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相良絵梨の聖杯戦争報告書

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表から見た聖杯戦争

 
前書き
ツエーなのに、ちっともツエーじゃない私的展開に舵が切られる瞬間 

 
 首都圏から新幹線でおよそ三時間ぐらい。
 スーツ姿にアタッシュケースを持つ姿は就職活動の女子学生に見えなくもない。
 こんな仕事をしているので学校にはお休みをもらっている。

「ここ、よろしいかしら?」

 流暢な日本語だなぁと振り向くと、絶世の金髪美人がそこにいた。
 多分姉弟子様と同じぐらいの年だろうか。
 こういう仕事をしていると金で安全を買うことの大事さをよく知っている。
 新幹線グリーン車の席は隣まで買っておくのが常識である。

「申し訳ありませんがここは……」

 と私が告げる前に切符が差し出される。
 番号はたしかに私の隣らしい。
 仕方ない。
 席も空いているし、車掌に頼んで席を移動しようと考えていたその時、相手の女性が口を開く。

「失礼ですが、貴方に要件がありまして。
 ミス神奈」

 見事に固まる。
 そりゃ行くことについては手配はしていたが、こんなにピンポイントに接触してくるとは思っていなかったのだ。
 しかも、神奈の名前で呼んだ。
 こいつ、こっちの人間だ。
 協会のどこからやってきた人間だ?

「そう警戒なさらなくてもよろしいですよ。
 ミス神奈。
 私も貴方と同じ場所に行くつもりなのですから。
 米国大使館所属、アンジェラ・サリバン三等書記官よ。
 今回の件を日本政府の了解のもとで米国に報告する役目を頂いているの。
 よろしくね」

 にっこり。
 にっこり。
 修羅場をくぐっていると分かる。
 このねーちゃん外交官のくせに体つきが戦闘向けで、しかもまったく隙を見せやしない。
 多分CIAの工作員だ。

「神奈の名前は先生から聞いております。
 高名な占い師で、冬木大災害を予知したとか」

「その時、予知したのは師匠ですけどね」

 魔術は秘蔵されねばならない。
 その結果がアンジェラのこの発言である。

「あくまでアンダーグラウンドな噂なのですが、冬木大災害は大規模テロではないかなんて噂があるのですが、どう思いますか?」

 こっちに派遣されているのだから、魔術がらみの事は知っているだろうに。
 まだこっちもごまかさないといけないのがつらい。

「天災が重なった。
 そういう事だと思いますよ」

 こんな会話を約三時間続けることになる。
 つ、つかれる……



 本部は京都御所の近くにある目立たないビルの中にある。
 陰陽寮の流れを組み影から国家鎮護を祈っていた彼らだが、第二次世界大戦はオカルト大戦でもあり、敗戦時にGHQによって解体させられ、多くの日系魔術師が協会に流れる結果になる。
 で、陰陽師を祖とした一派は民間団体となってこの地に根付き、戦時の徒花として消えた神祇院の名前を借りてひっそりと活動を続けていた。
 与党の長期政権下、復興とともに忘れ去られるはずだったこの組織に陽の光が当たったのが、冬木大災害である。
 冬木市にもたらされた数百億の災害被害と、協会の内政干渉に腸が煮えくり返った日本政府は自前のオカルト組織を持つ必要性を痛感。
 資金と人を入れて組織としての体裁を作り上げたのである。
 神奈は神祇院の拡張の初期から関わっており、私みたいな若造でもオブザーバーとして振る舞える程度の地位を有している。
 同時に、こんな新興占い師を優遇する程度の質しか持っていないという事の裏返しでもあるのだが。
 ビルの会議室に入ると、あつまっていた人達の視線が私とアンジェラに注がれる。

「ようこそいらっしゃいました。神奈さん。
 そちらの方は?」

 声をかけたのは安倍雨月さん。
 有名な陰陽師一族の末裔らしく、この神祇院の主であるおっさんである。
 神主を表の職業にしており、京都の祭りに色々絡んでおり、私とは何度か顔を合わせていたりする。
 昼行灯を地でいくが、姉弟子様の次に怒らせてはいけない人間である。

「米国大使館所属、アンジェラ・サリバン三等書記官と申します。
 今回の件を日本政府の了解のもとで、米国に報告する役目を頂いております。
 オブザーバーとしてよろしくお願いします」

 流暢な日本語の挨拶に思わず拍手が出る。
 挨拶は大事である。

「内調から来た、若宮友里恵分析官です。
 会社勤めごくろうさまですが、よろしくおねがいしますね」

 そのまま自己紹介タイムに突入。
 なお、若宮さんがいった『会社』=カンパニーはCIAの隠語だったりする。
 それが分からないのはこの中には居ない。
 内調は今回の一件における調整を受け持っていると聞く。
 警察側の動きと、魔術協会の内政干渉と、それに刺激される米国の介入をすりあわせてこのような場所を作った苦労人である。
 内調より学校の教師をしていそうなきっちり感が漂うが、彼女の調整能力は群を抜いているとレポートに書かれていた。

「警察庁外事情報部の村田浩一郎警視です。
 主に情報関連の提供になると思いますが、よろしくお願いします」

 バリバリの若手キャリアの登場で、眼鏡が更に知的と怜悧な印象を与える。
 そもそも、今回のこの連絡会議の目的は、反米テロ組織が日本に入って冬木に入るのを阻止、または捕まえることにある。
 実質的な指揮はここがとることになるだろう。

「えらく若い嬢ちゃんがやってきたな。
 冬木新都署の咲村二郎警部だ。
 お偉方の面々相手に居ていいのか悩むがよろしく頼むわ」

 見るからにベテランの刑事で、実際冬木警察の現場組のドンらしい。
 冬木の迷宮入りになっている多くの殺人事件の捜査に関与し、どこからかこの話を聞きつけて先生に直談判してこの場に加えてもらったというキワモノである。

「帝国警備保障の柏原忠通と申します。
 どうかよろしくお願いします」

 警備員としての紹介だが、その実態は自衛隊の非公式作戦部門。
 要するに汚れ仕事を担当する責任者というやつで元三佐だそうな。
 これらのメンバーを前に、私は口を開いた。

「では、聖杯戦争について話したいと思います」

 表が知る情報ではなく、裏の、つまり魔術教会が抱える聖杯戦争の情報をここで提示する。
 なお、ここの連中は既にその情報を知っている事が前提だったりするので多くは語らない。

「あくまでその情報が真実であるという前提なのですが、米国はこのカルト団体の儀式による大規模テロを容認できません。
 同盟国がその対処に苦労するのであるのでしたら、日米安保条約の範囲内で支援をする用意があります」

 アンジェラ書記官の怜悧な発言が議論の開始となる。
 それに、若宮分析官が続いて発言する。

「時計塔でしたっけ?
 英国に本拠を置く魔術協会は今回の聖杯戦争の発動を想定していませんでした。
 慌てて関係者を我が国に送り込んでいますが、その殆どに監視をつけています。
 もちろん、反米テログループが我が国に入り込んでいるという情報は英国情報部を通じてかの協会に伝わっているはずです。
 アンジェラ書記官。
 失礼ですが、米国はどこまで協会のロビー活動に耐えられますか?」

 米国とて一枚岩ではない。
 協会に味方する・協力する政府職員はいくらでもいるのだ。
 それにアンジェラ書記官はあっさりとその内情を暴露する。

「軍内部、特に在日米軍については心配しなくていいでしょう。
 ペンタゴンの方も大量破壊兵器がらみですから、意識は統一されていると思います。
 問題は国務省とワシントンの赤絨毯の方々でして」

 さらりと出身であるCIAの動向を省くあたりこの人プロである。
 こっちがそれを気づいているのも分かった上で笑顔を隠そうともしない。

「あまり派手な活動をすると、『同盟国の主権内で議会の承認を得ていない非公式活動』と叩かれます。
 日米関係の非常に大事な時期なので、事をあまり大きく荒立てたくはないというのが実情です」

 この時期の日本は戦争が終わった中東に自衛隊を後方支援として派兵する事で国内が大いに揉めていた。
 首相と大統領の個人的友情から派兵する方向に進みつつあるのに、それをご破産にはしたくはない。
 村田警視が発言を求めた。

「中東の過激派組織が潜伏しているという情報ですが、間違いはないと思われます。
 ですが、それ以上に他国情報機関もこの聖杯戦争に注目しています」

 魔術師にとっては万能の願望機への燃料でしかない英霊だが、国家から見てこれほど魅力的は兵器は見つからない。
 特に発展途上国にとって。
 魔力を持つ素質が有る人間が召喚して、戦場に投入できれば従来の戦争が変わりかねない可能性を秘めていたのである。
 情報は必ず漏れる。
 こと、国家がその存亡に絡むような秘事は必然的に国家諜報機関が探らない訳がない。
 協会と教会はそれを神秘の秘蔵を盾に隠そうとしていたが、世紀末に花開いた高度情報社会が神秘を科学の名のもとに暴き立てようとしていたのである。
 だから、このような会合が開かれる。
 いずれ、神秘は科学の前に屈服する日は近い。
 若宮分析官の言葉に、柏原元三佐が発言を求める。

「冬木市の新都に我々はダミー会社と事務所を用意し、既に中隊規模でその周囲を警備しています。
 何かあった時には、この会合の要請を受けて警備をする予定です」

「俺の仕事は新都署内での情報収集だ。
 この手の儀式を行う魔術師は人を燃料程度にしか考えていないのが困る。
 できるだけ、その手の事件を防ぎたい」

 咲村警部の言葉は他者と違って重みがある。
 それだけ、冬木の殺人事件や行方不明事件には魔術師が絡んでいるという事なのだろう。

「皆様の自己紹介も終わりましたので、とりあえずの方針を伝えたいと思います。
 お手元の資料を御覧ください」

 会議は物事を決める場では無い。
 物事は既に会議が始まる前に決まっている。
 だからこそ、このような会議は日本ではセレモニーになる。
 資料にはCIA提供の中東過激派の写真と、内調提供の極東某国の政治工作員の写真が並んでいた。

「我々は基本的には聖杯戦争には関与しません。
 できる力もないですし。
 聖杯戦争そのものは協会や教会に任せるしかないのが実情です。
 我々の目的は、この聖杯戦争に介入しようとする他国情報機関および、過激派テロ組織の排除となります」
 
 

 
後書き
聖杯戦争と思ったら007だったという罠w 
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