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遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~

作者:久本誠一
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ターン38 変幻忍者と黄昏の隠密

 
前書き
日付的に考えれば、恐らくこれが今年最後の投稿。なのに主人公は今回デュエルお休み。
ま、そういうのもいいよね……多分。
前回のあらすじ:葵ちゃんが何か相談に来たよ! 

 
「さて、と。じゃあ聞かせてよ、何やらかしたのさ一体」
「やらかした、って……先輩じゃないんですから。まず、これを見てください」

 レッド寮食堂、食卓机にて。なぜかどんどん人が集まってきたこのボロ家で、葵ちゃんが丁寧に折りたたまれた1枚の紙を広げた。もっとよく見ようと、部屋の中にいる全員の視線が一斉にその紙に集中する。まったく、元はといえば相談されてるのは僕なのに。皆デリカシーがないというか、野次馬根性旺盛というか。

『でも立場が違うならマスターも同じことするんだろう?』
「(うん。だから何も言わないの)」

 まあそれはどうでもいい。いま大事なのは、アカデミアの民度の問題ではない。その手紙はなかなかの達筆だった。字が若干丸みを帯びているところを見ると、差出人は女性らしい。少なくともレッド寮だけ見ている限り、男にこんな字は書けんよ。

「んーと?『お久しぶりです、マイシスター。あなた入学してから年に一回は実家に顔出すって言いましたよね?いつまで経っても手紙の一枚も送ってくれないので、お姉ちゃんもう辛抱たまらなくなってしまいました。いつの間にか可愛い男の子とも仲良くなっているみたいだし、そこの話も含めてまた今度、なんてのんびりしたことは言わずに今日会いましょう。この学校の灯台あたりが目印には良さそうなので、場所はそこ。時間は黄昏時、風邪ひかないように格好には気を付けて来てね。お姉ちゃん待ってまーす』」
「私の身内の恥、何も音読することはないじゃないですか先輩……」
「うん、今のはちょっとデリカシーなかったかな、ってさ」
「え、僕が悪いの?」

 穴があったら入りたい、といった顔の葵ちゃんと呆れ顔の夢想にたしなめられ、なんだかこっちが悪いことをやらかしたような気になってくる。助け舟を出してくれたのは、葵ちゃんとは同学年なこともあって割と話す機会もある剣山だった。

「それにしても、お姉さんなんかいたんだドン?」
「ええ。認めたくはないですが」

 そのあたりで室内の視線が僕の方へ向いたのを感じ、何か聞かれる前に先手を打って答える。

「僕も初耳だね。別に隠すようなことでもないだろうに」
「なんでこの身内の恥をわざわざこんなところに来てまで拡散しなくちゃいけないんですか。あの人のノリは私が生まれて16年間というもの1度たりとも馴染めなかったんですよ……」
「あー、確かにこんな感じの軽いタイプ苦手そうだもんね、葵ちゃん」
「どちらかというと、この人がトラウマになってるんですがね。とんでもない天才タイプで、何やらせても私を軽く上回るところがまた」

 これは面白い話だ。僕のレシピを片っ端から吸収する手際といい成績の高さといいデュエリストとしてもかなり上位な、まさにくの一と呼ぶべき身体能力といい、ぶっちゃけ葵ちゃんはとんでもなくスペックが高い。その葵ちゃんを軽く越すレベルが姉にいるとなると、確かにそれはトラウマにもなるだろう。
 するとそこで、手紙をじっくり見ていた明日香があることに気づいた。

「あら?でもこの手紙、今日来なさいって書いてあるけど。書いてから届くまで、何日か間があったはずよね。そこは大丈夫なのかしら?」

 そういえばそうだ。デュエルアカデミアは孤島にあるから、基本的に本土の方で出した手紙なんかは半月に一度ぐらいのペースでしか回ってこない。リアルタイムで連絡がしたければ、それこそ電話の1つでもかければいいだけだし。

「逆に聞きますが天井院先輩、この手紙はどこから受け取ったものだと思いますか?」
「え?そういえば、まだ手紙が届く日には3日ぐらい……」
「今朝私が起きた時、扉の内側に矢文が突き刺さってたんですよ。間違いなくあの人、もうこの島に来てます。まさかこの私が完全に寝首をかかれるとは思いもよりませんでしたが、あの人ならそれぐらいのことやりかねません」
「矢文って、そらまた古典的な」
「そういう家系ですから。それで先輩、どうしたらいいでしょう?私、本当あの人苦手なんですよ……」

 誰が相手でも常に同じような態度で接して個人的な好悪はあまり表に出さない葵ちゃんが、身内というのも多少はあるだろうとはいえここまで苦手意識をむき出しにするような人がいるとはねえ。
 でも、これまでの話を聞いて本人の態度を見ているうちに、なんとなく見えてきたことが1つある。要するに彼女は、今誰かに背中を押してもらいたがっているのだ。多分放っておいても葵ちゃんなら、最終的にはその姉とやらのところに時間通りに向かうだろう。それでもやっぱり気は進まないところを、せめてその踏ん切りだけでもつけてもらいたい。本人も恐らく気づいてないだろうけど、心の奥底にある理由をまとめると大体そんなところだろう。
 相手がそこらの野郎だったら知らんの一言で叩きだしてもおかしくないことではあるけれど、相手は僕の弟子で、後輩で、そんでもって大切な友人だ。普段から葵ちゃんには世話になりっぱなしだし、できる限り力になってあげたいところというのもある。ここはその役目、引き受けるとしよう。

「なるほどねえ。でも、昔はどうあれ今の葵ちゃんなら大丈夫だと思うよ」
「……そうですかね」
「そりゃそうさ。それに、相手にここまで好き放題やらせておいて逃げ出すなんて葵ちゃんらしくないね。どうやったか知らないけどこの島に上り込んでおいて、うちの店に買い物1つ来ないってところも気に食わないし」
「………」

 途中から冗談めかして言ってみるも、彼女から期待したような反応はない。ふーむ、いつもなら毒舌の1つでも飛んでくるタイミングなんだけど。

「なんだったら、僕が途中までついてこっか?ここまで葵ちゃんが苦手な人なんて、個人的にもちょっと見てみたい気もするし」
「ぜひお願いします」
「嘘っ!?」

 絶対断ると踏んでたら、まさかの即答だった。しかもかなり真剣な目だし、いまさらやっぱ無しとは言えんぞこれ。でも他人の家の家庭の事情にはなるべく首突っ込みたくないなあ、この世のあらゆる難しいことは、僕にとっては専門外だし。誰か救いの手でも差し伸べてくれないかと皆を見渡すが、皆すっかり送り出しムードになっている。

「行ってらっしゃい清明、ってさ。風邪ひかないでね?」
「あ、はい」

 天使のような笑顔を見せる夢想だけが癒しだった。

「夕飯には間に合うようにな。まさかこの万丈目サンダーに炊事をやれなんて馬鹿げたことは、お前なら言わんよな?」
『万丈目のアニキ、この間目玉焼き作ろうとしてフライパン1つ駄目にしたばっかじゃないの~』
「イエロー、その話後で詳しく。万丈目、帰ってきたらお話しよっか」
「こ、この馬鹿!あれだけ清明の前では黙っておけと念を押しただろう!」
『痛い痛い痛い、ごめんなさいアニキー!!』

 いや、別に正直に言いさえすれば怒るつもりはなかったんだけども。ただ隠し通そうっていうその根性が気に食わんだけで。誰がやったのかわからないのと自首してくるかもしれなかったからしばらく見ないふりしてあげてたけど、なるほど万丈目だったのか。





「どう?ちょっとは落ち着いてきた?」
「……ええ」

 日も沈みかかった黄昏時、隣を歩く葵ちゃんに話しかける。相変わらず険しい顔に沈んだ声だけど、ついさっきレッド寮に来た時よりは幾分マシな顔つきになってきている。ここまで来れば、後は本当に本人の覚悟の問題だろう。

「さてと……あれ、まだ来てないのか。わざわざ時間と場所まで指定しておいて……」

 そうこうしているうちに、灯台前についた。時計を見ると5時15分前、まあ及第点ということだろう。絶対気圧されるわけにはいかない相手に会うときに、可能な限り相手より先に待ち合わせ場所に行くのは僕の経験上かなり有用な手だ。地の利を得ることができるだけで、不思議なほど安心感がある。相手もあの葵ちゃんが全力で嫌がるほどの人だからそれぐらい抑えているかと思ったけど、さすがに考えすぎだったかもしれない。

「先輩、後ろです!」
『マスター、前方1メートル向けジャンプ!』

 ほとんど同時に聞こえてきた葵ちゃんとチャクチャルさんの声に従い、考えるよりも先に勢いよく体を前に飛ばす。着地して体勢を整え、慌てて何が起きたのかと今いた場所を振り返った。

「もー、せっかくびっくりさせようと思ったのにー。初めまして、葵ちゃんから話は聞いているかしら?いつも妹がお世話になってまーす、明菜・クラディーですっ!」

 そこにいたのは、黒髪の葵ちゃんとは対照的にまじりっけなしの銀髪美人なお姉さん。でもやっぱり姉妹だからか、その顔立ちはどこか葵ちゃんに似通ったところがある。それにしてもこの人、この見晴らしのいい灯台でどうやって僕や葵ちゃんだけでなくチャクチャルさんの感覚まで誤魔化してこの距離まで近づいてきたんだ……?なるほど、確かに並の人じゃあなさそうだ。

「は、初めまして。デュエルアカデミアオシリスレッド3年兼洋菓子店『YOU KNOW』代表、遊野清明です。こちらこそ、いつも妹さんには迷惑かけて」
「いいのいいの、そんなにかしこまらなくって。清明君っていうのね、私のことは明菜って呼べばいいからねっ!」

 親しげに話しかけてきた明菜さんが、次いで葵ちゃんに向き直る。と思ったら、目にも止まらぬ動きでそのまま彼女に抱き着いていた。一瞬の間の後、ドン引きする葵ちゃんをよそに怒涛の勢いで一気にまくしたてる。

「もーっ!葵ちゃん、どーーして入学してからお姉ちゃんに手紙の1枚も電話の1本もくれないのよ!お姉ちゃんこの1年というもの毎日毎日1日6回4時間ごとにポストを確認して、それから電話会社にも葵ちゃんから電話が来てないか問い合わせてずーっと待ってたんだからっ!なのに葵ちゃんったらいつまで経っても何ひとつしてきてくれないし、ずっとずっと寂しかったのにー!うわああーん!」
「あー、ハイハイ」

 おいおいと葵ちゃんの胸に顔をうずめて泣き出す明菜さんの頭を仏頂面で雑にポンポンと叩きながら、だから言ったでしょう、先輩?とでも言いたげな目でこちらを見てくる葵ちゃん。なるほど、僕は一人っ子だから兄弟姉妹のいる生活は想像するしかないけど、こんだけシスコンな姉が毎日そばにいるとそりゃあトラウマにもなるだろう。実はちょっとだけ羨ましい気もするけど。

「それで、姉上。わざわざこんなところにまで何しに来たんですか?いくら暇人で社会不適合者な姉上でも、用もないのに来るわけないと思うんですが」
「うー……清明くーん、葵ちゃんがお姉ちゃんの記憶の中の可愛い天使なあの時のあの子より毒舌がパワーアップしてるよー!」
「え!?えーと、その……葵ちゃん、一応身内ならもうちょい大事に扱ってあげても……」
「いやです」
「うわーん!」

 ここまでばっさり切り捨てるあたり、本当に普段からこの姉妹はこうだったのだろう。事実明菜さんもある程度騒いで満足したのかすぐに気を取り直し、身軽な動きで葵ちゃんから体を離した。と思ったら、次の瞬間とんでもない爆弾を落としてくれた。

「くすん。そんな冷たい葵ちゃんも可愛いけど、残念ながらただただ愛でに来たわけじゃないの。率直に聞くけど葵ちゃん、家に帰ってくる気はない?」
「……は?」

 たっぷり5秒ほど空いただろうか。さすがに説明不足を感じたらしく、ため息とともに明菜さんがより詳しく語りだす。

「もちろん退学して、なんて頼むつもりはないわよー。でも葵ちゃんがいつまで経っても連絡1つしてこないから、お父さんもお母さんも私の次ぐらいに心配してるんだからっ。だから1回でいいから、皆にその元気な可愛い顔を見せてあげてほしいなーってお姉ちゃんは思います」

 もう入学して1年が経つというのに、いまだに葵ちゃんは自身の家庭のことを僕相手にすら録に話してくれない。お互い様といえばそれまでだし、だからこそ僕も深く立ち入ろうとは思わなかったわけだけど。だけどこの話を聞く限り、葵ちゃんは僕と違って両親と一緒に過ごして育ってきたみたいだ。

「そう、ですか……でも私は、約束しましたから。卒業して、プロになるまで、2度とこの家の敷居はまたぎません、と。だから、いくらそう言われましても」
「もー、葵ちゃんのいけず。でもそう言うだろうと思った。葵ちゃん、真面目なところは昔っから全然変わってないのね。どうせこのまま私が何言っても聞くわけないだろうから、実力行使させてもらうからね」

 そう言ってどこからともなく明菜さんが取り出したのは、なんとデュエルディスク。あれ結構かさばるのに、一体どこにしまってあったんだろう。

「もしデュエルモンスターズに関してはあなたより経験が浅い私が勝つようなことがあれば、葵ちゃんにプロは向いていないってこと。本当に不退転の覚悟で家を出たのなら、この1年で私1人ぐらい軽く倒せるぐらいには成長してないとね。その覚悟を私に見せてごらん?」
「やるしかない、ですかね。姉上、後悔しても知りませんよ……!」

 灯台下の空気が、異様な緊張をはらむ。ちょうど太陽の最後のひとかけらが水平線の向こうへ消えた瞬間、最高潮まで高まった緊張が解き放たれた。

「「デュエル!」」

 先攻を取ったのは葵ちゃん。だけど、その様子が明らかにおかしい。いつもの冷静な態度は鳴りを潜めて妙に落ち着きがないというかなんというか、まるでこの場から逃げ出したくてたまらないかのような焦りすら感じる。

「私のターン、ドロー!私のフィールドにモンスターが存在しないことでフォトン・スラッシャーを特殊召喚します!さらに忍者マスター HANZO(ハンゾー)を召喚し、召喚時効果を発動!デッキから忍法カード1枚、超変化の術をサーチしてさらに装備魔法、風魔手裏剣をHANZOに装備!攻撃力を700ポイントアップ……攻撃力2000以上のモンスター2体をリリースし、手札のこのカードは特殊召喚できます!出でませ、葵流忍法最大のしもべ!銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)!」

 フォトン・スラッシャー 攻2100
 忍者マスター HANZO 攻1800→2700
 銀河眼の光子竜 攻3000

「さらに風魔手裏剣が墓地に送られたことにより、効果発動!相手プレイヤーに700ポイントのダメージを与えます!」

 明菜 LP4000→3300

「カードを1枚セット。私はこれで、ターンエンドです」

 今の葵ちゃんはやっぱりおかしい。超変化の術は自身の忍者と相手モンスターを素材としてそのレベル合計以下のモンスターをデッキから呼び出すカードであり、どう考えても今の局面はHANZOを残しておいて相手の動きを牽制すべき場面のはずだ。それにそもそも攻撃力2700と2100のモンスターを出すことに成功したのならば、倒せない敵がいるわけでもないのだからその2体をそのまま残しておく方がよほど安全だろう。

「葵ちゃん、いったん落ち着いて!」
「うるさいから黙っててください、先輩!なんとしても、なんとしてでも私は姉上に勝ちます!」

 めったに見せない葵ちゃんらしからぬ剣幕に一瞬たじろぐ。そんな様子を見て、明菜さんも困ったかのように眉をひそめた。

「もー、葵ちゃんったら。せっかく心配してくれてるのに、そんなこと言うもんじゃないわよ?私のターンはまず永続魔法発動、星邪の神喰!それから魔法カード、トレード・インを発動。手札からレベル8モンスター、黄昏の忍者将軍-ゲツガを捨てて2枚のカードをドローッ!」
「初手からいきなり手札交換?」
「どう思うかな、清明君?私はカードを2枚伏せて、さらにカードカー・Dを召喚。このカードをリリースしてデッキからカードを2枚ドローして、強制的にエンドフェイズに移行してターンエンド」

 意外にもそのまま何もしかけてこず、ターンを終える明菜さん。だけどあの笑い方は、かれこれ1年も葵ちゃんをそばで見てきた僕にはわかる。何か仕掛けてる時の葵ちゃんそっくりなんだもん。

 葵 LP4000 手札:1
モンスター:銀河眼の光子竜(攻)
魔法・罠:1(伏せ)
 明菜 LP3300 手札:3
モンスター:なし
魔法・罠:星邪の神喰
     2(伏せ)

「私のターン、ドロー!レスキューラビットを召喚し、効果を発動。エンドフェイズに破壊される代わりに、デッキからレベル4以下の同名通常モンスターを特殊召喚します。お出でませ、忍術学びし魔性の猛犬!忍犬ワンダードッグ!」

 忍者服を着た人間の体に首から上は犬、一昔前の犬人面とでもいうべき不思議なモンスターが、葵ちゃんの場に2体同時に召喚される。あれを忍者の一員として認めてデッキに入れるなんて、葵ちゃんの基準も結構アバウトだ。

 忍犬ワンダードッグ 攻1800
 忍犬ワンダードッグ 攻1800

「だったらここで……トラップ発動、リビングデッドの呼び声!墓地からさっき捨てたモンスター、黄昏の忍者将軍-ゲツガを蘇生!」

 背中には月と雲がモチーフであろうシンプルなデザインの旗をさし、緑色のマントをたなびかせて光の竜と向かい合う忍者一族の長、ゲツガ。三日月を二重にあしらったデザインの兜が、灯台の落とす光と辺りに残るかすかな黄昏の気配を反射して、まるで本物の月のような輝きを放った。

 黄昏の忍者将軍-ゲツガ 攻2000

「攻撃力2000のゲツガを攻撃表示で、リビングデッドの呼び声まで使って特殊召喚?まあいいでしょう、いざバトルします!銀河眼よ、あの忍者の総大将を、光の力で消し去って!破滅のフォトン・ストリーム!」
「葵ちゃん!?」

 明菜さんが恐らく張っているであろう罠に対して、あまりにも無謀で軽率な攻撃。だが意外にもゲツガはその光の奔流を、真正面から受け止めてその中へ消えていった。

 銀河眼の光子竜 攻3000→黄昏の忍者将軍-ゲツガ 攻2000(破壊)
 明菜 LP3300→2300

「まだですよ、姉上!忍犬ワンダードッグでダイレクト……」

 葵ちゃんの張りつめた声は、途中で尻すぼみになって消えていった。たった今塵1つ残らず焼き尽くされたはずのゲツガが、何事もなかったかのように明菜さんのフィールドで仁王立ちしていたのだ。

 黄昏の忍者将軍-ゲツガ 攻2800

「ふふん、びっくりした?お姉ちゃんはゲツガが破壊された時にトラップカード、命の綱を発動してたんでした。このカードはモンスターが戦闘破壊された時、手札をすべて捨てることでその攻撃力を800ポイントアップして特殊召喚できる!」
「くっ……ワンダードッグでの攻撃は中止し、ターンエンドです。そしてこの瞬間、レスキューラビットのデメリットによりワンダードッグ2体は自壊します」
「だから葵ちゃん、少し落ち着いてって……」

 途中まで言いかけて、結局辞めた。別に見捨てるつもりはないけど、少なくとも今の葵ちゃんには何を言っても無駄だ。僕もチャクチャルさんのパワーが暴走してたダークネスの吹雪さんとの戦いや光の結社の力が暴走してた三沢との戦いの時にはそうだったからよくわかる。こうなった以上、外野からいくら叫んだとしても何も変わらない。残念だけど自分でそれに気づくか、相手から気づかされない限り葵ちゃんに勝ちはないだろう。

「姉上、見ての通り私のフィールドにはまだ攻撃力3000の銀河眼がいます。攻撃力2800のゲツガ1体で、どう耐え抜くつもりですか?」
「もー、葵ちゃんったらあわてんぼうさんなんだから。ゲツガのモンスター効果発動!1ターンに1度自身を守備表示に変更することで、墓地から忍者を2体まで蘇生させるよっ!黄昏の忍者-シンゲツを2体特殊召喚!」

 攻撃を終えたゲツガが槍を地面に突き立て、いつの間にか配置してあった椅子にどっしりと腰かける。するとその両脇で木の葉が渦を巻き、その中心から2体の新たな戦士……4本の腕を持ち2本の忍者刀を背負った、片目を隠す装束に青いマントの異形の忍者が音もなく現れた。

 黄昏の忍者将軍-ゲツガ 攻2800→守3000
 黄昏の忍者-シンゲツ 攻1500
 黄昏の忍者-シンゲツ 攻1500

「そうか、命の綱は攻撃力を上げるだけじゃなくて手札の忍者を墓地に送り、ゲツガの効果をサポートするために……まるで戦略に隙がない、確かに葵ちゃんが天才っていうだけのことはある」
「うんうん、さっすがは清明君!もっと褒めてもいいよ、あとでよしよししてあげるね!どう、お姉ちゃんのコンボ?葵ちゃんも清明君ぐらい素直に褒めてくれたっていいんだよ?」
「光の結社を相手にしてる間に腑抜けたんですか、先輩?そのデッキでどうやって星邪の神喰を使うっていうんですか、姉上は」

 ますます態度を硬化させる葵ちゃんだけど、これはまずい兆候だ。なんとか手遅れになる前に、悪い考えの悪循環から脱出できるといいんだけど。
 そんな妹の様子を知ってか知らずか、明菜さんは相変わらずの明るさだ。

「それと、さっきどうやって耐え抜くのかって聞いてたよね?その前に、まずは攻撃させてもらおうかな。魔法カード、クロス・アタックを発動!自分フィールドに同じ攻撃力のモンスターが2体以上いるとき、他のモンスターが攻撃できなくなる代わりにその1体は直接攻撃ができる!攻撃力1500のシンゲツでダイレクトアタック、月輪の太刀!」

 黄昏の忍者-シンゲツ 攻1500→葵(直接攻撃)
 葵 LP4000→2500

「たかがこの程度のダメージ……!」
「もー、そうやって意固地になっちゃうところも可愛いんだからー。それと、せっかくあるんだから今のうちに使っておこうかな。墓地からアマリリースの効果発動、このカードを除外することでこのターン1度だけアドバンス召喚に必要なリリースを1体減らすことができる。だけど私が狙っているのはそっちじゃなくて、今の除外をトリガーにして星邪の神喰の効果を適用!デッキからアマリリースの属性だった地属性以外のモンスター1体、闇属性の黄昏の中忍-ニチリンを墓地へ。私はこれでターンエンドね」

 葵 LP2500 手札:1
モンスター:銀河眼の光子竜(攻)
魔法・罠:1(伏せ)
 明菜 LP2300 手札:なし
モンスター:黄昏の忍者-シンゲツ(攻)
      黄昏の忍者将軍-ゲツガ(守)
      黄昏の忍者-シンゲツ(攻)
魔法・罠:星邪の神喰

「確かにゲツガの守備力3000は銀河眼の力をもってしても突破できない数値……ですが、所詮それは数字のみに頼った強さ!忍者マスター SASUKE(サスケ)を召喚します!」

 HANZOに並ぶ力を持ち、忍者マスターの称号を最も早く手に入れた上忍、SASUKE。その能力は表側守備表示モンスターに攻撃した時問答無用で破壊と、まさに今のゲツガを倒すのにはうってつけの力だ。

 忍者マスター SASUKE 攻1800

「バトル、SASUKEで……」
「黄昏忍法、闇月(あんげつ)隠れ風!」

 SASUKEが両の手にクナイを構え、敵将軍めがけ一直線に走りだす。しかしその脇に控える2体のシンゲツがその4本の手を使って複雑な印を組むと、その名の示す通り新月の闇夜のように辺りが闇に包まれていった。

「これは……?」
「シンゲツはそのモンスター効果によって、自身以外の忍者に対する攻撃を封じ……」
「そこまで聞けば結構です、要は簡易ロックというわけですね?それならば永続トラップ、忍法 超変化の術を発動!私の場の忍者であるSASUKEとシンゲツの1体を素材とし、デッキから上級モンスターを呼びだせば……」

 皆まで言うなとばかりに葵ちゃんが発動させようとした、最初のターンにサーチしていた超変化の術。だがそのカードが表になる寸前、闇にまぎれて飛んできた1枚の手裏剣が伏せカードそのものを地面に再び縫い付けた。

「超変化の術が封じられた!?」

 あまりといえばあまりに目の前しか見ていない葵ちゃんのプレイングにむしろ悲しげな色すらにじませながら、闇の中から明菜さんの声が響く。

「ちゃんと最後まで聞こうね、葵ちゃん?シンゲツが誘導するのは攻撃だけじゃなくて、カード効果の対象も誘導するの。私のフィールドには忍者モンスターしか存在しないから、攻撃も効果もあらゆる対象にできないの」
「そんな……」

 葵ちゃんの声から、さっきまでの空元気すら失われていく。さすがに見ていられなくなってきて、どうせ彼女の耳には届かないことを承知の上でそれでも叫ぼうとしたところで、明菜さんが一足先に口を開いた。

「ねえ、葵ちゃん?」
「なんですか、姉上……私の無様さでも笑いますか?」
「ううん、そんなことしないわよ。だけど今の葵ちゃんいっぱいいっぱいみたいだし、ちょっと深呼吸してごらん?」
「どうしてそんなこと……」
「いいから。お姉ちゃんからの命令ですっ」

 不承不承といった様子ながら、言われたとおりゆっくりと息を吸い込んで深々と吐き出す葵ちゃん。それを何度か繰り返すうち、次第に目の光が戻り、その表情からも自棄的な様子が抜けていった。それが分かったのか、明菜さんも満足げな様子で微笑する。

「うんうん、いい顔になったわよー。今カメラがあれば1枚撮って私の宝物にしたいぐらい」
「それは、勘弁してほしいですね」

 葵ちゃんも、ついつい苦笑する。でもたとえ苦笑とはいえ、葵ちゃんが笑うところなんて今日初めて見た気がする。

「むー、残念。でもどうなの、葵ちゃん?お姉ちゃんのこと、そんなに怖いかな?」
「え?」
「どうしても知りたくなったの。聞かせて葵ちゃん、そんなにお姉ちゃんのこと苦手だった?嘘は言わなくていいから、ちゃんと自分の心に聞いてごらん?」
「……」

 言葉に詰まる葵ちゃん。僕らの前では苦手だ嫌だと言っていても、いざ面と向かってストレートに聞かれると答えにくいらしい。
 何度か喋りかけては口を閉じることを繰り返し、それでも最後にはゆっくりと、考えながら言葉を選んで話し出す。

「確かに、姉上が苦手なことは間違いないです。ですが……ですが、こうして今宵、姉上と向き合ってようやく気付くことができました。1人で姉上から逃げてここに入学しても、結局は何の解決にもならないのだと。むしろ残った恐怖が恐怖を呼び、より一層姉上と私の距離を広げていたのだと。目を逸らしていた自分の弱さを気づかせてくれた、そんな姉上には感謝します。わざわざ会いたくはありませんでしたが」
「なんかえらい言いようだよね、お姉ちゃんのことをそんな化け物みたいに。お姉ちゃんただ、たった1人の愛する妹にはるばる会いに来ただけなのにー。でも、これで葵ちゃんの本気のデュエルが見れそうだねっ!きっかけはどうあれ、あなたがこの1年でやったことの全ては決して無駄なことじゃない。ここでしか見つけられないことを身に着ける機会だってたっくさんあったはず。お姉ちゃん、私の妹はそれができる子だって信じてるから」
「ええ。姉上に見せてあげますよ。葵流忍法の妙技、その全てを!そして姉上に私は勝ちます!」

 なんのかんの言っても、姉妹ってのはこういう独特の絆で繋がってるものなんだろうか。1人っ子の僕にはよくわからない世界だけど、ついさっきまでとは別人のように生き生きした葵ちゃんを見てとりあえずホッとした。

「魔法カード、一時休戦を発動!お互いにデッキからカードを1枚引き、次の姉上のターン終了時まであらゆるダメージを0にします!そして今引いたカードをセットし、ターンエンドです」
「私のターン、ドロー。墓地からADチェンジャーの効果を発動、墓地のこのカードを除外して、フィールドのモンスター1体の表示形式を変更。ゲツガを攻撃表示にして、この瞬間に星邪の神喰の効果をもう1回適用。私が送るのは、またまた闇属性の黄昏の中忍-ニチリン」

 黄昏の忍者将軍-ゲツガ 守3000→攻2800

 これで、再び墓地の忍者が2体になった。それはつまり、明菜さんのゲツガの効果を使うことでまたもや2体の忍者を1度に蘇生できるというわけだ。

「ゲツガの効果を発動、黄昏の中忍-ニチリンを2体特殊召喚!これぞ明菜流・天魔覆滅の陣!」

 上りゆく黄昏の月をモチーフとするゲツガやシンゲツとは違い、沈みゆく黄昏の太陽をイメージしたのであろう茜色の忍者が2人、ゲツガを中心とした明菜さん曰く天魔覆滅の陣を形作る。

 黄昏の忍者将軍-ゲツガ 攻2800→守3000
 黄昏の中忍-ニチリン 攻2300
 黄昏の中忍-ニチリン 攻2300

「だけど葵ちゃんの銀河眼は、攻撃力3000。まだそう簡単には突破されないはず……」
「本当にそうかな、清明君?ニチリンの効果発動、黄昏忍法起爆朧ガマ!手札の忍者を1体捨てることで、エンドフェイズまで場の忍者1体の攻撃力を1000ポイントアップさせる!私は機甲忍者アクアを捨てて、ルール上忍者として扱うニチリン1体の攻撃力をアップ!」

 黄昏の中忍-ニチリン 攻2300→3300

「一時休戦の効果が続く限りダメージは与えられないけど、攻撃はしかけておこうかな。バトル、ニチリンで銀河眼の光子竜に攻撃!」

 ニチリンが太陽のように光り輝く短刀をかざし、飛び上がって銀河眼を上から切り裂かんと迫る。

「あれ?だけど銀河眼の効果を使えば、ニチリンと自分を除外して戦闘を回避できるんじゃ……」
「それは無理ですね、先輩。銀河眼の効果は対象を取る効果ですが、シンゲツがいる限り姉上の忍者を私はカード効果の対象にとれません。つまり、私の銀河眼は今その効果を殺された状態なんです」
「よくそこまで気づけたね、葵ちゃん。私の自慢の妹だけのことはあるよー」
「そして、その対策もすでに私の手にあります!トラップ発動、バーストブレス!」

 動かなかった銀河眼がいきなり飛翔し、ニチリンの攻撃を紙一重のところで回避する。そのまま空中で全身を発光させ、光のブレスを忍者軍団にまとめて放った。

「バーストブレスは自分フィールドのドラゴン族1体をリリースすることで発動され、その攻撃力以下の守備力を持つフィールドのモンスターをすべて破壊するカードです。私の銀河眼の攻撃力3000に対し、姉上のモンスターは最も守備力が高いゲツガでも3000止まり。つまり、姉上の天魔覆滅の陣とやらはこれで崩壊します!」
「やった!」

 光が弾け、全てのモンスターがその中に消えていく。そしてブレスを放った銀河眼自体も、ゆっくりと光の粒子となって夜空に消滅していった。これで葵ちゃんのターンが来れば、もうあとは彼女の独壇場だろう。
 そのあたりで、ふと違和感を感じた。気のせいだろうか……いや、やっぱりおかしい。確かに銀河眼は光のブレスを放ち、それにフィールドは包み込まれた。だがその銀河眼が消えた今、なぜかまだその光が収まっていない。それどころか、まるで雲1つ無い空で輝く太陽のようにますますその眩さを増していく。

「あ、あれは!」

 あまりの眩しさに目を細めて手で顔を覆いながらも、どうにか明菜さんのフィールドに目をやった葵ちゃんが呟く。そこに立っていたのは、黄昏の中忍-ニチリン。その両腕で印を結んでいるところを見ると、またもや忍法を使って何かしたらしい。

「黄昏忍法、陽炎迷い昼。ニチリンはもう1つの効果として、手札の忍者1体をコストにこのターン終了時まで自分の忍者にたいして戦闘及び効果破壊耐性を与えることができるのよ。女忍者ヤエを捨てることで、バーストブレスから私の忍者は身を守ったのね」
「そんな!?」
「惜しかったわねー、葵ちゃん。このターンはまだダメージを与えられないから、私はこれでターンエンドするね」

 起死回生のバーストブレスすら通用せず、明菜さんの忍者を攻撃も効果の対象にとることもできない必殺の構え、天魔覆滅の陣はいまだ健在。さらに墓地には他の忍者が墓地にいるときに自身を除外して攻撃を無効にできる機甲忍者アクア。対するに、葵ちゃんの手元には伏せられっぱなしの超変化の術1枚のみ。SASUKEもバーストブレスに巻き込まれたので、モンスターすら今はいない。
 でも、葵ちゃんはまだ諦めてない。まだ何か、逆転のルートがあるのだろう。

 葵 LP3000 手札:0
モンスター:なし
魔法・罠:1(伏せ)
 明菜 LP2300 手札:0
モンスター:黄昏の忍者-シンゲツ(攻)
      黄昏の忍者-シンゲツ(攻)
      黄昏の忍者将軍-ゲツガ(守)
      黄昏の中忍-ニチリン(攻)
      黄昏の中忍-ニチリン(攻)
魔法・罠:星邪の神喰

「私のターン、ドロー!魔法カード、貪欲な壺を発動!墓地のSASUKE、フォトン・スラッシャー、銀河眼、ワンダードッグ2体の計5枚をデッキに戻すことで、2枚ドロー!」
「へえ……!」

 個人的な考えだけど、やっぱり葵ちゃんは何か持ってると思う。僕みたいに精霊と、デッキそのものと直接心を通わせることができるわけでもないのにこの局面で最高のドローソースを引くことができる運があるんだから、これは単純にデュエリストとしての運をつかみ取る力だろう。

「魔法カード、炎王の急襲を発動!姉上のフィールドにしかモンスターが存在しないことで、デッキから炎属性の獣・獣戦士・鳥獣族モンスター1体を効果を無効にして特殊召喚します!現れなさい、七色の羽根持つ紅蓮の不死鳥……炎王神獣 ガルドニクス!」

 遥か上空から天をも焦がす鳥の形をした炎の塊が、まさに急襲と呼ぶにふさわしい勢いで落ちてくる。その体を包んでいた炎が消えると、見事に真っ赤な羽根を持つ巨大な鳥が羽ばたいていた。

 炎王神獣 ガルドニクス 攻2700

「この不死鳥の力で今こそ決着をつけましょう、姉上!」
「望むところよ、葵ちゃん。だけど、いまだシンゲツの闇月隠れ風は有効のまま。どうやって対処するの?」
「さあて、姉上はどう思います?このターンはカードをセットし、エンドしますよ。そして炎王の急襲のデメリットにより、ガルドニクスはエンドフェイズに破壊されます」

 自らの炎に包まれ、身を焼かれた不死鳥が堕ちていく。その燃えカスすら残らず、最後の残り火も折よく海から吹いた風に流れて消えていった。

「せっかく呼び出せた最上級モンスターも、攻撃すらできずに破壊されちゃうなんてね。これからどうするの、葵ちゃん?」
「いいえ、すでに私の仕込みは終わっています。さあ姉上、カードを引いてください」

 明菜さんのもっともな疑問に、不敵な笑みで答える葵ちゃん。そのデュエル序盤とはまるで違う態度がよほどおかしかったのか、明菜さんも朗らかに笑ってカードを引いた。

「それじゃあ葵ちゃんがどんなことをしてくれるのか、お姉ちゃんに見せてもらおうかな。私のターン、ドロー!」
「この瞬間、墓地からガルドニクスの効果を発動!ガルドニクスがカード効果で破壊されたならば、その次のスタンバイフェイズにフィールドに蘇り、さらに自分以外の全てのモンスターを破壊します!これが私にできる唯一にして最後の一手、ガルドニクスの焦熱地獄!」

 炎王神獣 ガルドニクス 攻2700

 地面がパックリと割れて大きな火柱が噴き上がり、その中心からまるで何事もなかったかのように赤い不死鳥が再誕する。すると残った炎が意志を持つようにうねり、忍者軍団めがけて飛びかかっていく。
 確かにこの効果が通りさえすれば、ガルドニクスを残したうえで忍者軍団を一掃できるだろう。だけど、ニチリンには先ほども使った忍者をコストに忍者を破壊から守る術がある。今の明菜さんの手札はドローしたてのあれ1枚のみ、あれが忍者モンスターだとしたら……今度こそ、葵ちゃんに勝ち目はないとみていいだろう。僕が気付いたぐらいだ、それぐらいのことは葵ちゃんも重々承知の上だろう。

「さあ、姉上。今引いたカード、そのまま使えるものですか?」

 葵ちゃんの質問に、ゆっくりと首を横に振ってこたえる明菜さん。天魔覆滅の陣が、荒れる炎の奔流に飲み込まれた。

「葵ちゃん、よく私の天魔覆滅の陣を……だけど、まだ終わらないんだよっ。シンゲツは相手によって破壊された時、デッキから忍者を1体サーチできる。2体のシンゲツのそれぞれの効果で、デッキから機甲忍者アースと黄昏の忍者将軍-ゲツガをサーチ!そして相手フィールドにのみモンスターがいるとき、アースは手札から特殊召喚できる!」

 葵ちゃんも愛用する機甲忍者の1体にして、あのカイザーが使うサイバー・ドラゴンと同じ効果を持つ大地の忍者が地中から湧き上がる。

 機甲忍者アース 攻1600

「さっきは死者蘇生で出したけど、実はこのカードは忍者をリリースする場合リリース1体だけでアドバンス召喚できるんだよ!再び出でよ、ゲツガ!」

 黄昏の忍者将軍-ゲツガ 攻2000

「まずい、これじゃあ葵ちゃんがせっかく崩した天魔覆滅の陣が……!」

 ゲツガがさっきのシンゲツ2体を蘇生させれば、また先ほどのロックが決まってしまう。いや、それだけでは済まない。ゲツガで破壊されたゲツガを呼び戻し、そのゲツガがさらに効果を使えば?ニチリンが1体ゲツガに変わるだけで、天魔覆滅の陣が完全に復活してしまう。
 だが、葵ちゃんはここで絶望の表情ではなく、会心の笑みを漏らした。

「そう来ると思いましたよ。トラップ発動、リビングデッドの呼び声!この効果により墓地のHANZOを蘇生召喚し、さらに特殊召喚に成功したHANZOの効果によりデッキから速攻の黒い(ブラック)忍者をサーチします」

 忍者マスター HANZO 攻1800

「ここでHANZO?……あっ!」
「今更気づいても遅いですよ、姉上!確かにシンゲツ2体での闇月隠れ風は恐ろしいロックでしたが、それはあくまでもシンゲツ2体が場に存在しない限り意味はない。つまり、ゲツガ1体しか存在しない今ならばこのカードを発動することができる!永続トラップ、忍法 超変化の術!私の忍者と姉上のモンスターをそれぞれ1体墓地に送ることで、そのレベル合計以下のレベルを持つドラゴン・恐竜・海竜族モンスター1体をデッキから特殊召喚します!」

 ゲツガとHANZOの姿が煙となって消え、その煙が頭上に集まって見覚えのあるドラゴンの姿を形作る。あのドラゴンのシルエットを、どうして見間違えることがあるだろうか。なにせ葵ちゃんがデュエルするたびに見てるからねえ。

「再び出でませ、葵流忍法最強のしもべ!銀河眼の光子竜、ここにあり!」

 銀河眼の光子竜 攻3000

「私のゲツガ~。もう召喚権も使っちゃったし、私はこれでターンエンドかな」

 葵 LP3000 手札:1
モンスター:炎王神獣 ガルドニクス(攻)
      銀河眼の光子竜(攻・超変化)
魔法・罠:忍法 超変化の術(銀河眼)
     リビングデッドの呼び声(対象なし)
 明菜 LP2300 手札:1
モンスター:なし
魔法・罠:星邪の神喰

「私のターン。姉上、これでラストターンです!速攻の黒い忍者を召喚し、2枚目の風魔手裏剣を装備します!」
「あっちゃー……」

 速攻の黒い忍者 攻1700→2400

「バトルです、黒い忍者で攻撃!走りなさい、ブラック・ニンジャ!」
「墓地から水属性モンスター、機甲忍者アクアの効果を発動!このカードを除外してその攻撃を無効にして……さらにその効果をトリガーに星邪の神喰!デッキから光属性の超電磁……じゃなくて、闇属性のネクロ・ガードナーを墓地へ」
「姉上……?ガルドニクス、次の攻撃を!」
「ネクロ・ガードナーを除外して効果発動、その攻撃も無効に。残念だけど星邪の神喰は1ターンに1回しか使えないのよね、くすん」

 ここまで追い込まれていながらも、さらに2回の攻撃を止めて見せた明菜さん。なるほど、葵ちゃんが速攻の黒い忍者を召喚して、さらに今のドローで風魔手裏剣を引いていなかったらまだライフは残っていたのか。まさにギリギリの戦い、そう呼ぶにふさわしい。
 だけど、このデュエルもこれで終わる。最後に残った銀河眼が、もはやその攻撃を防ぐものが何もなくなったフィールドで全身を発光させて力を溜める。

「銀河眼の光子竜でダイレクトアタック!破滅のフォトン・ストリーム!」

 銀河眼の光子竜 攻3000→明菜(直接攻撃)
 明菜 LP2300→0





「あーあ、葵ちゃんったら本当に強くなったのね。お姉ちゃんとしてはそうやってたくましくなった葵ちゃんもすてきだけど、やっぱ少しは寂しいわー」

 敗れてもなお飄々とした態度の明菜さんに、葵ちゃんが詰め寄る。

「姉上、最後の局面でのあれは一体どういうことですか!機甲忍者アクアを除外した際墓地に送るモンスター、あそこで超電磁タートルを送っていれば私の攻撃を受けることなくまた姉上のターンが来たはず。まさか、手を抜いたのでは……」
「目が怖いわよ葵ちゃん、それに私は本気だったわよ。ねー、清明君?」

 またもそこで僕に振ってきますか明菜さん。でも正直、僕もここは葵ちゃんの言うことに一理ある気がする。確か超電磁タートルは墓地から除外することで、デュエル中1度だけそのターンのバトルフェイズを終了させる効果を持つモンスターだったはず。最初その名前を呼び掛けていたところを見ると明菜さんのデッキに入っていないわけでもなさそうだし、あの局面でわざわざ1度の攻撃を止めるだけのネクロ・ガードナーを優先する意味はないだろう。
 そんなわけで言い淀んでいると、明菜さんも何が言いたいのか分かったらしい。ふくれっ面になりながら、まだ手に持っていた最後の手札を僕らに見せる。

「これは……」
「超電磁タートル?」
「うんうん。この効果って、デュエル中1度しか使用できないって書いてあるでしょ?だからデッキに入れるのも1枚でいいかなーって思ってたら、まさかあの場面でドローしちゃうなんて思わなかったよっ」
「ああー……」

 何か深いわけでもあったのか、実はわざと負けたとかそういう展開かと思ったら、思いのほか現実的な理由だった。明菜さん、本当に勝つ気満々ではあったのね。まさにこの妹にしてこの姉あり、ということか。

「さてと、久しぶりに葵ちゃん成分も補給できたし、私もいったん帰ろうかな」
「あ、あの!できれば父上と母上には、私が謝っていたと伝えて……」
「ああ、あの話?ごめんね葵ちゃん、もしかして信じてた?あれ、お姉ちゃんの嘘なの」
「……はい?」
「だって葵ちゃん、ああでも言わないとなかなかその気になってくれなかったでしょ?葵ちゃんがプロにどこまで近づけたのか、お姉ちゃんもいっぺん見てみたいなーと思って」

 あっけらかんと言い放つ明菜さんに、一瞬虚を突かれたといった様子の葵ちゃん。次第にその顔が、怒りのあまり赤くなってきた。

「それで姉上、最期にまだ何か言い残したことはありますか……?」
「はい、お姉ちゃん怒ってる葵ちゃんもかわいいなーって思いました!」
「姉上ーっ!やっぱり私、姉上のことは嫌いです!」
「うわーん、また葵ちゃんがいじめるー!それじゃあ、まったねー!清明君も、今度ゆっくりお茶でもしながらお話ししましょうねっ!」

 そう言うが早いが懐から何やら白い球を取り出して地面に叩き付けると、辺りが煙幕に包まれる。その煙玉の煙が晴れた時にはすでに明菜さんの姿は影も形もなく、そのかわりに明菜さんが立っていたところには何枚かのカードが置かれていた。

「1つ言い忘れてたけど、葵ちゃん。それ、私からのプレゼントだよっ!去年の誕生日はお祝いできなかったから、ちょっと時期が違うけど進級祝いも一緒にってことで、よかったら使ってねー!」

 最後に、どこからともなく明菜さんの声が響く。どうやらこの明菜さんの置き土産、黄昏の忍者シリーズは最初からそのつもりで持ってきたもののようだ。

「……まったく、姉上はこれだから」

 どうやら怒りを飲み込んだらしい葵ちゃんが、まんざらでもなさそうな表情でカードを拾い集める。あれだけの効果を持った黄昏の忍者が葵ちゃんのデッキに入るとなると……うん、これはグレイドルの力を手に入れた僕もうかうかしていられない。

「さあ、帰りましょうか先輩。もうすっかり夜ですし」
「そだね」

 来た時と同じように、2人で並んでゆっくりと歩きだす。と、ここであることを思い出した。ずっと聞いてみたいと思ったけど、行きの時は葵ちゃんの様子がアレだったからなかなか切り出せなかったのだ。

「そういえばさ葵ちゃん、いつの間に彼氏なんてできたの?」
「すみません先輩、私にもわかるような言語で説明してください」
「いや日本語だけど。だってほら、明菜さんからの手紙にも書いてあったじゃん。可愛い男の子と仲良くなってー、ってやつ。あれって誰のこと?一言ぐらい僕にも紹介してくれたっていいだろうに」

 あの手紙を見たときから、その部分については多少気になっていた。葵ちゃんのことは入学してすぐ従業員さんになってもらってからずっと仕事仕事で自由時間を押さえつけてきちゃったような気もするから、そんな相手ができたんなら全力でお祝いしてあげるぐらいのことはしてあげたい。
 そう言うと、何か小さい子にものを教えるときどこから話せばいいだろうか、と迷う感じで今日一番のため息をつかれた。

「……先輩、先輩はもうちょっと自分が女顔寄りだってことに気づくといいと思います」
「え、嘘!?これ僕のことなの!?」
「どう考えても。でも正直昔から私も思ってたんですよね、元々顔のパーツが女顔寄りなうえに表面の絵面だけは優男ですから、多分この人女装したら案外似合うんじゃないかなって」
「日頃そんなこと考えてたの!?」
「女子力だって高いと思いますよ?私はあまりそういうの詳しくないですけど」
「……明菜さんの気持ちがちょっとだけわかるよ。葵ちゃんがいじめるー……」
「でも大丈夫ですよ、なんだかんだ言って」
「?」
「先輩の場合、見た目は問題なくて女子力も高そうですが、それ以前に性格の問題がありますから。そこさえわかっていれば、絶対女の子には見えないです」
「……うん、もうそれは褒められてるんだと思うことにするよ」

 これ以上聞いていても慰めになる気がしなかったので、そこで話を切り上げる。僕自身はご飯を作ったりお茶を入れたりしたぐらいでほとんど何もしてないはずなのに、なんだか今日はいろんなことがある日だった。そういえばデュエルアカデミアに他の分校から転入生が来るとかいう噂もあるし、もしその話が本当だとしたら明日はその人たちのところにも手土産持って挨拶に行かないとね。 
 

 
後書き
ストラク3箱のお嬢様(ある感想より。実は割と気に入ってる称号)こと天下井ちゃん以来久々のオリキャラ登場。彼女に今後も出番があるかどうかは、ぶっちゃけると月影(または日影)が新規忍者と忍法を出すかどうかの一点のみにかかってます。彼女には新規が出るたびに渡すイベントをやってもらうつもりですが、本当にこの先忍者に新規なんて出して貰えるのかが不安。書いてるうちに明菜さんのキャラ、だんだん気にいってきたんだけどなあ。
では、来年またお会いしましょう。 
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