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IS―インフィニット・ストラトス 最強に魅せられた少女

作者:伊10
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第3話 私、オルコットさんと踊ります。

全身を光が包む。感覚が拡張されていき、脳に流れ込む情報量が格段に増える。光が収まった時、私の体は黒と銀で彩られた装甲に包まれていた。他の機体より被甲面積が広く、また厚いため、全体として重厚な印象を受ける。

「……これが、私のIS、玉鋼よ。」

「おお、なんかすげー強そうだな。」

「織斑、とっとと作業に入れ。……神宮寺、勝算は有るのか?」

「勿論です。ティアーズ型に関しても一通り頭に入れましたし、勝ち筋も見えてます。」

「そうか、なら……『あまりデータだけを信じるな』。」

「?………はい。」

織斑先生のよく分からない忠告に頷き、カタパルトと接続する。

『前方にIS確認。識別中―――該当、機体名《ブルーティアーズ》。特殊装備有り。……』

相手の情報が次々羅列されるのを見ながら、ピットから飛び出した。オルコットさんは地表で待っていたらしく、こちらも正対するように降下する。

「逃げずに来た様ですわね?謝る準備は出来まして?」

「そっちこそ逃げなくて良かったの?今ならまだ間に合うわよ?」

会場は大盛り上がりだが此処だけは絶対零度だ。ハイパーセンサーがカウントを始める。3……2……1……

開始のブザーと同時に武器を呼び出す。44口径57mm狙撃砲《弓張月(ゆみはりづき)》。対するオルコットさんは《スターライトmk―Ⅲ》。

展開、照準、発砲。一連の動作が互いに寸分の狂いもなく同時に行われた。唸りを上げて飛翔するAPDISと、青い尾を引くレーザーとが、アリーナの中央ですれ違い、それぞれの目標に向けて突撃する。

刹那、鏡写しの様に同時に回避、速射性に勝る《スターライトmk―Ⅲ》が、連続して閃光を放つ。右に左にジグザグ飛行で回避し、こちらもトリガーを引く。

この《弓張月》は、打撃力こそ高いが連射は効かない。今回の様な見え見えの射撃では、余程の事がなければ当たらない。

「まぁ最も、」

背面から“それ”を展開する。二つの砲身が肩の上に固定され、その砲口からは光が漏れる。そして、

「こっちが本命よ!」

淡い緑色の光芒が二条、ブルーティアーズへと突進した。直撃には至らなかったが、シールドバリアーを削ることに成功する。

荷電粒子砲《秋雨(あきさめ)》、三つの射撃モードを自在に変えられる優れものだ。拡散モードから速射モードに切り換え、追撃に移る。

「クッ………思ったよりやりますわね。ですが、これならッ!」

オルコットさんのブルーティアーズ、その背面にあった四枚のフィン状のパーツが分離、自律飛行を始める。

「……それが第三世代兵装、『ブルーティアーズ』って訳ね。」

脳波誘導式のオールレンジ兵器。BT兵器と呼ばれるそれの、試作一号機。彼女の機体名もそれに因んでいるらしい。

「さぁ踊りなさい。わたくしセシリア・オルコットと『ブルーティアーズ』の奏でる円舞曲(ワルツ)で!!」

「お生憎様!私は日本舞踊しか踊れないのよ!!」

四方八方から放たれるレーザーをスラスターを小刻みに吹かして回避していく。が、避けきれずに少なくない数が装甲を掠めていく。

「このまま削り倒して差し上げますわッ!!」

「ッ!?ならこっちも!!《水鏡(みずかがみ)》起動!斥力バリア全周囲展開!!」

周囲を水色の燐光が包む。レーザーが当たると白い光が弾け、レーザーを明後日の方向に弾き飛ばした。

「な!?」

「ハアアァァァ!!」

《弓張月》を収納し、代わりに近接刀《血染紅葉(ちぞめもみじ)》を展開する。明らかに量産品とは違う存在感を放つそれは、実際の日本刀の製法を模して作成されていた。

その刃を一気に振り抜く。激しい激突音が響き、エネルギーを大きく削り取る。

「もう一発!」

「させませんわ!」

即座に二撃目に移るが、流石と言うべきか、展開したショートブレード《インターセプター》で防がれた。そのまま鍔迫り合いに持ち込む。

「……斥力バリアがあそこまでの完成度にあるとは………四基全てのレーザーを同時に防ぐとは思いませんでした。」

「そっちこそ、見かけによらず中々近接も戦えるじゃない?正直予想以上よ。」

押し込めないと判断し、一度距離を空ける。再び10m程の距離で正対し、互いにゆっくりと旋回を続ける。先に動いたのはオルコットさんの方だ。

再びビットによる包囲射撃。ジグザグ飛行で回避しつつ、当たりそうなものを《水鏡》の斥力バリアで弾いていく。

当然、撃たれっぱなしにされている訳は無く、こちらも秋雨で応射する。青いレーザーと緑の荷電粒子ビームが交錯し、時折アリーナのバリアに直撃して弾ける。

「ッ………埒が開かないわね。」

四基のビットによる射撃は正確で、一々回避することを余儀無くされる。動かされる、というのは面白くない。

「そこですわッ!!」

「!?……クッ!」

姿勢制御の一瞬に、レーザー四発を正確に合わせて来た。その光芒は同じ一点を、ピンポイントで狙っていた。全周囲防御では防げないと判断し、バリアをその一点に集束させる。

刹那、脳内に響くアラート音。直観と理性の双方が同時に告げた。

(誘われた―――!?)

「かかりましたわね!!」

スターライトmk―Ⅲによる狙撃。斥力バリアの消えた一瞬の隙を逃さず衝いてきた。

「あぐっ!?………っぅ。」

直撃の衝撃で弾き飛ばされる。絶対防御が発動したため、大きくシールドエネルギーを奪われる。

玉鋼には本来全てのISが搭載している筈のシールドバリアーを装備していない。斥力バリアがあれば問題ないという判断だが、それはつまり「斥力バリアさえ抜ければ無防備」だということである。

体勢を立て直す前に第二射、ギリギリのところでかわす。そこに第三射。

「そう簡単に!」

右脚に斥力バリアを“纏わせる”。

「負けるかぁぁ!!」

そしてレーザーを“蹴り返す”。

反射されたレーザーは、スターライトmk―Ⅲを貫通、爆散させた。

「な!?」

「隙あり!!」

弓張月のトリガーを引く。飛翔した矢に似た弾体がシールドバリアーに直撃し、一撃でぶち抜いた。

これが弓張月の真骨頂だ。当たりさえすれば一発で本体にダメージを与えられる。足の装甲に当たったようで、絶対防御は発動していないが、充分だ。

非固定浮遊部位(アンロックユニット)のスラスター群が、一斉にチャージを始める。そして、瞬時加速(イグニッションブースト)で一気に距離を詰める。

「これで―――「甘いですわッ!」ッ!?」

突進と同時に、ブルーティアーズのスカートアーマーからミサイルが二発放たれる。間一髪で水鏡を展開したものの、少なくないエネルギーが削られる。斥力バリアはその性質上、榴弾やミサイルの様な爆発する兵器との相性が悪い。

一旦急上昇して爆炎から抜けると、その上からインターセプターを振り下ろすオルコットさんがいた。血染紅葉で迎撃、そのまま激しく斬り結ぶ。

得物の軽さを活かした連撃は中々鋭かったが、やはり畑が違うのか、徐々にこちらが押し返し始めた。オルコットさんの表情は硬く、最初の余裕は消え失せている。

「クッ………やはり近接戦闘では分が悪いですわね。」

「このまま押し切らせて貰うわよ!」

連撃を強引に打ち切って、間合いを広げる。これで血染紅葉の間合いだ。先程やったように、斥力バリアを刀身に纏わせる。

第三世代兵装である《水鏡》の斥力バリアは、搭乗者のイメージで自在に形状変更できる。それの応用で、このように武器や拳に纏わせて、攻撃力を増すことができる。

と、いつのまに戻ってきたのか、ビット四基が、オルコットさんの周囲に展開し、砲口をこちらに向けていた、即座に一斉射が来るが、斥力バリアを展開して弾く、そのままスラスターを点火して突貫する。

その時だった。オルコットさんが一見意味を為さない奇妙な行動をしたのは。左手を真っ直ぐ水平に上げ、こちらに向ける、その手先は親指と人差し指だけが開かれていて、いわゆる銃のマネになっている。そしてあたかも撃ったかの様に指先を上向ける。次の瞬間。

「ッ、ああっ!?」

レーザーが“曲がって”、背後から直撃した。シールドエネルギーが一気に削られ、100を割り込む。

「ッ!今のってまさか!!」

「ええ、BT兵器の最大稼働時に可能になる偏向射撃(フレキシブル)ですわ。」

「そんな……机上の空論だと思ってた。」

織斑先生が試合直前に言っていたのはこの事か。だが、今更気付いても遅い。今考えるべきは、どうやって勝つか、だ。

それにしても、やはりIS学園に入ったのは間違いではなかった様だ。まさか入学してたったの一週間でこんな強者と対戦出来るとは思っても見なかった。

知らず、口角が持ち上がっていた。 
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