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ソードアート・オンライン~隻腕の大剣使い~

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第50話妖精女王行動開始


ライリュウside

オレとキリトはなんとかサラマンダーの将軍、ユージーンと村雨に勝利し、シルフの領主サクヤさんと、ケットシーの領主アリシャ・ルーさんを守る事が出来た。
ユージーンは先ほど、サクヤさんが発動した蘇生魔法で復活し、戦いには満足してくれた。それも、自分が戦った中で最強だというお墨付きだ。スプリガン・ウンディーネ同盟の事はサラマンダーのランス隊のーーーカゲムネだっけ?あのちょっと馬面のおっさんがキリトと一緒にウンディーネって嘘で丸め込んでくれたからなんとかなった。ユージーンは嘘だって見抜いてそうだったけどな。
村雨は蘇生しなかったみたいだな。それはそれで助かるかな。さっきヤバイ事言っちまったからなーーー

『邪道で結構だ。オレはその邪道で二年間生き延びて来たんだからな・・・!!』

流石に今オレの素性が公になるのはまずい。未来やアスナさんを救い出す前にオレのアカウントがBOMされちまうからな。
最終的にサラマンダー軍ーーーオレがしたっぱ全員蹴散らしたからユージーンとカゲムネだけだったな。とにかく二人はこの場を諦めて、サラマンダー領に買えってくれた。

「サラマンダーにも話の分かる奴がいるじゃないか」

「そうだな。オレもあの将軍さんは嫌いじゃないな・・・機会があったら一対一(サシ)で戦いたい」

「あんた達ってホント無茶苦茶だわ・・・」

キリトとオレの後ろでリーファがそんな事を言っていた。無茶苦茶とはひでぇ言いぐさだなーーーむしろ今更なんだけどな。
よく言われるとリーファに返した途端、サクヤさんが咳払いをしてオレ達の会話を中断させた。

「すまんが、状況を説明してもらえると助かる」

ーーーそうだな。いきなりあんな訳が分からない状況になったんだ。ちゃんと話さないといけないなーーー




******




オレ達がここまで来た経緯を説明している内に、アルヴヘイムはすっかり夕方になっていた。そういえば今は現実(リアル)だと結構夜遅い時間なのに、ALOだと夕方って事はーーー現実(リアル)とは時間が逆転してるのか。
とにかく話を戻してーーー

「なるほどな。シグルドの態度に苛立ちめいた物が潜んでいるのは私も感じていた」

「苛立ち?何に対して?」

サクヤさん曰く、シグルドは勢力的にサラマンダーに後塵を廃しているこの状況が許せなかったのかもしれないらしい。シグルドはパワー思考の男で、キャラクターの数値・能力だけでなく、プレイヤーとしての権力を深く求めていたそうだ。サラマンダーのスパイになった理由は、もうすぐALOに導入されるシステムを使用するためだった。
その名も《転生システム》。ALOのアップデート5.0で使用可能になるシステムだ。転生ーーーつまり自分が選んだ種族から別の種族のアバターに変更出来るというシステム。例えばオレの場合だったら、スプリガンからシルフやウンディーネなどに種族が変わるような物だ。
シグルドはサラマンダーの領主、ユージーンの現実の兄のモーティマーに『領主の首を差し出せば、サラマンダーに転生させてやる』、っていう感じに。させてやるってーーー転生システムが実装されたら、ALOプレイヤーみんなが別種族になれるんだから勝手に転生させてやればいいじゃねぇか。シグルドもモーティマーもどっちもどっちだなーーー

「それで、どうするの?サクヤ」

「サクヤさん・・・」

リーファとライトがサクヤさんに問い、サクヤさんは目を閉じてーーー見開いた時には、覚悟を決めたような顔をしていた。

「ルー。確か闇魔法のスキル上げてたな?」

「うん」

「シグルドに《月光鏡》を頼む」

サクヤさんはアリシャさんに《月光鏡》なる物を頼んだ。《月光鏡》ーーーって、一体なんなんだ?




******




「これが《月光鏡》・・・」

「あぁ。闇魔法の上級スキルらしい」

今オレ達の前に薄暗い円上のドームが張られている。これが闇魔法の上級スキル、《月光鏡》。このドームの中の真ん中に位置する造られた鏡を使って遠くにいる相手と会話をする事が出来るという魔法だ。と言っても何処の誰でも会話が出来る訳ではなく、同じような鏡がある場所にいる相手としか会話が出来ない。言ってしまえばテレビ電話のような物だ。でもなんだか面白そうだな。オレも闇魔法のスキル上げてみようかな。
このドームの中でサクヤさんはシグルドと会話をしている。どうやらシグルドをレネゲイドとして追放する事を決めたようだ。それに今このドームが消えた所を見ると、もう話は済んだみたいだな。

「サクヤ・・・」

『サクヤさん(はん)・・・』

「ありがとう、みんな。君達が救援に来てくれたのはとても嬉しい」

「オレ達は大した事してないすっよ。お礼ならキリトとライリュウに言ってやってくれよ」

「そうだ、そういえば君達は一体・・・」

サクヤさんの注目がオレとキリトに向いた。オレ達は今日初めて会ったからなーーー

「ねぇ君達。スプリガンとウンディーネの大使とその護衛って・・・ホントなの?」

ここで、アリシャさんがあの同盟の話題を出してきた。それにより、リーファや《リトルギガント》達以外のメンバーから疑いの目を向けられる。オレはキリトと目を合わせ、胸を張ってこう大声で言うーーー

「大使に護衛?そんなの大嘘に決まってんだろ!」

「あぁ!ブラフ、ハッタリ、ネゴシエーション!」

この言葉を機に疑いの目は消えたが、代わりに呆れ声がみんなの口から出てきた。オレ達は手札がショボい時には、とりあえず賭け金をレイズする主義だからな。無茶なんて今更だぜ。

「大嘘吐きクンにしては君達、随分強いね~。スプリガンの秘密兵器・・・だったりするのかな?」

「まさか、しがない流しの用心棒だよ」

「・・・ニャハハハハハ!」

アリシャさんがキリトに顔を近付かせ、スプリガンの秘密兵器か何かだと問うが生憎そういう訳じゃない。キリトがそう言うとアリシャさんは猫のような笑い声をあげた。そういやアルゴもあんな笑い声だったな、アイツ元気にしてるかな?そんな事を考えていたらーーーキリトアリシャさんにハニートラップかまされてケットシー領の傭兵にスカウトされていた。三食おやつに昼寝付き、という利益を提示して。キリトの奴、浮気か?アスナさんに知られたら串刺しにされるぞーーーって、なんかオレの右腕に妙な弾力がーーー

「ライリュウ君と言ったかな?」

「うおっ!?」

サクヤさんがオレの右腕に腕を絡めていた。深い緑色の髪、白い肌、エメラルドに近い澄んだ瞳、それに色っぽい声がオレの耳にーーーって胸当たってる!!

「君の戦い、見事という言葉では例えられないほどの素晴らしい物だった。しかも隻腕であんな大剣を軽々と振り回すとは・・・まさしく《隻腕の竜神(テュールドラゴン)》だ」

「《隻腕の竜神(テュールドラゴン)》?」

「テュールというのは北欧神話の隻腕の軍神の名だ。君の戦闘は隻腕で大剣を振るう戦闘力に加え、竜を模した装備と獣のような覇気は感じたよ。それで、《隻腕の竜神(テュールドラゴン)》だ」

テュールか。オレはSAOでずっと隻腕で戦ってたからな。北欧神話をモチーフにしたALOだから、その名前が浮かんだんだろうな。《隻腕の竜神(テュールドラゴン)》ーーー悪くないな。
それよりもーーー助けてくれ《リトルギガント》。オレの理性がいつまでもつか分からない。離れたいのにオレの腕が動いてくれねぇんだよ。

「どうかな?個人的興味もあるので、礼も兼ねてこのあとスイルベーンで酒でも・・・」

そう言ってますます胸を押し付けてきた。ヤバイ、酒呑む前にかなり酔ってきたーーーあの、サクヤさん。そろそろ放してくれないと取り返しの付かない事を起こしてしまう。
もうマジで助けてくれよ《リトルギガント》。オレ達友達だろ?ーーーなんで手ぇ振ってるの?なんで送り出そうとしてるの?なんで女子そんなジト目で見てくんの?

「お言葉はありがたいんですが、すみません。俺とライリュウはリーファ達に世界樹まで連れて行ってもらう約束をしてるんです」

「そ、そうなんですよ~。ハハハハハ・・・/////」

グッジョブキリト!お前ならなんとかしてくれると思ってたぜ!おかげでサクヤさんも離れーーーあぁ、やっぱり残念だったな。至福の時がーーー

「そうか、それは残念。アルンに行くのか?リーファ、ライト君。物見遊山か?それとも・・・」

「領地を出る・・・つもりだったけどね。でも、いつになるか分からないけど、きっとスイルベーンに帰るわ」

「そうか、ほっとしたよ・・・ライト君は?」

サクヤさんはリーファとライトがレネゲイドになるのではないかと思っていたが、リーファは必ず帰るそうだ。ライトはーーー決まってるだろうな。

「オレは領地を出るよ。やっぱ大きな組織は苦手でな・・・信頼出来る友達が数人いればそれでいいんだ」

「そうか・・・君の名前は残しておくよ。気が向いたら帰ってきてくれよ?彼らと一緒にな」

「途中でウチにも寄ってね~♪大歓迎するよ♪」

ライトは組織よりオレ達を取って、レネゲイドになる事を選んだ。でもサクヤさんはライトを除名する訳ではなく、帰る場所を残してくれた。アリシャさんも道中でケットシー領に寄らせてくれるし、領主サマってのは気前が良いなーーー




******




シルフとケットシーの同盟の最終目的は世界樹の攻略。オレ達はそれに参加させてもらえる事になった。でも攻略メンバー全員の装備を整えるのに資金の問題で暫くかかるらしい。そこでキリトが資金の足しにと所持金全部差し出したのだがーーーそれが一等地にちょっとした城が建つほどの大金だったから準備も予定よりも早く済ませられるそうだ。
そしてこの会合に集まったシルフ・ケットシーの面々は攻略の準備に取りかかるために、来る日に必ず会う事を誓い、空に飛び立った。
オレ達も行こう。あの大きな樹の上にいるかもしれない、戦友達に会うためにーーー




三人称side

ここは世界樹の上に吊るされた鳥籠。だがそれはペットのインコやオウムなどの鳥を飼うサイズとは程遠い物であった。解放感と束縛感が入り交じるこの鳥籠に設置されたベッドの上に、一人の女性が横たわっていた。
腹を大きく露出させた白いドレス、半透明な白い妖精の羽、栗色の長い髪。彼女の名は妖精女王(ティターニア)ーーーの役目を押し付けられた女性、元SAOプレイヤー、《閃光》のアスナこと、結城明日奈。
その彼女はーーーベッドから起き上がり、鳥籠の扉の横に設置されたキーボードの前に立つ。

「8、11、3、2、3、2、9」

彼女は覚えていた。人知れず非道な実験を行っているこの妖精の世界の神が与える屈辱に耐えながら、この時のためにーーー反撃開始の瞬間を待ち続け、この鳥籠の外に飛び出す。

「キリトくん・・・わたし、頑張るからね」

彼女は動く。彼女は戦う。あの剣の世界で出会い、愛した男にもう一度会うためにーーー
 
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