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ファーストキスは突然に

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1部分:第一章


第一章

                    ファーストキスは突然に
 付き合っている。それは間違いない。
 しかしであった。彼、松山崇はかなり焦っていた。
 顔だけみれば割かしいい。黒い癖のある髪を適度に伸ばし眉は濃い一文字で細く一直線にそれぞれ斜め上にしている。痩せた顔は頬が張っていて目の形はしっかりしている。鼻の形はそれなりに大きい。口元もはっきりとしている。背は高く痩せていてスタイルもいい。だがそれでもであった。
「実際どうなんだよ」
「どうなんだよって何がだよ」
 かなり戸惑っている彼の言葉を聞いた友人が尋ねた。
「何でそんなに焦ってるんだよ」
「だってよ、あの娘がだよ」
「ああ、御前最近彼女できたってな」
 友人はこの話をここで思い出した。
「何かえらい可愛い人みたいじゃないか」
「まんまアイドル出来る位なんだよ」
 崇はその高い背から言った。
「もうな。凄いんだよ」
「俺には御前の今の焦り振りの方が凄いよ」
 友人は彼に対して言った。
「そっちの方がずっとな」
「おい、何でそんな酷いこと言うんだよ」
「酷くねえよ」
 彼も少しムキになって返す。
「御前実際にな」
「そんなに酷いか?今の俺」
「何でそんなに焦ってるんだよ」
 そのことを彼に尋ねるのだった。
「どうしたんだよ。地球が滅亡するのはまだ先だぞ」
「二〇一二年のあれかよ」
 崇も何気に彼に合わせている。
「あれだっているのかよ」
「そうだよ、あれだよ」
 まさにそれであるというのだ。友人も。
「まだそれまでには時間あるだろうがよ。何でそれでそんなに焦ってるんだよ」
「あんな予言当たるかよ」
 崇はまずはその二〇一二年の話に対して返した。焦ったままではあるがそれでもこのことにはかなり冷静に返していたのは確かだ。
「予言なんて当たらないものなんだよ」
「それは焦ってねえのかよ」
「ノストラダムスだって外れたじゃないか」
 かつて誰もが心配していたあの予言である。
「ノストラダムスが阪神の優勝予言したのかよ」
「あのチームが優勝するなんていつもいきなりじゃねえかよ」
「そうだろ?それを予言してこその予言じゃないか」
 彼は言うのだった。
「そんなことも予言できなくて何が予言なんだよ」
「まあノストラダムスは外れたな」
「そんなのいちいち気にしてたら身が持たねえよ」
「どっかの漫画雑誌の編集部は気にしてたぞ」
「あれはまんま電波じゃねえかよ」
 崇も実に容赦がない。
「石ころ見てもノストラダムスになってるじゃねえかよ」
「他には宇宙人とかナチスの残党とか影の世界政府みたいなものだよな」
「一体同じ日に人類は何回滅亡してんだよ」
 彼はさらに友人に対して言う。
「五回や六回じゃねえだろうが」
「数え切れない位はあるよな」
「一九九九年七月ってどんだけ忙しくなる予定だったんだよ」
「さてな。それはな」
 友人にしてもそれを言われるとわからないことだった。
「ノストラダムスって予言者じゃなかったんだよ」
「そうだったのかよ」
「医者だったんだよ、あの人」
 彼はそのことをよく知っているのだった。
「医者で美容コーディネイターだったんだよ」
「ああ、それじゃああの本は」
「何か適当に書いた詩だったみたいだぞ」
「ノストラダムスは詩人だったのか」
「とりあえず自分は予言者とは思ってなかったらしいな」
 そのことをよく知っている彼だった。勉強したらしい。
「それで何であの編集部はあれだけ狂えるんだよ」
「狂ってたな、確かにあれは」
「そうだよ。本気で描いてたら確実に精神病院だよ」
 そこまでだというのである。
 
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