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酒がない!

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2部分:第二章


第二章

 あの一人一人は無欲で素朴で親切な、至って温厚なロシア人達がだ。一斉に暴動を起こしはじめたのだ。
「酒を取り戻せ!」
「禁酒法反対!」
「ロシアを殺すな!」
「何があってもだ!」
 こう叫び合ってだった。デモを起こす。モスクワの赤の広場に今は軍のパレードでなくデモ隊が行進していた。しかもその中にはだ。
 軍人達までいた。軍服のままデモに参加してだ。口々に主張するのだった。
「酒を取り戻せ!」
「ロシア軍は何の為に戦っているか!」
 そのことを声高に主張するのだった。
「祖国の為!ロシアの為だ!」
「つまり酒の為だ!」
「ロシアは酒だ!」
「酒こそがロシアだ!」
 こう言ってだった。彼等もデモに参加するのだった。
 そして警官達も加わりだ。プラカードに垂れ幕を持って行進する。そうしてそのうえで叫びながらだ。禁酒法撤廃を求めるのだった。
 それはモスクワだけではなかった。ロシア全土に及んだ。これには世界が驚いた。
「酒だけであそこまでするのか」
「あのロシア人があそこまで暴れるか」
「あの国はあれ位のこと普通にあっただろ」
 それもまたロシアだった。ロシアの歴史では暴君と言うべき専制君主や独裁者も多くいたし血生臭い話も多い。経済危機や内乱なぞしょっちゅうである。酒の禁止位何でもないのではというのが各国の考えだった。
 しかし今はだった。ロシア人達は明らかに怒っていた。
「酒だ!」
「酒を取り戻せ!」
「酒を我等の手に!」
「禁酒法をぶっ潰せ!」
「絶対にだ!」
 ロシアの至るところで民衆が叫んでいた。それは軍人や警官、挙句には秘密警察や官僚にまで及んでだ。遂にだった。
 大統領も観念してだ。緊急記者会見を開きこう言うのだった。
「禁酒法を撤廃する」
 こうしてだった。ロシアでの禁酒法は撤廃されたのだった。その瞬間に。
 ロシア人達は一斉に在庫にしていたウォッカやワイン、ビール、そうした様々な酒を出してだ。それで飲みはじめたのだった。
 次から次に酒を溺れる様に飲みながらだ。彼等は話すのだった。
「いやあ、生き返るよ」
「全くだ」
「酒があればな」
「ロシア人は生きれる」
「酒だ、酒」
「これが一番だよ」
 こう言い合いどんどん飲む。まさに鯨飲である。
 しかしそれでも彼等は飲み続ける。これまで飲めなかった分の埋め合わせをするかの如くだ。そうして飲み終えてからだった。
 仕事や日々の生活に戻る。その表情は極めて明るい。
 動きも違っていた。禁酒法が施行されていた時とは全く別だった。
 ロシアは元のロシアに戻った。ロシア人達は暴れることなく日常の穏やかな生活を過ごしだしていた。その彼等を見てであった。
 大統領もだ。こう側近達に話すのだった。
「禁酒法を施行したのはだ」
「はい」
「どうしてですか」
「あれは一体何故」
「施行されたのですか」
「健康の為だ」
 それを考えてだというのだ。
 
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