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MÄR - メルヘヴン - 竜殺しの騎士

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049話

「こんなにボロボロになって………帰ろう、ファントム……城へ」

キャンディスに連れられて転移していくファントム、それに続くように次々に転移しレギンレイヴ城から姿を消していくチェスの兵隊の面々。ドロシーは先程までジークがたっていた柱へと視線を向けるが其処には既にジークの姿はなかった。彼を取り戻すにはディアナとの決着をつけるほかない。

「おいポズン。レスターヴァ城に繋がるアンダータを渡せ!」
「はっはい!!どうぞ!!!」

ギンタの凄まじい剣幕に押され言われるがままにARMを手渡したポズン、そして遂にチェスの本拠地へと乗り込むための鍵を手に入れたギンタは早速アンダータを起動させレスターヴァ城へと転移しようとするがそれをとめる声が上がった。

「大爺様!?」
「カルデアの長老様じゃねぇか!?」
「うむ。良くぞファントムに勝利したのギンタよ、だがまだ戦いは終わったおらぬ。ディアナは確かにファントムという強い力を失ったに近いが奴には更に強い物がおる」
「ジー君の事ですね」
「うむ。純粋な力だけで言えば恐らくファントムを凌ぐじゃろうな」

それはメルのメンバー全員が承知している事。そして今現在彼がディアナに魅了されその配下となりディアナを護る近衛兵になっていることも。

「下手に戦えば全滅もするじゃろう、ファヴニールも彼の手にある」
「それなら大丈夫です大爺様。ジーくんは私が取り戻します、必ず………!!」
「………何か策がありそうじゃな、任せるぞ」
「あっそうだ前に聞き忘れたんだけど今聞いて良いか爺さん?」
「なんじゃ?」

ギンタは懐から鍵のようなARMを取り出しそれを大爺へと見せた。それは嘗てヴェストリにて幽霊を解き放った際に礼としてマジックストーンと共に受け取ったものであった。ドロシーもそのARMの用途が解らずお手上げだった、だがそのARMを見た際に大爺は目の色を変えた。

「プリフィキアーヴェではないか!!それでファントムを殺せるぞ!!」

そのARMはファントムの不死性を砕く事が出来る唯一無二のARM。それを使用する事で不死性を無くすだけではなく今までに受けたダメージが一気に全身を蝕みファントムの命そのものを壊す事が出来ると語った。ギンタとの戦いで受けたダメージが全身に回れば間違いなくファントムは死ぬと大爺は断言した。

「ギンタ。そのARMは俺に預からせて貰えないか?俺が、蹴りを付けたい」
「アルヴィス……おう任せた!」
「すまないな」

笑顔で受け取ったアルヴィス、身体を巡るゾンビタトゥは間もなく全身に回る。もう時間がない、一刻も早くファントムを倒す必要がある。

「今度は私も行きますぞギンタ殿!!」
「ワシもだ。老兵とて役に立てる筈だ」
「どうせアルは連れて行ってくれないだろうし、ああもう絶対に勝ってきてよ!!!」
「もういいな!?行くぞ皆!!」


―――ウォーゲーム。戦争遊戯という名の如くチーム対チームの殺し合い。己が傲慢な欲望は悉く倒されていく駒を見ては笑い声を上げる。ナイト、チェスの駒に置き換えてみればそれ程強力な駒ではない。トリッキーな動き、その場から出す様々な動きで視点を変え如何戦うか判断する策略家。だがかの欲望を守護する騎士(ナイト)は動かず鎮座し、女王へと襲い来る敵を切り伏せる。

騎士は魔女の恋人。愛を育み子供を設け過程を持つはずの所を欲望に奪い去れた。ヒーローを助け出す為に奮戦するヒロイン。ヒロインは愛する人の為に力を持ちて悪へと向かい愛を勝ち取る。

―――だけどこれは喜劇で悲劇、相反する矛盾劇、酷い酷いストーリー。ハッピーエンドなんて当たり前なフィナーレになるだろうかね、それは彼ら次第さ―――


「ここが、レスターヴァ城………!!!」

遂に遂にやって来た。待ち望み辿り着いたチェスの兵隊の本拠地且つスノウとジークが居る場所"レスターヴァ城"。此処にいる、囚われの姫君と最強の騎士が。

「ギンタ、此処は任せるっす!!」
「すまねえジャック!!」

だがチェスとて本拠地に乗り込まれて黙ってはいない、残りの戦力全てがメルを邪魔する為に終結していた。それを一手に引き受けたのはギンタの親友たるジャック。彼もスノウとジークが戻ってきてくれる事を強く望んでいる。そのために此処を引き受ける。全てを託せる親友に!!

城門を破壊し潜り抜けると中にもうじゃうじゃと沸くチェスの面々。ジャックが引き受けた人数はざっと100人を超えているのにも関わらず城の中でも多すぎる戦力が待っていた。

「此処は任せろよギンタ」
「先に行きぃや、ちょっと邪魔を片付けていくさかい」
「スノウを助けろ!」
「おう!!」

その戦力はアラン、ナナシ、ガイラが引き受けギンタ、バッボ、ドロシー、アルヴィス、エドが奥へと急ぐ。邪悪な魔力が満ちている奥へと進み奥の部屋へと飛び込む。だが其処に待っていたのは傷ついたファントムとそれに付き添うキャンディスであった。

「奴は俺に任せて、皆は奥へ」
「おう任せたぜアル!!」

ファントムをアルヴィスへと任せ先へと進む一同、そして遂に到着した王位の間。王と女王が鎮座する間。そこから溢れだす魔力からここにディアナが居ると理解できる、直ぐには扉を破壊して通ろうとするが扉は自ら開き道を開けた。そしてその奥に居たのは

「待っていたぞギンタ、そしてドロシー」
「10年ぶりね。ドロシー」
「ジーくん、ディアナ………!!!」

久しく再開した姉、だがドロシーにとって喜びなど欠片も無かった。カルデアの全ての人間を裏切り数々の人を騙し苦しめ、挙句の果てに自分の恋人を奪っていったこの女の事が酷く憎く恨めしい。

「私がここに来た理由、解ってるいる筈ね?」
「身内の不祥事は身内で片を付ける。私を殺しに来たんでしょう?」
「何でスノウをさらったんだディアナ!!答えろ!!!」
「竜閃!!」

突然振るわれた一撃は真空を切り裂く刃となりギンタへと襲いかかった。だがそれを同じく真空の刃がぶつかり掻き消す。

「成程。此処まで生き抜いて来ただけの事はあるな魔女、なら………魔竜閃!!」

円を描くかのように動かされたバルムンクから放たれた一撃は竜巻の如き渦巻いた斬撃の嵐となりドロシーへと向かっていく。それをギリギリで回避するドロシーだがやはりジークの強さには目を見張る。

「そんなにこのメルへヴンがほしいのか?ディアナ!!」
「……フフ…あははははははははは!!あははははははははははっは!!!メルへヴンだけじゃないわ。ギンタ君、君のいた世界もほしいのよ」

ディアナの口から放たれた言葉は異世界、ギンタが生まれ育った世界も我が物にしたいというものであった。際限無い欲望は一つの世界を覆い尽くすだけでは治まらず他の世界にまでに伸びようとしていた。

「スノウは小さい頃からこのメルへヴンとは違う世界の話をしてくれていたわ。初めは夢物語と思っていたけど……ギンタ君の父親であるダンナの存在でその世界は間違いなくあるということが確信したわ」
「お、俺の居た世界を………!?」
「貴方の友人コユキ、スノウは彼女と繋がっている。そしてあれを見てみなさい」

今まで魔力で隠されたいたのか何もない空間からスノウが姿を現す。水玉のような球体に閉じ込められたスノウの近くにブラックホールのような穴がポツンと浮かび、少しずつではあるが徐々に大きくなり始めていた。

「ARMをスノウに使って"穴"をあけているの。メルへヴンと向こうの世界を繋ぐ穴を!やがて大きくなり通れるようになるでしょうね」
「てめぇええ!!スノウをんなことに使ってんじゃねぇええ!!!」
「残念ながら至って本気よ。そして君たちは邪魔、ジーク」
「ああ」
「「リングオブエンドドラゴデス」」

ディアナが頭上で凄まじい空気の渦を生み出すと同時にそこへジークが魔力を注ぎ込んでいく。その空気を吸ったギンタ達は苦しみだしていく。高濃度の魔力は毒となり体組織を壊していく、だがその空気を裂くようにドロシーの箒が振るわれる。すかさずジッパーから毒消しのARMを使用しギンタ達の体調を回復させる。

「ジーくん、この毒消しのARMもあなたと一緒に取ったARMなんだよ?あの時は私を庇ってくれたよね、私嬉しかったよ」
「戯言を……俺はお前と共にARMを手に入れた事などない。俺はディアナに救われたんだ。失意と絶望、死の淵に落ちていたこの身を救い、愛をくれた………だから俺はディアナに尽くす!!」

今も容易く思い出す事が出来る。異常な身体能力な両親とは似て似つかぬ容姿、そして過剰な魔力で化け物として追いやられ、それでも自分を思ってくれていた友人を目の前で殺され自分も死に掛けていた。そんな自分を抱き寄せ愛をくれたのがディアナ。だから決めたのだ、彼女の為に生き彼女に相応しい男になると。

「ジークは私が出会った中でも唯一清らかな男よ。腐れ切ったこの世界の人間とは違う、澄み切った精神に魔力に人間性。自分を恨みはしていたけど他人を怨まない、だからジーク以外の人間は浄化する」
「だから―――チェスの兵隊を生んだのね」
「そして……ウォーゲーム!!」
「そうね、圧倒的な力を見せつけ人間どもを支配し彼と共に暮らせる理想郷を作り出す事。でもそれも失敗したわ。だから今度は二人でやるのよ、私の愛があれば不可能なんてなくなる。さあ
ジーク、時が来たわ」

ディアナの言葉を聞きジークは剣を納めた。そしてもう一本の剣を引き抜いた、それは抜いたと同時に真黒い刀身から茨のような邪悪な魔力をジークへと伸ばしていきその体へと食い込んでいく。

「ぉぉぉぉ……ぁぁああああ!!!!!目覚めろぉぉおおガーディアンARM ザ・ビーストォォオオオオオ!!!!!!!」

茨は更にジークの身体へと食い込んでいきその体を黒く染め上げていく。そしてその身体を食い破っていき肩、背中、更には前身の関節から炎のような棘が飛び出していきその姿を悪魔へと変えていく。瞳からは光が消えていき瞳は黒ずんでいきその姿は異形の悪魔へと変化していった。

「あ、あ……」
「ジ、ジークなのか……あれが………!!?」
「し、信じられません……悪魔……い、いやまるで魔王ですぞ!!!!???」
「ザ、ザ・ビースト………数あるガーディアンの中でも史上最悪のARM………!!!!」

ザ・ビースト。史上最強最悪のARMとして事実上の使用不能の封印が掛けられるほどに凶悪のARM、使用した人間に取り付き永遠にそれを器とし活動を続けるARM。

「デ、ディアナなんて事をっ!!!!」
「フフフッ………安心なさい、ジークはまだ救う余地ならあるわ。クリームに言われた筈よ、記憶を呼び起こせば彼は戻ってくる。さあ試しましょう、私の愛が勝つか、貴方の愛が勝つか!」
「上等よ!!!」


「「ディメンションARM ハートダイブ!!!!」」

―――今、愛が試される。 
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