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竜から妖精へ………

作者:じーくw
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第9話 ゼクト vs エルザ







 1つの戦いに幕が下りた。
 それを見ていたエルザは、思っていた。

――……今日は驚きの連続だ、と。

 驚きの連続。
 その始まりは ギルダーツが帰ってきた事からだった。改めて考えてみたら、ギルダーツが帰ってくる少し前に起こった突然の地震ももしかしたら、関係があるのかもしれない、と思う。このマグノリア周辺での地震は稀なのだから。
 そして、震源地が遠かったから、少しだけしか感じられなかったが、あの地震は、自然のものじゃなく、魔力も感じた。

 地震が起きた当初、マスターもいたし、さほど深刻な顔もしてなかったから、それほど深くは受け止めなかった。

 そして……、変わった事があった。再びギルダーツが帰ってきた時、連れ帰ってきた少年の事だった。

 エルザは、最初に見た時は、迷子の子供を連れ帰ったのか? と思った。ギルドで預かるのだろう、程度にしか考えてなかった。何故なら、ギルダーツは、凄く優しい。分け隔てなく接し、ギルドの子供達にとっては、父親も同然だった。マスターもそうだが、ギルダーツもそうだ。
 暴れん坊のナツも実の父親のように思っている。そして、エルザ自身も。

 そんな彼だから、子供を連れ帰った事、それ自体には然程驚きはなかった。

 だけど、少年の、ゼクトの話を聞くと、かなり強いと言う事が判った。

 当然ながらナツは反応する。それこそいつもの通りだ。あれよあれよと言う内に、話がまとまった様で、手合わせをすることになった。


 そして、勝負はすぐについた。

 
 ナツの実力は、日々向上している。それでも ギルドの先輩として、まだまだ、エルザは 負けるつもりが無いが、それでも……、その向上心、そして 成長速度は 目を見張るものがあった。

 恐らくだが、ミラも同じように思ったのだろう。エルザは、ミラよりも先にゼクトと勝負したかったが、ジャンケンで負けてしまって後になった。

 だけど、正直にいうと、()など無い。考えてすらなかった。

 何故なら、エルザは ミラの実力は私はよく知っているからだ。勿論、ミラ本人の前では決して言わないが、その実力は認め、今ではギルドの中で1番のライバルだと思っている。

 だからこそ、少なくとも今日はしないだろう。無いだろうと思っていた。



――……それこそが、間違いだった。完全に見縊っていたのだ。
 


 結果は 予想が大きく外れた。……ゼクトはミラをも一蹴したのだ。
 その事が、その事実がエルザを震えさせた。彼女が、今日一番驚いた事である。


『私のライバルを……一蹴した』


 内心で、そう呟いていた。


 そして、その後 ギルダーツの話を聞いて、ゼクトの想いも聞いて、もう疑う余地などない。本当に良い男の子なのだと感じた。入ったばかりだと言うのに、ギルドを、本当の家族の様に 想っているのだ。

 同年代であんな考えを持った者になど会った事は皆無だ。とても強くて……そして、とても優しい……。



 最初こそ、複雑だったミラも、ゼクトの想いに触れて、心の靄が晴れたのだろう。最後は笑顔で握手をしていた。仲が良い事は何よりだと、エルザは声をかけつつ、もう一歩近づき。



「次は私だなっ!」


 声をかけた。
 エルザは、驚いていたが、しだいにそれは薄れていた。

 もう、『自分がどこまで通用するのか?』それしか考えられなくなり、わくわく感に満ちているようだった。


 早る気持ちを抑えきれずに、エルザは、ミラと握手をしてるゼクトの方へと向かったのだった。














 それは、エルザが近づいてくる数秒前の事。
 ゼクトは、初めの顔が嘘のように笑顔だった。

「ありがとうっ! ミラ」

 ミラが、握手に応じてくれた事が嬉しくて、暗かった顔が一気に晴れた……太陽が昇ったかの様に、花開くかの様に、笑顔だったんだ。

「いや……っ、別になんでもない……よ? アンタの…ゼクトの本音聞けてよかったし……。それに、私も 負けた癖に、色々と、悪かったし……」

 ミラは、ギルダーツには言われたけど、負けた後の事少し気にしているようだった。でも、ゼクトはそんな事は本当に気にしていない。寧ろ自分の方が悪かった、とまで思っていたのだから。

「あ……はは。なんとも思ってないよ。オレだって、同じだから……。だって……」

 ゼクトも、また同じような事を言おうとした時。

「ははは……、お前らいつまでやってんだって。いい加減終わりでいいじゃねえか。何度も同じ様なことリピートしやがってよ」

 最終的には、まとめ役として すっかり定着したギルダーツが割って入ってきた。
 その顔は、完全に呆れている。もう、この手のやり取りは、何回目だ? と思ったからだ。

「(全く……ガキらしくない不器用な奴らだな)」

 呆れながらも、ギルダーツは苦笑いをしていた。

「ッ……そうだよね」

 ミラは、ギルダーツの言葉を改めて頭に入れると。両頬をぱちんっと叩く。

「(ずっと、メソメソしてる何て、私らしくない…よねっ?)うん! ゼクトっ! これからもよろしく!」

 ミラは、もう謝ることを止めて。吹っ切れるように笑顔でそう言う。

「うんっ。こちらこそ! ミラっ」

 ゼクトはミラと同じ気持ちになったのだろう。同じように笑顔で答えた。


そして……その直後に、エルザがやってきたのだ。


「ふむ。仲良くなったのは良い事だ。……次は私の番だなっ!」

 エルザが笑顔で立っていた。エルザが後ろにいる事を認識したミラは、一気に顔色が変わる。

「うっ……(しまった……エルザに…泣いてるとこ……それに負けたとこも……)」

 ミラは、エルザの顔を見るなり露骨に嫌がってた様だ。ミラ自身もエルザの事をライバルとしてみているから、自分の弱い所を見られたくなかったのだ。

「うん。わかったよ。……ん? ミラ? どうしたの?」

 ミラが、先程の笑顔から一転して、難しい顔? をしていた為、ゼクトは気になって聞いていた。

「い…いやっ なんでもない! そっ…そーだ! ゼクトっ!」

 ミラは、何かを振り払う様に、力を入れると、ゼクトに向かって、指をビシッ! っと突きつけて言った。

「ゼクトは私に勝ったんだからねっ!? エルザなんかに負けたら許さないからッ!」

 自分に勝ったのだから。エルザには負けない。
 ミラは、そう信じる様に言ったのだ。――……或いは……。

「あ……あはは、うん、頑張るよ」

 ゼクトは、突然の剣幕だったから、少しだけたじろいでしまったが、最後には苦笑いしていた。

「む……なんか(・・・)?」

 エルザはと言うと、戦う相手はゼクトだった筈なのに、その闘気……いや、殺気にも似た気迫を ゼクトにじゃなくミラに向けた。
 
 どうやら、いつものスイッチが入ってしまった様だ。ギルド恒例。最強の女の子2人の戦うスイッチが。



「何だよ!!」
「むううう!!」



 あっという間にゼクトの事を忘れてしまったエルザ……、いや ミラもかもしれない。
 ゼクトを押しのける様に、ミラとエルザのにらみ合いが始まったのだ。

「え……っと……」

 ゼクト自身は、ちょっと対応に困っていた。
 困っていたのだけど、そんな中でも……わかったこともある。


 初めてみた時、エルザとミラの2人は……すっごく仲が悪そうに見えたんだ。色々と口喧嘩もしていたから。

 だけど、今はそんな印象は全くない。……凄く仲がよさそうに見えるんだ。


「なっ? 大体わかったろ? ゼクト」

 そんなゼクトのの考えを悟ったように、話しかけてきたのはギルダーツ。

「え…?」

 ゼクトはきょとんとしてた。何を言われているのかが判らなかったから。

「――……これが仲間ってヤツだ。たまに喧嘩して……、馬鹿騒ぎして……、 一緒に仕事やって……ってな具合でな? お前が言ったみたいに、なるわけ無いんだ。それに、『喧嘩するほど仲がいい』って言葉もあるからな」
「あはは……うん。わかった」

 ギルダーツの言葉を訊いた、ゼクトは良い笑顔だ。それは歳相応のものだった。

「ははっ……じゃあ頑張れよ? ゼクト」

 そう言ってエルザ達のほうに向かう。


「おいおい……お前ら、ゼクト困ってんぞ?」


 またまた、仲裁に入っていた。ギルダーツも色々と、大変だって一瞬思っていたのはゼクトだった。

 そして、勿論 当の2人の戦乙女(ヴァルキリー)は、熱中していた為、ギルダーツの話を聞いてなかったらしく、エルザがゼルと向き合ったのは暫く後の事だった。


「あははは………」


 待っている間、時間を忘れて2人の事を、笑顔でゼクトは見ていたのだった。


 そして、今度こそ始まる。本日3戦目。

「待たせたな! さあ やろう!」

 エルザがゼクトの前に立っていた。ミラも、もう観客席側? へと戻っていったから。

「うん。よろしくっ」

 ゼクトも今回はミラの時の様な反応はせず、ただ…純粋に楽しむようにしよう。力いっぱいぶつかってみよう。そう考えていた。






 漸く2人が向き合った事に、軽く安堵したのはギルダーツ。

「ったく……アイツも世話ぁーかけやがってなぁ」

 軽くため息をしていた時。 

「ねーねーギルダーツ!」

 そこにミラが、話しかけた。

「あん? どうしたミラ?」

 ギルダーツがミラが来たことに気が付きそう聞く

「その……、ゼクトの事なんだけど……さ?」

 エルザと対峙しているゼクトを見ながらそう言う。

「な~んだ? 本気(マジ)で惚れたのか?」

 妙に赤いミラの事を見て、ギルダーツが笑顔でそう聞いた。

「………///」

 いつもなら、一蹴する所だが、今はちょっと、言葉を返せてないのはミラだ。

「おっ?? 本気(マジ)なのか? っはっはー! こりゃいい。あのミラがなぁ~~!!」

 ギルダーツは大笑いをしていた。男勝りなミラが恋をした。そんなの後何年後になるのか、検討もつかなかったと言うのに。

「って!! うっさい!! 声でかい!!!」

 大声で笑うギルダーツに向かって蹴りを放つ。乙女を笑ったのだから、これくらいしても、罰は当たらないだろう。ピンポイントに直撃したのは、また脛。

「って! いててて……」

 ギルダーツも、子供の蹴りだが、やはりそれなりには、響くらしく、脛をさすっている。……でも、笑みだけは崩さなかった。

「んで? 何が聞きてえんだ?」

 笑いながら、ミラに聞き返した。今度は茶化している感じじゃない。成長した子供を見るかのような笑みだったから。

「っもう、そんなんじゃ無い! ………えっと、ゼクトって何者なのかな? って訊きたくて」
「………」

 ミラの問いに、ギルダーツは何も答えなかった。ミラは続けて訊く。

「ほらっ、ゼクト……今日入ったばかりなのに、このギルドの事、フェアリーテイルの事が、好きっていってくれてる。大好き、って。……それに、ギルダーツは言ってたよな? ゼクトは、人付き合いが苦手って。……でも、そんなレベルじゃないって思う。さっきのだって、私の方が明らかに悪いのに、ああいう風に考えて、言うのって……。前によっぽど酷い事があったのかな…って」

 ミラは、純粋に彼を心配しているようだった。



 同じ歳で…何かを抱えているのか…。ものすごく大きな闇を……。そう感じたのだ。



 それに、友達になった時。ゼクトは凄く笑顔だった。勝負の時とは比べ物にならない程に。憑き物がが落ちたかの様に。

「……やさしいんだな? ミラは。流石お姉ちゃんだ」

 ギルダーツがそう言って、頭を撫でた。そして、その後に チラッと見たのは エルザとゼクトの戦いを観戦している2人の子供。ミラの妹と弟のリサーナとエルフマンだ。姉だからこそ、面倒を見なければいけない2人がいるからこそ、優しくなれるのだろう。

「もうっ! そんなのはいいから教えてよっ」

 ミラはちょっと照れながらそう言う。だけど、明確な答えは帰ってこなかった。

「わりーな。オレもアイツの考えはわかっても、今までの事は、以前までの事は 全く知らねえんだ。そもそも、オレだって会って、たった1日。昨日なんだぜ?」
「……そう」

 ミラは、少し残念な表情をした。もっと、ゼクトの事を知りたい、と思っていたから。直接訊くのが難しかったからこそ、ギルダーツに訊いたのだ。

「ミラ」

 ギルダーツは、ミラの頭を軽く撫でるとゆっくりとした口調で言う。



「……1つ、判る事。アイツから訊いたのは、過去の記憶がねぇ、って事だ」


 その言葉に戸惑いを隠せれないのはミラだ。 

「え…?」

 いきなりの事だったから、どう反応していいのか判らず、ただただ、驚きの表情でギルダーツを見ていた。

「……だけど、あんまし騒ぐなよ? アイツは今、()を向いて歩き出してんだからよ。だから……」

 ギルダーツは、頭から手をのけると、ミラの目を見ていった。

「お前が、……お前らが アイツの《何か》になってやれ。『昔の事なんてどうでもいい。今現在の方が大切だ』って言わせるくらい……にな? これだけ、好きだって面向かって言われてるんだ。答えてやろうぜ」
「う……うん!」

 ミラは元気良く……笑顔で返事をした。


 記憶がない。
 その事に衝撃を受けていた。何故なら、記憶が無い、と言う事は、今までの自分の記憶がない。仲間や家族、その記憶が無いのだ。


 だから、ずっと一人ぼっちだった。そう言う感じ。

 
 そんな時、何故好きだと感じるのか判らないが、心から大好き、と言ったフェアリーテイルに来たんだ。



 ミラは、それを訊いて改めて罪悪感を感じていた。

「私……ほんとに酷い事いっちゃったな。ゼクトに 見下すとか……嘲笑うとか……」

 思ったのは、先程の事だ。

 彼に、ゼクトにそんな事できる訳が無いんだ。ギルダーツが言ってた事、今ならミラも理解できた。
 
 でも、暗い気持ちと顔をするのは、一瞬だけだった。


「(……私がこんな顔しちゃ…、駄目っ)」

 ミラは、顔を両手で“パチッ”っと叩くと。



「ゼクトーーッ! エルザなんかに負けたら許さないからーーーっ!」



 ゼクトは笑顔を好む。暗い顔よりも、何倍も。

 だから、ミラは笑顔で、それでいて、大声で声援を送ったのだった。









 当然だけれど、ミラの声は大きかったから、声は十分に届いていた。

「あっ……うん。頑張るよ! ミラっ」

 突然の大声に、ゼクトは 少し驚いたけど……自分を応援してくれてるって言う経験は初めての事だったから、とても嬉しかった。

「むぅ……ミラのヤツ! またっ!」

 でも、反対にエルザは不機嫌だった。また挑発された様なものだから。

「あのっ…その…よろしくね?」

 ゼクトは、ちょっと慌ててそう言っていた。また、ミラとの件が始まってしまったら本当に長いから。ギルダーツにも言われた事もあるから 肝に銘じている様だった。

「ッ! ああ、よろしく頼むぞ!」

 エルザは慌ててゼクトを見た。

 エルザ自身も、ギルダーツの話も聞いている。

 この……目の前の男の子は本当に優しい。

 たぶん……今のやり取り、エルザや、他のメンバーからすればいつも通り。いつもの光景なのだけど、当然入ったばかりのゼクトにとっては、違う。

 そう、心配されるのはギルドの先輩にとってあるまじき事、だろう。

「知っていると思うが、自己紹介をしよう。私はエルザだ。よろしくな」

 エルザは、まず自己紹介をしていた。

「あ…うん。オレはゼクトだよ。よろしくね」

 ゼクトも、エルザの様に返した。

「よし……っ これで、私達はお互いを知った。 自己紹介は終わりだ。――……私も本気で行く。私の今の実力を試してみたいからな。だから、手を抜くなよ? ゼクト。私は……、いや 私達はそんな事でお前の事を嫌ったりしない。仲間の事を、そう思う様なヤツはこのギルドにはいないから」

 エルザはそうはっきりと、きっぱりと言っていた。
 皆にも聞こえる程の大きさの声。その声に、観戦をしていた皆、頷いて、そして笑っていた。 ギルドに入ったからには……入ったと同時に家族のようなものだから。突然戦いになってしまうのは、……正直物騒な気もするけど、もう、ゼクトにとっては、どうでもよかった。


「っ……うんっ! ありがとう! エルザっ」


 だからこそ、笑顔で 心からの笑顔で、もう 何度目になるか判らない。今まで生きてきて、他人にお礼を言った事なんて 全くない。記憶にない、っていうのに今日だけで もう何度言ったことだろうか。

 ゼクトの、その笑顔は まるで光のようだった。少なくとも、正面から見たエルザには光に見えた。

「っっ! あ……ああ!」

 少し見惚れてしまったのかもしれない。だから、エルザは 少し歯切れが悪かった。

 《光》と形容出来る人に、同年代で出会う事など思ってもいなかったから。

 だから、よく心配をするゼクトに、あらぬ誤解をされてしまうかもしれない、とエルザは 一瞬思ったが。どうやら、その心配はなさそうだった。

 ()だから直視……する事が難しかったが、確かにエルザは彼の顔を見た。

 心配をしている様な顔ではない。光のまま。……ずっと、笑顔だった。




 そして、最早バトル審判? となったギルダーツが2人の間に入ると。

「よぉ~~し。さて……いくぜ? はじめぃ!!」

 ギルダーツのその一言で、手合わせ、ゼクト vs エルザが始まった。



「……よし、ゼクトの魔法は見せてもらったからな。今度は、私の魔法を見せてやろう! ……換装!」

 エルザは、突如、光に包まれた。
 様々な色の光がエルザの身体に纏わり、形を成していく。

「わっ……わわっ……!」

 ゼクトは、突然 光り輝いたエルザを見て驚いていた。軈てエルザの姿がはっきりと見えた。先程まで、纏っていなかった鎧、そして 槍を持って。

「雷帝の鎧!」

 金色に輝く鎧、それを見てゼクトは 更に興奮する。

「わぁ………凄いね……っ!」
「ふふふ……これは、別空間にストックしてる鎧だ。自慢のコレクションの1つ、だな!」

 驚いているゼクトを見て、見せがいがあると言うものなのだろう。エルザは、喜んでそう言っていた。

「うん……、光に包まれてさ。なんだか、エルザ、とっても綺麗だったよっ!」

 ゼクトは、ありのままの気持ちをそのまま、エルザに伝える。すると、この返答は予想外だったのだろうか、槍を構えていたエルザは、思わず落としてしまっていた。

「っ!! なっ、なななっ……!!!」

 明らかに動揺をしてしまうエルザ。そして、それを見ていた観客(ギャラリー)達は、更に沸いた。


「はははは!!」
「ほんっと、ゼクトって、天然だなっ?」
「なんだか、微笑ましいぜ~。まだまだガキだっていうのによ!」
「それに、エルザのあんな顔! はじめて見たな」

「む~~~………」


 などなど、一部を抜擢。

 大半が、微笑ましそうに見ているのだが、その中にはエルザの事を気にしてる? 怒っている? 様な人もいた。それはミラはである。睨んでいるのか、非常に顔が怖いものになってしまっていた。……ゼクトと戦っていた時のサタン・ソウルよりも……。


「え? ……ええ?? その……っ…、ほ、本当にそう思ったから……」

 ゼクトも、突然場が沸いた事に驚きを隠す事が出来ず、きょろきょろと周囲を見渡していた。。

「ッ! おい! 集中しないかっ//」

 エルザ自身も慌ててはいたのだが、全く計算なく素の気持ちである事は、ゼクトを見てはっきりと判ったので、何とか誤魔化す事が出来ていた。

 もう、戦いの幕は上がっている。ここまできて、中断するわけにも行かないからだ。

「あっ! うんっ!」

 ゼクトも、流石に目の前のエルザに言われたから、直ぐに集中した。
 しっかりと向き合わないと…相手に失礼だから。もう、ミラの時の様な事は考えない様に、とゼクトは思っていたから。

「ごめんね? その……変なこと言って。今は 勝負をしてるのに……」

 エルザの事を、怒らせた、そう思ったからゼクトはそう言う。

「っ!! だから怒ってない/// そんな顔するなっ」

 エルザは慌てて、そう言う。

「あ……うん!」

 ゼクトは顔を戻した。

「さぁ!! やるぞっ…///」

 エルザは、まだまだ顔が赤いが必死に顔を戻した。

 そして、雷帝の槍を正面に掲げる。

「雷鳴招来っ!!」

 エルザは、掲げた槍を、地面に突き刺した。
 すると、大地より、荒れ狂った雷撃が周囲に迸りながらゼクトの方へと向かっていった。

 雷帝の鎧。その名の通り、雷の属性を付与させる物の様だ。

「っ!」

 直線上の雷撃。やや 歪曲はするが、それでも凄まじい速度故にか、大体の軌道を読む事が出来たゼクトは、直ぐに横へと跳躍して回避した。
 確かに、雷は、雷速は早い。それを攻撃として活用をするのであれば、凄まじい速度の魔法だ。
 だけど、それでもゼクトの方が早かった。

「何っ!? 見失った!?」

 エルザは、ゼクトの回避速度。 そして 自身が放った雷撃が地面に着弾した時に発生した砂埃のせいで、煙幕になり ゼクトの姿を見失っていたようだ。
 だが、一瞬、ほんのだけ気配が感じた。それは自分の背後から。

「ッ!!」

 だからこそ、エルザは身体が反応した。

「飛翔の鎧ッ!!」

 素早く、換装し直したのだ。雷帝の鎧からまた、別の鎧へと。

「わぁっ!!」

 エルザの換装シーンは ミラの時同様に、何処かワクワクしてしまう。変身をしているも同然だから、と言う年相応の気持ちがゼクトにも勿論あるからだ。

 だからこそ、僅かながら、攻撃のスピードが落ちていた。その一瞬をエルザは見逃さない。

「そこだっ!!」

 飛翔の鎧。それは、その鎧を身に纏ったものの素早さを向上させる鎧。まさに《飛翔》の名の如く、空を翔るかの様に移動速度を上げる。
 それは、移動速度だけでなく攻撃の速度も。雷速は確かに早いが、制御が難しい。自分自身から離れた攻撃を更に正確にコントロールし、ゼクトに当てるのが非常に難易度が高いからだ。

 だからこそ、エルザは攻撃の方法を変えた。
 自由自在に動かせる。日々、研鑽を積んだ剣術へと変えたのだ。
 
 隙を見せたゼクトに剣で斬りつけた。《疾風斬》と言う剣技だ。

「って! エルザ!? マジで、斬るなんてやりすぎだろ!?」
「……いつもやる事無茶苦茶な気がするが、基本的に素手だったし。今回は流石になぁ…… 大丈夫かな? ゼクトは」
「あわわわわ………」

 斬るシーンなど、ギルド内では殆ど無い。と言うか 危ない。喧嘩がそこまで発展しようものなら、即座にマスターが止めに入るだろう。だけど、今は勝負だ。だからこそ、エルザは熱くなってしまったのかもしれない。

 大多数が、ゼクトの心配をしてくれていた。……だが、それは全員ではない。当然、ゼクトの事を心配してないものもいる。……心配をする必要がない、と思っている。

「何言ってんだ……皆して」

 その内の1人がミラだった。遠目で見ていたから、よく判った様だ

「えっ!? どう言う事ミラ姉? だって、今ゼクトが……」

 ミラの隣に移動したリサーナは、そう訊いていた。
 その隣には、ナツもいた。痺れて倒れている間に、ずっとリサーナが面倒を見ていた様だ。

「こ、ら…… ゼ…クト! 簡単に負けんじゃ……。あう……まだ、痺れ……とれね……」

 ただ、まだ体中が痺れている様だから、大きな声を上げたりは出来ない様だった。

「はぁ……だから、ナツもリサーナもよく見てみろって。エルザの表情。それだけで、判るから」

 ミラはエルザをさしながらそう言う。

「え?」
「……えぇ?」

 今までは、ゼクトの方を。斬られた、と思ったゼクトの方を見ていた2人は、向きを変えて、エルザの方を、言われた様にエルザの顔を見た。
 ミラの言うとおりだ。それだけで、よく判った。今、エルザは、戸惑って、そして驚いている。斬ったなどとは思っていない。それが表情に現れていたのだ。



「ッ……」

 エルザは、そう驚いていた。

 飛翔の鎧の効果、それは、字の如く己の速度、その全てを上昇させてくれる。それはまさしく飛ぶが如しだ。隙を見せたゼクトに、……完全に油断をついたと思った一撃を当てたと思った。間合いに入って……間違いなく攻撃を当てたと思った。

 そう錯覚する程、完璧なタイミングだったのだ。

「感触が………まるで……、無い」

 振るった剣に、何も残らなかったのだ。当てた、と思った。いや、当てた()なのに。

 

 だが、あの刹那の瞬間、エルザは見た。
 それは、ゼクトが両の手を合わせた。あの刹那の時の狭間で。

『ふぅ……危なかったよ。それに怖かった……』

 そう言いながら、エルザの背後。まだ砂埃が舞い上がる背後付近から、ゼクトは出てきた。

「ッ…… あの間合いで……あの速度で、いったいどうやって」

 明らかに異常な速度だった為、エルザには冷たいものが、背中に伝っていた。

『え、えっと………。うん。質問とかには答えたいって思うんだけど……。 流石に、今 手合わせしてる相手に手の内を教えるのは……どうかと思うんだけど……』

 ゼクトは、苦笑いをしつつも 困りながらそう言うと、エルザも納得をした様だ。いや、無理矢理納得をさせただけだ。動揺する心と身体を元に戻す様に。

「むぅ……確かにそうだなっ! なら………」

 エルザは、飛翔の鎧を解くと。

「換装・天輪の鎧!!」

 別の鎧へと変化させた。
 戦闘の状況によって、様々なスタイルに変更出来る。かなりの応用力がある事が、ゼクトにはよく判った。だけど、それ以上に。

『わわっ!!』

 エルザが変身? をする度に驚き、まるで歓声を上げる様に、目を輝かせていた。

「ゼクトの速さは飛翔の鎧でも追いつけないみたいだ。なら、……物量で押し切ってみせる!」

 エルザは、剣を構え、その切先をゼクトに向けると同時に、宙に舞う剣達の切先が、エルザに連動する様に、一斉にゼクトへと照準を合わせていた。
 それも、今現在エルザの周囲に浮いている剣だけではない。……次々と、エルザの回りに剣が現れているのだ。

『わっ…わわっ!! 凄いっっ』


 1つ1つに驚いているゼクト。
 それは……本当に純粋に驚いているようだ。……年相応の素顔がずっと出ていたんだ。

 
 そんなゼクトの素顔を眺めているギルダーツはただただ苦笑いをしていた。

「ったく……あいつ。間違いなく、まだまだガキなんだよな。……オレとやったときはそんな雰囲気全く見せてなかったくせによぉ。……本当に良かったな」
「ふふ……。みたい、じゃな。……つまり、ギルダーツと戦っていた時とはまた違う。……まだまだ あやつは本気などなっていないって事かの?」

 マカロフも隣に立っていた。

「ん? ああ、だろうよ。ん……? いや、正直わかんねーな。()のアイツにとっては全力だと思うからな」

 そう言って笑う。

「ふむ……。そう、じゃろうな。……間違いないわい」

 マカロフもギルダーツの意図に直ぐにわかったようだ。

 敵と認識していた時と今。
 それは、自ずと力量は変わるだろう。例え、本人がいくら本気と言おうと。これは、ただの手合わせなのだから。

「…………」

 丁度、ギルダーツとマスターの傍に やってきたのはラクサスだ。

「お? 次はお前もやってみたい! って言い出すのか? さっきまで、『今日(・・)は、やらねえ』って 感じに言ってたのによ?」

 ギルダーツは、笑いながらそうラクサスに言った。ラクサスは 軽く手を振る。ただただ、ゼクトの方に注目している。そんな感じだった。

「………どうだろうな。ただ、おっさんが何を(・・)言いたかったか。……言った意味、それは 大体理解したつもりだよ」

 ゼクトを見ていると、本当によく判る。
 見た感じでは、無邪気。なのに、底知れない何か(・・)を感じる。相対している訳でもなく、ただ 離れてい見ていると言うのに、感じるのだ。

「ラクサス。……いったじゃろ?」

 ゼクトに注目していた時、マスターがそういいながらラクサスを見て笑った。

「あん?」

 ラクサスは何のことかわかってない様だ。

「ほれ……昨日じゃ。……ひょっとすれば、とんでもないルーキーが入ってくるかもしれないって、言ったじゃろ?」

 マスターも笑顔を見せながらそう言った。

「へっ……そういえば、んな事言ってたっけか」

 ラクサスは、思い返しながら、そう言って苦笑いをしていた。
 確かに、それは 間違いじゃなくて、本当だった。

「ははは……」

 ギルダーツは、ラクサスを見て笑っていた。
 ラクサスは、マスターマカロフの孫……そう言った意味でも色々な苦悩があったのだ。

 その苦悩を皮切りに 決定的と言っていい事態。ある事件もあった為、本当に複雑な心境だった。思春期である年齢だと言う事もあって、それは拍車をかけていた。

 だけど、変わるかもしれない。その転機が訪れたのかもしれない。そう、思っていたのだ。

「おっ…? 動きがあるようだ」

 ギルダーツがそう言うと皆は、ゼクトとエルザの戦いの方に視線を向けた。






 エルザは、少しだけ嬉しかったけど、頬を膨らませていた。

「こら! 驚いてばかりいないで、ちょっとは集中しろ!」
『あっ……ゴメンね。他人の魔法…こんなにじっくり見るの初めてだし、とても綺麗だったから』

 今の今まで、このギルドにくるまでは、ずっと戦う相手は 全て倒すべき相手だった。
 だから、ゼクトにとって、こんな機会は全く無かった。ミラの時もそうだった。正直、もっと見ていたかったけど、フェアリーテイルにいる人。それも、女の子。だから、戦う事に どうしても 抵抗があったからだから、早く終わらせたいと言う気持ちもあった。

「…………むぅ」

 相手が、ゼクトじゃなければ、エルザは 『なめるなっ!』と、きっと言うだろう。
 本当に初めてだって事は判る。……ゼクトの事を考えると。だけど、これは勝負だから。

「なら! こっちからいくぞっ! 舞い飛べ! 剣たち!!」

 エルザは、気合を入れ直し、魔力を込める。ありったけの魔力を剣に込める。その数、実に50以上。まるで生きているかの様に、空を舞い、四方八方から飛んで来た。

『……』
「ッ……!」

 ゼクトは、剣の1つ1つの軌道……それらを見た。
 その集中力は、他者にも伝わる程だった。相対しているエルザは勿論、この戦いを離れて見ている者達にまで。

「この剣たちは私の魔力…私の意志で自由自在に軌道をかえられる!避け切れるか!」

 ゼクトの行動をみて、エルザはそう叫ぶ。

 この状況でどうするのか? 先程の自分の攻撃より速度は劣るものの、剣の弾幕を考えれば、逃げ場は無い。だから、さっき消えて見せた事の真相が判る。
 エルザは、それも考えていた。

 ゼクトは、集中させて見ていたのだが 次の瞬間には 再び両の手を合わせていた。

『エレメント・ドライブ』

 それと同時に、足元が光り出した。まるで エルザの換装の時の様に。緑色の光が足元から、そして 周囲を包み込む。

「なっ…なんだ? この魔力は!」

 ゼクトに集中していたエルザだったが、この時意識を乱した。

 何故なら、ゼクトの魔力の()が変わったから。

 先程の戦いの時の様に。……ナツの時、そして、ミラの時同様に。


「くっ……! 行けッ! 剣たち!!」

 滞空させていた残りの剣も全て、撃ち放つエルザ。
 様々な剣が、一斉にゼクトへ向かう。

『…………はっ!!』

 ゼクトは、手を翳し、そして 翻したかと思えば、突然 周囲から光る竜巻の様なものが、現れた。
 強烈な竜巻は、ゼクトまでの進路を完全に阻み、無数の剣は、ゼクトに当たることがまるで無くなった。風が全ての攻撃を遮っているのだ。

 エルザは、それを見て次々と剣を撃ち放つが、全て遮断される。

 一度に出せる数は50。弾かれ、下に落ちた剣を消しては、新たに換装した剣で攻撃するものの、何度やっても同じだった。

 エルザが攻撃して、ゼクトが弾く。

 それは、消耗戦だった。

 ゼクトの風も無限じゃない。いつかは弱まる。魔力が尽きれば風の障壁も収まる。
 そう、考え 無我夢中で攻撃を繰り出し続けたのだが、先に限界が来のはエルザだった。

「わ…私の剣が!!」

 50の剣の攻撃を、もう何度繰り返した事だろうか。
 一度に出せるMAXを何度も繰り返したのだから、魔力の消耗もこれまでとは比べ物にならない。だからこそ、エルザの集中力は散漫してしまう。消耗した為、立ち眩みもしてしまう。

『隙有り、だよっ!!』

 その隙を、突かれてしまった。ゼクトは ずっと、あの風、竜巻の目にいると思っていた。その先入観にとらわれすぎてしまっていた様だ。

「しまっ……!!」

 エルザが、攻撃に気づいたときには既に遅かった。
 確かに、ゼクトは あの竜巻の中にいる、と思っていた。だけど、移動をするのであれば、あの竜巻からでなければならないだろう。……本当に、いつの間に移動したのかが判らない。

 ただ、判るのはもう既に接近されていた。自分の背後にいたのだ。

 そして、ゼクトは 拳に先程の竜巻があった。規模はまるで変わってない。あの広範囲の竜巻を凝縮させ、一点に纏っている様だ。当たれば、どこまで吹き飛ばされてしまうのか判らない。

 そして、エルザは動けず ゼクトの拳だけが確実に迫ってきた。
 
 だが、その拳が、エルザに届くであろう瞬間、ゼクトは止めたのだ。

『……殴ったり、なんてやっぱり出来ないよ。ゴメンね。『本気でやれ!』って言われたけど……やっぱり……』

 ゼクトはそう苦笑いしながら言う。

 ミラのとき同様……やっぱり女の子には……その上フェアリーテイルであり……仲間である者には 厳しいのだろう。ナツに関しては まだ 男の子だったから、大丈夫だった様だけど。……男女差別?


「くっ……う………。」

 エルザは、納得は出来ていない。手を抜かれてしまった事実もそうだが、それよりも確実に負けてしまっていると言う事実。もう消耗してしまった魔力。これ以上何も出来ないと言う事実。

 それらが、エルザを降参させた。

「わたしの……負けだ」

 そう言うと、エルザは魔法を解除。最初に纏っていた普通の鎧に戻っていった。


 
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