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真犯人

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3部分:第三章


第三章

「女王もまた一人ではない」
「そう、女王の夫である公爵もいる」
 女王といえど一人で子供を産める筈がない。夫が必要である。その夫のこともここで話されるのだった。
「あの公爵はまさに女王の夫たるに相応しい人物だ」
「そして子供達にとっては」
「母親と同じく絶対者だ」 
 ホームズは言い切ったのだった。
「王家の中でもね」
「だとするとその二人が何をするかか」
「それにかかっているね」
「離婚したとはいえ妃があの国と対立関係にあるアラブの富豪に嫁ぐというのは」
「あの王家にとって好ましくない」
 ホームズの言葉は続く。
「それだけはね」
「じゃあ妃はこれからかなり苦労することになるかな」
 ワトソンは首を少し右にやったうえで述べた。
「王家の妨害で」
「妨害で済めばいいけれどね」
 ホームズの言葉に不吉なものが宿った。
「それだけだったらね」
「随分と怖い感じの言葉だね」
「予想だよ、予想」
 一応こう言いはするホームズだった。
「予想と思ってくれたらいいよ」
「そうか。予想か」
「そちらにしろ話は続くよ」
 ホームズの言葉はまた出された。
「このままね」
 ここまで話してこの日はパイプを置いて眠りに入った。そして話は彼の予想通りになった。
 太子と妃、より正確に言えば元妃はそれからも世界の注目の的だった。まさに一挙手一投足が話題になっていた。やがて妃の再婚の話が現実味を帯びてきてそれがまさに現実のものになろうとしていた。そんな矢先のことであった。
 事故が起こった。妃とその相手が一緒に乗っている車が突如として事故を起こしたのである。マスコミに追われた中での事故であり妃もその相手も即死であった。
 当然ながらこのニュースは瞬く間に世界中を駆け巡った。妃の葬儀は全世界で実況された。彼女はその死によって永遠のヒロインとなった。
 しかしであった。その死について、事故について死の直後から様々なことが言われるようになった。妃は誰かに殺されたのではないかということだ。
 要するに暗殺である。その容疑者としてまず挙げられたのが離婚した夫である太子だ。その理由は離婚した元妻の再婚に対する嫉妬だというのだ。
 理由は他にも挙げられた。自分の再婚の為に元妻の存在が邪魔になっただのその元妃がまだ我が子に対して何かしらの介入を続けるのを危惧したのではないかと。このことも世界規模であれこれと言われることになった。実際に太子は疑われていた。
 しかしだった。ホームズはこう言うのだった。いつも通り安楽椅子に座ってパイプを吹かしながら。
「それはないね」
「太子は犯人じゃないっていうんだね」
「これは断言できる」
 ホームズは実際に断言したのだった。
「はっきりとね」
「何故そう言えるんだい?」
 ワトソンはいつも通りその彼に問い返した。
「太子が犯人じゃないって」
「彼の人間性からさ」
 ホームズはそれから彼が犯人ではないというのだった。
「彼のね」
「あの太子の人間性からか」
「確かに彼は今一つ冴えない人物だよ」
 それはホームズもわかっていた。太子は学生時代はいじめられていて親に逆らうことはできず優柔不断で頼りない性格である。確かに冴えない。
「しかし。善良な人物だよ」
「そういえば慈善活動に積極的だったね」
「平和主義者で人種差別にもかなり否定的だ」
 これはあまり言われていないことである。太子は少なくとも残忍な人物でも暴虐な人物でもない。むしろそれと正反対なのである。
「趣味は薔薇の栽培で。周りに対しても親切なんだよ」
「そういう人物がか」
「実は太子にも会ったし見たこともあるんだよ」
 ホームズはこのことも話した。
「その目も雰囲気も。とても人を殺すものじゃない」
「そうか」
「彼は人を殺してまで何かをするような人ではないよ」
 ホームズは言った。
 
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