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コーディネイト

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2部分:第二章


第二章

「はい、これ」
「これ!?」
 また原稿を脱稿して無造作に食べ続けている政行に対してファイルを出す。そこには細かい文字でワープロで色々と書かれていた。
「これか。その根拠は」
「そうよ。痩せて格好も引き締めればね」
「ああ」
「作品もそれにつられて引き締まるらしいわよ」
 そう政行に対して述べるのだった。
「そのことがちゃんと書いてあるから」
「そうか。これか」
「そう。これで根拠は出したわよ」
 夫の前で腰のところに両手をやって仁王立ちしての言葉だった。
「さっ、わかってるわね」
「シェイプアップか」
「違うわ」
 政行のシェイプアップという言葉は否定した。
「コーディネイトよ」
「コーディネイト!?」
「そう、それ。コーディネイトしてあげるわ」
 こう政行に対して言うのだった。
「それでいいわよね」
「コーディネイトか」
「何から何まで全部変えてあげるから」
 強い決意に満ちた言葉であった。
「いいわよね」
「で、俺はどうすればいいんだ?」
「まずスポーツ」
 最初はそれだった。
「結婚する前はかなり運動もしていたわよね」
「そういえばそうだったっけ」
 意気込む香苗とは正反対に無気力に満ちた政行の返答だった。
「覚えてないな」
「毎日まずはランニング」
「ああ」
「それと筋トレね。毎日欠かさず」
「わかった、まずはそれだな」
「あれっ、嫌じゃないの?」
 政行がやけにあっさり従ってきたのでこれは拍子抜けだった。
「てっきりもっと嫌がると思ったのに」
「嫌がるも何も約束だからな」
 それでということらしかった。
「だからそれでいいさ」
「そうなの。律儀ね」
 夫の性格は知ってはいたがそれでもだった。だがすぐに気を取り直してまた言う。香苗も香苗でかなり元気のいい性格だと言えた。
「で、まあそれでね」
「次は何だ?」
「今あなた夜と昼の生活が逆転しているわね」
「小説家だからな」
 小説家や漫画家はどうしてもそうした生活になってしまう。これはある種宿命めいたものがあった。だが香苗は今度はそれを言ってきたのだ。
「それを朝起きて夜寝る生活に変えて」
「それか」
「できる?」
「目覚ましがあればな」
 ということだった。
「できるさ」
「できるの?」
「約束だからな。やるさ」
「本当にあっさりしているわね」
 つくづく自分の夫のそのあっさりとした態度に唸るのだった。
「まあそれはそれでやり易いけれど」
「その方がいいんならな。やるさ」
「そう。それでね」
 夫の言葉にとりあえずは頷きながら話を進める。
「食べ物はそのまま」
「それでいいのか」
「生活はそれだけよ。後は」
「後は!?」
「私の仕事よ」 
 両手を腰にやったその姿勢で宣言してみせたのだった。
「だから任せて」
「御前の仕事って何だ?」
「だから。インテリアデザイナーよ」
「そうだな」
 これはもうわかっていた。
「インテリアは総合芸術よ」
「まるでオペラみたいだな」
「オペラに匹敵するわ」
 彼女は少なくともこう思っているのだった。
「だからね。いいわね」
「俺がシェイプアップするのはいいとしてだ」
 これは彼にもわかった。
「しかし。御前の今の言葉はわからないぞ」
「わからないのはいいけれど任せて」
 香苗の言葉は変わらない。自信も。
「それはね。いいわね」
「まあ俺も腹を括ったからな」
 彼はもうこれでいいのだった。
「別にそれでいいけれどな」
「随分男前ね」
 香苗は彼のその潔さを見て述べた。
「そうか?」
「とにかく任せてね。いいわね」
「ああ、わかった」
 こうして彼のコーディネイトがはじまるのだった。政行は政行でシェイプアップに励んでいた。そして香苗はまずは彼にジャージではなくカジュアルな服をプレゼントしたのだった。
「これは」
「どう、この服」
 もう段々引き締まっていい顔になってきた政行に対して言ってみせる。
「いい感じでしょ」
「黒いシャツにネクタイか」
「それとベストね。ちょっとあっちの筋の人みたいだけれどね」
「俺に似合うのか」
「似合うわ」
 自信を持って夫に告げた。
「今のあなたにはね」
「そうか、似合うか」
「これからは普段はこれ着て」
 そのことを夫に伝える。
「いいわね、これからね」
「家の中でもか」
「家の中だからこそよ」
 そこを念押しするのだった。あえて。
「いいわね。家の中だからこそ」
「そうか。それなら」
「ただ。運動や寝る間はね」
 これについては別のことを言うのであった。
 
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