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懐かしい校舎

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5部分:第五章


第五章

「それでわかるんですよ」
「時代劇も」
「そうだよな。特撮とかアニメはな」
 語る先生の顔は明るい。腕を組む仕草もだ。
「どうしても観るからな」
「今の仮面ライダーもいいですしね」
「あの世界観が」
「馬は出ないですけれど」
 そんな話をしながら柔道場に向かう。そこは別の校舎を越えて体育館とテニスコートを越えてだ。そのうえでそこにやって来たのである。
 その時の体育館やテニスコートを見てもだ。皆懐かしい顔になる。
「本当に変わらないよな」
「だよな」
「私もここでよくテニスの練習したわ」
 女性陣の中でも一際小柄な女が言った。
「テニス部だったしね」
「そうそう、あんたテニス少女だったわよね」
「いつもラケット持ってたし」
「そうだったわよね」
「ええ、そうだったのよね」
 小柄な彼女がにこりと笑って応える。
「今も時々してるけれど」
「ああ、今もしてるのテニス」
「ちゃんと」
「健康の為にね」
 していると。にこりと笑って述べた。
「してるわよ」
「ふうん、頑張ってるのね」
「だから今もスタイルがいいの」
「多分ね」
「そうかあ、私も運動しようかな」
「そうよね」
 女組がそんな話をするとだ。男組も乗ってきた。そうしてそれぞれこんなことを言うのであった。
「俺もなあ。最近腹が出てきたしな」
「そうだよな。太ったからな」
「ここんとこ急に太ってきたんだよな」
 こんな話をするのだった。
「油断するとすぐ太るようになったんだけれどな」
「そうそう」
「髪の毛だってな」
「また随分と怖い話をするな」
 先生はここでまた振り向いた。見ればその顔はいささか引きつっている。そのうえでの言葉だった。どうやらぐさりとくるものがあったらしい。
「全く」
「ですよね。けれど気になるんですよね」
「そうそう」
 しかし彼等はまだ言う。こうした話は止まらないらしい。
「先生もそうじゃないですか?」
「結構」
「髪の毛のことは言うなよ」
 これが先生の反論だった。
「絶対にな」
「わかりました。しかしここも」
「そうだよな。よく通ったよな」
「学校にいた時はな」
 皆ここでも目を細めさせて話をした。そのテニスコートや体育館を見てからだ。そのうえで再びそんな話になるのであった。
「ここも懐かしいよな」
「そうだよな」
「そうね。ここもね」
「思い出の場所よね」
「あそこでジュース買って飲んだわね」
「そうそう」
 ジュースの自動販売機もあった。それも見ながら話すのだった。
「高校でジュース買えるっていうのも凄いよね」
「それが有り難かったね」
「ええ」
 そんな話をしながら遂にその道場に辿り着いた。道場の門は質素なものである。だが質素でありながら頑健な造りの門であった。
 
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