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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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第百二五幕 「クロスボーン・アタック」

 
前書き
あけましておめでとうございます。
今年は何話更新できるかなぁ……。というか完結するのかだんだん不安になってきました。 

 
 
 音も温度も、世界そのものが存在しないかのような暗黒に満たされた空間。

 地球の人間にとってはさぞ不安に感じるだろう。方向感覚も距離感も次第に失い、自分が本当に生命活動を行っているのかさえ疑うかもしれない。宇宙とは地球の引力に縛られた人間にとってそういう場所だ。この世の対極、人ならざる者の住まう世界。

 その世界から、個体コード『アニマス40』はターゲットを見据えていた。

 クイーン・メアリ号――思い上がった愚かな地球人が宇宙を知るために飛ばしたちっぽけなイカロスの翼。
 アニマス40の使命はこの船を撃沈し、C級危険人物セシリア・オルコットを捕縛、『本部』に運ぶことだ。それが与えられた任務であり、同時に彼女たちの上にいる存在の、言外の宣戦布告でもある。

 そのため、アニマス40は確実に、かつ早急にクイーン・メアリ号を撃沈させてブルー・ティアーズを戦闘不能に追い込む必要があった。情報を極秘裏に盗み出し、入念なシミュレーションを行い、アニマス40は確実に任務を遂行するための不確定要素をゼロに近い域まで削り取った。

 システム的な欠陥という抜け道を利用し、感知不可能な方法で繰り出した『不可避の狙撃』――試作を重ねて完全に近づいたステルス装備――宇宙船であるが故に避ける事も遅れる事も許されない順路――条件は、全て揃っていた。

 人間ならば、避けられる筈がなかった。
 事前情報が無ければ、同じアニマスとて決して無事では済まなかった。
 それほどに、完璧な奇襲であった筈なのだ。

 なのに攻撃は船体を掠り、揺らしただけだった。航行不能どころかスキンバリアに防がれてダメージらしいダメージもなかった。

 アニマス40には現実が理解できなかった。攻撃の予兆をあちら側が感知できる確率は0%だ。天文学的な確率で発生した誤差であると判断したアニマス40は、もう一度撃った。今度は掠りもせずに回避された。

 攻撃の予兆を捉えられている、とアニマス40は推論を立てた。しかし、何度推論を重ねてもこちらの攻撃の予兆をあちらが感知することは不可能だった。かといって任務内容が相手に漏れた可能性もまた天文学的な数字であり、ターゲットも退路を断たれて混乱しているような動きを見せていた。

 内通者の存在――ない筈だ。地球の前時代的な組織にそれを行う技術があるなどという報告は受けていないし、アニマスから情報を聞き出すなど不可能だ。アニマスは個にして全――裏切りは決してありえない。

 ならば何だ。何の要素が欠如している。何が前提条件として抜けている。計算、問題洗い直し、最適化、演繹、分析、何度も何度も、あらゆる可能性を持てるデータで検証する。しかし、何度やっても結果は同じ――予兆を感知するのは不可能。

(理解不能――こちらの行動は最適解の筈。見落としなどあり得ない)

 しかし――不確定事象の可能性を考慮して、アニマス40はフェイントを仕掛けた。一度弾丸を放って動きを見切り、移動先を狙撃。理論上はゼロに近いが、こちらの攻撃の前兆を感知しているならこれで命中する筈だ。この理解不能な状況は、任務を遂行し終えてから捕えたセシリア・オルコットにでも事実確認をすればいい。

 フェイントは成功。寸での所で回避するルートに乗ったのを確認し、再度攻撃――微かに掠ったが、セシリア・オルコットはこれをも回避した。

(攻撃の予兆ではない?発砲の予兆を捉えている?――あり得ない。ブルー・ティアーズ及びクイーン・メアリ号にそれを可能とする装備が存在しない。こちらのシステムに問題――否定。管制システム、自己診断プログラム共に問題なし………ESP能力者?可能性――『地球のESP能力者開発は既に終了しており、成功個体はなかった』。仮にあったとしても、セシリア・オルコットはそれに該当せず、またESP能力者が自然発生する確率は………確率は――いいや、ありえない)

 アニマス40は否定する。アニマス40は否認する。アニマス40は拒絶する。

 このような結果に、なる筈がないのに――。

 混乱――アニマス40は一度も経験したことがない精神状態だった。いや、彼女には恐らく自分に精神状態という概念があることさえも理解しきれていないだろう。それほどに彼女は未熟で、人を超越した能力があるにも関わらず、予想外の事態に年限と同じような対応力しか持ちえていない。


 ――だからこそアニマス40は、クイーン・メアリ号の船首が自分のいる座標へと向いた瞬間、どう対応すればいいのか判断できなくなった。機械的に弾き出した最適解が失敗しているのに、最適解が今まで通りの攻撃にしかならない機械的な矛盾が、アニマス40の判断力を容赦なく奪った。

 接近警告。ターゲットがこちらへ向かってきている。迎撃――命中しないにも拘らず迎撃?否定。ステルスでやり過ごす――攻撃の予兆が感知されている以上は発見されている可能性があるのに?否定。いや、そもそもクイーン・メアリ号に武装はない。つまり、万策尽きて別のエリアに離脱しようと考えた最後のあがき。

 本来の計画では姿を完全に隠したまま撃墜する予定だったが、これ以上ステルス戦法に拘ると無用な時間のロスしか生み出さない。現状、アニマス40にとってはこれが最適の戦法。

(戦法を変更……『テトラヘドロン』全砲門解放……1km圏内に侵入と同時に回避不能の面攻撃によって速やかにクイーン・メアリ号を航行不能にし、操縦士を捕縛する)

 無謀にも突進するクイーン・メアリ号はその航行速度をどんどん上げていく。無重力下の宇宙では加速エネルギーが摩擦や空気抵抗、重力などの影響を受けないため、地上では考えられない速度による航行が可能になる。だが、まだだ。まだ遠い。もっと引き付けて攻撃しなければ確実に命中させることは出来ない。

(来い……来い………!!間合いに入った瞬間に、『一斉砲撃』で確実に仕留める!)

 アニマス40は、運命の瞬間を待った。

 それとまったく同じ刻を、セシリアもまた待っている事を知らず。

(来なさい……ドゥエンデ。貴方は焦り、功を急いている。しかし状況は依然としてそちらが優位……貴方はきっと迷った挙句、一番確実な方法を取る。そう、自分の存在が悟られても問題のない対応――一度の攻撃で確実に仕留めるための動きを!そしてその瞬間、初めてわたしくは貴方の姿を捉える!)

 代償に、一撃を凌ぎ損ねればセシリアは確実に敗北する。だからこそ、これは勝機であると同時に最大の危機でもある。伸るか反るか(オールオアナッシング)――この危機を乗り切るには、もう賭けるしかない。

 全ての運命を神にではなく自分自身の超直感に任せた。

『って思い切りよすぎるだろお姫様よぉ!?賽は投げられたってか!?』
『宇宙じゃサイコロ投げても出目が決まりませんねー……』
「ならば都合がいいですわ。私の望む出目を自力で掴みとってしまえば万事解決なのだからっ!!」


 ――これで、最後だ。


 果たして、セシリアの勘は確かにその伝播する敵意を感じ取った。

「来る……BT連動、耐熱バリア最大出力展開ッ!吠えなさい、メアリ号!自由と誇りを帆に掲げて!!」

 その瞬間、クイーン・メアリ号のジェネレータと冷却装置が鯨のような咆哮をあげた。

《ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!》

 直後、セシリアの予想を遙かに超えた数十発の高速の弾丸がクイーン・メアリ号に叩きこまれた。
 強烈な閃光が、メアリ号を中心に瞬く。

「………どうやら大気圏突破用のバリアで防ぐ算段だったと思われるが、その事は当然計算していた。『テトラヘドロン』から発射されたのは、先ほどまでの狙撃弾ではなく対バリアを想定した戦闘用貫通弾だ」

 感情の籠らない声で、アニマス40は呟く。
 所詮地球人の浅知恵など、この程度の者。今までの失敗は唯の誤差の範囲だった。
 メアリ号は撃沈したのだろう。あとは爆発の衝撃によるレーダーの乱れが修正されたのち、丸腰になったブルー・ティアーズを――

「――ふぅん。なるほど、そちらの武装の『テトラヘドロン』とは有線操作型のBTのようなものらしいですわ………ねぇッ!!」
 
 直後、閃光の中から『宇宙海賊の船』が禍々しい光を纏って現れ、アニマス40の腹部に船首を激突させた。



 = =



 攻撃の予兆を捉えた瞬間、セシリアは確かにバリアを展開した。
 一つ相手にとって予想外であったことは、そのバリアの総合出力。

 『あの』バリアにも定評のある最上重工がこの船の開発に僅かでも関わっていたことを、アニマス40は知る由もなかっただろう。設計図にも使用想定にも載っていなくとも、この船の開発に1から関わった人間だけは知っていた――唯一の戦闘方法を。

 ジェネレータから吐き出される莫大なエネルギーが力場固定用に本体に埋め込まれた固定BTに注ぎ込まれ、一角獣のような船首を中心に外部展開バリアが軋むような音を立てて展開されていく。それも、ただ展開されているだけではない。

 本来は大気圏の突入及び突破時に使用する保護機能でしかないバリアに、想定の30倍を上回る強烈なエネルギーが滞留する。保護機能の域を越え、斥力や放出エネルギーが防御から攻撃の概念に転じる。そのバリア強度は既に『風花百華』が展開するバリアに匹敵する。
 
 ドゥエンデ――アニマス40の放った銃弾は、その全てをバリアによって完全に消し炭にされたのだ。攻撃の瞬間に放たれた閃光は、爆発は爆発でも『バリアに込められたエネルギーの余剰分の爆発』であり、船体にはいまも傷一つついていない。

「流石は最上の技術というか、それにノッた英国開発部というか……ッ、こんな洒落たものをよくぞ――!!」

 バリアを全開にしたメアリ号はその下と左右からまるで翼のような極光を放出し、お伽話に登場する空飛ぶ船のように輝いている。そして船体の上方には――その全てのロマンチックを台無しにする代物が掲げられていた。

『す、すごい!エネルギーの放出経路をイジって光が帆の形になってますよ!!しかも帆のド真ん中には交差した骨と髑髏の顔!これ完全に海賊旗じゃないですか~~~ッ!!!』
『じょ、女王様の名を冠する船にそんな縁起でもねぇ代物を乗せたのはどこのどいつだぁぁぁぁ~~~~~ッ!!?』
「どこのどいつだろうが構いませんわ!!こういうお洒落は嫌いでなくてよッ!!」

 バリアを維持するには余剰エネルギーを抑える必要があるが、最上は余剰エネルギーを態と外に逃がすことでバリアの高出力が維持できると考えた。その結果誕生したのが、船首バリアの余剰分をメアリ号の船体に沿って後ろに放出するシステムだ。海賊旗も光の翼も、全てはそのシステムのちょっとした応用で生まれた物に過ぎない。

 だが、それでいいではないか。この不埒な襲撃者に一撃かませるのなら、むしろ海賊旗の方が縁起がいいくらいだ。
 そして、爆発的な加速に加えて銃弾を寄せ付けない最強の矛と化したクイーン・メアリ号はとうとう犯人を発見し、突撃を叩きこんだのである。
  
 

 
後書き
次回、謎解きと決着になると思います。 
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