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俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか

作者:海戦型
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49.邪竜葬礼の誓い

 
前書き
今になって思えばアズのキャラクターモデルってBBのハザマ………?
(黒コート、いつも笑ってる、足技得意、鎖的な武器を使うなど共通項が多い事に最近気付いた) 

 
 
 これは、可能性の話だ。

 もしも黒竜が50~60階層の特定の場所に出現することに「ダンジョンは何が起きるか分からないから」という短絡的な事実以上の意味を含んでいるとしたら、それは何だろうか。

 例えば、場所。
 黒竜は必ず大きく開けた「ボス部屋」のような場所に出現する。ダンジョンの大型魔物は大抵がそうなので目新しい事実とは言えない。だが、通常そのような階層主クラスの敵は、その特定の場所にしか生息しない固有の存在である場合が多い。ならば黒竜とは複数存在するのか。それは否である。目撃証言に共通した抉れた片目がそれを証明している。

 この場合、普通は「どうやって移動しているのか」を疑うのが当然の反応だろうが――ロイマン・マルディールという男は「何故移動しているのか」を最初に疑った。ダンジョン内を巡回する魔物の前例は多く存在するが、階層まで跨ぐにはそれなりの理由がなければやらない筈だ。

 この世に無意味なことなど無い。
 ただ、無意味と感じた人間にはその意味が見いだせなかっただけだ。
 賢人の英知とは、ただの岩が石造となる可能性を秘めるように、無意味の中に内包されている。

 動向を探る必要がある――そう考えたロイマンは直ぐに手を打った。

「……というわけで、頼みましたよ?貴方には課題、論文、実地などありとあらゆる学問で貸しがありますし、何より黒竜に存在を悟られずに長時間観察できる魔法を持つ存在は貴方以外に思いつきませんでしたので」
「うひゃぁ~………先輩に呼び出されるもんだから碌なこっちゃないだろーとは思ってたけど、容赦ないっすねー。ま、先輩が居なきゃ単位がズタボロだったのは事実ですし………あ、監視に必要な物は流石にそっちで確保してくれますよね?でないとバカに高くつきますから」
「そっちはどうにかします。万全の態勢を整えるので、思う存分、余すことなく観察してくださいねー」
「うっへぇ、余計にプレッシャーかけてきやがったこの拳法殺しボディ……」

 ゲンナリしながら小声でロイマンの悪口を呟いたのは、オラリオ外の海辺の町に居を構える『マソ・ファミリア』のメンバーの一人、エルフのミリオン・ビリオン。ロイマンが学生時代に散々手間をかけさせられた憎むべき後輩だ。
 青リンゴのような髪型の中央には小奇麗な顔が覗いている。一見すると男にも見えるが、実際には男装の麗人という奴だ。
 本人曰く女らしい服より男の服の方が動きやすくて便利らしく、持っている服はすべて機能重視の男性物。一つのことに夢中になりすぎて他の大事なものをボロボロ零してしまうタイプのちょっとダメな子である。

「お給金出ます?」
「便宜は図りますよ?貴方ではなく貴方のファミリアにね」
「つまりウチの懐はエターナルブリザードですかい……しゃーない、これもマソ様への奉仕活動と思って頑張りますよ……」

 肩を落としてとぼとぼ割り当てられた部屋へ向かうミリオンの背中を見送りながら、ロイマンは次の協力者を部屋に招き入れる。

「君とは初めましてだったかな?『シユウ・ファミリア』所属、フー・リィライ君」
「仕事中に抜け出して来たんで手短にお願いできますかね……」
「用事そのものは大したことではありませんよ。早ければ半日で片がつく」

 困ったような表情を浮かべる礼儀正しい青年に、ロイマンはにっこり笑いかけて――。

「きみ、オーネストからギルド未確認未登録のドロップを貰ったそうだね?確か名前は、ええと――『黒竜の牙』だったかな。貸してくれるとありがたいんだ」
「………………何故、貴方がそれを知っているんでしょうかね」

 この街で10人にも満たない程度の人間しか知らない事実を、さらりと突きつけた。



 ――半日後。

「うわー、これ絶対ヤバいて。流石は三大怪物のドロップ……禍々しいっつーか触ったら呪われそうなレベルだね」
「長時間触らない方がいい。友達曰く、本物の呪物と遜色ないレベルの力が籠っているらしいからね………こうして近くにいるだけでも、レベルの低い人には精神的に結構クる」
「やれ、そこまでの代物ですか。シユウ様自ら封印用の箱を作ったとは聞いていましたが、やはり黒竜は我々の想像を越える……」

 その個室には、ロイマン、ミリオン、フーの3人が『黒竜の牙』を囲う形で座っていた。

 ミリオンは非常に珍しい魔法を習得している。
 『ミラークラウド』――杖などの補助道具は必要なく、代わりに二つの媒体が必要になる非常にレアな魔法だ。ミリオンはこの魔法を使う事で、「鏡」に「物体の持ち主」の姿を投射することが出来る。簡単に言えば、彼女はある日街で偶然落とし物を拾った時、その落し物の主を鏡に写すことが出来るという訳だ。それゆえ彼女の元には定期的に行方知れずになった人物を探す人が訪れる。

 ――なお、相手が死んでいる場合は鏡が割れる。理由は不明だが、それゆえ彼女は常に小さな鏡を複数持ち歩いている。時には依頼者に逆上されることもあるが、それは彼女にしか出来ない仕事であることを本人が一番分かっている。不真面目なように見えて、存外に損な性分だ。

「あ゛ー………こんだけ大物の魔物追いかけるのは初めてなんすけど。っつーか、そっちの黒いガキは結局なんなんすか?ウチ、出来ればこの魔法の事知られたくないんすけど」
「私だってこの牙を持っている事を知られたくなかったんだ。お互い様でしょ?」

 二人の視線はどこか冷たい。互いに互いの存在をそれほど快く思っていないのが伝わってくる。しかし、この牙がないことにはミリオンは黒竜の監視が出来ないので、両者の信頼関係はある程度築いておかなければ困る。

「オラリオの外にいる君には分からないかもしれないが、この牙は本気で危険なんだ。君がとちくるって壊そうとしたってこいつは壊れやしないから触っても構わないが、持ち逃げされるのは絶対に御免だよ」
「しねーし。そんな三下みてーなみっともない真似しなくても食っていけっからね。大体そんなに危険危険言うなら処分したらいいんじゃねーの?金になるから手放せませんか~?」
「それこそ馬鹿な。私はオーネストと親方に頼まれたからこれを持っているだけだ。………まぁ、もしこれを加工して剣でも作ろうものなら、それはそれは危険な剣が出来上がるだろうという興味はあるけど」

 ロイマンは直感的に、この牙はいつかオーネストの武器になるのではないかと思った。シユウがこんな危険な代物をわざわざ彼と関わりのあるフーに持たせているのだから、そういう意味なのだろう。

 ともかく、この日からたった3人で結成された「黒竜調査チーム」は活動を開始した。
 ミリオンは大量のMP回復ポーションを抱えて鏡だらけの部屋に籠り、フーは定期的に牙の管理状況を確認しに訪れ、ロイマンはそんなフーについでとばかりにミリオンの身の回りの世話をそれとなく押し付けながら彼女の報告を読む。表面上は何の変化もない極めて少人数で、しかし加速度的に、黒竜の調査は進んでいった。

「だーっ!もう我慢ならん!ビリオンさん貴方は一刻も早く風呂に入って着替えなさい!一体いつになったら風呂に入るつもりなんです!?率直に言いますが、臭い!!こんな不潔なエルフは生まれてこの方初めて見る!!」
「うわっ、馬鹿、やめろ!お前エルフの服ひっぺがそうなんてどんな神経してるんだ!?へ、変態!ばか!うわぁ~~~!?」
「……………え、なんで男なのにブラしてるんですか?」
「お・ん・な・だからだよぉぉぉぉぉーーーーーーーーッ!このガキャ絶対にブッ殺したらぁぁぁぁぁーーーーーッ!!」
「わわわ悪かった!私が悪かったから暴れないでください!鏡が!鏡が割れ――!!」

 ………そして、ロイマンの予想を遙かに超えて部屋の鏡の枚数は加速度的に減少していった。



 ――それから1週間程度が経過し、黒竜調査がある程度進んだ頃、ロイマンに火急の要件が入った。

 ギルド最古にして最難関のクエストの一つ、黒竜の討伐に挑む……オーネスト達の姿。

 過去三度にわたり不覚を取った相手を仕留めるために、彼はアズライールと共にそれに向かっていた。

(――これは、いけない)

 ロイマン・マルディールは考える。

 彼らはまだ、調査結果を知らない。このままでは、全員が還らぬ人になるかもしれない。
 ならば、ロイマンがすべきことは。ギルド最高責任者としてではなく、一人の太ったエルフとして、「オーネスト・ライアーを生み出してしまった原因の一人」として、自分に出来る事をせねばなるまい。



 = =



 ダンジョンの奥底から流れる空気が、異様なまでに重苦しい。これまで階層主などの凶悪な魔物が待ち構えている場所で幾度となく感じたことのある気配だが、この近くから感じるのはそれまでと比べ物にならないほど濃密だ。
 ダンジョンを伝播する気配。オーネストの殺意と同じように、周囲の世界を塗りつぶし、侵食するかのような力を感じる。

「全員、『契約の鎖』は装備したな?」

 オーネストの視線に、アズ以外の全員が腕に嵌められたアクセサリのような鎖を掲げて応える。特にリージュと後方待機組は3重の鎖を嵌めていた。そう、忘れられがちだがこれはアズが戦闘力に乏しい相手に送る護身用の鎖だ。鎖の持ち主の身を守るためだけに動き、常識離れした防御力を誇る自立武器でもある。
 オーネストは、これを全員装着するよう義務付けた。鎖の持ち主であるアズ以外、普段は防具を嫌うオーネスト自信も言い出しっぺということで装備している。

「全員分必要なほど黒竜の攻撃って強いかねぇ?青銅の竜はそこまででもなかったけど……今回の鎖は割と容赦なしに強化した。それでも足りないか?」
「本来なら全員分あっても足りない。体のいい盾と考えず、避け損なった時にそいつで身が護れればラッキー程度に考えておけ。そいつは『お守り』だ。ないよりましなだけだ」

 それでも生存の可能性が数パーセント埋められるのなら安い物なのかもしれない。
 アズの鎖の性能を知らないリージュが、鎖を指でなぞりながらアズに問いかける。

「………アズライール。鎖の強度と防御力はどの程度だ?」
「ン………少なくとも撃破推奨レベル4,5クラスとタイマン張るならほぼ防御率100%だ。それ以上はあんまり試したことがないが、下手な盾よりは性能を保証する。自立行動する上に高速で動き、強度そのものも不壊属性一歩手前の大盤振る舞いだよ」
「そこまで反則級のアイテムを装備しても気休め止まりて……まぁ、確かにヤバイ相手だし、実際に戦ったオーネストが言うんだから本気でヤバイんだね」

 非戦闘組のキャロラインがげんなりした表情でぼやく。現在の彼女の背中には、日常的に愛用する槍に加えてオーネストがあのパラディン・リザードから失敬した防御貫通槍も抱えられている。槍は使わないというオーネストが押し付けたのだ。
 これもいざという時は役立つかもしれない。防御貫通というのははっきり言って魔剣に匹敵するほど強力な効果である。黒竜相手にキーアイテムとなりうる可能性はあった。

「黒竜は、以前戦った時より強くなっているだろう。俺はこれまで3度黒竜に挑んだが、挑むたびに奴の力は少しずつ増していたように思える。恐らくダンジョン内で、何らかの方法を用いて冒険者のように成長している筈だ」
「成長する魔物………?そんなのアリか?」
「……闇派閥ではヨクアル話だ。わざと魔物に魔石ヲ貪ラセて強化し、怪物進呈(パスパレード)で押し付けル。時々失敗して自ラガ贄ニナルがな」
「……………黒竜の奴、魔石を喰って自分を強化してるってのかよ。成長期ですかこのやろー。更にデカくなってダンジョンの穴にギュウギュウに詰まっちまえばいいのに」
「やめとけ。ギュウギュウに避け場のないブレスが襲って来て、全員炭の柱になって立ち往生だ」

 ヴェルトールの希望的観測はあっさり蹴散らされた。確かに通路を埋め尽くすサイズの竜ならただ射程外からブレスを吐いているだけで全て迎撃できてしまう。かといって身軽なら弱いかと言うとそうではなく、その分の機動力を全力で活かして叩き潰しに来るだろう。そういえば、とココが質問を飛ばした。

「ねぇ、黒竜のブレスってヤバイの?」
「魔法の威力に換算するならレベル8オーバーの火力だ。当たったらそばから炭化するから死にたくなきゃ避けろ。避け損なったら死ね」
「『ね』っ!?『ぬ』じゃないのっ!?」

 ついでに言うとその黒竜のブレスを何発も喰らったであろうに生きているオーネストは一体何なんだろうか。体の何パーセントを炭化させたのか想像もしたくない。
 炭素硬化だ、とか言い出しても驚かないぞ。実はこいつ既に死んでてキョンシーなんじゃねえかと疑いたくなるところだが、オーネストは非常に残念なことに生身の人間である。これが生身の人間なら他の奴等全員ガラス細工か何かなんじゃねーのと疑いたくなる強度だが。
 取り留めもなく友人の人外加減を考えていると、オーネストと目線があった。

「確認するが――黒竜は俺達を『終わらせる』だけの理不尽が詰った文字通りの怪物だ。お前はそれも分かった上で、他の連中まで巻き込んであれと戦うというんだな?地上の煉獄に生きながら肺を焼かれる覚悟は?腕の骨が肉を巻き添えにバラバラになっていく感触を受け入れる覚悟は?マリネッタとリリルカを地上に置いたまま野垂れ死んで、めでたく塵の仲間入りする覚悟まで済ませているか?」
「いや、別にそこまで考えてないけど」
「…………」

 ぱかぁん、と顔面が跳ね上げられる。オーネストの居合拳だ。威力がない代わりに絶対避けられないように極限の速度を叩きだしている。衝撃で鼻の奥がむずむずして、くしゅん、とくしゃみが出る。くそう、不意打ちは卑怯だぞ。

「いきなり何すんだよ?」
「お前の軽挙妄動っぷりに殴りたくなっただけだ、気にするな、人間のクズ」
「お前もクズだろーが。クズじゃなけりゃリージュさんもココちゃんもここに連れてこないしメリージアのために引き返すことを打診する筈だ。でもお前はしないし、文句も言わない。つまりそれ自体が答えだよな?」
「……それもそうか。要するに俺達は同レベルのクズな訳だ」
「今更だろ?」

 アズラーイル・チェンバレットはいついかなる時も死に向かって存在している。そこに至る過程を享楽的に甘受し、へらへらと、無責任に、自分勝手に死へと突き進む。この世の全てを面白半分に受け止め、時折生きているふりをしながら、終わるまでの時間をずっと世界の片隅で待っている。

 オーネスト・ライアーはいついかなる時も嘘で塗り固まっている。嘘に嘘を固め、嘘のルールで現実を縛り、嘘で覆い尽くしたとのたまいながらも嘘の隙間から真実を漏らす。どこまで行っても完璧になれない半端者として意地汚く世界の淵に這いつくばっている。

 とてもではないがまっとうではない、救えないクズだ。

 そんなクズなのに、ふと後ろを振り返ればそんなクズどもの中に光を見た人々が着いてきている。俺もオーネストも、それには薄々勘付いていた。こんな碌でもない人でなしを、しかし人々はどうしてか放置はしてくれなかった。
 いいのかお前ら。この先に道なんてないぞ、奈落だぞ。着いて来ればお前らは間抜けにも順番に死の滝壺へ真っ逆さまだぞ。まっとうに生きたいなら、クズの先導になんて着いてこない方がいい。

「この先は地獄逝きだぜ。着いてきて後悔しない?」
「欠片でも死にたくないと思ってるなら引き返すんだな」
「馬鹿言わないで。アキくんをここで送り出すだけの女になれば、わたしは死んでも死に切れなくなる。本当の本当に下らない、家畜のような存在になり果てる。もう本当にアキ君に手が届かなくなるぐらいなら、黒竜は私が殺すわ」

 凛とした、どこまでも透き通る美しい声。リージュ・ディアマンテという少女の瞳からは、0,001%の不純物も見つからない極めて純真な殺意がゆらめいている。彼女とオーネストの関係など知りはしないが、おそらくこれは神が最も好む人の本質的な強さを体現してる。
 彼女は、覚悟を出来る人間だ。死なせるべきではない。

 そして、ユグーは。

「ここまで来て、退却?寝呆ケタ世迷言ヲ抜かすな。極上ノ快楽を手にせぬまま黄泉路ニ滑落スルなど、それこそ滑稽だ」
「お前は別に死んでもいいか……」
「おいアズ。今更分かりきったことをわざわざ口に出すな。非効率的だ」
(うわぁ、二人して本人を前に言い切りおった……)
(でもユグーさん聞いてないっぽいよ。そんなに戦い好きなの?)
(多分オーネスト達以上のクズなんちゃうかなー)

 ひそひそと喋る非戦闘員認定組3名をよそに、オーネストとアズは戦いの覚悟を決める。

「結局、ここにはクズとバカしかいない訳だ」
「おいオーネスト、クズとバカを舐めるなよ。バカは賢者100人分の働きをするし、クズは他の物を腐らせるだろ?つまりクズとバカの方が勝算高いぞ!」
「天才的な計算だ、目頭が熱くなる。この世はつまり、クズとバカが未来を切り開いている訳だ。感動的すぎて道徳の本をチリ紙代わりに鼻をかみたくなるな」
「黒竜殺して地上に戻れたら存分にすればいいんじゃね?あの館に道徳の本があるかどうかが甚だ疑問だけどな」

 何とはなしに――俺達はいつもの調子に戻っていた。
 黒竜の覇気にあてられて、少しばかり気分が沈んでいたらしい。しかし、もう大丈夫だ。

「まぁ何はともあれ戦いだ。俺も他の2人も全力で手伝うんだから、お前黒竜を打ち損じたりすんなよ?ミスったらアレだぞ。生きて連れて帰ってフレイヤの部屋に投げ入れたるぞ」
「それはいい。あの高慢ちきの女神(くそおんな)を殺害するいい機会だ。突入角を間違えるなよ、一撃で仕留めきれない」
「それは生きて帰ると解釈していいのか?」
「――ああ。よく考えてみたんだが、俺には黒竜に負けてもいいが、勝ってもいいわけだからな」
「それ聞いて安心した。今日は勝ち戦だ。何があろうが勝ち戦。帰って豊穣の女主人で一杯ひっかけよう」

 向かうは不倶戴天の最悪災厄、生き損なった魔物の分際で人間に牙を剥く世界最大の蛋白質の塊。しかしてそれは悪魔的であり、絶対的であり、あらゆる部分にして人間を超越した神に迫る世界の猛毒。

 しかしお気の毒――そっちは猛毒一種類、こっちは『狂闘士』と『告死天使』で混合猛毒だ。

 かつてないほどイカれた騒霊による、邪竜葬礼(ドラゴンスレイ)の宴の幕を開けよう。
  
 

 
後書き
今回は普段よりちょっと短かったので、アズの誕生秘話をちょっと語ります。

実はこの小説の冒頭にあった磔にされたアズ自身とのやりとりは、この小説の構想が練られるより1年ほど前に既に書いていました。その時点で既に死望忌願の原型も頭の中で出来ていたのですが、問題は「このキャラをどんな舞台で動かす誰にするか」という点。それを頭の中で解消できないまま試行錯誤を繰り返し、そして諦めて文章だけ記録して放置し………そして割と最近になってダンまち世界と照らし合わせてアズと言う存在が浮かび上がってきたのです。

次回、出番のなかった『死望忌願』が吠えます。 
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