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機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア

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第一部 刻の鼓動
第四章 エマ・シーン
  第三節 群青 第三話 (通算第73話)

「上手いな」
 カミーユの横でメズーンが呟いた。確かに見事な着艦ではあった。だが、カミーユに言わせれば、それだけのことだ。いつの時代も離艦と着艦が最も難しいのは変わらない。だが、最近はその着艦すらオートパイロットであり、マニュアルモードでさえセミオートである。パイロットの資質に左右されるものではない、という認識だった。加えて、選ばれた者だけがなれるティターンズならば当然だという認識もあった。だから、カミーユはメズーンの言葉に裏が有るのではないかと勘繰った。親しさも手伝って、思ったことがそのまま言葉となった。
「そうだな。普通に考えればその筈だが……少なくとも、〈グリーンノア〉に来た連中は違った。大して上手くもないのに、鼻持ちならないエリート意識と凝り固まった選民主義が服を着て歩いているような奴等だったよ……。
 連中の選考基準は血統とコネ、そして地球人であるかどうかさ。実力や成績は二の次なのさ」
 確かに、メズーンの言には一理あった。地球連邦総軍の半分に相当する地球軍は全てアースノイドで構成されている。地球軍に比べると宇宙軍に所属するアースノイドは若干少ない。その中にあって地球軌道艦隊の士官などはアースノイドで固められていた。逆に、コロニー駐留軍やエゥーゴ傘下のグラナダ派遣部隊やグラナダ基地にはアースノイドは殆どいない。いても、鼻摘み者やはぐれ者などの類いか一部の名誉職と事務方ぐらいだ。主要な役職者、軍監や事務長などはアースノイドの息の掛かった者や政治家の親族ら――多くはどら息子だったが、勲章を後生ひけらかすために就いて、半年ほどで栄転していく。腰掛けなどはいい方で、今期の事務長など、グラナダ基地に来るのは査閲や式典の時ぐらいという始末だった。基地の人間で姿を見た者が殆どいない。スペースノイドの将兵からは、査閲や式典が簡単に判るので“警報器”とか“天気予報器”なるあだ名を付けられていた。
 アースノイド偏重主義とその横暴は連邦軍全体の問題であり、ティターンズはその最も濃いエッセンスだった。派閥抗争は組織の性ではあるが、固めまり過ぎるということは、そういうことだった。する方には区別でも、される方には差別でしかない。
 メズーンの言及はそれについては正しい。だが、軍とはそれだけではない。いくらアースノイド至上主義とはいえ、さすがに血統やコネだけでなれるほど、ティターンズも甘くはなかった。スペースノイドを排除していることは事実であり、スペースノイドのエースより実力が劣るアースノイドのパイロットはいる。されど、多くは両軍省から選抜されており、正真正銘のアースノイドためのエリート集団であった。
「じゃあ、あのパイロットは別格ということなんです?」
「多分な。〈グリーンノア〉には、フライパスを失敗して、墜落したティターンズだっているんだぜ?」

 ジェリドがフライパスを失敗したのは、シャアがそう仕向けたからなのだが、メズーンはそれを知らない。ジェリドがフライパスをし損ねて官舎を破壊したことは事実である。
 メズーンの関心は、そんなことよりも降りてくるパイロットに注がれていた。追撃隊の中であれ程の技倆を持ったパイロットを知らなかったからだ。
 オープンデッキになっているカタパルトに佇んだ〈01〉と肩に描かれた黒い《ガンダム》はエマ機の筈だ。だが、着艦の操縦を見る限り、機体の動き方は滑らかで、機体を丁寧に扱っている。エマがこれ程の技倆とは思えなかった。基本的に機体はパイロットの専属であり、おいそれと乗り換えるものではない。とすれば、やはりエマなのか――?
 答えはすぐにでた。
 パイロットスーツには女性である起伏があった。サイド7にいたティターンズの女性パイロットといえば数名に限られる。しかも《ガンダム》のパイロットである。やはり、エマに違いなかった。
「エマ中尉……!」
 メズーンは呻いた。
 その時、甲板員が《ガンダム》を繋留しようとしてパイロットに止められた。敵機が着艦するとあって、回線はオープンに設定されている。スピーカーから聞こえた声はメズーンを詰問した、あの声だった。
「この機体に近づく者があれば、あの《クゥエル》が撃ちます」
 間違いなかった。冷静だか、冷たくない、柔らかな声。オリエント風な顔立ちに、勝ち気さの覗く、アースノイドでありながら、メズーンたちを蔑視することのなかったエマ本人である。拳銃を向けた負い目もあり、逃げ出したい衝動に駆られた。
 エマが指差した先には、着艦せずに《アーガマ》に並走する《クゥエル》がいた。ビームライフルを構え、デッキをロックオンしている。怯えたように甲板員は退散した。デッキクルーは転倒したりしないように《ガンダム》にワイヤーを張ろうとしただけだと喚いたが、エマは無視した。甲板長が、拳銃をホルスターから出して、近づいてくるのが見えたからだ。
 小さく嘆息を吐いて、見咎める視線で一瞥する。そして、険しい声を挙げた。
「私は投降した訳ではない。貴方がたエゥーゴには、和平の使者に銃を向ける軍規でもあるというの?……まるで、テロリスト……いえ、そのものね。恥を知りなさいっ! それでも栄えある連邦軍の一員?」
 甲板長は面食らったように立ち尽くし、絶句したまま銃を下ろした。命令に従っただけの彼に責任はなかった。
 エゥーゴはティターンズと並んで実戦経験の豊かな部隊であると言われているが、反政府運動に加担するものの殆どが、軍籍履歴のない者であり、レコアのような者ばかりではなかった。 
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