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竜のもうひとつの瞳

作者:夜霧
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第五十一話

 三好三人衆を倒せば、その奥には松永久秀が待っている……ってのが、確か第一章の最終だったはず。
ここで小十郎が散々に耳の痛いことを言われるんだっけ。

 松永の目的は六の爪だったっけ。
小十郎は政宗様も刀もどちらも守ろうとして、重傷なのにも関わらずに戦うんだっけね。
まぁ、ゲーム的にそこで戦わないと話にならないからアレだけど、今の状態見てると蹴り入れたくなる選択肢だわね。

 「小十郎、ストップ」

 あの長い羽織の裾を掴んで強引に動きを止める。
突然引っ張られてコケかけた小十郎が批難する目で私を見るが、そんなん無視だ。

 「小十郎、この先には誰が待ってると思う?」

 「……この先?」

 小十郎がやや考えて、かなり嫌そうな顔をする。本気で関わりたくない、そういう顔をするから素晴らしい。
ある程度の年齢になるまで人から冷遇されてきたせいか、結構人に対しては警戒心が強いんだけど、
それでも基本的に人の好き嫌いってのはそれほど激しくは無かったはずだ。
敵だから嫌い、ってのはあるだろうけど、本気で嫌がっているところは明智を除いたら見たことが無い。

 宴の主人公だよ? あの松永っての。
悪役中の悪役、なかなかプレイヤブルキャラクターになれなかった悪役さんだよ?
あの自称神様から嫌われっぷりは凄いって聞いてたけど、そこまで嫌いますか。

 いや~……松永のストーリーモードきちんとやっとくんだった。
第一章で投げたもんね。小十郎倒した罪悪感に打ちひしがれて。
政宗様は容赦なく顔面掴んでどっかんどっかん爆発させましたけど。
あと、天下統一も何処行っても歓迎されないってのが痛々しいらしいけど。

 まぁ、それはおいといてだ。

 「……おそらく、松永久秀が待ち構えていると思います。
姉上が留守中に政宗様の刀を狙って押しかけて来た傍迷惑な奴です。
あの刀を奪うために兵は人質に取られるわ、政宗様は怪我を負われるわ……最悪でした」

 「で、小十郎が一人で突っ走って、危ういところを政宗様に助けられて……って感じ?」

 「ど、どうしてそれを」

 どうしてって……そりゃ、英雄外伝の方もプレイしたから。
アンタの無茶っぷりもキレっぷりも見てきたからね。つか、ああいうスレた感じの小十郎もまた好きだわ。私。

 「小十郎ならやるかなぁ~って、予想。正解?」

 小十郎ったら私からすっかり目を逸らして少しばかり気まずそうな顔をしている。
まぁ、今回はアレもストーリーの一つだからってことで殴らないでおくけど、
次やったら姉上交えて小十郎が大好きな説教だからね。

 とりあえず、それが目的ということを初めて知った風にして、
私達の後を追ってきた兵達に連れられている布団干しの政宗様の六の爪を一本ずつ改める。
小十郎が咎めてきたけど、軽くダメージにならないようなところを狙って回し蹴り食らわせておいたから大人しくなってくれた。

 「松永とかち合ったら、間違いなく戦うことになるよね。六の爪狙って」

 「まぁ……そうなりますな」

 「あげちゃおうか。欲しいんなら」

 「なっ……何を言っておられるのですか! か、軽々しく政宗様の刀を差し出すなど」

 いや、だってねぇ……状態どうなのかと思って全部確かめたけど折れてるんだもん、一つ残らず。
折れてるというよりも砕けてるってのもほとんどだし、どう考えてもあげても後に差し障りなさそう。
全部新しく作り直したって修理に出したって、この状態じゃ大して金額変わらないよ。

 「政宗様を含めた三千弱の人の命と六の爪、アンタはどっちが重い?」

 「……それは」

 悪いけど、ここで無駄に消耗したくはない。
この次の展開を考えれば、ここは最小限に押さえたいところだ。
これで政宗様がどうこう抜かしてきたら、重力でぺったんこにして私が伊達家を乗っ取ってやる。

 まだ納得出来ないといった小十郎を更にもう一度回し蹴りを食らわせて、渋々納得させて奥へと進む。
行き止まりに突き当たったところで、案の定、予想通りに嫌われ者の松永さんがスタンバイしていた。

 「やっぱりいたか、松永!」

 ゴキブリでも見るような目つきの小十郎をちらりと見て、松永は何処か小ばかにしたような笑いをする。
黙って立っていればなかなかカッコイイ、ナイスミドルなおじさまなんだけど……如何せん、キャラ設定が悪すぎる。
っていうか、本当に嫌いなんだね。小十郎ってば。

 「随分と珍しい者を連れているじゃないか、竜の右目」

 「……何?」

 松永はその目を小十郎から私に移して不敵な笑みを浮かべる。

 「時の流れを狂わせる、“外の世界”の人間と右目とはどういう関係なのかね」

 「……双子の兄弟だけど、アンタ何を知ってんの?」

 時の流れを狂わせる、外の世界……どれも引っ掛かる言葉だ。
だって、これってこの世界がゲームの世界であって、現実の世界じゃないって知ってるって解釈出来る。
そして私がこの世界の人間じゃないと知っている……都合のいい解釈じゃなくて、多分それで正解なんだと思う。

 「アレもまた、困ったことをする……決められた役割を果たせる演者ではなく、
世界の均衡を崩す者を招き入れるなど、本来ならば許されることではないのだよ。
六の爪を差し出して、簡単に通過されては困る。
この街道で私と出会った……この道筋もまた、意味があるとは思わないかね」

 この道筋もまた……?
松永とここで会って戦って、嘲りを受ける……それもまた、小十郎が進むべき道を示す一端になっている……?
今の状況は、回避可能な無意味なイベントではないということ?

 「テメェ、何を言ってやがる!」

 刀を構えた小十郎を制して、私は少し考える。
だとすると、ここでは戦わなければならないのだろうけれど……なら、コイツは一体何者?
ゲームのキャラクターならどうしてそんなことが分かるわけ?
ゲームのキャラクターが、この世界がゲームで、自分が操られるキャラクターの一人だなんて分かっていたら
ゲームが崩壊しちゃうじゃないの。そういう設定になっている、ってわけじゃないでしょ、流石に。

 「卿の疑問は最もだ。だが、いずれそれは来るべき時が来れば理解も出来よう。
今はただ、私の決められた役目を果たさねばならんのだ。それは全て“あの日の誓い”の為に」

 その言葉に私は眉間に皺を寄せた。

 おそらく“あの日の誓い”が政宗様のストーリーに繋ぐキーポイントになる。
悩んで迷って後悔して、そして最後に小十郎が腹を括らなけりゃ、括って誓いを立てなければ政宗様が立ち上がれない。
きっとこのまま目を覚ますこともないだろう。
政宗様が目を覚ますのは、小十郎のストーリーの最後、そして時系列的に政宗様のストーリーが始まる直前。

 ってことは、要所要所は押さえて話を進めていかないと、
徳川の傍迷惑な同盟の話をクリアしても政宗様の復活には繋がらないってこと?
こいつは面倒臭い……。

 「御親切にどうも。アンタがこの際何者かはこの際置いておくとして……
少なくとも、この時点で私が戻ってきちゃいけなかったのは分かったわ」

 私がいたら、それだけで十分にバランスを崩す。いや、寧ろバランスが安定してしまうと言った方が正しいかもしれない。
小十郎もこの不安定な状況だからこそ、迷って悩んで揺れ動くことが出来る。
私がいたら、小十郎の心の支えになってしまう。それでは小十郎が先に進めない。

 「……小十郎、作戦変更。行って潰して来い。私はここで政宗様達を守ってるから」

 「……姉上?」

 少しばかり訝しげな小十郎に、軽く背を押して送り出してやる。

 松永と戦う小十郎の姿を見て、散々に小ばかにされて言い返せずに悔しがっている様を眺める。
しばらくモブっぽく兵達に混ざって見ていたけれど、殊の外早く勝敗が決したようで、松永が爆発してその場からいなくなった。

 ……何だか考えることが多くなりそうで頭が痛いわ。差し当たって、これからの事を考えないと。
今更ここから抜けて何処かに行くわけにもいかないし、私の動き方一つで物語がとんでもない方向に流れてっちゃうわけよね?
大体、竜の右目は本来一人なんだから、今の状況が相当異常なのよ。

 そう考えると、政宗様が私を手篭めにしようとしたってのも……物語の軌道を修正させるための手段だったのかも。
だって、私があのまま留まっていたらとんでもない方向に話が転がっていったかもしれないし……いや、都合良く考えすぎか。

 酷く悔しそうな顔をしている小十郎を見て、特に慰めの言葉を掛けることなく先に進む事にした。

 ……これは辛いわ、黙って見てなきゃならないってのは。口出ししちゃった方が早いもの。

 次の展開を考えると、本当に気が重い。

 越後に着くまでの間、どうにか自分の役割を見つけておかないと。そう考えていた。 
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