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大統領の日常

作者:騎士猫
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外伝一話

 
前書き
大統領の日常外伝第一話を本編にまとめました 

 
西暦2114年 5月 7日
とある市民


私は今リビングで昼食をとっている。
やっぱり妻の手作り料理は最高だな。特にこのかぼちゃスープが実においしい。

食べ終わったのでテレビをつけてみる。
またこれか・・・

テレビには名前も知らない政治家が写っていた。何やら高らかに演説している。
どうやらまた”主戦派”の演説のようだ。
長々と演説をしているが、要するに”専制主義を打倒するのだ!今の大統領は平和ボケしている!”ということだ。

専制主義のどこが悪いのだろうか。民主主義とて絶対に良いものとは言えないのだ。2年前、前大統領が暗殺されたことで急きょ大統領に選ばれたペルシャール・ミースト氏。彼が大統領になるまでこの国の政治は完全な衆愚政治と化していた。我々民衆は政治家の言葉に惑わされ、”戦災孤児育成法””専制主義排除法”などの法案を作ってしまった。

戦災孤児育成法とは戦災孤児を軍人の家庭で養育する法律の事だ。16歳までの養育期間中は政府から養育費が貸与されるが、遺児が軍人或いは軍事関連の仕事に就かなかった場合は全額変換しなければいけないという酷い法だ。
専制主義排除法は名前の通り専制主義を排除するための法律だ。最初は純粋な民主主義者の国を作るために専制主義という毒に浸かった市民を救済する、という目的で作られた法律なのだが、実際は少しでも民主主義を侮辱したり、専制主義を支持するような発言をすると問答無用で逮捕され、最低でも10年の刑、最悪だと死刑を宣告されるという恐ろしい法律だった。
他にもたくさんあるがその法律をすべて廃法にしたのが現在の大統領ペルシャール・ミースト氏だ。当初彼を生成主義者として罵倒した政治家がいたのだが、その演説をした後すぐに市民から支持がなくなり、毎日24時間その政治家の家に電話が鳴り響くようになり、挙句の果てのに家まで押しかけてまるで借金取りのようにベルを連打しまくるものまで現れるようになったという。それ以降目立った批判などはなくなった。

現在大統領に対する支持率は80%を超え、90%に達するほどだそうだ。私も大統領を支持している。支持をしていないのはほとんどが主戦派かさっきのような政治家らしい。

インターネットの掲示板ではある人物の言葉に多数の人が賛同しているらしい。私も気になったので昨晩それを見てきた。その人は”ペルシャール大統領が皇帝なら君主制でも構わない”と書いていた。そしてその下にはそれに賛同するような書き込みが何百件もあった。私も衆愚政治の民主共和制よりはそっちのほうが断然いいと思う。要するに主権者が優秀であればどちらでもいいのだ。市民が優秀であれば民主共和制でいい。そして市民に乏しい知恵しかなければ一人の独裁者が皆を引っ張っていけばいい。

そんな感じで考え込んでいると外が騒がしくなっていた。
火事でも起きたのだろうか。心配になったので外の様子を見てみることにした。

そこには軍のトラックが数台止まっていた。中から次々と兵士が出てくる。制服からして恐らく親衛隊だろう。

親衛隊とはペルシャール・ミースト氏が大統領に就任してから設立した、主に大統領とその周辺人物を警護するその名の通りの親衛隊だ。正式名称は"大統領直属武装親衛隊"、通称"SS"。大統領の命令によっては憲兵隊のような役割をすることもある。

親衛隊の兵士が隣の家に向かっていった。確かあそこはウォルフィーナさんの家だったはずだが、何かしたのだろうか。親衛隊の隊長と思われる人物がマイクをもって話し始めた。

「大統領閣下のご命令により、ウォルフィーナ・ローゼを逮捕に来た!おとなしく出てくればよし、もし抵抗するというのであれば、親衛隊の恐ろしさをその身をもって知るであろう!」
「返答まで3分間の猶予を与える。既に貴様はわが部隊の完全な包囲下にあり、退路はすでに失われた!逃亡することは不可能である!両手を上げ、降伏せよ!」

1分後玄関のドアが開いた。親衛隊の隊員が銃を構えた。中からは両手を上げてローゼさんが出てきた。
さっき大統領のご命令と言っていたが何か大統領に対してしたのだろうか?
親衛隊の隊員がローゼさんの両手に手錠をかけた。その瞬間ローゼさんが叫び始めた。
「私が何をしたっていうの!大統領は法を破っていいなんて言う法律はないわよ!!訴えてやるわ!覚悟しなさい!!」
彼女には何の事かわからないらしい。すると親衛隊の隊員が彼女の腕に注射器を刺した。彼女はすぐに叫ぶのが止まり、気を失ってしまった。おそらく催眠薬か何かだろう。気を失ったのを確認した親衛隊の隊員はトラックに彼女を乗せた。他の隊員もトラックに乗車した。


西暦2114年 5月 9日
とある市民


あの逮捕から2日が過ぎた。私は昼食をとりながらテレビをつけた。するとちょうどニュースをやっていた。

「…次のニュースです」
「おととい親衛隊によって逮捕された。ウォルフィーナ・ローゼ(47歳)の裁判が先ほど終了しました。裁判の結果、ヴァルテック鉱山で永久労働と決定されました」
・・・ヴァルテック鉱山といえば首都から遠く離れた弩辺境の鉱山だ。掘り出されるのは鉄・銅・石炭。
あそこは業者などが採掘作業をするのではなく、今のように囚人が刑罰として採掘を行う。これにも懲役があり、最低でも2年、最高だと今回のような永久労働となる。民主主義の国でこのような刑罰を与えるのは例がないことだが、目立った反対はなかった。これは大統領の人格もあるがここに入るものはそれ相応の罪を犯しているものばかりであり、市民の中でも”自業自得””それだけのことをしたのだから当然”と言われている。加えて最低限の衣食住は保証されているし、面会や差し入れもある程度許されている事も反対意見が少ない理由だろう。

「ではまず、彼女が行った行為を解説していきましょう」
「ウォルフィーナ・ローゼ氏は2年前、親戚がなくなったために子供を3人養子として引き取っていました。しかしとてもよい生活とは言えない状態でした。両親の遺産をすべて奪われた挙句、奴隷のようにこき使われ、食事をまともに出してもらえていなかったのです」
「なるほど、しかしなぜここまでの重罪となったのでしょうか」
「はい。それから2か月ほどたったころローゼ氏が外出している間に3人は逃げ出し、警察によって保護されました」
「なるほど、それがきっかけでこのようなことになったのですね」
「いえ、これれには続きがあるのです。その後その3人は大統領に引き取られたのです」
「大統領が子供を引き取るというのはどういうことなのでしょうか」
「専門家の中ではこれは政治宣伝のためだという意見が強いようです」
「なるほど、戦災孤児を引き取ることで支持率を上げようということですか。しかし、あの大統領がそのようなことをする方でしょうか」
「これについてはこちらの記者会見の映像をご覧ください」
すると映像が切り替わった。正面には大統領が座っており周りにはたくさんの記者たちが詰めかけていた。

「専門家の中には大統領が政治宣伝のために彼女たちを引き取ったという意見もありますが、そのことについてはどうなのでしょうか」
大統領は一瞬秘書のほうを見たがすぐに正面を向いてしゃべり始めた。
「彼女たちを引き取ったのは当初政治宣伝のためでした」
この言葉に部屋中が騒然となった。実際私も驚いている大統領の性格からしてそんなことをする人ではないと思っているが・・・
「・・・しかし、私は政治宣伝に利用することは断固反対しました。なぜなら、戦争で親を亡くした子供までも政治の道具にするなどというゴミ以下の事をして票を勝ち取ろうとするなど正気の人間が行うことではないと考えたからです」
”ゴミ以下”か、これを聞いた子供を道具にしている政治家の顔が見てみたい。恐らくみな青ざめているだろうが・・・
記者たちからは”おーー”という唸り声が上がっていた。やはりこの大統領はよい人だ。

「彼女たちはいや!戦争によって親を亡くした戦災孤児をこれ以上増やさないためにも!私は1日でも早く戦争を終わらせることが出来るよう全力を尽くしたいと思っています。それがもし非常な手段であってもです」
記者たちがまた”おーー”と言ってうなずいている。非常な手段、という言葉が少し引っかかるが・・・
恐らく自分の身を犠牲にしてもということなんだろう。
また映像が切り替わり、さっきのアナウンサーと白髪の親父が写った。

「さすがは大統領、といったところでしょうか」
「そうですね、戦士孤児がこれ以上増えないためにも1日でも早く戦争が終わるといいですね」
さすがはアナウンサーだ、本当に泣いているように見える。

「それでは次のニュースです・・・・・」
そこでコロッと変わっちゃダメだろ・・・

 
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