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ピーチメルバ

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1部分:第一章


第一章

                          ピーチメルバ
 ある日だ。三輪香菜は彼氏の山田淳司、落ち着いた趣で優しい目に厚いピンクの唇、それに白く四角い眼鏡の彼にだ。こんなことを言われた。
「今度の土曜だけれどね」
「土曜日?二人共休みよね」
 香菜はそこから淳司に応えた。香菜は目が大きい。一重だ。口の大きさは普通だ。そして睫毛が長めで眉は薄く少し細い。髪は少し赤をかけた黒で耳を完全に隠し首の付け根のところで切り揃えている。背は一六〇程で細い身体をしている。
 彼女の仕事は看護士で淳司はシェフだ。日本では少し珍しいドイツ料理のレストランで働いている。
 そこからだ。淳司に言ったのである。
「それでその日に?」
「うん、よかったらだけれど」
 二人は夜道を歩いている。帰り道を待ち合わせての夜のデートだ。
 その中でだ。彼は香菜に言うのだった。
「僕の部屋に来てくれるかな」
「それはいつもじゃないの?」
「あっ、いつもだけれどいつもみたいじゃないんだ」
 淳司は微笑んで肯定と否定を同時に述べた。
「つまり、いつもは部屋でゲームしたりお酒飲んだりじゃない」
「そうね。私も淳司君もゲーム好きだし」
「けれど今回は違っててね」
「どう違うの?」
「料理作ろうと思ってるんだ」
 微笑みをそのままにしてだ。彼は香菜にこう言った。
「ドイツ料理をね」
「ソーセージとか?」
「いや、それはもう普通に食べられるじゃない」
「じゃあハンバーグ、それかアイスバイン」
「あとザワークラフトっていうんだね」
「そういうの?」
 香菜は実際に淳司の勤めている店に行き料理を食べたことがある。それでドイツ料理についての知識はあった。もっと言えばその店の味も彼の料理の腕もいいものだということも知っている。
 だからだ。こう言ったのである。
「それだったら特に」
「ありきたりっていうんだね」
「ザワークラフトだって今は普通にお店で買えるし」
「それにジャガイモもだね」
「普通にあるわよ」
 こうだ。別に特別なものでもないだろうとだ。香菜は言うのだった。
 そして首を少し捻ってだ。また淳司に言った。
「確かに美味しいけれど特別に言うことはないと思うけれど」
「あっ、新しい料理なんだ」
「新しい料理って?」
「うん、本を読んで勉強したんだ」
 それでだ。作るというのだ。
「ドイツ料理っていっても色々でね」
「そうだったの?ドイツ料理って」
「和食だってあれじゃない。色々あるじゃない
 淳司は日本を引き合いに出して香菜に説明する。
「大阪と東京でも違うじゃない」
「京都と名古屋でも」
「それこそ全く違うよね」
「うん、確かに」
「それと同じなんだ」
 彼はこう香菜に話した。
「ドイツ料理も地域によって違うんだよ」
「ううん、そうだったの」
「で、僕が読んだ本はワーグナーとルートヴィヒ二世の本で」
 いきなり芸術の話も加わった。だが料理を芸術と考えるのならこれも妥当だった。
「それに書いてあったんだよ」
「何かお話が急に高尚になってない?」
「まあ料理の話だから」
「ワーグナー、それにルートヴィヒ二世とお料理?」
「ルートヴィヒ二世はバイエルン王じゃない」
 淳司は今度は香菜にこのことを話した。
「ドイツの南西の方のね」
「バイエルンの名前は聞いたことがあるけれど」
「そこの王様だったから」
 それでだというのだ。
 
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