だった。
「でも、一人旅をしてから、ここから北の方角にまっすぐ行けば街が見えてくるってことは覚えてるよ?大丈夫、大丈夫♪」
なんとも楽観的なことを言う天和に、ルークはげんなりした。
(本当に大丈夫かよ…)
ただでさえ不安ばかりの異世界道中、それが余計に不安をかきたてられてしまうこととなる。
ルークは鼻歌交じりに歩く天和を横目で見る。久しぶりに二人以上の旅なのか、どこか楽しそうだ。初めて会ったばかりだというのに、ルークを疑ったりもせず、ただ一度暴漢共から助けただけで彼を護衛として命を預けた。それだけ信頼してくれているのか?
今の自分は故郷に帰る手立てを見つけることが目的だが、だからといって天和を放っておくこともできない。また暴漢に襲われる可能性が大きいだろう、なにせ楽観的な思考の美少女など、彼女を襲った下卑た男たちのような輩が無視するはずがない。
故郷へ帰る術を探しつつ、ルークは改めてしっかりと天和を見ておいて置こうと思った。
「あ、そうそう。気をつけてね?ここって、山賊が時々出てくるの」
遠くに見えてきた山岳地帯を見ながら、天和は補足を付け加えてきた。
山賊…ルークにとってはあまり馴染めない種類の人間だ。もう山賊が出てくるほど故郷の治安は…いや、完全とはいえなかったな。
若き日の母ルイズが参加した、自分が生まれる前に勃発した、宇宙からの脅威との戦争。その戦いを通して祖国トリステインは国と民を、世界を守るために時勢を大きく変えなければならなかった。それに着いて来れなかった貴族など何人いたことだろう。そう言った類の貴族は、位を負われた果てに続として人気の少ないところをはいかいするわ、辛うじて食らいついても今の時勢への苛立ちからか、ルークが見てきたようないじめ問題を起こすこともあった。
でもルークは、今更そんな奴らに負けるようなやわな育ちも体つきもしては居ないという自負があった。油断さえしなければどうとでもなる。
ふと、ルークは視線の先に何かを見つけた。
「赤い鎧…どこかの軍か?」
自分たちが通っている河川の傍の道の近くに、高いつくりの柵で囲われた陣を見つけた。そしてその陣からは旗が上っている。漢字で『呉』と文字が刻み込まれていた。
それを見た途端、天和が足を止めた。
「どうした?」
妙に気まずげな様子の天和、一体どうしたというのだ。
「あれ、呉の人たち…」
「『ゴ』?…あぁ、確か…今のこの大陸を収めている三つの国の内、南東一体を支配しているって言う…」
この大陸のことは、黄巾の乱のことをはじめとして、天和が知っている程度のことだがルークは聞いた。だが、なぜ天和は連中を避けているような姿勢をとっているのか。
「…ねぇ、ちょっとここは避けていこう?ほ、ほら!軍の人たちって、結構乱暴だったり頭に血が上って人の話を聞かなかったりすることが多いし…ね?」
「さすがにそこまではないんじゃないか?」
「ルーク、そんな悠長なことじゃないの。兵隊さんって、少しでも怪しいって思ったら問答無用で尋問してくることだってあるんだから」
言われてみればそうかも知れない。人の話を聞かないと言えば、思ってみれば江陵にいたあの門番の兵たちのこともある。…が、悠長さに関してはこいつに言われたくない、とも思った。
「…今、ちょっと失礼なこと考えてなかった?」
突如天和がむーッと頬を膨らませてルークを睨んできた。どうやら彼が何を考えていたのか、少なくとも自分が貶されているようなことを考えているのを察したらしい。
「べ、別にぃ!?ま…まぁ、とにかく避けときゃいいんだな?」
自分の考えていることを当ててきた天和に、思わずきょどってしまったルーク。明らかに動揺しており、無理やり誤魔化しているのが見て取れた。
しかし、そのときだった。
「お前たち!そこで何をしている!」
突然怒鳴り声を浴びせられ、二人は思わずビクッと身を震わせた。振り向くと、数人ほどの呉の兵士たちがルークたちを取り囲んでいた。しまった。言った矢先に呉の兵たちに目をつけられてしまった。
「え、えっと私たちは…その…旅の者でして」
「旅人だと?だったらなぜ我が陣営に近づいてきた?」
「た、たまたまだ!」
天和の苦し紛れな言い訳に対し、二人を取り囲んでいる呉の兵たちウのリーダーらしき男は、ルークを見て目を細める。
「では、貴様の妙な格好は何だ?この大陸では見かけない服装だが?」
「こ、これは…!」
ルークの身なりのことを指摘され、天和は焦る。ルークも何か適当に誤魔化すネタがないか、必死に頭をひねった。
「この大陸の者ではないな?もしや、異民族の刺客か!それとも出土品を盗もうとする盗掘者か!怪しい奴らめ…ひっ捕らえろ!」
だがリーダーの男が、ルークたちが何かを思いつく前に、彼らをひっ捕らえるように命じた。
「うわ!何しやがる!」
「きゃあ!」
たちまち襲ってきた呉の兵士たちに、二人は取り押さえられてしまう。
「ここで何をしようとしていたのか、洗いざらい吐いてもらうぞ!」
「わーん!!こんなことなら早くここから離れときゃよかった…」
天和は若干涙目になりながら後悔の念を口にした。この時代の人間は怪奇現象さえも信じ込む傾向がある。適当で根拠のない疑念を抱き、それを排除するためならどんなに非難されるようなことさえも実行するのもありえないことではなかった。
「くそが、離せ!このスッタコ犬!!」
「うわ!?」
「そら!!」
「うぐお!!」
だがルークは、束縛されることをよしとせず、自分を捕まえていた呉の兵を振り払い、突き飛ばした。さらに天和を捕まえていた兵たちも蹴飛ばし、彼女を手元に奪還する。
「大丈夫か?」
「あ、うん…ありがと」
「貴様あああ!!」
やはり黒だったか!と呉の兵たちはルークたちに襲い掛かる。だが、ルークは振りかざされた剣を指先で受け止め、それを指のみでバキッ!とへし折ってしまう。
「剣を……馬鹿な!?ぐぎゃ!!」
剣を折られたその兵を、鎧で身を包んだその体に拳を一発叩き込んで突き飛ばした。
「す、素手のみで…!?この小僧…どこかの武家の出か?」
自分たちは激しい訓練で鍛えられ、とても一般の民ごときが立ち向かえるような柔な鍛え方はされていない。なのに、目の前のこの10代半ばにしか見えない少年に、いともたやすく…。リーダーの男はルークの大人数人がかりでも圧倒した力に戦慄した。
「く、囲め!この小僧は危険だ!なんとしても捕まえろ!」
彼はルークに対する疑念を強め、兵たちに取り囲むように命じる。彼の命令に従い、呉の兵たちはルークたちを決して逃がすまいと取り囲んだ。
「ち…天和、俺の近くに寄れ!」
「う、うん!」
ルークは天和をすぐ傍までに寄せて安全を図る。
まったく、人の話を利かない連中だ。うちの故郷の軍人たちはUFZの隊員をはじめとして、少しは一般人の言葉にも耳を傾けるというのに。呉の兵たちに対して、ルークは呆れと怒りを混じらせた。
とにかくここからなんとか抜け出して北に向かわなければ。天和のことも見つつ、ルークは身構えた。


それを見ている、悪しき意思を持つ者がいた。
謎の青年と眼鏡の男の配下の一人、『ダイダラ』という仮面の男だった。
(くく、見つけたぞ…)
豆粒ほどにも満たないほどの遠い場所から、双眼鏡を越しているわけでもないのにはっきりとルークと天和、そして彼らを囲む呉の兵たちの姿を見据えながら、ダイダラは笑った。
これで奴を捕まえれば、あの方々も喜ぶに違いないだろう。
(今、奴はこの世界の者どもに阻まれているか…少々邪魔だな。なら少々手を貸してやるとしようか。感謝するがいい)
ルークたちの観察を続けるダイダラ。ふと、彼は付近から感じる猛烈な『何か』を感じた。それを辿って視線を研ぎ澄ませていく。そしてその目に映ったのは、遺跡を囲む呉の陣営と、彼らが出入りしている遺跡の入口。
そこから発せられる波動を、彼は感じ取った。亞莎にとってそれはひどく重苦しく、不快感でしかなかったそれは…その男にとっては快感で満たされるほど心地よかった。そして、その波動の根源がいかなるものなのかも理解し、ほくそ笑んだ。
(ちょうどいい、あそこを利用させてもらうか)
ダイダラはある企みを秘めて、一瞬にして陽炎のように姿を消した。
 
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