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ハンバーガー

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1部分:第一章


第一章

                   ハンバーガー
 アメリカ合衆国オマハ市。今ここで話題のハンバーガーショップがあった。
「とにかく最高なんだよ」
「美味くて仕方がないんだ」
「病み付きになるわ」
 雑誌やネットで皆が口々にこう証言する。その店は評判になっていた。
 味がいいのだ。しかも最高に。パンもレタスやピクルスも美味いが特に肉が最高だった。それでオマハだけでなくアメリカ全体で評判になっていたのだ。
 ニューヨークやロサンゼルスからはるばるやって来て食べる者もいた。ある金持ちなぞはわざわざ飛行機で取り寄せて毎日一個は食べる程だ。そこまで美味かったのだ。
「やっぱりこの肉だよな」
「そうよね」
 幸運なことにオマハに住む一家がその店の中でハンバーガーを食べながらにこやかに話をしていた。
「味が半端じゃないよ」
「私このお肉が大好き」
 娘が隣にいる父親に対して言う。店の中は白く奇麗でマクドナルドに似ている。だがマクドナルドのチェーン店よりも遥かに大きく席も多い。だがその席が満室で列までできている程だ。
「牛肉よね、これって」
「そうだろ」
 父親は何気なくこう娘に言葉を返した。
「ハンバーガーだからな。やっぱり」
「そうよね。ただ」
「ただ。何だ?」
「何か味が違うみたい」
 ハンバーガーをほおばりながら首を傾げるのだった。その小さな可愛らしい首を。
「味が違う?」
「牛かしら、これ」
 目も怪訝なものにさせていた。
「この味。何か違うような」
「違う筈ないだろ」
 だが父親は娘のその言葉を否定するのだった。
「ハンバーガーに牛肉が入っていないと何なんだよ」
「それはそうだけれど」
「少なくとも豚や鶏じゃない」
 これは流石にわかる。豚も鶏も牛とは全く違う味だからだ。ましてや羊とも全く違う。だからわかるのだった。
「じゃあ牛に決まっているだろう」
「そうなの」
「そうさ。だから安心して食べるんだ」
 娘を安心させて言う。
「この美味いハンバーガーをな」
「わかったわ」
 父親のその言葉にこくりと頷いてそれからは大人しく食べた。だがこの時オマハ、いやオマハのあるネブラスカ州やその近辺の幾つかの州で奇怪なことが起こっていたのだ。それでFBIも動いていたのだ。
 その担当はデレック=ホージー捜査官だった。中肉中背の黒人の男だ。彼ともう一人ユダヤ系の若い女性であるマクダラ=ハリスがこの捜査に当たっていた。
 彼等もまたオマハに来ていた。そこにあるFBIの事務所でソファーに向かい合って座って難しい顔をしていた。
「今も手懸かりはなしですね」
「全くだな」
 ホージーは難しい顔で腕を組んでハリスのその言葉に頷いた。
「どうしたものか」
「失踪者はかなりのものになっています」
「元々この国は失踪者が多いがな」
「はい」
 ハリスもまたその知的な顔を難しくさせてホージーの言葉に答えた。実際にアメリカでは年間百万人単位での失踪者が出ている。その内訳は不明だが奇怪な事件が関係しているのではないのかといった失踪も数多く存在しているのも事実だ。アメリカの一面と言ってもいい。
「それでも最近のここは」
「有り得ないですね」
「そうだ、有り得ない」
 ホージーは難しい顔のままでハリスの言葉に答えた。
「何人だったかな、それで」
「二百人を越えました」
「遂にか」
「そしてです」 
 ハリスの言葉は続く。
「昨日河で発見された人骨ですが」
「!?そういえばそんな話もあったな」
 ホージーはそれを聞いてふとした感じで目を動かした。
「川辺に転がっていたんだったな」
「そうです。その骨ですが」
「ああ」
「肉が奇麗に削ぎ落とされていました」
「削ぎ落とす!?」
「はい」
 ホージーの驚いた言葉にクールに答える。しかしクールなのは声だけでその表情は曇ったものだった。その顔での言葉であった。
「一片残らず。それこそ」
「一片も残さず削ぎ落とすといえばだ」
 ホージーは考えながら述べた。
「ネコ科の動物がそうだな」
「猫!?」
「ああ、猫は骨を舐めるだろう」
「ええ」
 これはハリスも知っていた。
「うちの猫も鳥や魚をそうして食べますので」
「それだ」
 彼はそこに突っ込みを入れる。右手の指を動かして。
「舌がザラザラしているな。それで削り取るんだ」
「それですか」
「知らなかったのか」
「猫を飼いはじめたばかりなので」
 これは言い訳だった。しかしそれでも言うのだった。
「今はじめて知りました」
「そしてこれは猫だけじゃない」
「他のネコ科の動物もですか」
「ああ。ライオンやトラ」
 そのうえである生き物の名前も出た。
「それにピューマだ」
「ピューマですか」
 アメリカにいる大型のネコ科の生き物である。身のこなしが素早くとりわけ足音を立てずに歩くことが得意で獲物を静かに狙うのである。
「まだ野生のはいるかな」
「少なくともこの街にはいないかと」
 ハリスはホージーの今の言葉には首を傾げて答える。
 
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