| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

大海原でつかまえて

作者:おかぴ1129
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

07.妖精さんは頭の上が好きらしい

 皆に見送られて出港した僕達は、僕と岸田の特殊艇“てれたびーず”を中心に輪形陣を組み、最大船速で姉ちゃんのいる海域に向かった。てれたびーずの操縦を行うのは、World of Warshipsに最近はまっている岸田。岸田は素人とは思えない見事な操縦技術をキーボードとマウスで見せつけ、提督たちを感心させていた。

 僕はというと、とりあえず敵潜水艦隊に遭遇するまでは出番無し。当初は姉ちゃんがいる海域までは出番はない予定だったのだが、出撃前にあきつ丸さんから……

『丸腰のままシュウ殿を行かせるのは忍びない。せめてこれをお持ちいただきたいのであります』

と言われ、緑色のヘリコプターの模型のようなものを渡された。小さいながらも精巧に作り上げられたそのヘリの運転席には、小さな人……妖精さんが二人乗っており、妖精さんたちは運転席から僕の方を見て敬礼をした。

「ほう。カ号観測機ですね。これは助かります」

 僕の隣に立っていた加賀さんが、受け取ったヘリコプターを見てそう言う。

「かごうかんそくき?」
「いえーす。今、球磨やキソーが装備している対潜装備と同じぐらい、潜水艦キラー装備ネー」
「シュウがこれで隊潜攻撃に参加してくれると助かるクマ!」

 金剛さんと球磨さんが続けてそう言う。そっか。この子たちを連れて行けば、僕もみんなと一緒に戦えるのか。

「そうクマ。今の球磨やキソーと同じく、対潜の鬼になれるクマ」
「そのとおりであります。このあきつ丸、ぜひともシュウ殿に、このカ号観測機をお持ちいただきたいのであります」
「そっか。ありがとうあきつ丸さん。妖精さんとカ号観測機、お預かりします」

 僕は、カ号観測機の運転席で敬礼をしている妖精さんたちに目線を向けた。さすがにずっとそこで待たせるのも申し訳ない気がする……

「運転席狭いだろうし、出撃までは僕に乗ってていいよ」

 僕がそう言うと妖精さんたちはピコンと反応し、運転席から飛び降りて僕の腕を伝い、一人は肩に乗り、もう一人は肩に上り……頭のてっぺんまでよじ登った。

「岸田」
「ん?」
「頭の妖精さん、今どんな顔してる?」
「盛大なドヤ顔だ。“俺が提督だッ!!”て言わんばかりの表情で水平線を指さしてるな」
「なるほど」
「プッ……妖精さんたちも、シュウ殿のことが気に入ったようであります」

 その後は皆に見送られて出撃。今はこうして海上を軽快に走っている。妖精さんたちは相変わらず僕の頭の上で周囲の警戒をしてくれていて、カ号観測機は僕の手元に置いてある。

「加賀さん! そろそろ彩雲で周囲の索敵を始めて下さい!!」
「わかったわ」

 岸田が加賀さんに指示を出し、加賀さんがそれに従い弓をつがえて射る。射たれた矢はカ号観測機ほどの大きさの飛行機に変身し、各々が飛び立っていった。

「なぁシュウ」
「ん?」
「改めて、俺達って艦これの世界に来たんだなぁ……」
「うん……つーかそろそろ麻痺してきたよ。何があってももう驚かない自信が出てきた……」
「そうか? 彩雲を射る加賀さん……マジで美しかったなぁ……」

 岸田、それは驚きという感情ではなく、煩悩という欲望だ。

「前方に潜水艦を多数確認」
「おーけい。リーダー? どうするネー?」

 加賀さんの偵察機が前方に敵潜水艦隊を確認した。敵艦隊に遭遇するのが予想以上に早い。この様子から察するに、恐らく昨日僕らがいた小島は、すでに敵勢力に奪還されただろうと岸田は予想したようだ。金剛さんが僕らの方を見て意見を仰ぐ。球磨さんとキソーさんもこっちを見ていた。

「木曾だ! キソーじゃないッ!!」
「みんなにはキソーって呼ばせてるくせに……しょぼーん……」
『岸田、単横陣でまっすぐ突っ込めば、こっちの爆雷攻撃も当てやすいし、相手の魚雷もよけやすいでち』

 通信機から、海中に潜っているゴーヤの声が聞こえた。岸田は真剣な面持ちで前を見据え……

「全員、単横陣で最大船速で突っ切る! 同時に球磨とキソーとシュウはおのおの爆雷で隊潜攻撃!」
「「了解!!」」
「さーて仕事だクマー!!」

 岸田がキーボードの数字キーを押す。モニターに僕達を中心とした上空からの映像が映し出された。

「てれたびーずで敵の魚雷が確認でき次第、位置をみんなに送信する! あとは各々避けてくれ!!」

 僕はカ号観測機を手に取る。頭から妖精さんたちが降りてきて運転席に座り、こちらをジッと見据えた。

「妖精さん、お願いします。危ないと思ったら絶対に戻ってきて」

 妖精さんたちがドヤ顔で僕に敬礼してくれる。カ号観測機がエンジンをスタートさせて飛び立った。

「たまには魚雷じゃなくて爆雷もいいなぁ。なぁ球磨姉!!」
「やるクマぁ?……爆雷大サービスクマぁぁああああ!!」

 キソーさんと球磨さんの艤装が音を立てて変形し、爆雷の投下準備に入る。岸田のモニターに敵の魚雷の位置が映し出され、警戒音が鳴った。敵の魚雷はまっすぐこちらに向かってきている。岸田がすばやく数字キーを叩き、モニターに『SEND』という表示が映った。

「今送った! みんな避けてくれよ!!」
「おーけー! 魚雷如き、避けて見せマース!!」

 モニター上で敵魚雷がこちらに近づくにつれ、モニターからの警戒音がけたたましくなってくる。みんなを見ると各々立ち位置を調整し、魚雷と魚雷の間を縫うように移動しているのが分かる。

「岸田、大丈夫?」
「心配いらん。魚雷の回避なら自信があるッ」

 岸田もキーボードによる操作で、絶妙に魚雷の間に船を配置した。やがて魚影が分かるほどの距離まで近づき、僕達の間を何本もの魚雷が走っていくのが分かった。あれだけけたたましくなっていた警戒音が次第に小さくなり、それを受けてキソーさんがニヤリと笑った。

「よーし……今の分、熨斗をつけて返してやるぜ!!」
「爆雷投下クマぁぁああああ!!!」

 球磨さんとキソーさんの艤装から、たくさんの小さなドラム缶のようなものがばらまかれた。僕のカ号観測機も上空からたくさんのドラム缶をばらまいている。あの小さなカ号観測機のいったいどこに、あれだけたくさんの爆雷が格納されていたのかと不思議に思うほどだ。

 見た感じ数百個ほどに見える爆雷が投下されてしばらく経った頃、轟音と共に投下地点にたくさんの水柱が立ち、しばらくしてその爆発で打ち上げられた海水が、ここまで降ってきた。カ号観測機が僕のそばまで戻ってきて、僕の隣でホバリングしはじめる。妖精さんたちは爆雷投下地点をジッと睨み続けていた。

「そのまま最大船速で海域をつっきる! 残りに構うなッ!!」

 岸田が周囲にツバをまき散らしながら皆に指示を出し、てれたびーずが海域をまっすぐ突き進む。他のみんなもてれたびーずの後についてきた。爆雷の投下地点を過ぎ、かなり距離が離れたところで、球磨さんが背後を振り返った。

「……なんかクサいクマ」

 アホ毛をピクピクさせながら、球磨さんが鼻をすんすん鳴らしてそう言い、一人転舵して引き返す。

「あれ?! 球磨さん?!」
「ちょっと見てくるだけクマ! みんなは先に行って……」

 突如、球磨さんの足元で爆発が起こった。爆発を受けた球磨さんの身体は中空に持ち上がり、僕達の元まで吹き飛ばされて戻ってきた。僕はこの爆発の仕方は見覚えがあった。レ級との戦いの時、姉ちゃんの足を止め、僕を垂直に吹き飛ばした爆発と同じあの爆発は、魚雷だ。

「うぉおおおー?!」
「球磨さん?!」

 球磨さんのダメージは幸いにも少なく、艤装から少々煙が上がっているだけのようだ。倒れた球磨さんはぴょんと元気よく立ち上がり、後方を見据えて睨んだ。戦闘態勢に入っているためか、心持ちアホ毛も硬そうだ。

「大丈夫クマ。無傷のヤツがまだ残ってたみたいだクマ」
「このまま振り切るデス! ワタシたちなら振り切ることも出来るネ!」
「いーや、こっちの索敵範囲外から今みたいにピンポイントで魚雷を撃たれ続けて面倒なことになるクマ」
「なるほど……これで妙高たちはやられたのか……」

 岸田曰く、妙高さんたちは単横陣で突っ切るとこまでは問題なく出来たが、その後索敵範囲外からのスナイプでやられたという報告を受けていたらしい。相手はロングレンジからピンポイントで魚雷を撃つ名手。ならば後攻の憂いは断っておかなければならない。

「岸田、球磨に行かせて欲しいクマ」
「……わかった。でも一人じゃダメだ。シュウ」

 岸田に名指しされたことで、僕は岸田が言わんとしていることが理解出来た。僕の隣でホバリングしているカ号観測機……カ号でいいや……の妖精さんにお願いした。

「妖精さん、球磨さんと一緒に潜水艦を倒してきて欲しい」

 一人は敬礼、一人はサムズアップで答えてくれ、カ号が再び空高く舞い上がる。

「助かるクマ! じゃあみんな、先に行ってるクマ!!」

 球磨さんは笑顔でそう言い、アホ毛をぴょこぴょこさせながら勢い良く走っていった。僕らは僕らで、そのまま全速力で海域を離脱した。

 数十分後、球磨さんとの距離があまりに離れすぎることを危惧した岸田の提案で、先ほどの海域から離れた場所にある小島で、僕達は球磨さんとカ号の帰還を待つことにした。

 僕は、待ってる間気が気ではなくずっとそわそわしていたのだが、僕以外の全員が落ち着き払っている。加賀さんはまだ周囲を警戒しているかのように見回しているが、球磨さんの妹のキソーさんと水面から頭だけ出しているゴーヤは、ヒマそうにあくびをしたり、伸びをしたりしている。金剛さんにいたっては『紅茶が飲みたいネー』と口走る始末。なんだこの緊張感のかけらもない空気は……みんな球磨さんのことが心配にならないのかッ?!

「ぁあ、シュウは知らないのか」
「へ? 何が?」
「うちの鎮守府でも、球磨はトップクラスに強いぞ」

 なんだとっ?! あの、語尾に『クマ?』とかつけてのほほんとしててこの面子の中でも一番戦いに縁がなさそうな、あの球磨さんが?! 僕が驚いて金魚のように口をパクパクさせていると、岸田の代わりにキソーさんたちが口を開く。

「ああ見えて、うちの球磨姉は俺の姉妹の中でも最強だし、鎮守府内でも球磨姉に勝てるヤツはそうそういない。心配はするだけ無駄だぜシュウ」
「ワタシや比叡でどっこいどっこいデース。球磨相手の演習だと安定して勝てないネー」
「私はこの前演習を挑んだら、艦攻を発進させる前に張り倒されて終わりました……」
「ゴーヤも勝った試しがないでち……爆雷がなくても海から引っ張りだされて張り倒されるし……この前潜水艦勢6人で立ち向かったら全員張り倒されて終わったでち……」

 なんだこの恐るべき事実の数々……ここにいるみんなは鎮守府の中でもよりぬきのはずなのに、皆口々に『勝てない』だの『張り倒される』だの『どっこいどっこい』だの……

 そうして僕が驚き、恐れおののいていると……

「今戻ったクマ~」

という声が背後から聞こえ、振り向くと顔が少々汚れ、服がちょっとだけ焦げた100万ドルの笑顔の球磨さんが立っていた。

「シュウ、カ号がいて助かったクマ。クマクマっ」

 少し遅れて、カ号が僕のもとに戻ってきた。ドヤ顔で敬礼とサムズアップをこちらに向けながらゆっくりと近づいてきて、僕の頭に着陸する。妖精さんたち、そこはヘリポートではないですよ?

「球磨姉、相手はどうした?」
「きっちり張り倒しておいたクマ。だからもう心配はいらないクマっ」
「あ、あのー……球磨さん?」
「クマ?」
「この前、加賀さんと演習して勝ったって聞いたけど……ほんと?」

 僕は、加賀さんやゴーヤの言葉が今一信用出来なくて、つい本人に聞いてしまったのだが、以外と本人はあっけらかんと答えてくれた。不敵な笑顔が印象的だ。こんな表情を見せる人だとは思わなかった。

「ふっふっふ~。空母勢最強って聞いてたけど、艦載機を出す前に張り倒せばこっちのもんだクマ!」
「ゴーヤたち潜水艦6隻相手に勝利ってのは……」
「潜水艦たちは水上にひっぱり出してあげると何も出来なくなるクマ。コツを掴めば意外と簡単クマよ?」

 なるほど……この艦隊の編成案を考えたのは提督と岸田だけど、提督が球磨さんを選んだ理由がよく分かった……この人強すぎる……

「そうでもないクマ。 金剛や比叡には勝ったり負けたりだし、対潜水艦戦闘なら、球磨よりも夕張のほうがえげつないクマ」

 そういや加賀さんがそんなこと言ってたな……。『夕張』という単語を聞いた途端、ゴーヤがビクンと身体を震わせ、顔が青ざめたのが分かった。どうやら潜水艦たちにとって、トラウマを植え付けるほどの恐ろしさを誇るのが夕張さんらしい。

「あ、それとシュウ、球磨のことは呼び捨てでいいクマよ? てかすでに球磨はシュウのことを呼び捨てにしてるクマ」
「わかった」

 ともあれ、一番のネックといえた潜水艦隊は無事撃退出来た。あとは姉ちゃんの海域までひたすら突っ走るのみだ。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧