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MUV-LUV/THE THIRD LEADER(旧題:遠田巧の挑戦)

作者:N-TON
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1.プロローグ

 
前書き
処女作で至らないところだらけですがよろしくお願いします。 

 
1.プロローグ

1977年 帝都

深夜、帝都の明かりは消えないが、多くの人々は寝静まり安らぎを得ている。BETA大戦が始まり人類は未だかつてない危機的状況だったが、多くの日本人にとってBETA大戦とは対岸の火事であり、ニュースで聞く各国の状況もどこか他人事のように聞こえる。ゆえに人々は以前と変わりなく、何事もなく、安心して夜眠る。

しかしその中で遠田技研の創業一族の長であり、技術開発部局長も兼ねる遠田惣一郎はここ最近まともに眠ることが出来ないでいた。理由は近年の軍需産業の状況と、自社のおかれた立場にあった。

遠田技研は元々しがない町工場であったが、第一次世界大戦時に発達した自動車産業に参入し、その優れた技術力以てそれまで財閥系列の富嶽、光菱、河崎の三社に独占されていた兵器開発にすら割り込んだ成り上がりの企業だった。
そして太平洋戦争時には三社の圧倒的な資金力にも負けず多くの兵器を生み出し、そのとき得た技術と資金で戦後には航空機開発にまで手を出し成功させていた。

しかし1967年に起きたサクロボスコ事件、そして同年に勃発した月面でのBETA戦争によって状況は一変する。太平洋戦争終結から二十数年で勃発した戦争だが、当時の社長であった遠田金次郎はそのについて疑念があった。

一つはBETAという存在についての疑念。BETAとは『Beings of the Extra Terrestrial origin which is Adversary of human race:人類に敵対的な地球外起源種』を意味し、1958年に米国の探査衛星ヴァイキング一号が接触した人類が初めて接触した宇宙生物のことである。だが当初その存在についての詳しい情報は民間に流れることがなく、その正体は全く掴めなかった。そしてサクロボスコ事件が起き、BETA戦争が始まってもなおその存在はあやふやだった。BETAという存在があったとしてもそんなSF小説に出てくるような非現実的なものが存在するのか?宇宙生物の体を成した米国の自作自演だとか、新開発された生体兵器だといった方がまだ現実味がる。

そしてもう一つの疑念は、もしそれが本当だったとしても人類の脅威になりえるのかというもの。当時まだ月面戦争の情報やBETAの生態というのは軍部、特に米国や国連上層部、米国の兵器メーカーのトップシークレットであり、その戦闘力は未知数だった。太平洋戦争で兵器開発に従事してきた金次郎からすれば、人類の持つ戦力というものは圧倒的であり、実態のつかめない異星生物程度なら直ぐに殲滅できると思えた。それもそうだろう。太平洋戦争で帝国、ドイツ、イタリアの同盟にとどめを刺した、ドイツに投下された核兵器の威力は町一つを一瞬で消し飛ばすほどの威力だ。その後の冷戦下では米国、ソ連、中国などの大国は核兵器の製造を続け、その総量は地球の地表を燃やしつくすほどの威力を秘めている。たとえBETAが地球に侵攻してきたとしても戦争は早期に終結する。金次郎はそう考え、帝国の兵器メーカーが躍起になって取り組んでいる人型歩行兵器―戦術機の開発などよりも、多様性のある主機やパワードスーツ、航空機開発に力を入れるべきだと考え遠田技研の技術開発はそちらの方向に舵取りをした。

しかし1973年、ユーラシア大陸の中心部、中国西端にあるカシュガル自治区にBETAが襲来し、本格的に地球でのBETA戦争が始まると状況は一変した。中国軍の圧倒的な戦力、特に航空兵器の存在によってBETAは当初一方的に殲滅されるだけであったが、しばらくして現れた新種、光線級の存在によって戦況はひっくり返った。それまで絶対的なアドバンテージであった航空兵力はすべて無力化され、地上戦という同じ土俵に立たされた人類は、一気に苦境に立たされた。中国が独力での殲滅をあきらめ、ソ連と同盟を結んでの戦いも、BETAの圧倒的な物量には歯が立たず、中国軍は敗北。
だがその戦いで投入された人類初の戦術機F-4<ファントム>は航空戦力が無力化された中でも三次元的な戦闘を可能にし、戦争に貢献した兵器ということで賞賛を浴びた。

先代社長である金次郎が死に、新しく遠田技研の社長に就任した遠田惣一郎はその事実に驚愕し、焦った。帝国軍は早期から戦術機開発に乗り気で、すでに米国からライセンス権を獲得しており、自国の戦術機開発については富嶽、光菱、河崎の三社に委託している。遠田技研は完全に乗り遅れた立場となった。何とかそれまで地道に向上させてきた主機開発、パワードスーツの発展形とも言える強化外骨格、航空産業のために培ってきたジェットやロケットなどの技術力を評価され、戦術機開発に一口噛むことができたものの、現状は三社の下請け企業に甘んじている状態だ。

カシュガルハイヴ建設から三年、惣一郎は必死に交渉し、遠田技研が戦術機開発に加われるように努力を重ねたが、三社の圧倒的な資金力に加えて、帝国軍上層部との繋がりの強さから、三社共同で推し進める戦術機開発には割りこめないでいた。
そして惣一郎は国内における戦術機開発をあきらめ、生き残りをかけて米国の開発メーカーであるノースロックと共同開発の交渉していた。

深夜、惣一郎はノースロックの担当者からの電話を待っていた。数か月前から始まった交渉は、比較的順調に進んだ。帝国と米国は日米安保で同盟関係にあるとは言え、国内の反米感情は高い。特に帝国軍上層部は安保を主権侵害だと捉えている節があり、戦術機開発においても、純国産を目指している。そしてそれを曲げてライセンス権を獲得したものの、それはノースロック社のライバル企業であるマクダエル社のF-4。ノースロックは帝国での軍事参入を半ばあきらめていた。その中で遠田技研の共同開発の打診があった。
遠田技研の技術力の高さは太平洋戦争時から米国には伝わっており、米国内での評価としては遠田技研はトップクラスの兵器メーカーというものだった。この申し出を受ければ、遠田技研の技術力を吸収でき、帝国の戦術機開発にも加わることができる、ノースロックとしても遠田技研との共同開発は魅力的なものだったのだ。

惣一郎は執務室で今か今かと電話を待っていた。担当者の反応は上々。マクダエルでなく、ノースロックを交渉相手に決めたことも読み通り良い状況作り出してた。そして今日の会議でその是非が決まる。この交渉が上手くいけば、米国の技術を吸収し独自に戦術機開発を行うことができる。そのノウハウは帝国の兵器メーカー三社にはない独自のものであり、それを元に現状を覆すことができる。

そして待ちに待った運命の電話が執務室に響いた。

「もしもし遠田です。」
「ああ遠田さん。ノースロック渉外課のトムです。こんばんは。」
「こんばんは。それで会議の方はどうなりましたか?」
「それなんですが、遠田さん。残念なことに御社の申し出は見送られることになりました。」
「見送りって…一体どういうことですかっ!?先日までの話し合いでは間違いなく共同開発の提案に賛同いただけると聞いていたのに!」
予想を裏切る結果。それが運命の電話のもたらした報だった。
「私としては遠田さんご提案は当社の利益になると思っていたのですが、状況が変わりまして。」
「ご説明願いますか?」
「はい。遠田さんの打診を受けた当初は、当社としてもより多くの国に当社製品であるF-5<フリーダムファイター>の輸出を考えていたのですが、戦況が推移し今はヨーロッパが主戦場になっています。そしてF-4より安価な当社のF-5はEU各国で高評価を得ることができました。そこで当社の方針としてはより需要の高いEUを取引相手として選んだということです。」
世界各国の需要が高まる中で最初はF-4が飛ぶように売れていたが、供給が追い付かず、安価でコストパフォーマンスが高いF-5はEUを始めとした、BETA戦争真っ只中の国にとってより魅力的に映ったのだ。
「加えて御社の国内における状況についての調査結果が決め手となりました。」
「一体どういうことですか?」
「簡単に言ってしまえば資金力の問題です。戦術機開発というのは非常に難しいもので、軍の補助が欠かせません。私としましては御社の太平洋戦争でのご活躍から、帝国軍の援助を受ける準備が出来ていると思っていたのですが、実際はそうでもないようですね。主機を始めとした戦術機パーツの開発に関わっているようですが、今の帝国における戦術機開発は富嶽、光菱、河崎の三社がメインです。となると御社から受けられる当社の利益は帝国軍への足掛かりぐらいしかないのですが、先ほど申しました状況の変化で、メインの取引相手をEUにすると決めたもので、その余裕が当社にはないのです。」
「そ、そんな…。」
「私個人としましては、御社の潜在的な技術開発力は非常に魅力的なのですが、企業の方針は先ほどの会議で決定してしまいました。大変申し訳ありませんが……。」
その後、しばらく担当との会話が続いたが、惣一郎の耳には入らなかった。起死回生の、最後の希望だったノースロックとの交渉が失敗した惣一郎は抜け殻のように執務室の椅子で項垂れた。

数日後、精神的なショックから立ち直った惣一郎であったが、未だに今後の希望を見出せずにいた。最近はBETA戦争の状況も民間にそれなりに降りるようになってきている。ニュースでは希望あふれることだけを誇張しているが、過去の大戦でそうであったように、それは情報統制下でのものであり、少し考えれば状況は圧倒的に不利であることは分かる。それは今後戦術機の需要は更に増すこと意味し、遠田技研の衰退も意味していた。

現状は何とか戦術機開発の一部を担っているが、三社からすれば余裕ができれば主機開発から全て自社で行いたいと考えるのが普通であり、それは遠くない未来起こりそうなことであった。そうなれば遠田技研は終わりである。遠田の開発している戦術機パーツは最終的には三社メーカーの元に送られるのに対して、遠田は戦術機の情報を得ることが出来ない。これ以上技術力に差をつけられるともう巻き返しは無理だろう。

悩み抜いた惣一郎は一つの計画を考えだした。それは追いつめられた惣一郎の狂気が生んだ、僅かな、ゼロにも等しい希望だった。

戦術機の開発は難しい。だが戦術機とはそれ単体では運用できない。動かす衛士が必要であり、戦術機の能力は、戦術機の性能と衛士の能力によって決まる。ならば最高の衛士を生み出し、その蓄積された経験をもとに戦術機を開発する。今は技術蓄積に努め、同時に究極の衛士を育成する。

戦術機を開発して衛士を乗せるのではなく、衛士を生み出した上でそれにあった機体を作るのである。

どう考えても狂った発想だったが、追い詰められた惣一郎はその逆転の発想にすべてを託すことを決めた。その名もSES(スーパーソルジャー)計画。
そしてその対象に選ばれたのは惣一郎の息子。当時三歳になった遠田巧であった。
 
 

 
後書き
ストーリーや戦術機、BETAなどで「こんなんどうよ」という提案があればお願いします。物語に組み込めそうなものはやってみたいと思います(バクマンの七峰方式)

また指摘、意見、感想等ありましたらお願いします。 
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