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遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~

作者:久本誠一
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ターン39 鉄砲水と灼熱の傭兵

 
前書き
まずは一言、あけましておめでとうございます。今年も拙作をどうぞよろしく。
今回より三部も本格的に始まっていきますよ。あ、それとヨハンの出身校はアニメと違い最初からアークティック校になっていますのでご了承ください。
前回のあらすじ:葵ちゃんのシスコンお姉ちゃん登場。黄昏の忍者という強化カードを手に入れ、彼女のデッキも三部仕様になりました。 

 
 アカデミアに、ついに始業式の日がやってきた。その間に翔も結局ブルー寮への昇格が決まったことで、アカデミア初の3年でレッド、イエロー、ブルーの全寮制覇という偉業を成し遂げた。
 ……正直なところこれについて僕としては、万丈目が1度ブルーに戻るとか言っておいてドタキャンしたからオベリスクブルーの枠が1人分空いたのもそれなりに大きな理由なんじゃないかと邪推したりもしてるんだけど。実際僕が最後に聞いた話では、翔に昇格試験を受けさせるかどうかすら怪しかったって話だし。とはいえ、別にそれを悪く言うつもりはない。それを掴みとった運も実力の内だし、なにより試験をクリアしたのは紛う事なき翔自身の実力だ。だけどこうやっていらん推察するようになったのも、うちの地縛神のせいだろう。すっかり僕も性格が歪んだものだ。

『私か!?そこも私のせいなのか!?』

 するとまさにドンピシャのタイミングで、その翔がレッド寮にやって来た。

「アニキー、始業式始まっちゃうけど出ないんスかー?……あれ、剣山君。それに清明君も」
「おはようだドン、丸藤先輩」
「やっほー、翔。その制服、なかなか似合ってんじゃない?」
「もう、そんなのんきなこと言ってる場合じゃないっスよ?もう始業式が始まっちゃうのに全然来ないから、心配して呼びに来たのに。それで、アニキはどこにいるんスか?もしかしてまだ寝て……」

 病気だとかなんだとかよりもまずまっさきにまだ寝てるんじゃないかと疑うあたりは、さすがに十代との付き合いが長いだけのことはある。もっとも、今回に限ってはそうではないのだが。

「最近出歩くのが多くなったからねえ。まあそうそうぶらつく場所のパターンがある訳でもないし、今日は天気もいいからどうせアカデミアの屋上あたりにいるんじゃない?僕は荷物の準備してすぐ行くから、悪いけど2人で先に行っててよ」
「そう?じゃあ、遅刻しないようにね」
「十代にアニキを探しに行くザウルス、丸藤先輩!」

 2人が出発したのを見送る暇もなく、すぐに寮に取って返す。常連の鮎川先生からの情報によると、来るんだか来ないんだか話が揺れまくっていた留学生は結局今年、それも今日来るらしい。船が到着するまで残りわずか、なんとかそれまでにこの手土産だけは作り終えたいのに……!

「ったく、確定してたんならせめてもうちょっと早く教えてくれればいいのに!昨日の段階でいきなり言われても無理だって!」

 もっとも、これについては鮎川先生のせいではない。春休みの間は僕が再試を受けてたりしたのもあって週に2~3日程度しか店を開かなかったから情報がこっちに来るのが遅れたのが原因だし、なんで店を開かなかったのかといえば僕がサボってたからだ。
 ただ人間、追い詰められるとろくなことを考え付かないものだ。寮にある年代物のオーブンの火力で悠長にこのマドレーヌを焼いてたら完璧に遅刻すると踏んだ瞬間、ある罰当たりなアイデアが閃いた。素早くデッキを取り出し、その中から1枚のカードを引っ張り出す。念を込めてそのカードをかざし、神経の全てを精霊の呼び出しに集中させる。

「メタイオン先生、お願いします!これ焼くのに火貸してください!」
『………』

 何も反応がないのでさすがに呆れられたかと思ったら、壁の向こうから半透明の金属製の腕がスッと1本伸び、その指先から炎が吹き出されてオーブンごと包み込む。その腕の根本を見ると、窓の外にどアップで大笑いする顔が1つ。僕に力を貸してくれる2体目の神様こと、時械神メタイオンは意外とノリがいいことが分かった瞬間だった。それにさすがは神様の火だ、ボロオーブンなんぞとは比べ物にならないほど熱く、かつ一瞬で消し炭にならないほどには力をセーブしてくれている。
 ……電気代もかかんないし、これから火の関係は全部この神様の火に任せようかな。っと、そんなこと言ってる場合じゃないんだった。さっさとこれ4つに分けて、遅刻する前に講堂に潜り込まないと。かなり分の悪い賭けだけど、それでもやらなきゃ無断欠席だ。
 どうにか見とがめられることなく行動に潜り込み、気を利かせた万丈目が取っておいてくれた席に座れたのがそれから10分後。

「あ、危なかった……」
「清明先輩、俺たちでもかなりギリギリだったのによく間に合ったドン」
「えへへ、それほどでも。ところで剣山、なんで当たり前みたいな顔してレッド寮の席にいるの?」
「俺は寮なんかにはこだわらないんだドン」
「……あっそ」

 さすがにこんな時ぐらいイエロー寮の位置に行かなきゃまずい気もするのは気のせいだろうか。でも先生達も何も言ってないなら、きっとそれでいいんだろう。こういうところはやけにアバウトな学校だ。在校中の学生が堂々と商売しても怒られないどころか先生まで買いにくる時点で今更といえば今更だけど。
 とにかく始業式はつつがなく進み、軽い校長の演説の後に新入生を代表してのレイちゃんからの挨拶、と順調にスケジュールをこなしていった。そして最後に、もう1度校長から話が入る。きっとここで、転入生について詳しい説明が入るんだろう。一応生徒たちに正式な発表はまだない話だし。

「さて、ここで皆さんに重大な発表があります。今年は生徒たちのさらなる発展を願い、新しい生徒たちを受け入れることにした」

 ここで言葉を切り、後ろのスクリーンに電源が点くと、なにやらそこに世界地図が表示された。

「デュエルの発展を願うアカデミアには、世界各地にその分校が存在する。今年はその主席の生徒たちを、我が学園に迎え入れることにしたのだ」

 おっと、これは僕も知らなかった。でも分校の首席ってことは当然ノース校も入るんだろうし、1人は鎧田でほぼ確定か。だとするとあいつの分は別に用意しなくてもよかったかな、クッキー。なんとなく後ろを振り返ると、自分の舎弟ともいえる鎧田が転入してくることに万丈目が何となく嬉しそうな顔になっていた。

「主席か、きっと強い奴ばっかりなんだろうな!くーっ、早くデュエルしてみたいぜ!」
「まあね。鎧田とは今まで1勝1敗なんだ、今年こそはケリつけてやるさ」

 僕と十代だけがこんな調子なんじゃない。ざっと周りに目をやると、ほぼ全員が主席の転入という言葉にデュエリストとしての闘志を燃やしている様子が一目でわかる。特に葵ちゃんなんかがいい例で、もはや近寄りがたいほどの闘志を噴き出している。あ、今隣の奴が少し距離を取った。

「ではまず、デュエルアカデミアイースト校のアモン・ガラム君」

 拍手の中を颯爽と歩いてくる、眼鏡をかけた爽やかそうな青年。だけどなぜだろうか、その爽やかさの中にどことなく胡散臭さが見えたような気がした。照明の加減でたまたまそう見えただけだろうか。

「デュエルアカデミアウェスト校代表、オースチン・オブライエン君」

 次いで現れたのはデュエリストというよりもはや格闘家の域に達したかのような筋肉の、黒い肌の青年。なかなか油断ならない、鋭い目をしているのが印象に残った。ってかあの腰につけてるのって、もしかして銃なんだろうか。……まさか、ね。

「デュエルアカデミアサウス校代表、ジム・クロコダイル・クック君」
「イエーイ!」

 室内でカーボーイハット、なぜか片目に包帯とツッコミどころはいろいろある。あるのは間違いないけれど、正直そんなもの全部吹っ飛んだ。意気揚々と入ってきたジムが両腕で掲げたのは、なぜかワニ。どこからどう見ても、緑色のワニなのだ。しかもちょっと目をつぶったところを見ると、どうも生きた本物らしい。サウス校ってのはワニが生徒と一緒に住んでる学校なんだろうか。
 でも、正直あのノリは嫌いじゃない。ワニって肉以外の、洋菓子は食べたりしないんだろうか。今度本人に許可とって試してみよう。

「最後にデュエルアカデミアアークティック校より、ヨハン・アンデルセン君」
「最後にだと?ノース校からは誰も来ないのか?」

 ちょっと拍子抜けしたような万丈目。それについては僕も同感だけど、これから来るヨハンとやらに罪はない。拍手して入場を待つも、いつまで経ってもその本人がやってこない。

「おや、ヨハン君はどこに行ったんですか?」
「まさにゴースト、か。実は我々も、船の上では1度も姿を見ていないんですよ」

 校長とアモンの話を聞く限り、誰も本人を確認していないようだ。だが不穏な空気に会場が次第にざわつき始めて、収集使なるかに思えた次の瞬間、突然転機は訪れた。誰かが、講堂のドアを勢いよく開いたのだ。

「悪い悪い、すっかり迷っちまって!」

 突然やって来た青髪の青年を見て、座っていた十代がいきなりあっと叫んで立ち上がる。

「おーい、何やってるんだよー!」
「あれ、十代の知り合い?」
「ついさっき会ったんだ。早く座れよ、今ヨハンってやつを探して……」
「あー、十代君。彼がヨハン・アンデルセンですよ?」

 鮫島校長が大声で叫ぶ十代の言葉を遮ると、信じられないといった風に目を瞬かせる十代。一体どんな出会い方をしたんだろう、この2人は。とりあえず親友がこれ以上悪目立ちするのも忍びないので、服の裾を引っ張って強引に着席させておいた。

「お前、新入生じゃなかったのか?」
「いやー、騙すつもりはなかったけどつい言いそびれちまって。今校長が言ってくれた通り俺がヨハン・アンデルセンだ、改めてよろしくな、十代」
「あ、ああ……」
「どうして俺たちと同じクルーザーで来なかったんだ?せっかくの素晴らしいボヤージュだったのに。まあいいさ、これからよろしくなマイフレンド」

 まだ驚き冷めやらぬといった調子の十代の代わりにということなのか、壇上からジムが手を伸ばす。その手を掴んでよじ登ったヨハンが、そのままがっちりとジムと握手した。
 ちょっとごたごたもあったけど、とにかくこれで4人の留学生が全員そろった……と思ったら、その後ろからさらに見たことのない大男が登場した。険しく濃い顔に大きなリーゼント、そして服を着ても全然隠しきれていない明らかに堅気の人間とは思えないほどの筋肉というとにかく怪しいおっさんである。そのおっさんがつかつかと前に出て鮫島校長に一礼すると、校長も頷き返して話し出す。

「さて、ここでもう1人紹介したい人がいます。彼はこのデュエルアカデミアに臨時講師として招き入れた、プロフェッサー・コブラです」
「ペペロンチーノ!?」
「なんでアール!?」

 鮎川先生からの情報にもなかったこのプロフェッサー・コブラ臨時講師なる怪しい人。鮎川先生に黙っておく理由もないはずだし、今のクロノス先生とナポレオン教頭の反応と併せて考えても、どうやらこの人の存在は本当に校長1人の中だけで決められていたことらしい。

マイクを受け取った。そして今度は僕ら生徒側に向き直り、低く威圧感たっぷりの声で話し出す。

「デュエルアカデミア諸君、私がプロフェッサー・コブラだ。本来ならば長々とした挨拶をするところだろうが、私はそういったものを好まないし、君たちもそれから得るものはないだろう。実戦あるのみ、それが私の信念だ。そこで早速だが、我々転入組と君たち在校生側から1人ずつ代表者を出しての模擬試合を行うことを提案する。いかがですかな、鮫島校長?」

 ふむ。確かに僕も長話は好きだけど長い演説や挨拶は退屈なだけだからね、そこらへんよくわかってる人だ。鮫島校長がコブラ講師の言葉に静かに頷くと、唇を歪ませてにやりと笑う。

「では、お互いの代表だが……こちらからはヨハン・アンデルセン。そちらからは遊城十代の2名というのはどうだろう。どうやらすでに知った仲のようだし、親交を深める意味でもちょうどいいだろう」
「いいでしょう。十代君、やれますね?」
「もちろんだ!こんなに早くお前とデュエルできるなんて嬉しいぜ、ヨハン!頑張ろうな、相棒!」
「ああ、俺も嬉しいぜ。互いにベストを尽くそう!なあ、ルビー!」

 その声に反応して、十代の方からはいつものハネクリボーの精霊が姿を見せる。だけど驚いたことに、ヨハンの方からも青っぽいグレーの毛皮を持つ猫に似たモンスターの精霊が飛び出してきた。普通に会話してるってことは、どうやらあのヨハンも僕や十代、万丈目と同じく精霊が見えるタイプの人間らしい。1つの場所にこんなに精霊が見える人が集まるなんて、つくづく世の中面白いものだ。類は友を呼ぶ、ってやつなのかね。
 さて、試合開始まであと1時間ある。僕が選ばれなかったのは残念だけど、逆に考えればこの1時間を自由に使えるということでもある。コブラ講師のぶんはないけど、せめてあっちの4人には早速お菓子渡してこよう。控え室にでも行くのだろうか、入ってきたドアからまた出ていく5人をこっそり追いかける準備に入った。





「んー……サッカー、どう?」

 講堂を出てから、かれこれ10分は経っただろうか。みんなどこで待機してるのか、それらしき部屋を探し回ってもなかなか見つからない。途中から精霊達まで駆り出して探し回っているのだが、この学校は無駄に部屋が多いせいか難航してるようだ。

「駄目かー、気にしなくていいよ。ラブカは?うさぎちゃんは?イーグルも見つけられなかったって?……え、あっち?了解、ありがと!」

 一応プライバシーの問題もあるから個室は覗かないようにって厳命してたけど、それでここまでしないと見つからないってことはもしかしてもすでにそれぞれの個室ないし寮が用意されてるのだろうか。その線は十分あり得る……というかそれが普通なんだけど、ただあの4人の話だって昨日の段階でようやく校内に知らされたことな上に、プロフェッサー・コブラについては校内でただ1人校長しか知らなかった点が引っ掛かる。そんなかっつかつのスケジュールで都合よく空き部屋なんて見つかるもんかね?
 どうもよくわからなくなってきたので一度精霊たちにお礼を言ってカードに戻ってもらい、とにかく教えてもらった場所、玄関ホールへと歩き出す。するとすぐにその隅で、なにやらオブライエンとプロフェッサー・コブラが話し込んでいるのが見えた。
 この時、なぜ咄嗟に身を隠したのかは自分でもわからない。別に僕も悪いことを企んでいるわけではないし、やましいこともそんなにない。あえて理由をひねり出すとしたら、高校の教師と生徒の会話にしては妙に異質で重苦しいその2人の周りの空気に嫌な予感を感じた、といったところだろうか。周りには他に誰もいないことも相まってその会話が聞こえてきたが、断片的にしか聞こえなかったことも相まって今一つ要領を得なかった。ただどうも、遺跡がどうとか研究所がああだとか、しばらく監視がどうだとかそんな物騒な単語ばかり聞こえてくる。これは、少しあの2人は警戒した方がいいかもわからんね。少なくとも、何かしら裏の顔があるのだろう。そうこうしているうちにプロフェッサー・コブラが外に出ていき、しばらくそれを見送っていたオブライエンも踵を返す。そして僕が隠れている方を真っ直ぐ見て、有無を言わさぬ調子で話し出した。

「そろそろ出てきたらどうだ?その柱の陰にいるのはわかっている」
「う。や、やっほー」

 隠れても無駄だろうし、下手に逃げたりして警戒されるよりはいっそ気軽に出ていく方がいい。そう判断して、できる限り友好的に姿を現す。次の瞬間には鋭い視線に射抜かれて、すぐに出てきたことを後悔した。

「この学校の生徒か……ここで何をしていた?正直に言え。それにその荷物、一体何を持っている?見せてみろ」

 そう言って指差したのは、ずっと僕が右手に下げていたそこら辺の紙袋に詰めたマドレーヌ。集音マイクでも警戒しているのか、妙にピリピリした様子で奪い取ろうとする。そしてその動きを、多分僕に対する攻撃だと勘違いしたのだろう。
 あっと思った時にはもう遅かった。いきなり出てきたシャーク・サッカーが一瞬だけ実体化して、軽くとはいえオブライエンの手に噛みついたのだ。そこまで痛くはないだろうけど、不意打ちとしては申し分のない威力だろう。

「………ッ!!」

 急な苦痛に顔をしかめるも悲鳴を上げることなく、目にも止まらぬほどのスピードで手を引っ込めるオブライエン。気持ちは嬉しいけどサッカー、それは今やっちゃまずい。

「お前、今のは一体何を……!」
「ご、ごめんなさいごめんなさい!」

 これ以上怒られる前に全力で謝る。だってこれ、どこからどう見ても悪いの完全に僕らだし。僕の精霊のミスなんだから、僕がその責任を負うべきだ。幸いにも根は悪い奴じゃないのか、その様子を見て若干毒気を抜かれたような表情になるオブライエン。元の落ち着いた態度に戻り、噛まれた手を一振りして話を戻した。

「ま、まあいい。今のは俺も強引だったかもしれないからな。だがいったい、本当にここで何をしていたんだ?」
「ああ、はいこれ。もう噛まないから大丈夫」

 そこでようやく僕も本来の目的を思い出し、さっき強奪されそうだった紙袋を渡す。さすがに警戒した表情のオブライエンに半ば強引に押し付けると、しぶしぶといった様子で包みを開けた。中身を一目見て、その表情がいよいよ困惑したものに変わる。

「なんだ、これは?」
「マドレーヌ。美味しいよ」
「これを俺に渡して、一体どうしろと」
「ふむ、それもそうか。じゃあ最初っから説明しようか、まず僕はオシリスレッド所属生徒兼洋菓子屋『YOU KNOW』デュエルアカデミア支店取締役代表の遊野清明。それはうちの店で出してる商品の1つのマドレーヌ。ここまではオーケー?」

 話の先が読めない、といった様子で無言で頷くオブライエン。その反応にちょっと満足して勢いづき、さらに言葉を紡ぐ。

「これは悪いんだけど、転入生全員に渡しておいてくれない?今回はタダでいいからさ、美味しかったらまたぜひ買いに来てねって伝えておいて」

 もし今後1人でもリピーターが増えるのであれば、ここで無料で配ったとしてもこの1年で元は十分に取れるとの計算あってのプレゼント。だから新入生歓迎会にも何か差し入れを持っていきたいところだけど、まあ今はいいだろう。とにかく損して得取れ、が商売人としての遊野家のモットーです。親父の場合損したうえで損ばっか取ってるからいつまで経っても儲からないんだ、せっかく腕はいいのに。

「あ、ああ……そうか、悪かったな、変に勘ぐって。何か詫びをしたいところだが、あいにく持ち合わせが……」

 その言葉を聞いて、1つアイデアを思い付いた。元々今日は十代だけにスポットが当たるってんで、ちょっと羨ましかったんだ。

「じゃあさ、オブライエン。僕とデュエルしてよ」
「何?」
「デュエルアカデミアウェスト校主席の実力……一丁手合せと洒落込ませてもらいたいってことさ」
「ふっ、いいだろう。ただし、後悔するなよ?」

 目にも止まらぬ速さで腰に差した銃のようなものを引き抜くと、なんとその中にデッキを収める。ここでようやく、あれがデュエルディスクだったことに気が付いた。普通に考えてわかるかそんなもん。

「「デュエル!」」

 先攻はオブライエン。ちょうどいい、一体どんなデッキを使うのか、せめてその1部だけでも見せてもらおう。

「俺は、ヴォルカニック・ロケットを召喚する。そしてこのカードは場に出た時、デッキからブレイズ・キャノンと名のついたカードを1枚手札に加える効果を持つ」

 先攻1ターン目のサーチは、どうしようもない。止める手立てもないので、大人しく見ているしかなかった。

「俺はこれで、ターンエンドだ」
「まずは様子見、って?僕のターン、ドロー!僕は、シャクトパスを召喚!」

 シャクトパス 攻1600

「ほう?だが俺のヴォルカニック・ロケットの方が、攻撃力は上だぞ?」

 疑問に思うというよりも、むしろからかっているようなオブライエンの言葉、さすがは主席、これをただのプレイングミスだとは思わないか。まあ、思ってもらっちゃこっちとしても歯ごたえないんだけどね。まだまだデュエルは始まったばかり、これからじっくり楽しもう。

「さらにカードを2枚セットして、ターンエンド」

 オブライエン LP4000 手札:4
モンスター:ヴォルカニック・ロケット(攻)
魔法・罠:なし
 清明 LP4000 手札:3
モンスター:シャクトパス(攻)
魔法・罠:2(伏せ)

「俺のターン、ドロー」

 今引いたカードを見て、少しの間何かを考えるオブライエン。僕が伏せたカードに何かあるのか、それとも単純にシャクトパスの効果である自身を戦闘破壊した相手に憑りついて攻撃力を0にする効果を狙っているのかを検証しているのだろう。さあて、どっちだろうね。僕としては、攻撃してくれればそれでいいんだけど……だが、そんなことを考えたのがまずかったようだ。

「先ほどサーチしたカード、ブレイズ・キャノンを発動。ブレイズ・キャノンは手札から攻撃力500以下の炎族モンスター1体を墓地に送ることで相手モンスター1体を破壊し、さらに相手に500ポイントのダメージを与える。攻撃力100のヴォルカニック・バレットを墓地に送り、お前のシャクトパスを破壊する!」
「しまった、効果破壊か!」

 砲台の銃身がこちらを向いたかと思うと、勢いよく先ほど入り込んだトカゲが撃ち出される。戦闘についてはいくらでも手が打てたけど、こういうバーン戦法を使ってくる相手だと僕の伏せカードもシャクトパスの効果も今はまるで機能しない。

 清明 LP4000→3500

「これで次はダイレクトアタック、って?」
「いや、ブレイズ・キャノンを使うターンに俺はバトルフェイズを行えない。だが、モンスターを出すことはできる。ヴォルカニック・エッジを召喚し、効果発動!1ターンに1度、相手に500ポイントのダメージを与える!」
「くっ……!」

 2足歩行するトカゲのような生き物が、口から燃える溶岩の塊を吐き出して攻撃してくる。この伏せカードは使えず手札にも幽鬼うさぎのカードがない今それに反応してアクションを起こす手立てはなく、その直撃を受けてしまった。

 清明 LP3500→3000

 お互いにまだ1度も攻撃をしていないのに、僕のライフはすでに半分近く削られてしまった。今の時点では勝負の流れは完全にオブライエンに来ている、このままだとまずい。どうにか次のドローでヴォルカニック・エッジかブレイズ・キャノン、せめてどちらかだけでも無力化しないと。
 いや、待て待て。ブレイズ・キャノンには手札コスト、それも攻撃力500以下の炎族というかなり条件の限られたコストが必要なことを思い出した。確かにデッキのモンスターの比率はある程度そのために調整してあるだろうけど、少なくとも次のターンで早急に対策を考える必要もないか。

「カードを1枚セットし、ターンエンドだ」
「僕にはまだこの手があるね。ドロー、グレイドル・コブラを召喚!そしてトラップカード、グレイドル・スプリットを発動!これは発動後装備カードになって、攻撃力を500ポイントアップさせる」

 銀色の水たまりから赤いコブラの姿が湧きあがり、長い体でどっしりととぐろを巻く。普段ならここで戦闘破壊を待つところだけど、向こうにその気がないのならばこっちも無理にやるつもりはない。代わりに自分から動くまでだ。

 グレイドル・コブラ 攻1000→1500

「そしてグレイドル・スプリットのさらなる効果を発動!装備されたこのカードを墓地に送ることで装備モンスターを破壊し、デッキから名前の異なるグレイドルモンスターを2体まで特殊召喚する。イーグル、そして2体目のコブラを特殊召喚!」

 コブラの体がいきなり頭から3つに裂け、そのパーツがそれぞれ独立、再生して1つは2匹目のコブラに、そしてもう1つは黄色い鳥の姿に変わる。そして残りの1つは銀色の水たまりとなって地を這い、ヴォルカニック・ロケットの足元に潜り込んだ。

 グレイドル・コブラ 攻1000
 グレイドル・イーグル 攻1500

「なるほど、モンスターの数を増やしたか。だがそんなことをしたところで、俺のヴォルカニック・バーンには無意味だ」
「だろうね。だけど僕の狙いはそこじゃない、トラップカードの効果で破壊された1匹目のコブラの効果発動、相手モンスター1体に寄生してそのコントロールを永続的に得る!そしてその対象とするのはヴォルカニック・ロケット!」

 潜り込んでいた銀色の液体が文字通りロケットのように流線形をしたモンスターの表面を這い、その内部へと入ってゆく。

「寄生完了、ヴォルカニック・ロケットでヴォルカニック・エッジに攻撃!」

 ヴォルカニック・ロケット 攻1900→ヴォルカニック・エッジ 攻1800(破壊)
 オブライエン LP4000→3900

「そのままバトル、コブラとイーグルでダブルダイレクトアタック!」
「永続トラップ発動、フレイム・ウォール!このカードは墓地の炎族モンスターをゲームから除外し、相手の直接攻撃1回をストップさせる。俺は墓地のエッジとバレットをゲームから除外し、その攻撃を無効にする!」

 2体のグレイドルの猛攻が、噴き上がる炎の壁に阻まれる。惜しい、この攻撃が両方通れば大ダメージだったのに。だけど気を落としてはいられない、まだやることがあるのだ。

「だったらメイン2にリバースカード、海竜神の加護を発動!このターンレベル3以下の水属性モンスターは、戦闘でもカード効果でも破壊されない。グレイドル・スプリットには呼び出したモンスターをエンドフェイズに破壊するデメリットがあるけど、この効果が切れるより先にその処理を済ませておけばデメリットなしでイーグルとコブラを場に出したままにできるって寸法さ。僕はこれで、ターンエンド」

 オブライエン LP3900 手札:4
モンスター:なし
魔法・罠:フレイム・ウォール
 清明 LP3000 手札:3
モンスター:グレイドル・イーグル(攻)
      グレイドル・コブラ(攻)
      ヴォルカニック・ロケット(攻・コブラ)
魔法・罠:グレイドル・コブラ(ロケット)

「俺のターン、ドロー。最初に1つ謝っておこう、正直言ってこのデュエルが始まる前、俺はお前のことを舐めてかかっていた。お前の評判はある程度聞いてはいたが、それでも俺のライフに傷を負わすことができるとは思わなかった」
「僕の名前もついに海を渡って知れ渡ったのかね。別にいいよ、舐めてくれた方がこっちとしてはやりやすいさね」

 ちょっとムッとしたのでそう返すと、ほんの少し唇を歪ませて苦笑するオブライエン。まったく、ダメージ1つ通らないとかどれだけ雑魚扱いしてたんだか。だからこそひっくり返しがいがあるんだけどね。

「スタンバイフェイズ、俺はフレイム・ウォールの維持コストとして500ライフを支払う。そしてメインフェイズ、俺は場のブレイズ・キャノンを墓地に送り、その改良型……ブレイズ・キャノン-トライデントを発動する!」

 トライデントの名の通り、主砲が3つに分かれた第2のブレイズ・キャノンがオブライエンの場にそびえ立つ。改良型、というからには、何か先ほどとは違う部分があるのだろう。ブレイズ・キャノンの欠点を補うような何かが。

 オブライエン LP3900→3400

「トライデントは初期のブレイズ・キャノンとは違い、手札から炎族モンスターを墓地に送ることでモンスターを破壊し、相手に500ポイントのダメージを与える」
「攻撃力制限がなくなった、ってことか……!」

 まあ、強化するとしたらその1点だろう。だがオブライエンが手札から見せたモンスターは、僕の想像を上回っていた。

「俺は攻撃力500、ヴォルカニック・バックショットを墓地に送る!まずトライデントの効果でグレイドル・イーグルを破壊し、さらにバックショットの効果を発動!このカードがブレイズ・キャノンの弾となった時手札及びデッキから2体のバックショットを追加で墓地に送り、相手モンスターをすべて破壊する!」
「なっ……」
「殲滅せよ、バックショット!」

 トライデントの3つの砲台からそれぞれ1体ずつの三つ首のトカゲが打ち出されてロケットを、イーグルを、そしてコブラをそれぞれ焼き尽くす。1瞬にして、僕のフィールドの3体ものモンスターが完全殲滅された。

「まさか3体がいっぺんにやられるなんて……」
「まだだ!バックショットは墓地に送られた時、相手ライフに500のダメージを与える。それが3体分と、さらにトライデントの効果ダメージ500を受けてみろ!」
「うわっ!?」

 清明 LP3000→1000

 地面から炎が噴き上がり、僕の全身を覆う。一瞬にして初期ライフの半分を奪うその熱の前になすすべもなく、まさしく僕のフィールドは焼け野原になった。

「この効果を使うターン、俺は攻撃宣言を行えない。ヴォルカニック・カウンターを守備表示で召喚し、さらにカードをセットしてターンエンドだ」

 ヴォルカニック・カウンター 守1300
 
 炎を噴き出す獣のようなモンスターが、オブライエンのフィールドで威嚇の体勢をとる。見かけに反して守備力は低いけど、さっきからバーン効果を持つモンスターが多いヴォルカニックのことだ。恐らくただの壁では済まないだろう。そしてそれより問題なのが、炎族を墓地に送るだけでモンスターを破壊して500のバーンを行うトライデント。仮に守りを固めたとしてもトライデントの1撃が飛んでくるし、かと言ってモンスターを出さなければ確かにトライデントからは身を守れるけどモンスターを出せば直接攻撃されるから結局はその場でお陀仏はほぼ確定みたいなものだ。面白い、燃えてきた!

「僕のターン!これがラストチャンス……引いてみせる、ドロー!」

 ドローカードを確認する。来た、このカードだ!

「相手フィールドにのみモンスターが存在するとき、このカードはリリースなしで召喚できる。天をも焦がす神秘の炎よ、七つの海に栄光を!時械神メタイオン、降臨!」

 魂のこもった鎧が、天空かなたから降臨する。目には目を、歯には歯を……炎を使うヴォルカニックには、こっちも炎で対抗してやろう。

 時械神メタイオン 攻0

「メタイオン先生でカウンターに攻撃、ケテルの大火!そしてこの神の炎はモンスターを傷つけることなく浄化し、さらに相手のライフを直接焼き払う!」
「何!?」

 メタイオン先生の放った炎が、燃え盛るオブライエンのモンスターを包み込む。さすがに神の炎は並のものじゃない、フィールドは一瞬でメタイオン先生のみの場所となった。

 時械神メタイオン 攻0→ヴォルカニック・カウンター 守1300
 オブライエン LP3400→3100

「時械神メタイオンがバトルした時そのダメージは0となり、さらにバトルフェイズ終了時にお互いのフィールドに存在する自身以外の全モンスターをバウンスしてその数1体につき300ダメージを与える!カードをセットして、ターンエンド。先に言っておくけど、メタイオン先生は次の僕のスタンバイフェイズにデッキに戻る効果があるよ」
「そうか。エンドフェイズに永続トラップ、ブレイズ・キャノン・マガジンを発動!1ターンに1度手札のヴォルカニックを墓地に送ることで、カードを1枚ドローする。バウンスされたカウンターを墓地に送り、1枚ドローだ」

 オブライエン LP3100 手札:3
モンスター:なし
魔法・罠:フレイム・ウォール
     ブレイズ・キャノン―トライデント
     ブレイズ・キャノン・マガジン
 清明 LP1000 手札:2
モンスター:時械神メタイオン(攻)
魔法・罠:1(伏せ)

 さて。おそらく今、オブライエンは迷っているはずだ。結局このターン、トライデントが場に存在したままのことに変わりはない。トライデントの効果を知っているにもかかわらずモンスターを並べてきた僕の行動を見たうえで、あえて仕掛けてくるのか。それとも警戒し、動かないままターンを消費するのか。

「俺のターン、ドロー。スタンバイフェイズにフレイム・ウォールの維持コスト500ポイントを支払う。そして速攻魔法、異次元からの埋葬を発動。ゲームから除外されたヴォルカニック・エッジ、バレットを墓地に戻す。さらに炎帝近衛兵を召喚し、効果を発動。自分の墓地から炎族モンスターを4体選択し、デッキに戻すことでカードを2枚ドローする……俺が選ぶのはバックショット2体にロケット、そしてエッジ。ドロー!」

 オブライエン LP3100→2600
 炎帝近衛兵 攻1700

「魔法カード、死者転生を発動。手札1枚をコストに、墓地からバックショットを手札に加える」

 これで、オブライエンのデッキには2体、手札に1体のバックショットがある。つまり、これでいつでもさっきの強烈な一斉射撃をまた飛ばすことができるというわけだ。なるほど、これを狙うためにわざわざ炎帝近衛兵の効果に繋げたのか。

「このデュエルもこれで終わりだ、ブレイズ・キャノン・マガジンの効果をもう1度発動!手札のバックショットをコストにしてカードを1枚ドローし、そしてブレイズ・キャノンの効果で墓地に送られたバックショットの効果!3体を墓地に送ることで殲滅効果を発動し、1500ポイントのダメージを受けてみろ!」

 メタイオン先生は戦闘でも効果でも倒れないから、全滅効果ごときで破壊されたりはしない……だけど、問題は僕だ。確かに僕のライフが尽きさえすれば、モンスターがどうなろうと問題はないだろう。

「だけど、こんなところで!トラップ発動、レインボー・ライフ!手札1枚をコストに、このターン僕が受けるダメージをすべて回復に変換する!」

 清明 LP1000→2500

「かわしたか……」
「まあね。次は何を見せてくれるのさ?」
「ならば見せてやろう、俺のエースを!まずブレイズ・キャノン・マガジンはフィールド上で、ブレイズ・キャノン―トライデントとして扱う。そして場に存在するブレイズ・キャノン―トライデント、つまりマガジンを墓地に送ることで、このカードは特殊召喚できる!出でよ、ヴォルカニック・デビル!」

 トライデントが地中から溢れ出る熱にぐずぐずに溶け、その残骸を吹き飛ばすようにこれまでで一番大きな火柱が噴き上がる。溶岩が形を成したかのようなその体は常に周りの空気が揺らぐほどの熱を放ち、頭の上にはまるでたてがみのようになびくオレンジ色の炎が一筋燃え盛っている。その姿はまさに、地獄の底から熱と共に地表に現れた悪魔そのものだ。

 ヴォルカニック・デビル 攻3000

「破壊ができない上に次のターンでデッキに戻るのならば、今攻撃する意味はないな。カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」
「僕のターン、ドロー!まずスタンバイフェイズ、メタイオン先生はデッキへと戻る。そして魔法カード、サルベージを発動。墓地から攻撃力1500以下の水属性2体、グレイドル・コブラ2体を手札に。そしてこの2体をデッキに戻し、強欲なウツボを発動。この効果で、デッキからカードを3枚ドロー!」

 バーン戦術からうってかわって、急に表れた高打点モンスター。なるほど、ビートとバーンの使い分けができるデッキという訳か。さすがはウェスト校主席、ノース校トップの鎧田に負けず劣らずの厄介な敵だ。
 いや、だったというべきか。僕の手札には今のドローで、勝つために必要な要素は完璧に揃った……!

「魔法カード、浮上を発動。墓地からレベル3の水族モンスター、グレイドル・イーグルを蘇生!」
「む……?」

 再び銀色の水たまりが湧きあがり、黄色の鳥がその翼を構成する。

 グレイドル・イーグル 守500

「さらに手札から、グレイドル・アリゲーターを召喚する」

 グレイドル・アリゲーター 攻500

「一体何をする気だ?」
「黙って見てな、手札からグレイドル・スライムの効果発動!このカードはフィールドのグレイドルカード2枚を破壊することで手札から特殊召喚できる!」

 グレイドル・スライム 守2000

 イーグルとアリゲーターが溶け崩れ、寄り集まってグレイ型宇宙人を模したような姿の銀色のスライムになる。その長い指で地面をさすと、その場所から銀色の水たまりがまた湧きあがった。

「この瞬間自身の効果で特殊召喚に成功したスライムと、モンスター効果によって破壊されたイーグルの効果発動!イーグルでヴォルカニック・デビルに寄生し、さらにスライムの効果で墓地のアリゲーターを蘇生!これで一発逆転だ!」

 グレイドル・アリゲーター 守1500

「……まさか俺のヴォルカニック・デビルまでコントロールを奪うとは、たいしたものだ」
「褒め言葉として受け取っておくよ。バトル、デビルで炎帝近衛兵に攻撃!」

 銀色の紋章が頭に輝くデビルが、火山弾を勢いよく打ち出して真っすぐ赤い鱗に覆われた竜人のようなモンスターを狙う。だがその灼熱の攻撃から一切目を逸らすことなく、オブライエンが更なる伏せカードを発動させた。

「だが、すでに一度かかった手にそう簡単にかかりはしない。その寄生が俺の計算のうちだとしたら、どうする?速攻魔法、突進を発動!」
「モンスターの攻撃力を700ポイントアップさせるカード?そんなことしたところで、ダメージを減らす役にしか……」
「俺はこの効果を、ヴォルカニック・デビルに対して発動させる!」

 唖然として見守る中、デビルの筋肉が突然盛り上がる。より強大な熱量を受け一回りも二回りも体が大きくなり、その分だけ火山弾のサイズと威力も跳ね上がった。

 ヴォルカニック・デビル 攻3000→3700→炎帝近衛兵 攻1700(破壊)
 オブライエン LP2600→600

「なんでわざわざ、自分のダメージを跳ね上げるような真似を……」
「教えてやろう、墓地からヴォルカニック・カウンターの効果を発動!このカードと他の炎属性モンスターが墓地に存在して俺が戦闘ダメージを受けた時、このカードを除外することで俺の受けた戦闘ダメージと同じ数値のダメージを相手に与える!」
「嘘でしょ!?ぐわっ!?」

 突如半透明になって現れた炎の獣が飛びついてきて、その牙でしたたかに僕に噛みつく。まさに肉を切らせて骨を断つ、なんてとんでもない戦法なんだ。これだけのデュエルの腕があれば、そりゃあ主席にでもなんでもなれるだろう。

 清明 LP2500→500

「だけど、まだまだ……!僕は、これでターンエンド!」

 オブライエン LP600 手札:0
モンスター:なし
魔法・罠:フレイム・ウォール
     ブレイズ・キャノン―トライデント
 清明 LP500 手札:0
モンスター:ヴォルカニック・デビル(攻・イーグル)
      グレイドル・スライム(守)
      グレイドル・アリゲーター(守)
魔法・罠:グレイドル・イーグル(デビル)

 オブライエンの場にはまだブレイズ・キャノン・トライデントがあり、僕の場には3体のモンスターがいる。お互いにハンドレス状態の今、次のオブライエンのターンで炎族モンスターを引かれない限り僕の負けはない。これは単純な運、リアルラックの勝負だ。
 だがオブライエンは表情1つ変えることなく、無造作にも見える動きでカードを引いた。

「残念だが、このデュエルはもう終わっている。確かに運の勝負にもつれ込んだとしたら、俺の今引いたカードは2枚目のマガジンでお前の勝ちだ」
「どういう意味?」

 どうも言い方が引っ掛かる。すると突然オブライエンの足元の床が爆ぜ、炎に身を包んだ小さなトカゲが跳ね上がった。見ているうちに見覚えのあるそのトカゲが、いまだこちらを向く三つ又の砲台の、真ん中の1つにするりと入り込んでいった。

「墓地に存在するヴォルカニック・バレットの効果を発動。このカードが墓地に存在するとき1ターンに1度だけ、500ライフを払うことでデッキから同名カードを1枚サーチすることができる」
「なっ……!?」

 オブライエン LP600→100

「ブレイズ・キャノン―トライデントの効果発動!今加えたバレットをコストに、グレイドル・スライムを破壊し500ダメージを与える!」

 勢いよく放たれた炎の弾丸が、銀色の宇宙人型スライムの頭部に命中して爆散させる。首から上がまとめて吹っ飛ばされて統制を無くした体が銀色の水たまりになって消えていく横で、爆ぜた火の粉が僕にも降りかかった。

 清明 LP500→0





「あー、負けたー……」

 悔いがないと言えば嘘になる。どれだけ追いつめたって、結局負けちゃううちは僕もまだまだだ。いや、ただ負けただけならここまで悔しくはないだろう。ただ問題なのは、途中から完全に僕の行動が読まれて誘導されていたことだ。今になって思い返せば確かに、グレイドルがコントロールを奪うテーマだということを知ったあのタイミングで攻撃力3000ものヴォルカニック・デビルをのこのこ特殊召喚したのは不自然だった。
 要するにあの時にはすでに、オブライエンにはこの結果が予想できていたのだろう。そして僕はまんまと読み通りにコントロール奪取した、というよりさせられたデビルで攻撃を行い、カウンターの一撃で大ダメージを受け、墓地に温存してあったバレットの効果で弾を補充したトライデントの一撃を喰らったわけだ。
 ライフポイントだけ見ればパッと見ギリギリの勝負でも、デュエルの流れ自体はほぼオブライエンに持ってかれていた。これが、デュエルアカデミアウェスト校トップの実力か。

「ありがとう、わざわざ付き合ってくれて」
「いや、礼を言いたいのは俺の方だ。対人戦は久しぶりだったからな。1人で訓練していては絶対に味わえない、勝負の感覚を思い出すことができた」
「そりゃどうも。……でも、次は負けないよ」

 まだ心は折れてないことを示すために言い返し、右手を差し出す。一瞬その手を困ったように見ていたオブライエンだったが、すぐにその意味を理解して苦笑しつつも右腕を差し出すと、ぐっと握り返してきた。
 そんなことをしている間に、すっかり時間がたってしまったようだ。ふと何気なく玄関ホール備え付けの大時計に目をやると、もはや十代とヨハンのデュエルまでほぼ間がない。

「あっちゃー、まだいい席取れるかな?じゃーねー、また今度会おう!あ、それとその中身、ちゃんと他の人たちにも渡しておいてよー!」
「わかった。仕方ないな、気は進まないがそれぐらいなら問題もないだろう。引き受けた」

 デュエルが始まるまで、あと10分強。まずは場所を取ることが最優先として……だけどそれ以外にも考えることが、今日のデュエルからは見えてきた。
 グレイドルの寄生は恐ろしい力を持つが、その強さは攻め手が単調になる弱点と裏返しの関係にある。それでも並みの相手なら、ポテンシャルの高さを生かして押し切ることもできるだろう。だが、すでにタネがばれている者や今のように応用力の高い強者が相手だったら?目の前の敵にやみくもに寄生するだけだと、今回のように寄生相手を誘導されてこっちが掌の上で踊らされることになってしまう。かといって寄生しないという選択は、グレイドル単体での戦闘能力の低さを考えると現実的でない。元から僕のデッキに入っているモンスターたちも頑張ってくれてはいるのだが、どうしたって改造前と比べてデッキそのものの戦闘力が低くなっていることは否めないわけで。
 これはこのデッキの致命的な弱点だ。ここを補完しない限り、僕はグレイドルのポテンシャルを最大限に引き出せていない。何か改善案を考えなければならないだろう。 
 

 
後書き
新年初負け、それでいいのか主人公。まあいつも通りか。
それと私事で申し訳ないのですが、次回更新は遅れます。
……すみません、結局今年に入ってもストックを作ることができてないんです。思い返せばいつぞやの鉄砲水と太陽神、2話同時公開とかやってないで1話をストックに回しておけばよかったかなあ。 
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