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年月を経て

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第一章

                 年月を経て
 東京帝国大学以上にだ、入ることは難しかった。
 その海軍兵学校に入った豊田祐一にだ、先輩達はというと。
「何だその歩き方は!」
「ベッドメイクがなっていないぞ!」
「貴様海軍を舐めておるのか!」
「足を踏ん張り歯を食いしばれ!」
「喝を入れてやる!」 
 何かあるとこう言ってだ、そのうえで。
 殴って来た、それが毎日だった。
 それでだ、豊田は同期達に言うのだった。
「今日も殴られたぞ」
「俺もだ」
「俺はもう今日だけで三発殴られたぞ」
 これが同期達の返事だった。72
「噂は聞いていたがな」
「噂以上だ」
「ああ、やたら殴られるな」
「訓練も学業も凄いが」
「少し落ち度があるとな」
「それで制裁だ」
 鉄拳によるそれだというのだ。
「ここは監獄だな」
「赤煉瓦の監獄だ」
「外には滅多に出られない」
「出ても周りは海だ」
 江田島はというのだ、海軍兵学校のあるこの島は。
「逃げられないぞ」
「脱走なぞ無理だ」
「海を泳いでいってもだ」
「その海には鮫がいるぞ」
「鮫を振り切ってもだ」
「陸で追っ手が待っている」
「まさにここは監獄だ」
 それがこの兵学校だというのだ。
 そしてだ、豊田はあらためて言ったのだった。
「わかっていたが本当にだ」
「噂以上だな」
「しかしここで耐えてな」
「己を鍛えてだ」
「海に出るぞ」
 海軍士官としてとだ、彼等は言うのだった。
「絶対にな」
「そうしような」
「何があっても」
「辞めてたまるか」
 もっと言えば辞めることも非常に難しかった、陛下から任命されたので誰にもそうそう辞めさせられなかったのだ。
「絶対にな」
「やっていくぞ」
「ああ、今は耐えて」
「進級していってな」
「やがてはだ」
「俺達が上級生徒になって」
「指導していくんだ」
 今の彼等と同じ立場の者をというのだ、そして。
 実際にだ、豊田も他の同期達もだった。
 進級し最上級学生となった。そしてだった。
「何だその態度は!」
「たるんでおるぞ!」
「軍服もベッドも成っていない!」
「足を広げ歯を食いしばれ!」
「制裁を与えてやる!」 
 こう言ってだ、そして。
 下級生達を次々と殴っていった。そうして彼等は言うのだった。
「俺達もな」
「こうなったな」
「そうだな、先輩達と一緒で」
「殴る様になったな」
「これがここの決まりだからな」
 海軍兵学校のだ。
「殴られて覚えて」
「殴って覚えさせる」
「鉄拳制裁だ」
「それが海軍兵学校だ」
「そうだ、俺達は海軍だ」
 はっきりとした声でだ、豊田も言った。 
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