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真犯人

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1部分:第一章


第一章

                      真犯人
 ある国での話である。
 その国は王制でありその王家のことはそれこそ世界の誰もが知っている。それは長い歴史や華やかな暮らしだけでなくそのスキャンダルでもである。
「おいおい、またか」
「またこの人か」
 その国の国民は王家のスキャンダルを見ては怒ったふりをするのが日課であった。心の何処かでそのスキャンダルを楽しんでいるのだった。
 中でも王太子とその妃のスキャンダルは有名だった。あまり冴えない外見の太子は不釣合いではと思えるまでに美人の妃を手に入れていた。ところがだった。
 太子の意中の人物は他にいたのだ。その女性がこれまたあまり美人とは言えない地味な外見の持ち主だった。しかも彼女が結婚する前から好きで結婚してからも関係を続けていたのだ。
「また何であんな」
「あんな女と」
 国民達は太子のこの不倫にまたしても怒ったふりをした。太子が不倫をすれば今度は妃もだった。彼女にもそうしたスキャンダルが出て来たのだ。
 彼女の相手は王室警護にあたっている将校だった。古風な赤い軍服に身を包んだ美男子である。彼とのスキャンダルは太子のそれよりも有名になった。
 それこそ世界中で話題になった。結果として彼女は世界で最も有名な所謂『不倫妻』となった。夫も子供もいる身で、ということである。
「また賑やかだね」
「美人だからな」
 ロンドンベーカー街でもそれは同じであった。シャーロック=ホームズがいたと設定されているこの場所にこれまたわざとホームズとワトソンそっくりの服と外見にした二人の探偵がいた。名前も強引にホームズとワトソンとしている始末である。かなり悪ノリしている。
「あの国の王太子妃はな」
「美人だから話題になるのか」
「それに男の不倫なんてざらだしね」
 ホームズは安楽椅子に座りながらパイプを吹かしている。そのうえで相棒であるワトソンに対して話すのだった。実にリラックスした様子である。
「けれど女の不倫はだよ」
「そっちも多いんじゃないかい?」
「いや、僕の調査の記録だと男のそれの方が圧倒的に多いね」
 こう話すホームズだった。
「実際にね」
「そういえばそうかな」
 ワトソンも彼のその言葉に頷いた。探偵をしているからこそ思い当たったのである。
「実際に」
「そうだろう?話題は希少な方が広がるんだよ」
「興味深いからだね」
「そうさ。それに」
 ホームズはさらに話す。
「妃は美人だ」
「今度はそれなんだね、ホームズ」
「そうさ、ワトソン君」
 にこりと笑って相棒に話すホームズだった。
「そういうことだよ」
「美人ならば余計に話は賑やかになる」
「おまけに人妻ともなればね」
 これもプラスされるのだという。
「人は『人のもの』には無意識に興味を抱いてしまうからね」
「おまけに次期国王の妃ともなれば」
「騒ぎにならない筈がない」
 こういうことであった。
「だからさ。妃のスキャンダルは話題になるんだ」
「それも世界中で」
「しかし」
 ホームズはさらに言うのだった。
「この騒動だけれど」
「どうなっていくと思うんだい?ホームズ」
「離婚だろうね、ワトソン君」
 ホームズはパイプをくゆらせたままワトソンに答えた。
「間違いなくね」
「やっぱりそうなるか」
「時間はかかるしこれからも揉めるだろうけれど確実に離婚するね」
 ホームズの言葉は続く。
「僕はそう思うよ」
「ではこれからに期待するか」
「あの国の国民もスキャンダルが続いて楽しんでいるだろうな」
「自分の国の恥なのにかい」
「スキャンダルは恥じゃないよ」
 しかしホームズはワトソンにこう反論した。
 
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