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101番目の哿物語

作者:コバトン
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第十六話。二人の魔女

「『ノストラダムスの大予言(アンゴルモア・プロフィット)』です」

理亜のその言葉が響いた瞬間、俺は信じられない場所に立ち、信じらない奴との再会を果たしていた。
辺り一面に広がる、雪景色。灰色に濁った空。
白銀の平原に、一瞬で変わったのは、『ロアの世界』に取り込まれたという認識で理解できる。
だが……だが、なんでお前(・・)がここにいるんだよ?

「アリサさん達もいらっしゃいましたか」

「おう、今来たぜ」

「久しぶりだな、遠山」

俺の背後から響く明るい声。
振り向けばそこに佇むのは銀色の髪を伸ばす二人の少女の姿があった。
一人は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべて、銀髪をこれでもかってくらい伸ばした青い瞳の少女。
そして、もう一人は……
二本の三つ編みをつむじ辺りに上げて結った、刃のような切れ長の、サファイア色の瞳をした少女。
俺はどちらの少女も知っている(・・・・・)
二人とも、面識がある『魔女』だからだ。
青い瞳をした少女の名はアリサ。
『予兆の魔女・アリシエル』その人だ。
そして、もう一人のサファイア色の瞳をした少女も『魔女』だ。

「久しぶりだな、アリサと……ジャンヌ」

『銀氷の魔女』こと、ジャンヌ・ダルク30世。
かつてのイ・ウーの一員。
イ・ウーの中でも穏健派……研鑽派(ダイオ)の一員で、極東戦役(FEW)では俺達のチーム『バスカービル』が所属した師団(ディーン)に所属し、お互い協力関係にあった魔女。
何故かは知らんが、その魔女が俺の前に現れたのだ。

「ようこそ『101番目の百物語(ハンドレッドワン)』……いや、『(エネイブル)』。私の『魔女の工房(ウイッチアトリエ)』に」

アリサが告げたその言葉に驚く。

「これも、魔女の工房なのか……」

今朝方、氷澄や金三と戦った時にキリカが招き入れてくれた異空間『魔女の工房(ウイッチアトリエ)』。
キリカの空間は気味が悪い場所だったが、ここは『雪』しかない。
工房というより、平原といった方が正しい。そんな場所だ。
と、そんなことを考えていた俺に銀氷さんは。

「遠山はこういった魔術や魔法とかには疎いからわからないかもしれないが、いいか。
魔女の工房(ウイッチアトリエ)は必ずしも、何かを生み出す場所とは限らないのだ。
魔術を使うのに、最適な空間を構築する。そういった空間を創るのも立派な魔法だからな。
これは魔女に限った話ではないぞ? これはロアなら誰もがあてはまることで、お前にも関わることだからな。いずれ、お前も自分だけの『ロアの世界』を展開出来るようになるだろう。
だから、遠山は知っておくべきなのだ。ロアや魔術のことをもっと。
そもそも、お前はもう少し魔女()や女性についてだな……」

お説教気味に言ってきた。なので俺は役立ちそうな前半はともかく、後半は聞き流す。
ジャンヌのお説教を聞き流して、アリサと音央の会話を盗み聞きしていると。

「まさか『神隠し』を隠せるとは思わなかったぜ」

「う……」

音央は音央で、スナオちゃんに攫われ、アリサに『神隠し』みたいな目に遭わされ、かなりバツが悪そうな顔をしている。まあ、真の『神隠し』は鳴央ちゃんの方で、音央はどちらかというと単なる『妖精』っていう感じだからな。

「さて、本題に入るが……丁度、ラスボスの存在を明かしてたみたいだな?」

「はい。兄さんが殺されるであろうロアについて教えていました」

「うん、お兄ちゃんに『破滅』について、少し教えたところだよ」

理亜とかなめの言葉に頷いたアリサはそのまま、理亜の隣に立つと腕を組みながら偉そうな姿勢をしながら語り始めた。

「今聞いた通りだ、エネイブル。『ノストラダムスの大予言(アンゴルモア・プロフィット)』ってのは、こっちの世界、業界じゃあ神話や伝説より何倍もおっかない存在だったのさ。1999年には世界中にいた『ロア』が一丸となって戦った、なんてドリームバトルもあったくらいなんだぜ?」

そんなドリームバトルがあったのかよ⁉︎
元いた世界じゃ、何も起きないまま、普通に21世紀を迎えたっていうのに……。

「そして、とあるロアの中に封じることでようやくその脅威は去った。ま、その辺りはいずれ誰かから聞いておくれ。それなりに悲劇的でそれなりに格好いい話が、それなりな時間で語られるはずさ」

「もしかして……話すのが面倒なのか?」

「ああ、まあな。私が話さなくても、いずれ嫌でも聞くことになるからな、お前さんは。
一ついいことを教えてやるよ。『女難』の予兆が強く出てるぜ、お前さん?」

うわぁ、嫌だな。『魔女』であるアリサから言われると、本当に女難な出来事が起こりそうで不安しかないんだが……。『魔女』から告られるとか本物の占いっぽいな。いや、アリサ的にはこれも『予兆』なのかもしれないけどさ。というか、占いで思い出したけど。そういえば、昔、白雪がやった巫女占札で『キンちゃんはみんなの前からいなくなる』とか出たって言ってたが……アレ、当たったな。俺、死んで異世界に来ちゃったし。
あの時は笑い飛ばしたけど、『魔女(白雪)』の占いは本当に当たってるからなー。嫌だなー、こりゃあ、『女難』の予兆も当たるかもな。
というより、すでにこの状況が『女難』そのものっぽいし。
などと考えていた俺はふと思った疑問をアリサにした。

「ラスボスが『ノストラダムスの大予言(アンゴルモア・プロフィット)』なのは解った。それが封印されてることも。ということは、だ。そいつがもうすぐ復活して、俺が殺される……あの予兆はそれが原因なのか?」

「ご名答。『ノストラダムスの大予言(アンゴルモア・プロフィット)』は、そりゃ大予言ってくらいだからな。復活すらも予言されてしまっているわけよ。んで、一度目覚めてしまったらやっぱりまた世界を滅ぼそうとするわけさ。なんせロアだからな? 噂通りの行動をとる。まあ、大抵の『主人公』はまた殺されるんじゃないかな」

「え、えっと……理亜ちゃんの『千の夜話(アルフ・ライラ)』は……?」

話を聞いていた音央が縋るような表情を浮かべて、アリサに尋ねる。

「それだけでは無理だな。なんせ奴は『大予言』だからな。一度噂されただけで復活してしまう。奴の『予言』は世界規模で広まってるからな、噂が尽きることはない。つまり、奴は死なない(・・・・)のだ!」

「はい、ジャンヌさんの言う通り、私のロアの能力でも完全に消すことは出来ないかもしれません。『ノストラダムスの大予言(アンゴルモア・プロフィット)』は様々な憶測が飛び交い、人々が実に様々な姿形を描いた『人類が築いたロア』です。その対抗神話は……『その後、世界はやっぱり滅んでいなかった』というものかしかありません。そして、それであっても人々はまだ『予言』を信じて広め続けるのです。それが『ノストラダムスの大予言(アンゴルモア・プロフィット)』の能力の中で最も恐ろしいもの『 破滅の日(ドゥームデイ)』です」

対抗神話でさえ、覆す予言。
その予言を無くすには、それこそ、人類が滅びるとかしない限り、消えないのかもしれないな。

「そ、そんなのどうやって……?」

音央が声を震わせながら尋ねる。

「どうやっても無理だったから、私らは頑張って噂を広めてだな。とあるロアの中で眠りについて貰ったわけよ。だけど、まあ寝てるだけだからな? もうすぐ目覚めてしまうわけだ。それが解るのが私の能力『終末の予兆(フィン・エスカトロジック)』さ」

それが本当なら、アリサも大概だなぁ、やっぱり。
世界の終末すらも予兆できる、そんな能力をアリサは持つのかよ。

「だから、そいつをなんとか出来る可能性のある『主人公』を探していたわけよ。
そして、見つけたのがお前さん達さ。『千夜一夜(シェラザード)』と『不可能を可能にする男(エネイブル)』。対抗神話や完璧な推理を覆す。理を破壊する存在のお前さん達ならなんとか出来るかもしれない……そう思っていたんだが」

思っていた?
過去形ってことは……つまり。

「だが、さっきの戦いを見て解った。お前さんには失望したぜ、エネイブル。
悪戯妖精(グレムリン)』ごときにその様じゃあ、『第ニの可能性』はない!
『第一の可能性』……『ノストラダムスの大予言(アンゴルモア・プロフィット)』を対抗神話で弱らせてから殺す。我々にはその道しかない。
つまり、『ノストラダムスの大予言(アンゴルモア・プロフィット)』を倒すのは兄さんの方ではなく、理亜の方ってことだ」

「第ニの……可能性?」

その言葉には聞き覚えがあった。それはピラミディオン台場で警備任務に就いた時、パトラに襲われたアリアを助ける為に、動き出した俺の前に立ちはだかった、兄さんが告げた言葉。それが第ニの可能性。
『イ・ウーのリーダー、『教授(プロフェシオン)』こと、シャーロック・ホームズの暗殺』。
それを思い出す。

「なんだ? なんのことだ!」

キリカが言っていた。シャーロックは、あいつはこの世界に来てると。
もしかして……この件に、あいつが関わってるのか?

「……ああ、お前さん勘違いしてるな。この件にあの人達(・・・・)は関与してないぞ? 全くの無関係ってわけじゃないが、少なくとも敵じゃない。
私達に協力してくれる良いブレインになってるからな?」

「信用できるか! 少なくとも理亜を唆してそんな危険なロアと戦わせようとする奴の言うことなんか聞けない」

「お前さんの信用は必要としていないんだよ。少なくとも私はな。ただ、ウチのマスターは言いたいことがあるみたいだぜ?」

アリサのその言葉で、理亜の顔を見ると理亜の顔にはなんの感情も浮んでいなかった。

「はい、『ノストラダムス』との戦いに兄さんと、兄さんの物語達は必要ありません。なので、兄さん______」

そう言って、理亜はその台詞を再び口にした。

「私の物語になってください」

雪がしんしんと降り続く中。何故か、その言葉は悲しみに彩られているように聞こえた。
理亜の言葉に感情はこもってない。表情にもだ。
だが、だからこそ。
だからこそ、今の(・・)俺には解る。

「______絶対にお断りだ」

憑依してからだが、ずっと側で彼女を見てきた俺だからこそ、解る。
だから、ヒステリアモードの俺でも強い口調で理亜の言葉を否定出来た。

「兄さん?」

「絶対に嫌だね。理亜がそんなおっかないロアと戦わなきゃいけないってだけでも嫌なのに、その時、俺はのんきに過ごさなくちゃいけないなんてもっと嫌だ。理亜のお願いだから、本当は聞いてあげたいけど。それが『私の物語になって一緒に戦ってください』ならOKだけど。だが……そうじゃないのならお断りだよ!」

「そんな我儘を言わないでください。兄さんがあの戦いに参加したら、死んでしまうんです。私はアリサさんの能力によって、何十、何百ものパターンを繰り返して、兄さんが死なないようにイメージして、シュミレーションしました。でも、どうしても兄さんの死は回避出来なかったんです! 兄さんはご自身の物語と私を大事にする余り、確実に負けてしまうんですよっ!」

理亜の口調が強まる。それを聞いていた音央は痛そうに目を細めたかのような表情を浮かべる。

「嫌なんです。私、兄さんがいなくなるのは嫌なんです! 兄さんには幸せになってもらいたいんです! 例え、ここにいるのが別の人格が乗り移った兄さんでも、それでも……いいからっ、だから、私の前からいなくならないでください。兄さん……!」

それは、必死な理亜の心からの叫びだった。

「……理亜は確かに、自分からその物語の『主人公』になったみたいだね。自分から、その苦しい道を許諾したんだと思う」

「……はい……」

「だけど、だからといって、ずっと苦しみ続けないといけないなんてことはないんだ! 『主人公』をやってるからって、ずーっと悩み続けないといけないなんてことはないはずだ!
『普通の幸せ』を掴み取る為に、嫌なら戦わなくてもいいはずだ!」

「勝手なこと言わないでよね! アンタにマスターの気持ちなんて解らないわよ!」

「ああ、全く解らないさ! 人の気持ちなんて、特に女性の本心なんて解っていいもんじゃないんだ! 解らないからこそ、考えて、想像して、気を使って、優しくして、時に叱りあったり、銃口を向けあったり、刃物をぶつけあったりしながら。お互いの気持ちを近付けていくのが人間だからな!
っていうか、女性の気持ちが全て解ったら、俺はこんな苦労してないつーの⁉︎」

ヒステリアモードが切れかかってきた俺は、ついついスナオちゃんの売り言葉に、買い言葉ってしまった。いかん、自制しなくては。
だが、今の言葉に対しては俺は謝る気はない。もう、謝らない覚悟も出来ている。

「俺が逆の立場だったら、確かに理亜やかなめのように戦わせないっていう手段をとっていたと思う。戦いを止めさせる為に、自分の物語にして。危ないことはさせないようにしたはずだ。おっかない、ラスボスに挑む前に、格好つけて、『絡指(ラクシ)』なんかして、『行ってきます』『行ってらっしゃい』なんかしてたと思う。だけどな!」

俺は人差し指を理亜に向けて叫ぶ。

「実際にそれをされてみたら、いかに嫌なことか解ったからな俺は。だからそうされた俺じゃなきゃ言えない言葉で、お前らに提案するぜ、理亜、かなめ!」

俺は最初から……遠回りをすることになったが、この言葉を伝える為にここに来たんだ。

「俺の物語になって、一緒に戦おう、理亜、かなめ‼︎」

本当は、理亜やかなめを戦わせたくない。コイツらが傷つく姿なんか見たくない。苦しむ姿を見たくない。泣き顔を見たくない。もしかしたら……いなくなるかもしれない。
そんな恐怖に耐えられる自信なんかねえ!
でも、だからこそ。だからこそ……俺はコイツらに側にいてほしいのだ。一緒に戦ってほしいんだ。
大切だから、だから側で……!

「俺が絶対死ぬ運命っていうのなら、俺の真横で俺を支えてくれ! 絶対に考えたくないけど、俺だけを死なせたくないのなら……」

この先の言葉を言うのにはかなりの抵抗がある。勇気がいる。
だけど、その勇気を出すのが、俺の『主人公』としての『覚悟』だ!

「俺と一緒に死んでくれ!」

「つ⁉︎」

理亜の顔に衝撃が走る。まさか、こんなこと言われるなんて思わないよな?
だけど、俺は言ってやる。理亜やかなめと。
大切な妹達と。これからも一緒に歩む為に。

「あ、あんた、何言ってんのよ⁉︎」

「モンジ⁉︎」

スナオちゃんや音央からは当然のように抗議の声があがる。
ジャンヌなんか呆れた顔をしている。
だが、俺はこの手を引っ込めるつもりはさらさらない。

「俺だって、一緒に死ぬのは本当は嫌だ! 本当は理亜やかなめには幸せになって欲しい。理亜達が死ぬくらいなら、自分が庇って死んだ方がマシだって、そう思ってる。けどよ、理亜達だってそう思ってるなら……だったら一緒に死ぬか……」

「一緒に……」

「生きるんだね、お兄ちゃん……」

俺の言葉にボロボロと大粒の涙を流す二人を見ながら、俺は二人に声をかける。

「決めたよ。俺は、二人を俺の物語にして、ガンガン戦って貰う。傷つくかもしれないし、苦しむかもしれない、泣くことになるかもしれない、命の危険だっていっぱいある。それは本当はすっごく嫌だけど。俺自身も苦しむかもしれないけどな。でも、だからこそ。______『主人公兄妹』として、嫌な気持ちも分け合って生きていかないか?」

俺は右手を突き出すように、差し出した。

「嫌なこと。苦しいこと。辛いこと。そういうものを受け入れて、そして乗り越える道を探すことが『覚悟』だと思ったんだ。絶対にそういうことから逃げないように立ち向かうのが『主人公』の覚悟だと思ったんだ。だから俺は、その覚悟を示す」

俺がそう思えたのは他でもない、理亜が言ったある台詞が決めてでもある。

「それに、理亜はさっき、俺にこう言ったね?
ノストラダムスの大予言(アンゴルモア・プロフィット)』を倒すのは絶対に不可能だって」

「……確かに言いましたが、それがなんですか?」

「それを聞いて、安心したんだ」

「……何故ですか?」

かなり弱まっているが……ヒステリアモードはまだ続いている。

「『不可能』______その言葉が、理亜の口から出たからな。理亜は知らないのか?
俺がなんて呼ばれるロアなのかを。俺は『(エネイブル)』______不可能を可能にする男なんでね」 
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