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トスカ

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15部分:第三幕その一


第三幕その一

              第三幕  カヴァラドゥッシの別邸
 燭台で照らされた一室にカヴァラドゥッシとアンジェロッティがいる。椅子に座り話をしている。
 二人は二つの椅子にそれぞれ向かい合って座っている。カヴァラドゥッシはその中でくつろいだ様子でアンジェロッティに声をかける。
カヴァラドゥッシ「ここならもう大丈夫だよ」
アンジェロッティ「こんなところに君の家の別邸があったなんてね」
カヴァラドゥッシ「意外だろ。ここは秘密の場所だからね」
アンジェロッティ「秘密の!?」
カヴァラドゥッシ「そうさ。君の家も僕の家もローマじゃ古い家だね」
アンジェロッティ「うん」
カヴァラドゥッシ「ならわかるだろう?ローマは色々あった」
アンジェロッティ「ボルジア家もいれば戦場にもなったね。メディチ家が来たこともある」
カヴァラドゥッシ「その彼等から逃れる為のものだったんだ。僕の御先祖様が残してくれた尊い遺産の一つなんだ」
アンジェロッティ「知っているのは君だけかい?」
カヴァラドゥッシ「知っているのは僕とこの家の二人の従僕と兄さん、あとはフローリアだけさ。他には誰も知らない秘密の城なんだよ」
アンジェロッティ「だから途中から馬車を降りてあえて遠回りしてここまで来たんだね」
カヴァラドゥッシ「そう、用心してね」
アンジェロッティ「成程。けれどスカルピアも目聡くて執念深い」
 ここで剣呑な目をしてきた。
アンジェロッティ「ひょっとすると。危ないかも」
カヴァラドゥッシ「大丈夫だよ、もう一つ逃げ道があるから」
アンジェロッティ「もう一つ?」
カヴァラドゥッシ「そう、庭にね」
アンジェロッティ「庭に何かあるのか」
カヴァラドゥッシ「この家の庭に糸杉に囲まれた古い井戸がある」
アンジェロッティ「井戸が」
カヴァラドゥッシ「そこに横穴があってね。入り口はやっと這って人が入られる位の広さだけれど先に行く程広くなっているんだよ」
アンジェロッティ「そこに隠れると?」
カヴァラドゥッシ「いや」
 それは否定する。
カヴァラドゥッシ「そこから逃げるんだよ、外に続いているから」
アンジェロッティ「またそれは用意がいいね」
カヴァラドゥッシ「ああ。おそらくかってこの家が建てられるより前に帝政時代の貴族の家があったんだろうね。その貴族が非常時の為に密かに造っておいたのだと思う」
アンジェロッティ「成程」
カヴァラドゥッシ「この家の従僕の一人から聞いた事なんだけれど御先祖様も彼を侮辱したメディチ家の一人を決闘で殺してしまった時にこの家に逃げ込んで井戸から外へ脱出して難を逃れたらしい。君もいざという時はこの井戸があるから安心してくれ」
アンジェロッティ「重ね重ね済まない。しかし」
カヴァラドゥッシ「しかし。何だい?」
アンジェロッティ「いや、脱獄した僕には多額の賞金がかけられていると思う」
カヴァラドゥッシ「銅貨千枚だ。見事なものだね」
アンジェロッティ「そんなにか。それじゃあ匿ったら」
カヴァラドゥッシ「それも聞いているよ。縛り首だ」
アンジェロッティ「おいおい、余計にまずいじゃないか。それに君はただでさえスカルピアに睨まれているし下手をすれば本当に」
カヴァラドゥッシ「(アンジェロッティのその言葉に笑って)それはお互い言いっこなしにしよう」
アンジェロッティ「いいのかい?本当に」
カヴァラドゥッシ「長い付き合いじゃないか。それを忘れることはないよ。それにカヴァラドゥッシ家の家訓にもね、ちゃんとあるんだよ」
アンジェロッティ「家訓にもかい」
カヴァラドゥッシ「水に溺れている者を見たならば命を賭して助けよってね。だからだよ」
アンジェロッティ「マリオ・・・・・・」
カヴァラドゥッシ「だからさ。君しなくていいよ」
アンジェロッティ「(感銘を込めた言葉で)僕はいい友人を持った」
カヴァラドゥッシ「それは僕もだよ。じゃあ」
 ここで正面の扉が開く音がする。二人はその音を聞いて血相を変えて立ち上がる。
アンジェロッティ「追手か!?」
カヴァラドゥッシ「いや、待ってくれ」
 窓から庭へ逃げようとするアンジェロッティを呼び止める。
カヴァラドゥッシ「違う。これは」
アンジェロッティ「じゃあ一体何者なんだ、来たのは」
カヴァラドゥッシ「少なくともスカルピアの手の者じゃない」
 用心不覚部屋の扉の入り口まで来て耳をそばだてる。アンジェロッティはその間に部屋の真ん中にまで戻って彼の話を聞きはじめていた。
カヴァラドゥッシ「これは・・・・・・彼女だ」
アンジェロッティ「彼女というとトスカかい」
カヴァラドゥッシ「ほら、聞こえるだろう?」
トスカ      「(姿は見えず声だけ近付いてくる感じ)マリオ、マリオ」
カヴァラドゥッシ「フローリアだ。今夜この別邸に来るって言っていたんだ」
アンジェロッティ「何だ、よかった」
 そうアンジェロッティに告げる。彼はそれを聞いてほっとアンドの息を漏らす。そこへトスカが部屋の扉を開け飛ばしてやって来る。恐ろしい剣幕である。しかしカヴァラドゥッシはそんな彼女を見てもにこやかな笑みを保ったままであった。
カヴァラドゥッシ「(トスカに顔を向けて)やあ、早かったね」
トスカ      「(キッとカヴァラドゥッシを見て)そうよ。わざわざ飛んで来たの。浮気者を捕まえにね」
カヴァラドゥッシ「浮気者って!?」
トスカ      「何で白々しい。私の目を盗んであの女と会っていたくせに」
カヴァラドゥッシ「あの女!?それは誰だい!?」
トスカ      「まだシラを切るつもりなのね。何で恥知らずな」
カヴァラドゥッシ「恥知らずも何も僕は」
トスカ      「これを見てもまだ言えるかしら」
 ここであの扇を出してカヴァラドゥッシに見せる。
 
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