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マゾヒズム

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8部分:第八章


第八章

「貴弘君には無理を言ったけれどあの子もそうしてくれたの」
「そうだったのね」
「そうなの。ただ」
「ただ?」
「凄くよかったの」
 恋人にだ。いじめられ犯されながら愛される、そのことがだというのだ。
「不思議と。そうだったの」
「成程ね。そういうことだったのね」
 美也子はここまで聞いてだ。全てを理解した。
 そしてそのうえでだ。こう言ったのだった。
「わかったわ。全部ね」
「けれど。本当に不思議に」
「不思議に?」
「気持ちよくて。凄く嬉しかったの」
「いじめられて犯されることがなのね」
「特に。昨日お母さんの目の前でそうされると」
 余計にだというのだ。その時はだというのだ。
「凄くよかったわ。けれど」
「それがどうしてかはわからないのね」
「どうしてなのかしら」
 心から不思議に思う顔でだ。雛子は母に言った。
「いじめられて。犯されて愉しくて」
「そして特にお母さんの目の前でそうされてだったのね」
「それがわからないの。私おかしいのかしら」
「いいえ、お母さんと同じなのよ」
 自分のことをそう思った娘にだ。母は微笑んで述べた。
「それはね」
「お母さんと?」
「そう。同じなのよ」
 こう言うのだった。
「それはね。同じなのよ」
「お母さんと同じ」
「お母さんもそうされることが好きで雛ちゃんも好きなのは遺伝なのでしょうね」
「私がお母さんの娘だから」
「そう。だからそうされることが好きなのよ」
 優しい笑顔で牛乳を口にしつつだ。美也子は雛子に話す。
「マゾヒズムっていうのね。けれどそれはね」
「おかしいことじゃなくて」
「そうした嗜好の人もいるから。気にしなくていいの」
「だったらいいけれど」
「人の嗜好はそれぞれよ」
 優しくだ。娘に語る美也子だった。
「それにお母さんと雛ちゃんは同じだから」
「おかしいって思う必要はないのね」
「それでね」 
 このことを話してからだった。さらにだった。
 その白い手を娘の頬に近付けて擦り。そうしてその白い顔を見詰めながら言ったのだった。
「また。これからもね」
「あのお部屋で」
「見て。お母さんを」
 その時の美也子、彼女をだというのだ。
「そして雛ちゃんもね」
「お母さんに見られて」
「二人で愉しみましょう」
 優しい母としての笑みにだ。妖しい夜の女の笑みも加わっていた。そしてその笑みでだ。
 雛子の白く可憐な、自分の若い頃そのままの顔を撫でつつだ。誘うのだった。
「皆でね」
「じゃあこれからも」
「ずっとね」
 娘を誘いだ。その娘もだった。
 妖しい笑みになりそのうえで母の言葉に頷きだ。そのうえで誘いを受けたのだった。そうして彼女もまた、だった。母と同じく夜の妖しい宴を愉しんでいくのだった。


マゾヒズム   完


                       2012・1・27
 
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