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2部分:第二章


第二章

「そのバイエルンの料理を作ってみるんだ」
「バイエルンの郷土料理ね」
「そんなところだよ。それにね」
「それに?」
「他の料理もね」
 作るとだ。淳司はにこりと笑って言った。
「ワーグナーにまつわるね」
「ううん、ワーグナーとお料理って」
「あまりぴんとこないよね」
「ワーグナーって何か浮世離れしてるから」
 香菜のイメージではそうだった。ワーグナーというと神話や伝説の話でだ。食べることや飲むこととはどうにも縁がない、彼女はこう考えていたのだ。 
 だがそれでもだ。淳司は彼女に言うのだった。
「ところがあるんだよ」
「そうなの?」
「だからそれも作るから」
「その今度の土曜日ね」
「キッチンはあるからね」
 淳司の部屋はそれなりのキッチンがある。だからそれは大丈夫だというのだ。
「まあどうしてもっていうのなら僕の実家に行ってね」
「それで作るのね」
「そう、だからどうかな」
 あらためてだ。淳司は香菜に応えた。
「今度の土曜日ね」
「ええ、わかったわ」
 ワーグナーと料理がどういった関係にあるかわからない。それでもだった。
 香菜はにこりと微笑みだ。こう言ったのである。
「それじゃあね」
「うん、やっぱり場所は」
「淳司君のお部屋じゃ作れるものかしら」
「ちょっと無理かも。だからね」
「淳司君の実家で」
「そう、そこで作るから」
 こう香菜に言う淳司だった。
「楽しみにしていてね」
「バイエルン料理、それに」
「そう、そのワーグナーにまつわる料理」
「その二つね」
「実家ならお袋がオペラ好きだから」
 今度はこの話をする淳司だった。
「余計に都合がいいね」
「余計にって」
「そう、ワーグナーのオペラのDVDもあるよ」
 それもだ。あるというのだ。
「ちゃんとね」
「ワーグナーねえ」
「それもローエングリンがあるから」
 淳司はとりわけだ。この作品を話に出したのだった。
「そのバイエルン王が好きだった」
「あの王様ってそのオペラが好きだったの」
「そうだよ。十六歳の時にはじめて観て」
 ミュンヘンの宮廷歌劇場で観てだ。それ以来だったのだ。
「ずっとそのオペラとワーグナーの芸術を愛していたんだ」
「そこまで好きだったのね」
「そう、だからそのローエングリンをね」
 観ようというのだ。彼はこう香菜に述べたのである。
「観ている間にね」
「その間に淳司君がお料理をなの」
「うん、作るよ」
「私はDVDのオペラを観ているだけでいいの」
「だってもてなすのは僕だから」
 だからだとだ。彼は笑顔で言うのだった。
「待っている間はね」
「そう言うのならそうさせてもらうけれど」
「じゃあそういうことでね」
「ええ、それじゃあ」
「そうそう、都合のいいことにね」
 ここでだ。淳司はにこりと笑って香菜にさらに言った。
「その日親父もお袋もいないから」
「えっ、そうなの」
「ちょっと外に出掛けるって言ってたよ」
「外になの」
「買いものか何かに行くみたいだね」
「そうなの」
「そう、二人だからね」
 だからだ。落ち着いて楽しめるというのだ。
 
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