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ソードアート・オンライン~隻腕の大剣使い~

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第28話復讐の炎を脱ぎ捨てる時

 
前書き
ちわっす!醤油ラーメンです!
今回の投稿で3日連続になります!イヤー長連休って素晴らしいですね~!
それでは第28話、どうぞご観覧ください! 

 

2024年10月23日、第55層・グランザム

「訓練?」

オレと未来は今、第55層の主街区グランザムの街にある《血盟騎士団》のギルド本部に来ていた。別にオレ達が《血盟騎士団》に加入した訳じゃない。ただ純粋に遊びに来ただけ。
それでつい先日このギルドに加入したキリトとアスナさんと一緒にギルド本部の一室で談笑していたら一人の男が入室してきた。ちょっとボサボサの短い茶髪とアゴヒゲを蓄えた少し大きめの斧を背中に背負った大柄のおっさん、《血盟騎士団》フォワード隊隊長・ゴドフリー。

「そうだ。私を含む団員3人のパーティを組み、ここ55層の迷宮区を突破してもらう」

どうやらキリトと他の団員をもう一人連れてこの層の迷宮区まで訓練に行く事になってるみたいだな。確かにキリトは攻略組のプレイヤーとしてはトップレベルだけど、ギルドのメンバーとしてはバリバリの新人(ルーキー)だからしっかりその目でキリトの実力を見ようとしてる訳か。

「ちょっとゴドフリー!キリトくんはわたしが・・・」

「副団長といっても規律をないがしろにして頂いては困りますなぁ。それに入団する以上は、フォワード指揮を預かるこの私に実力を見せて貰わねば」

「ゴドフリーさんが問題にならないくらいキリトはいい働きすると思いますよ」

「まあ本音を言えばそうだよな」

アスナさんの言葉にゴドフリーはオレが予想してた理由と同じ内容で返答する。本音を言うと未来の言ってる事には賛成だ。ゴドフリーのおっさんよりキリトの方がずっと強いと思う。

「では30分後に街の西門に集合!」

最後に集合時間と待ち合わせ場所を伝えて「フハハハハ!」と大きな笑い声をあげてオレ達のいる部屋から退室していくゴドフリー。あのおっさんやたらフレンドリーというか馴れ馴れしいというかーーーああいう所は嫌いじゃないんだけどなぁーーー

「はぁ~、せっかく二人っきりに「アスナさん、オレ達もいるぜ」はっ!!え、えーと・・・//////」

「照れないでよ。アスナさん可愛い~~♪」

「ま、まあすぐに帰って来るさ。みんなはここで待っててくれ」

「ヘイヘーイ」

「ハイハーイ」

「うん、気を付けてね・・・」

どうやらアスナさんはオレ達の存在を認識出来ていなかったようで、完全に二人きりだと思っていたらしい。未来も未来でアスナさんをからかって、キリトはまるで妻子に帰りを待つように言いつける父親みたいにこの場を去る。妻子かーーーだったらアスナさんが奥さんでオレと未来が子供か?

「所で、アスナさんってキリトくんと結婚してるの?」

「へっ!?/////」

「ここで恋バナか?よしてやれよ・・・」

だってずっと気になってたんだもんと未来は言い返して来て強制的にアスナさんを恋バナに引きずり込もうとする。確かにあんなくっついてたらそう思うけど、それでどうしてストレートに結婚まで行くかね?精々恋人からスタートして愛を育み結婚(ゴールイン)だろ?でも誰の目から見ても両想いなのは解る。それでも自分達の間では自覚がないんだろうな。あれで無自覚両想いってタチ悪いなーーー

「じゃ、じゃあ二人はいないの!?好きな人!!」

「う゛っ、見事にカウンターくらっちゃった・・・どうしよう?」

「知らねー」

アスナさんの見事なカウンター恋バナに戸惑う未来。オレに助けを求めるが面倒な事になりそうだからパス。恐らくこの世の恋バナにはこのような光景はたくさんあるのだろう。そもそも男がいる空間でする話じゃないだろーーー

「そうだ!お兄ちゃんから言ってよ!あたしもその後話すから!」

何でそうなる。元々お前が始めたんだろ未来。なんかアスナさんも興味あるみたいな目でオレを見てるけど、男の恋バナ聞いてお前面白いか?

「なんなんだよお前メンドクセー。別にオレ恋愛なんてしたこと・・・」

ーーー大好きだよ、竜くんーーー

ーーーそういえば、亜利沙の事はどう思ってたんだろう。自惚れてるかもしれないけど、亜利沙は確かにそう言った。だったらーーーオレはあいつをどう思ってたんだろう?

「・・・ごめん、お兄ちゃん」

「ライリュウくん?」

「別にいいよ。多分オレは恋愛経験なんてないと思うぞ?」

事情を知ってるのは未来だけ。アスナさんは《リトルギガント》に一回だけ会った事あるけどーーーあいつらの詳しい所までは解らないと思う。オレは恋愛経験ゼロって言ったけど、正直自分でも解らない。複雑だよな、こういうのーーー




******




なんとかあの恋バナタイムを終わらせる事に成功した。その間、約40分。キリトはもうとっくに訓練に出発したことだろう。
そして今オレ達は午後のティータイムを満喫している最中だ。流石は《料理スキル》をコンプリートしたアスナさんだ。紅茶一つに手を抜かないその姿勢、モンスタークッキングの未来とは全く違うなーーー

「あれ?そんな・・・どうして!?」

「アスナさん?」

「どうしたんだよ?急に声出して・・・」

ティーカップをテーブルに置いた瞬間アスナさんが突然おかしな声をあげた。どうやらシステムウインドウを見てるみたいだけどーーー

「大変なの!フレンドリストからゴドフリーの反応が消えてる!」

「はぁ!?」

「ゴドフリーさんが?まさか・・・」

ゴドフリーがーーー死んだ?そんなバカな。あのおっさんはキリトと一緒にこの層の迷宮区に訓練に行ってるはずだ。今となってはこの層はそこまで難易度は難しくない。キリトがいるならなおさらだ。ーーーん?そういえばゴドフリーのおっさん確かーーー

ーーー私を含む団員3人でパーティを組み・・・ーーー

「もう一人いる・・・」

「もう一人って、もしかしてゴドフリーさんが言ってた3人目?」

「その団員がゴドフリーを殺したって言うの!?」

その線が一番強い。それをやった人間に心当たりがある。あのおっさんの事だ、多分そいつを連れて行ったんだ。

「とにかく行くぞ!手遅れになる前に!」

「ちょっとライリュウくん!」

「お兄ちゃん待ってよ!」

頼む、間に合ってくれ!友達を失うのはーーー二度とゴメンだ!









キリトside

第55層・迷宮区前

今、目の前でゴドフリーが殺された。俺は何も出来なかった。理由は配付された食料の水に仕込まれていた麻痺毒だ。ゴドフリーもそれにやられて身動きが取れに一方的に殺された。
犯人は俺と同じくこのパーティに呼ばれた元・アスナの護衛ーーークラディール。

「よぉ。オメェみてぇなガキ一人のためによぉ、関係ねぇ奴殺しちまったよ」

「その割には、随分と嬉しそうだったじゃないか・・・何でお前みたいな奴が《血盟騎士団》に入った?犯罪者ギルドの方がよっぽどお似合いだぜ・・・!」

ゴドフリーに剣を何度も突き刺していたクラディールは、とてつもなく黒いーーー狂気に満ちた笑みを浮かべて、野蛮な笑い声をあげていた。あれは完全に殺しに快楽を覚えている奴の顔だ。

「オメェ面白ェ事言うな。いい目してるぜ・・・」

そう言ってクラディールは左腕に装備していた白い鉄製のガントレットを装備解除し、左腕を見せてきた。その左腕を見るとーーー見覚えのある刺青(タトゥー)が彫られていた。不気味な笑みを浮かべる黒い棺桶のマーク。あれはーーー

「殺人ギルド《笑う棺桶(ラフィンコフィン)》!?」

「へっ。この麻痺テクも、そこで教わったのよ・・・」

笑う棺桶(ラフィンコフィン)》ーーーこれまで何百人ものプレイヤーを殺してきた殺人ギルド。今年の8月の始めに大掛かりな討伐隊を結成してほとんどのメンバーを投獄、十数人があの時死んだ。クラディールがそのマークを刻んでるという事はーーーあの投獄戦にはいなかったのか。それか生き残りだったのか。

「おっと、ヤベェヤベェ。お喋りもこの辺にしねぇと毒が切れちまうからな。そろそろ仕上げといくかぁ!?」

「ぐっ!がぁぁっ!」

麻痺毒が切れる前に俺を殺すために、クラディールは俺の左腕に剣を突き刺してくる。このゲーム、現実の身体に影響が出ないように痛覚を遮断する《ペインアブソーバ》が働いているけどーーーそれでも痛い物は痛い。クラディールは突き刺した剣をグリグリと動かして俺のダメージをどんどん削ってくる。早く毒が消えてくれないと、反撃出来ないーーーと思っていたら、クラディールは俺に刺した剣を抜いた。

「どういうつもりだ・・・?」

「お前のお友達の《隻竜》、前にあいつに酷い目にあってなァ・・・そいつに仕返しもかねて、だよ」

「ライリュウに・・・?」

何でここでライリュウが出てくるんだ?酷い目って、この前のデュエルか?あれは痛め付けていた訳じゃないし、仕返しするような出来事じゃないはずだ。そう考えている内にクラディールは剣をアイテムストレージにしまって別の武器を取り出した。あれはーーー《槍》?

「この《槍》、《隻竜》のお友達殺して手に入れたんだけどな・・・昔のお友達の武器で今のお友達が殺されたら、あのガキどうなるかなァ・・・?」

「ッ!?ライリュウの・・・!?」

ライリュウが前に言ってた。去年の8月2日、偶然出会った現実(リアル)の友達で構成されたギルドが目の前でラフコフの襲撃にあって、当時加入していたライリュウとミラ以外のメンバーが殺された。その一人がーーー《槍》使い。つまりクラディールは、ライリュウの友達の仇!

「ふぅん!」

「ぐっ!あぁぁ!」

今度はライリュウの友達の《槍》で俺の右太ももを突き刺す。まだ毒が消えないーーー頼む、早く切れてくれ!

「どうよぉ?どぉなんだよぉ?もうすぐ死ぬってどんな感じだよ!?教えてくれよなぁ?」

まずいーーー俺のHPがもう半分を切った。
ーーーあの時救えなかったサチの事が頭に浮かぶ。俺はーーーこのまま死ぬのか?

「おいおい!なんとか言ってくれよ!ホントに死んじまうぞ!」

俺の意識が腹を刺される事で強制的に戻される。HPはーーーもう全然残ってない。ダメだ、殺されるーーー

ーーーわたしは死なないよ。だってわたしは、君を守る方だもんーーー

ーーー今、脳裏にアスナの声が、顔が浮かんだ。そうだ、まだ死ぬわけにはいかない。俺は自分を奮い起たせ、俺の腹を突き刺す《槍》を掴む。

「お?何だよ?やっぱり死ぬのは恐ェってか?」

「そうだ。まだ・・・死ねない!」

「フッフフ・・・そうかよ。そう来なくっちゃなァァ!!」

笑いたければ笑え。まだ死ぬつもりはない。HPが完全に尽きるまで、俺は足掻く。俺は、俺はーーー



























「やっぱりお前かクラディールーーーーーー!!!!」

諦める訳にはいかない。そう思った瞬間、俺の目の前に(レッド)が現れ、クラディールの顔面に拳をぶつけた。









ライリュウside

ゴドフリーの反応が消えて、大急ぎでフレンドリストでキリトの居場所を探して、やっと見つけたと思ったらこの状況だ。クラディールがキリト腹を突き刺していた殺人未遂の現場を目撃したから一発ぶん殴ったけどーーーギリギリすぎて危なかったぜ。とりあえずキリト腹を刺しているこの《槍》を抜いてーーーあれ?この《槍》、すごく見覚えがーーー

「キリトくん!」

「アスナ!ミラ!」

「ヒール!」

オレより後から走ってきた未来とアスナさんがキリトに駆け寄り、アスナさんが《治癒結晶(ヒールクリスタル)》でキリトのHPを回復させる。それで事の経緯を簡単に話してーーーオレは立ち上がったクラディールをこの目で見据える。

「おいクラディール。お前コレをどこで手に入れた?」

「ア、アスナ様。これは訓練で「この状況を見てそんな嘘が通るとでも?」ぐあっ!?」

オレがこの《槍》の事を聞いてもまずアスナさんに嘘をついて上手く丸め込もうとしたが、オレがクラディールの左腕のガントレットを強く握りその言葉を止める。

「オレの質問にまだ答えてねぇぞ。答えろクラディール・・・いや」

ガントレットを握り締めた手にさらに力を込めて、ガントレットを破壊しーーーその腕に刻まれた棺桶の烙印を見据える。

「《笑う棺桶(ラフィンコフィン)》」

「ラフコフ・・・!?」

「お兄ちゃん、その《槍》・・・」

「ライリュウ、そいつは・・・」

「解ってる・・・」

この前PoHが言ってた事はこういう事だったのか。やっと会えたぜーーー

「弾の・・・仇!!」

「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

オレは怒りのままにクラディールの鳩尾に拳を突き出し500メートル近く先まで殴り飛ばす。それを追い越し踵落としで地面に沈める。
まだだ。あいつらの受けた痛みに比べたらまだ全然足りない。

「解った!悪かったよ!俺が悪かった!もう《血盟騎士団》も辞める!殺しからも足を洗う!あんたらの前にも二度と現れねぇよ!だから・・・!」

「ッ!!」

土下座して命乞い?こいつーーーフザケンナ!

「お前らラフコフはそうやって命乞いをした奴らを!一体どれだけ殺してきたんだ!お前みたいな奴のために・・・どうしてあいつらが殺されなきゃならねぇんだ!!」

「頼む!死にたくねぇぇぇぇ!」

こいつは他人を殺し、自分が生き延びるために命を乞う。人の命をただの壊すためだけのオモチャとしか認識してねぇ。こんな奴ーーー

「・・・やめだ」

殺す価値もない。

「オレはお前らと違って甘いんだ、逃げるチャンスをやるよ。3秒以内にオレ達の前から立ち去れ!」

それだけ言い残しオレはキリト達の所に戻るため振り返り、歩みを進める。
ーーーまだ解んねぇのかなぁ。この後ろから斬りかかるクソ野郎はーーー

「お前の甘さに感謝するぜ《隻竜》ゥーーーーーー!」

「いい加減にしろよこのクズ野郎ォーーーーーー!!」

オレは叫び、剣を大きく振りかぶるクラディールの心臓をーーー手刀で貫く。それによりクラディールのHPは完全に尽き、オレの右肩に倒れ混む。

「この、人殺し野郎が・・・」

「お前に言われちゃ終わりだ・・・腐れ外道」

クラディールの身体が少しずつ歪み始め、この男には似合わない色の光の欠片となってこの世界から消滅した。

「竜兄・・・」

この時背後からオレの名前を呼ぶ声が聞こえた。オレを「竜兄」と呼ぶ人間はーーー妹の未来しかいない。

「クラディールは逝った」

「そっか・・・「だからさ」?」

オレは未来に歩み寄り、《妖刀龍燐》に手を掛ける手を抑える。

「お前は誰も斬らないでくれ。お前が涙を流さないでくれ・・・」

こいつが誰かを殺したら、オレが未来を守りきれなかったのと同じなんだ。守りてぇモンはしっかり守りてぇ。でないとーーー

「そうでないと・・・お前が好きだった弾、お前を愛していた弾が一番悲しむ」

「ッ!!」

未来は弾に惚れていた。弾も未来に惚れていた。そんな男を殺されたら当然復讐の念に駆られる。だからこそ、オレが全てを背負ったんだと思う。弾を愛して、弾に愛されてた未来が手を汚さないように。
気付けば未来がオレの胸に顔を強く当てて震えていた。未来の目が当たってる箇所が少し濡れてるからきっと泣いているんだと思う。この涙は、オレには雨のように感じた。悲しみ、泣き崩れた空が流す涙の雨。そして、どんな憎しみの業火をも打ち消す雨。

「未来」

「・・・何?」

オレの呼び掛けに少し揺れた声で返事をする未来。

「オレ、この忍者服を脱ぎ捨てようと思う」

「え?」

「もう必用ねぇから。オレの復讐の(レッド)は・・・」

もう、燃え尽きたからーーー
 
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