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春の歩道

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9部分:第九章


第九章

25.トスカ
 永遠の古の都  そこで歌う一人の歌姫
 
 聖なる天使の城で歌う彼女は

 自分とトスカだと思っているのだろうか

 その香る色香と美しい声はまさにトスカだ

 歌に生き愛に生きそして死ぬ

 トスカの運命は惨いものだけれど

 少なくとも今ここにいるトスカは違うようだ

 隣には楽しく笑う男がいて友達がいる

 悲劇は現実には起こらない

 カヴァラドゥッシはいてもスカルピアはいない

 現実は案外甘い世界が続くもの

 
 古い歴史の都  そこで笑う一人の歌姫

 聖なる天使の前にいる彼女は

 きっと自分をトスカになぞらえている

 カヴァラドゥッシも側にいる彼女はトスカ

 歌に生き愛に生きその中にいて

 トスカはこの城で惨い結末を迎えた

 けれど今のトスカはそれを知らないのか

 カヴァラドゥッシと楽しくおしゃべりをしている

 悲劇は今のここにはないのだ

 恐怖も拷問もここには存在しないから

 現実は今は甘い世界の中にある

 
 隣には楽しく笑う男がいて友達がいる

 悲劇は現実には起こらない

 カヴァラドゥッシはいてもスカルピアはいない

 現実は案外甘い世界が続くもの


26.不機嫌な朝
 どうにもやりきれなくて

 嫌な気分のある朝

 こんな朝もあるのはわかっているけれど

 どうにも気が晴れなくて困っている

 見えるものも感じるものも全部

 やけに不機嫌で暗鬱なもの

 そうしたものを見ているとどうにも

 一日までが嫌に思える

 そんな朝をどうにかしたいけれど

 僕だけではどうにもならない


 どうにも俯いてしまう

 そのまま家を出ても

 何もやる気がなくて帰りたくなるよ

 こんな気持ちがずっと続くのかと
 
 あれこれ考えているとそこに

 彼女が来て僕に声をかける

 それだけで何か急に気が晴れてきて

 嫌な気分は消えてしまう

 暗鬱な朝はもう何処かに消えて

 彼女の笑顔だけが見える


 そうしたものを見ているとどうにも

 一日までが嫌に思える

 そんな朝をどうにかしたいけれど

 僕だけではどうにもならない


27.喧騒
 どうしても騒ぎが避けられない時がある

 しかも静けさが欲しい時に

 どうしてもそれに巻き込まれてしまって

 騒がしさに辟易してしまう

 疲れて困ってしまう

 しかも自分ではどうしようもない

 へとへとになって何とか逃げ出しても

 そこにあるのは虚しさだけ

 どうにも疲れてしまった夜に

 慰めも何も見出せず一人静けさを恋い慕う


 何をしても騒ぎから抜け出せずにいて

 静けさが欲しいのに得られない

 どうしてもそれに捉われてしまっていて

 喧騒に翻弄されるばかりになる

 疲れ果ててしまって

 自分では何もできずに流されて

 ようやく抜け出したその先にあるのは

 静けさではなく寂しさだけだ

 虚無が支配する冷たい夜に

 疲れ果てた身体を引き摺って闇に帰る


 へとへとになって何とか逃げ出しても

 そこにあるのは虚しさだけ

 どうにも疲れてしまった夜に

 慰めも何も見出せず一人静けさを恋い慕う
 
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