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俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか

作者:海戦型
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外伝 あいつはそういう奴だから

 
前書き
書いたはいいものの短くて出すタイミングがなかった短編を発表。今回のオーネストはそこそこクソ野郎になったんじゃないかと思います。 

 
 
「………春姫(はるひめ)
「………嫌だ」
「行きましょうよいい加減に。そろそろ半年ですよ?」
「………行きたくない」
「貴方にとっては恩人でしょう?それに私にとっても大恩ある冒険者ですよ?どうしてそこまで拒むのです?」
「い、嫌なものは嫌だ……それに、今日屋敷に奴がいるとは限らないじゃないか!そんなのはアズにでも代わりに伝えてもらえばいい!!」

 この二人――『タケミカヅチ・ファミリア』の一員であるヤマト・命とサンジョウノ・春姫は何度目になるか分からないやり取りを繰り返していた。周囲も「またか」と苦笑している。狐人(ルナール)である春姫は不機嫌そうにブンブン尻尾を振り回して命を翻弄し、命は命でその尻尾を擽って反撃している。
 傍からみていると二人ともいい年して非常に子供っぽいが、それだけ仲がいいとも言える。


 この二人、元々は幼馴染だった。
 ところが幼少期、春姫が親から「極めて不自然な勘当」を受けて故郷を追われ、以来彼女は行方知れずになっていた。二人が再開したのはそれから数年後――春姫から命へと会いに来たときだった。

 何でも、春姫は紆余曲折あって『イシュタル・ファミリア』というファミリアに売り飛ばされたのだという。
 『イシュタル・ファミリア』といえば歓楽街に居を構え、戦闘娼婦(バーベラ)と呼ばれるアマゾネス集団を抱え込む規模の大きいファミリア。その活動は冒険+遊郭としての仕事で成り立っている。命は自分の幼馴染がそのような世界に入って男に穢されたのではないかと嫌な想像をしたが、奇跡的にも彼女の貞操は無事だった。
 彼女は、非常に困った様子だった。周囲は「イシュタル・ファミリアから逃げ出して来たのではないか」などと様々な邪推をしたが、彼女の口から飛び出したのは衝撃的な一言だった。

「突然身請けされ、そのまま放置されたから行き場所がないのだ……」
「ファッ!?」

 身請けとは、簡単に言えば娼婦を買って仕事から解き放つことだ。身請けされた娼婦は二度と古巣に戻る必要はなく、娼婦という仕事から完全に解き放たれる。娼婦としての将来するであろう稼ぎや、場合によっては負債の分を含めて金を払う事になる為、大抵の場合はかなりの高額になる。
 つまり、身請けとは買う側にとってかなりの金と決断を迫られる。ちょっと気に入ったから身請け、などというのは余程の大金持ちでない限り不可能。よほど強い懸想(おもい)がないと実行できない方法だ。
 それを行った相手が、あろうことか大枚をはたいて手に入れたであろう女を放置。しかも彼女の態度から察するに、彼女の心を揺るがすための駆け引きなどではなく本気の放置らしい。なんというか、あり得ないとしか言えなかった。
 それでも命は再会を喜び、そんな命に春姫の頬もほころんだ。
 かくして彼女は主神の好意と命の要望でタケミカヅチ・ファミリアに入団することになる。

 そして数日後、命は春姫の口から、彼女を身請けした人物の正体を知ることとなった。

「………はぁぁぁぁぁぁッ!?『狂闘士』に嫌がらせで身請けされたぁッ!?」
「今になって思えば嫌がらせとしか思えないんだアレはっ!!」

 なんでもイシュタルは大分前からオーネストと交友があるらしく、ごくたまに歓楽街に訪れていたらしい。7年前にイシュタル・ファミリアの元団長と「何か」があり、それ以来現役を退いた元団長の様子を時折聞きに来るという話だった。
 元団長は、とても優しい人らしい。何でも失明していて目が見えないらしいが、失明の原因にオーネストと関係があるかどうかについては誰もが口を閉ざしている。それが一種の答えと言えるだろう。

 そんな折、偶然にも春姫はオーネストと出会った。出会ったその時は相手が特別な存在とは思わなかったし、この頃の春姫はすっかり外に出る事を諦めかけていた。だから、本当に漠然と「この人が助けだしてくれればいいのにな」とありもしない幻想を胸の片隅に抱きながらも、何も言わなかった。

 すると、まだ何も話さないうちにオーネストが口を開いた。

『………お前、気に入らないな』
『……は?』
『閉塞した状況に不満を持っている癖に、自分で現状を打破しようという気概が欠片も感じられない。祈りをささげて奇跡が起きるのを待つ祈祷師と同じだ。ああなればいいのに……こうなればいいのに……そんな実現可能性の限りなく低い妄想を抱きつつも、その妄想を実現させる為の方法は考えない。できっこないと言い訳している。………そうか』

 勝手に得心したオーネストは部屋から出て行った。
 そして、イシュタルが入ってきた。

『オーネストが貴方を身請けしたわ。出てっていいわよ』
『え?』
『あ、ちなみにオーネストはもう帰ったから。貴方、自分の身は自分で何とかしなさい。オーネストは貴方の面倒見ないってー』
『え?………え!?』

 もっとロマンチックに、勇者のような人が助けてくれることを、心のどこかで願っていたのだ。
 それを見透かされ、オーネストは春姫が一番すっきりしないであろう助け方をした。
 要するに、完全にオーネストの嫌がらせである。

「だから素直に感謝したくないと?」
「………うん」
「た、確かにオーネスト殿も性悪だとは思うが、恩人は恩人でしょう?」
「………うん」
「お礼、言いに行きましょうよ」
「………あいつは絶対に顔を見るなり『助けた覚えがないからどうでもいい。邪魔だから帰れ』って言うに決まってる!あんな性悪な男に助けられたくなかったぁ~~~ッ!!」

 あと何年かオーネストに見つからずに過ごしていたら望む結果は得られたかもしれないのに、あんなのに見つかったのが運の尽き。ものの見事に乙女の夢を叩き潰されて結果だけを渡された形になった春姫だった。



「ちなみに何でそんなことしたんだ、オーネスト?」
「元々嫌いなタイプだったんだがな。ああいうのは夢ばかり見て現実を見ていないから、それを思い知らせてやろうと思って金を放り込んだ。ドラマチックの欠片もない展開に置いてけぼりにされる姿が容易に想像できて、実に清々しい気分だったな」
「といいつつ、内心ではメリージアとの余りの違いに内心イラついてたんじゃないのか?あの二人、立場は似てるのにまるで正反対な態度だからな」
「オーネスト様、アタシみてぇなクソ生意気な半人前メイドの為にそんなに怒って……感激です!!」
「……………もォ面倒だからそれでいい」



 = =



 人には、その器に見合った格というものが存在する。
 その格が強さに直結するのならば――オッタルの器はとてつもなく大きいのだろう。
 そのような話にオッタルは興味が無かった。自分の存在を認め、絶対の忠誠を誓ったフレイヤの存在さえあればオッタルはそれで良かった。彼女が望んだ全ての期待に応え続け、全ての困難を打ち払った。気が付けばオラリオで最強と謳われる『猛者(おうじゃ)』となったが、それをオッタルは誇らしいとは思わなかった。ただ、フレイヤの最強の剣としての自分を改めて自覚した――その程度の感慨だった。

 あるとき、フレイヤの「いつもの気まぐれ」に付き合った日。
 オッタルはありふれた、自分より弱い存在と出会った。
 その存在は矮小な一個人で、体格も実力も到底自分に勝るものではない。出で立ちは薄汚く、眼光だけが不気味なまでの気迫を湛える、オーネストと呼ばれる少年。――よくいる、力任せで吠えるしか能のない中級冒険者だった。
 別にだからどうとも思わない。あの若者はフレイヤにその魂を気に入られ、これからファミリアの一員となる。何度も見た光景だ。実力はいい。相応しい覚悟さえ生まれれば、実力など後からついてくる。彼女に欲しいと思ったものを諦めるという発想はない。当然として、オッタルは少年もそうなると思っていた。

 案の定というか、フレイヤの放つ妖艶なる神気に中てられ反抗的だった少年の動きが鈍っていく。威勢だけは良かった眼も段々と力を失う。この段階で完全に魅入られるような存在はいくらでもいる。むしろこの段階で完全なフレイヤの奴隷と化していないというそれだけで、フレイヤ・ファミリアに席を置く資格があるというものだ。

「私の元に来なさい、オーネスト。――貴方が母親を忘れられるくらいに、夢中にさせてあげる」

 これで決まった、と、オッタルは感慨もなく思った。


「――俺に、触るなッ!!」


 少年の眼から、全ての迷いと戸惑いが消えた。
 直後、フレイヤがあらん限りの力を込めた掌底で吹き飛ばされた。

「阿婆擦れが……くそ神がッ!!俺を、俺の意志を支配しようとしたなッ!!俺を支配する奴は誰であっても許さない。俺の一生(いのち)を支配する奴は賢者であろうが聖人であろうが王であろうが、たとえ神であろうが――絶対に殺すッ!!」

 余りにも純粋で、狂気を帯びるほどに強大で、微塵の揺らぎも許さなぬほどに堅牢な意志。

 誰の元に下ることをも許さぬ、孤高の覇気。

「俺を支配する権利を握るのは、俺だけだッ!!誰にも邪魔させない……この世界の誰にも、俺が俺であることだけは誰にもッ!!」

 そこから先のことは、よく覚えていない。
 ただ、吹き飛んだフレイヤを傷付けぬよう抱きすくめて仲間(ファミリア)に預け、許されざる罪を犯した小僧を蹂躙したのは覚えている。途中、「殺してはだめ」というフレイヤの命令だけは聞き逃さなかった。

 頭に血が上っていたのだろう、と後から思った。
 そして、目の前の少年が放つ底なしの殺意がそうさせたのだろう、とも。
 薙ぎ倒しても薙ぎ倒しても立ち上がる不屈の少年に、オッタルはただただ「むきになって」戦い続けた。振るった剣の圧で周囲を噴き飛ばし、建物を崩壊させ、大地を蹴り割って圧倒した。少年は肉が抉れ、折れた骨が肺に突き刺さり、夥しい血液をぶちまけて尚、微塵も臆することなくオッタルに真正面から殺意をぶつけてきた。

 そして――それは、自分でも隙だと認識できないほどの刹那。

 オッタルの振るった剣に『認識できない何か』をして攻撃を凌いだオーネストの右腕が、オッタルの視界の上を通り抜けた。


 ――ブチチッ、と、神経と血管、皮膚組織が抉るように引き千切られる音がした。


 視界に入る鮮血。人生で一度も経験したことがない、頭から噴出する自分の流血。
 痛みは感じた。人生でほぼ経験したことがない痛みだった。だが、オッタルはその痛みをどうでもいいものと思った。今、目の前にいる一人の戦士が口にする言葉を聞き逃してはならないと思った。

 死んでいないのが不思議に思えるほどの出血と生々しい傷跡。あらぬ方向に折れ曲がった左足と骨が剥き出しになった左腕。そんな傷など何事もなかったようにどこまでも冷めた言葉で、オーネストは手に持ったものを地面に投げ捨てた。


「どうした、猪……耳が千切れているようだが?」

「――――…………」


 フレイヤに向けられたものと打って変わって、それに何の感慨も抱いていないかのような声だった。目的地へ向かう途中に、通りすがりと肩がぶつかったから会釈した。たった今起きた現象をその程度の出来事だと認識しているかのような声だった。

「お前は…………そうか、猛者(おれ)など最初から眼中になかったのだな」

 あの殺意は全て、この現状を作ったフレイヤに向けたもの。
 オッタル相手に一歩も引かなかったのは、邪魔なものをどけるため。
 オラリオ最強の男は、あれだけ暴れたにも関わらず『相手にされていなかった』。

 余りにも稚拙な事実を、オーネストは鼻で哂った。

「てめぇみたいな人形野郎に……誰が、興味を示す……かよ――」

 直後、オーネストは力尽きた。地面にぶつかった体から鮮血が飛沫となって飛び散る。周囲で様子を見ていた群衆から数名が迷いなく飛び出し、ある者は武器を手にオッタル達を警戒し、ある者は必死でオーネストにポーションなどの応急措置を施し、またある者はオーネストを治療する場所を探すために人払いを始めていた。
 誰もが既にフレイヤなど眼中になく、すべての思考がオーネストを第一に変更されていた。『猛者』が目の前にいるという絶望的な事実を突きつけられた数名の冒険者は、死んでも通さない覚悟を決めた瞳をしていた。

 フレイヤは、「帰りましょう。貴方の手当てもしないとね」と、どこか嬉しそうに告げた。
 オッタルは傷を塞ぎもせず、ただ捨てられた自分の耳を拾い上げて、じっと見つめた。

「どう、オッタル?耳を引き千切られた感想は?」
「……『頭を冷やせ』と……この耳は、頭に登った血を吐き出して冷静になれという意味っだったのだろうかと、考えていました」
「さぁ、どうかしら。耳は種族の象徴でもあるわ。普通なら猪人に対する痛烈な侮辱とも取れる。それに、ただ子供っぽく眼中にない筈の相手をどかせないことに腹を立てて八つ当たりをしたのかもしれない。あるいは最強に手をかける名誉?あるいは『聞く耳』を持たない貴方へのあてつけ?あるいは………あるいは………可能性はいくつもある。全てだったのかもしれないし、そうでもなかったのかもしれない。意味は一つとは限らないわ」

 だくだくと血がとめどなく流れるオッタルの頭を気にも留めず、女神は謳う。

「あの子の行動の意味は誰にも分からない。分からなくてもいい。何故なら、行動を起こした自分さえその意味を分かっていれば他人に理解されずともいいと思っているから。それがあの子の美点であり、欠点でもある。だからこそ、彼はいいのよ」

 自分の価値は自分が決める。
 自分のやることは自分で決める。
 傲慢なまでの自己決定権。

 それは、自らが世界で唯一の存在であることの証明であり、反逆の遠吠え。

「あの子が手に入るか入らないか、私にも予測は付かなかった。おかげで引き際を誤ってお腹に痣が出来ちゃった♪」

 美しい絵画にへばりついた染みのような青痣を、フレイヤは愛おしそうに撫でる。

「そう、これなのよ………『オーネストはそうでなくっちゃ面白くない』。手に入ったら面白くない。手に入ったらそれはオーネストではない。だからこそ……その二律背反が、堪らない」

 フレイヤは、手に入れることを望み、手に入らないことも望んだ。結果として、フレイヤは望んだ結果を得られた。ならばあの戦いに意味はあったのだろうか、とオッタルは思った。フレイヤは彼が死なない事をどこか確信しているようだが、オッタルの経験則ではオーネストは5割以上の確率であのまま死ぬだろう。

 そこまで考えて、オッタルは首を横に振った。

(いや………フレイヤ様のような確信が得られなかったのは、俺が奴を知らなかったからか。思えば俺の行動は、半ばあいつに支配されていたようなものだ。この耳も奴の望むことをやられた結果。これは――恥ずべき戦いだったな)

 オーネストは、フレイヤに絶対の忠誠を誓うはずのオッタルの心を動かした。オッタルは、あの瞬間にフレイヤの事を考えているようで考えていなかったのかもしれない。心のどこかで、自分が揺らぐことなど無いという驕りを抱いていたのだろう。

「ところでオッタル――もしあの一撃で私が死んだとしたら、貴方はオーネストを殺したかしら?」

 オッタルは一瞬、「貴方がそれを望むのならば」と言いかけて、やめた。
 あの時のオッタルなら、きっとこうなっていた筈だ。

「殺した後になって『しまった、フレイヤ様の御許に行くために殺されるべきだったか?』と呟くのではないでしょうか」
「ぷっ………あはははははははははは!!ちょっとオッタル、それって最高に面白いジョークよ!貴方ってばオーネストに毒されたんじゃない!?あは、あはははははははははははははは………!!」

 オーネストはオッタルのことを「人形野郎」と呼んだ。
 フレイヤには当然忠誠を誓っているが、あの男の言ったままのくそまじめな男でいるのも癪だ。
 その感情を「毒されている」と呼ぶのなら、俺はそれを認めよう。





 = スペースが余ったからネタやるよ! =


 もしもベルくんがオーネストパッチをインストールしたら。


「ブモォォォォォォォッ!?」

 アイズは、その光景に目が釘付けになった。
 幽鬼の如く、ゆらりと前へ進む白き獣を。

 兎――否、あれは白狼だ。
 爛々と輝く紅い瞳は獲物を逃すまいとギラつき、返り血を浴びた白髪がその狂暴性を示している。
 齢15にも満たぬであろう少年の声は、ぞっとするほどに冷たい。

「逃げるな、迷宮の家畜。貴様には逃げ場も帰る場所もない。あるのは目的――命を奪うという目的だけだろう」

 第5階層には存在する筈もない凶悪なモンスター、ミノタウロスが仰向けにひれ伏す。
 その喉は抉られ、眼球にはナイフが深々と突き刺さり、魔石のある胸の真下を抉るように剣が突き刺さる。既にミノタウロスは口から血泡を吹きながら這って逃げようとしていた。立ち上がるための足の一本は、既に斬り飛ばされて失われている。

 本来なら魔石の再生力によって復活する筈の欠損ダメージ修復は遅遅として進まない。それが胸に深く突き刺された剣が魔石を傷付けた結果だとは気付いていない。そして、仮にそれに気付いて引き抜けたところで――白狼はそれを許しはしない。
 弱弱しい悲鳴を上げてその場から離れようとするミノタウロスの上に、小柄な少年の影が落ちた。

「生まれ出でたその時から、貴様は逃げることを許されん。泣こうが喚こうが、誰に助けを求めようが――手遅れなんだよ」

 少年の小さな掌がゆっくりと翳され、それは欠けた何かを求めるようにゆっくりと、ミノタウロスの口へぴったり当てられた。

「――ファイアボルト」

 瞬間、ミノタウロスの口から体内へ雷のような速度で灼熱が注ぎ込まれ、爆ぜた。

「ヴガアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?ヴヴアッ、ガ、ゲアアアアアアアアアッ!?」

 身体の内から荼毘に付される地獄のような責め苦。眼球の奥から血液が沸騰し、空気を取り込むための肺細胞が塞がれ、胃袋の胃液が蒸発し、生きながらにして生体機関がぐずぐずに焼け爛れていく。
 いっそ早く、死を迎えたい。そんな願いを叶えるように、白髪の少年は畳み掛ける。

「――ファイアボルト」
「ヴァアアアアアアアアアアアアアッ!!!アアエ、アアアア――」
「――ファイアボルト」
「アアア――ア――――、――――」

 眼球、鼻、傷、腹に突き刺さった剣の根元から赤黒い煙と飛沫が噴出し、ミノタウロスは動かなくなった。

「ファイア………なんだ、もうくたばったか」

 少年はそれを最後に、ミノタウロスウへの興味を失ったようにミノタウロスの腹に突き刺さった剣を引き抜いた。炭化した腹からボロリと魔石が零れ落ちたのを無視し、目の前で唖然とするアイズを無視し、その少年――ベル・クラネルは何事もなかったのように歩みを進めた。


「………ベル君っ!今日の儲けは!?」
「ない」
「なっ…………ま、また魔石を持って帰らずに敵だけ殺して来たのかい!?」
「金に興味はない。それに、うちは商業ファミリアに転換しただろう」
「そ、そりゃそうだけど……今のウチの経営は結構赤字ギリギリなんだよ!?」
「知るか。大体、派手に動きすぎると魔石の大きさからレベルを3つサバ読んでいることがバレるだろう。隠せと言い出したのはそちらで、俺はそれに応じた。今更文句を言うな」
「うううう……ウチの子はどうしてこんなに悪い子になっちゃったんだ!」
「生まれつきだ。気にするな」

 性悪説を地で行く健康優良不良少年は、今日もダンジョンで火だるまを量産する。


 ベル・クラネル……二つ名なし、あだ名は【白狼(シラヌイ)】。オラリオに来て半年でレベル4に昇格するも、ギルドには盛大にサバを読んでレベル1のフリをする。現在は商業ファミリアの皮を被ってミアハ・ファミリアと共にアイテムを薄利多売中。なお、アイテムの原料はダンジョン内部で調達している模様。支給品の武器を使ってるのはレベルバレ対策。ドロップだけ持ち帰って魔石を放っておくのは収入からレベルを割り出されないための対策である。
  
 

 
後書き
黒竜編終わったら地上組メインで話を進めたいなーと思ってます。主にガウル・リリマリ辺り。 
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