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艦娘達の長い一日

作者:よろず屋
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命のバトン

敵駆逐艦1「トドメ、ダ」
砲門がゆっくりと暁に照準を合わせる。
白露(だ、だめ、はやく、、逃げて、、!)
体が言う事を聞かない。
全身に広がる痛みを堪え、
這うように手を伸ばす。
敵駆逐艦1「シネ!」
白露(、、間に合わない、、)




体から力が抜ける、
喪失感から生気が抜ける。
そのままうつ伏せに倒れた。
曇った咆哮が遠く聞こえ、地響きが体を揺らす。
白露(次は私のばん、だね、、)
恐怖は感じなかった。
ただ暁と赤ちゃんを助けられなかった事が、心残りだった。
「いつまで寝転がってんのよ、だらしないわね」
聞きなられた声が頭に響く。
敵駆逐艦1「グワー!」
爆音と共に激しい水飛沫が掛かる。

顔を上げると、暁は倒れたまま。
トドメの一撃は受けていない様だった。
敵駆逐艦2「クソッ!ウシロカラダト!」
再び爆音と共に激しい水飛沫が掛かる。
白露「どういう、事?」
ずぶ濡れになった体を起こし、川岸に目をやると、
爆煙から1人の艦娘が姿を現した。
銀髪のロングヘアーがサラサラとなびく。
頭部付近を浮遊しているデバイス
純粋無垢なセーラー服は似合っていない。

白露「叢雲!!」
叢雲「待たせたわね」
腕に掴んだ敵駆逐艦2の残骸を川に捨てる。
叢雲「白露、怪我は大丈夫?」
白露はゆっくりと起き上がるが、足に力が入らず、倒れる。
叢雲「白露!!」
叢雲は慌てて川から上がり、
河原を走り、芝生に倒れてる白露を起こす。
白露は息も絶え絶え話す。
白露「来てくれたんだね。だいじょうぶだよ、むらくも」
笑ってみせる。
白露「強く体を打っただけ、しばらくすれば、動ける様に、なる、から」
力無く答える様子は全く説得力がない。
叢雲「全然、ダメじゃない!
病院に連れてくわ、あそこなら艦娘用の高速修復材もあるはずだから」
白露は首を振り、暁の方を指差す。

叢雲が暁に目をやると、
暁は泣きじゃくる赤ちゃんを差し出していた。
暁「叢雲、私達よりこの赤ちゃんを先に連れて行って。怪我をしているの」
叢雲「なんですって!」
叢雲は暁に駆け寄り、赤ちゃんを受け取る。
赤ちゃんの足から、血がダラダラと流れてくる。
叢雲「出血が激しいわ、早く病院に連れてかないと、助からない」
叢雲の表情が曇る。

自分1人で3人も同時に運ぶ事は出来ない。
だが、誰1人として死なせたくはない。
暁「大丈夫、私達は少し休んだら、
病院に行くから、早く赤ちゃんを、お願い!」
暁の強い要望は叢雲を動かした。
叢雲「わかったわ暁、赤ちゃんを最優先で連れて行く。
もし自分で病院に行けそうに無かったら、私に通信を入れなさい。
すぐに迎えに来るから」
暁、白露はうなづいた。
叢雲はそれを見ると、赤ちゃんをたすき掛けし、
病院へと続く用水路に進路を取った。
高速移動で水飛沫を巻き上げながら飛ばす。
赤ちゃんの泣き声が遠くなった所で、
暁、白露は一息つき、力無く倒れる。

暁「叢雲の事だから、
私達が苦しそうにしてたら心配して行けない」
白露「元気な振りするのも、、大変だ、よ」
浅いため息を吐き、
2人は目を閉じる。

背中の煙突から黒煙を吐き、
叢雲は用水路を進む。
叢雲「早く病院に行かなきゃ!」
たすき掛けする赤ちゃんの呼吸は弱々しく、
危険な状態だ。
急カーブを体の姿勢を低くし、最小限の曲がり角で曲がる。
用水路が両舷に裂ける。
スジ状の隆起が後に続き、潰れ、水面を騒ぐ。

叢雲「もうすぐ病院に着くはずだけど、
用水路はもうすぐ終わりね」
これ以上進むと、病院から離れるコースになる。
叢雲「もう少しの辛抱よ、待ってなさい」
赤ちゃんに語りかける。
赤ちゃんは叢雲の目を見ると、安心した様に笑った。
叢雲「そういえば、病院の隣には生け簀があったはず!」
スピードに乗ったまま水面を蹴り、飛び上がる。
数メートル程の高さに到達すると、
案の定、生け簀が見えた。
その先に目的の病院がある。

叢雲「見つけたわ!」
目の前の道路は工事中、
叢雲の落下地点には大穴が口を開けていた。
電柱脇に工事を伝える看板が見えた。
叢雲「借りるわよ!」
手に持った連装砲を砲撃する。
看板の足が吹き飛び、看板は地に伏せる。
砲撃の反動でちょうど看板の真上に着地、
勢いを保ちつつ、看板に乗り道路を滑る。
叢雲「修理代は鎮守府に付けといてね!」
隣の家の塀を砲撃、その反動を利用し、進路変更
生け簀のフェンスに突き進む!
タイミングを見計らいジャンプ!
前方3回転しながら、フェンスを飛び越え生簀に着水した。
赤ちゃんはキャッキャ喜んでいる。
叢雲「これが好きなの?
ふふっ、それじゃあもう一回してあげる」
生簀で加速する。
病院目掛け、どんどん加速する。
赤ちゃんはキャッキャ喜んでいる。
叢雲は生け簀の水面を大きく蹴り、
2階の窓ガラスをめがけ飛び上がった!
高速前回転をしながら窓ガラスを破り、
ガラスを撒き散らしながら飛び込む!
「うわー!」
「キャー!」
患者の手当てをしていた医師や看護師が驚き、辺りは騒然とする。

医師「なんなんだ、君は!」
叢雲はしゃがみ姿勢から、ゆっくり立ち上がる。
叢雲「人間ジェットコースターよ」
訳が解らないといった様子の一同

医師「何を言っている!?」
叢雲「そんなことよりも急患よ」
医師「君がか?元気が有り余ってる様に見えるが」
叢雲「私じゃないわ」
そういうと、たすき掛けしていた赤ちゃんを降ろして見せる。
赤ちゃんはキャッキャ喜んでいたが、足から血を流し、
肌の色が白っぽくなっていた。
医師「これは、、大変だ!
早く手当しなければ!」
医師は赤ちゃんを受け取ると、
赤ちゃんは突然泣きだした。
叢雲「ちょっと!怪我してるんだからもっと丁寧に扱いなさいよ!」
叢雲が赤ちゃんを手元に戻すと、赤ちゃんは笑う。
看護師「分かったわ、優しく扱うわね」
看護師はそっと赤ちゃんを受け取る。
赤ちゃんは、また泣きだした。
看護師「あなたじゃなきゃ、ダメみたい。一緒に来て」
叢雲に赤ちゃんを返し、叢雲ごと治療室に連れて行く。
叢雲「ちょ、ちょっと!私はこれから行く所が、、」
医師「君が連れてきたんだろ、付き添いなさい。
ほら、入った入った!」
手を引かれ、治療室に入れられた。

白い壁紙の清潔感漂う部屋、
高そうな医療機器の数々が並んでいる。
しかし、辺りは戦場さながら、数多くのベットは満杯、
怪我をした患者が苦悶の表情で、治療を受けている。
汗を流して懸命に治療する医師達の姿があった。

叢雲「ひどい有様ね」
赤ちゃんを抱えながら、医師に続く。
医師「何でも深海棲艦が街を攻撃したらしいじゃないか」
叢雲「ええ、、私達、艦娘が居ながら、止められなかった」
叢雲は視線を落とす。
医師は「ふぅ」とひと息吐く。
医師「私は君達のせいでこうなったとは思っていない。
元々、攻撃して来る深海棲艦に問題ある。
それよりも起きてしまった事態、過ぎた事に囚われるより、これから何をするかが大事だと思うがね」
医師は棚から幼児用の小さなベットを取り出し、治療台に乗せた。
叢雲は小さなベットと赤ちゃんを見つめる。
叢雲「、、、そうね、まだ間に合う事もある」
赤ちゃんをベットに置いた。
医師は手早い動作で注射器を用意し、
小瓶に針を刺し、液体を吸い出す。
医師「まずは麻酔をかけて、赤ちゃんを眠らせる」
その様子を不穏な表情で見つめる赤ちゃん、今にも泣き出しそうだ。

医師「消毒を頼む」
叢雲は赤ちゃんの腕をまくり、脱脂綿に染み込ませた消毒薬を塗る。
いよいよ何をされるか分かった赤ちゃんは、恐怖から泣き出す。
叢雲「ちょっと!大人しくしなさいよ」
暴れ始め、腕を振りほどいた。
握力で押さえつける事も出来るが、
叢雲は艦娘なので、力の調整を間違えると、骨折させてしまう恐れがある。
赤ちゃんの傷口から血が溢れる。
医師「このままでは注射を打つことができない。
なんとか赤ちゃんをなだめてくれ」
叢雲「くっ、分かったわ」
赤ちゃんの顔を覗き込み、努めて優しく言った。
叢雲「よしよしいい子でちゅね〜、痛くないでちゅよ〜」
赤ちゃんは一向に泣き止む気配がない。
なおも血液が滴り、
ベッドを紅く染める。
このままでは、失血死の恐れもある。
赤ちゃんの命の危機に叢雲は焦った。
叢雲「いい加減にしなさいよ!
あんたの為にやってんだからね!
泣き止みなさいよ!」
叢雲が怒鳴ると、医師達は一斉に叢雲の方を見る。

赤ちゃんは火に油を注いだ様に、
泣き方は勢いを増す。
叢雲をなだめる方が先の様だ。
医師「そんなやり方じゃ逆効果だ。
いいか冷静になれ、私が必ず助ける。
その為にも、、落ち着いて」
医師は怒っている風ではなく、
冷静に、そして穏やかに叢雲を注意した。
医師の態度を見て、
叢雲はつい声を荒げてしまった事を後悔し、俯向た。

叢雲「ごめんなさい、つい、」
医師「ああ、分かってる。
君のこの子を助けたいという強い気持ちは私にもよく伝わってくる。
だが、焦っては何事も上手くいかない。さ、深呼吸して落ち着いて」
叢雲はうなづくと深呼吸をして、
気持ちを落ち着けた。
鼻の奥に消毒液のヒンヤリとした刺激を感じた。
頭の中がスッキリする。

医師「まだ言葉をうまく理解していない赤ちゃんは、話しかけるより、
何か動作で伝える方が効果的かもしれないな」
叢雲「動作で伝える、、、」
腕を組み、左右に視線を泳がす。
叢雲(今、赤ちゃんは不安と恐怖で泣いている。
つまり安心させる必要があるのよね。
動作で安心を伝える、、)
叢雲は赤ちゃんを抱え、抱き締めた。
医師「泣き疲れて眠っただけだ。大丈夫だよ」
叢雲はほっと胸を撫で下ろした。
医師「だが、ありがとう、赤ちゃんが落ち着いたのは、
君のおかげでもある」
医師は赤ちゃんに注射をし、振り向いた後、叢雲に言った。

叢雲「当然の事をしたまでよ。
赤ちゃんがここまで来られたのも、
元はと言えば、、」
叢雲はハッとした。
叢雲「白露、暁が重症だったわ!河川敷で休んで居るから、
早く連れて来ないと!」

丁度その時、テレビの速報が流れた。
画面は川を進軍する深海棲艦の群れを映している。
「ご覧ください!突如現れた深海棲艦の群れは、現在もなお、川を上り続けています!」
治療室の皆がテレビを見ていた。
叢雲は苦虫を噛み潰した様な顔をし、画面を睨んでいる。
叢雲「あいつら、目的は一体何なの?」
医師「もしかしたら、ダムが狙いなのかもしれない」
神妙な面持ちで話した。

医師「川の上流には発電用のダムがある。
そこを壊せばこの街一帯は全て洗い流されるだろう。
そうなれば、街は全滅する」
叢雲「何ですって!?」
驚愕の表情で向き直る。
医師「あくまで私の推測だ、、」
叢雲は腕を組み、考えた。
叢雲「いいえ、その可能性は高いわ。
一刻も早く敵を止めないと、でも、白露達が、、」

医師「それなら病院から、救助ヘリを出す。
それで君のお友達を助けよう、
君は上流の敵を止めるといい」
叢雲「頼めるかしら?」
医師「ああ、もちろんだ。怪我人を助けるのは私達の務めだからね」
医師はハリのある声で言った。
叢雲「それじゃ、白露達を頼むわ!敵は私が食い止める!」
叢雲はそう言いながら、走って治療室を出て行った。
医師「騒がしいお嬢さんだ。、、、頼んだぞ」

医師は内線を掛けると、
救助ヘリの要請をした。
叢雲は元来た窓から飛び降り、生簀に着地する。
落下の衝撃が来る、体を屈め分散すると、
円状に水が窪み、飛沫がパラパラ落ちた。

用水路に向け加速する。
生簀の魚を巻き上げながら突っ走る。
右手人差し指と中指を耳に当て、
基地に連絡を入れる。
叢雲「こちら叢雲、応答を願うわ」
数秒後、ザラついたノイズ混じりの通信に答える者が居た。

瑞鶴「瑞鶴よ、何か用?こっちは忙しいんだから!」
無線の奥からは砲撃音や爆発音が頻繁に聞こえる。
敵からの基地への攻撃はまだ続いてる様だ。
叢雲「手短に話すわ、現在敵の別働隊が川を上昇中、
敵の数は戦艦1、重巡1、軽巡2よ
川の上流にはダムがあって、
多分敵はそれを決壊させるつもりよ」
プロペラのエンジン音が響く。

瑞鶴「うっそ、それほんとなの?」
叢雲「憶測の域を出てないけど、作戦としては、街に甚大な被害を出せるわ」
瑞鶴「マズイわね、ここは飛龍さんと私で何とか食い止めてるけど、
応援を出せる程の余力は無いし」
叢雲「とにかく、私は1人で敵を食い止め時間を稼ぐわ。
でも、殲滅は無理ね」
瑞鶴「分かった、なるべく早く敵を片付けて、応援に向かうわ。
死なないでね」
叢雲「フッ、あなたもね」
通信を終える頃には、用水路を抜けていた。
叢雲「川の流れが速い、上流に近づいているのね」
速い流れで敵の進行が遅れているのを願いながら、突き進んだ。 
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