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101番目の百物語 畏集いし百鬼夜行

作者:biwanosin
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第十七話

◆2010‐06‐01T12:50:00  “Yatugiri High School Student council Meeting room”

 昼休み。俺とティア、それに朝のホームルーム直前に登校してきたテンは先輩に誘われて生徒会室で昼食をとっていた。何でも昼休みの内にやっておきたい仕事があるが一人で生徒会室にいるのは若干寂しく、とはいえ他の役員をそのためだけに呼び出すのはさすがに、とのことだ。だったら俺達はいいのかという話になるのかもしれないが、俺はとある要因から生徒会室で食事をとることもそこそこあったし、普段一緒に昼食をとる三人をまとめてだし、先輩と仲が悪かったりするわけでもないし……まあ簡潔にまとめてしまえば『嫌じゃない、むしろ先輩とおしゃべりしながらの食事楽しそう』と三人ともが思ったので、問題ないだろう。

「それにしても、珍しいですね。先輩が昼休みを費やさないといけない状況に追い込まれてるなんて」

 というわけで生徒会室の来客用のテーブルに弁当を広げつつきながら、そう先輩に問いかける。普段であれば、先輩が昼休みに生徒会室を使うのなんて役員で集まって談笑しながら昼食をとったり他の友人と一緒に食べる場所として使うくらいだ。本人曰く、『なーんで授業と授業の合間にまで仕事しないといけないんだよ?』とのことだ。この時一瞬仕事が嫌なら生徒会長にならなければよかったのでは?と思ったんだけど、まあでもこんなにちっさ可愛い人が生徒会長と言うだけで幸せな気分になるから良しとしよう。

「あー、ちょっとな。最近なんか怖い噂話が増えてきたし、放課後に集まる時間を減らしたほうがいいんじゃねえか、ってな」
「それなら他の役員の人たちにも集まってもらった方がいいんじゃ?」
「……私の都合で貴重な昼休みに呼び出せるかっての」

 ………?どういうことだ、それは。

「ああ……亜沙先輩が怖いんですね?」
「分かっても言うなよ、ティア!?」

 ……うん、なるほど。そういう理由で亜沙先輩が一人でやることになってるわけなのか。

「はぁ……まあ、そういうこった。他にも私が一人でやって、目を通して、サインをしてって書類の方が多いからな。他の役員の仕事が比較的少ないのも事実なんだよ」
「けど、そういうことなら俺帰りに先輩の家まで送りますよ?」
「狼にホイホイついていくどころか、狼を誘うだなんて危険な真似はなぁ……」
「そんなことしませんよ!?」

 なんでそう言う判断をされてるの、俺!?これまでにも何度か家まで送ってるのにそう言う評価になってるとか、悲しすぎるのですが!!!

「大丈夫だカミナ、冗談だから。冗談だから、今にも泣き出しそうなその表情を納めろ」
「うぅ、先輩……その冗談は、酷いです……」

 たぶん、あと一秒先輩が冗談だというのが遅かったら泣き出してたと思う。それくらいショックが強かった。今はものすごくホッとして、すぐ隣からテンが冷めきった目を向けていることすら気にならないレベルである。ついでになんだかわき腹にグサッと刺さったような感覚があるんだけどそれも気にならな……

「って痛いッ!?」

 いわけがない!痛い!その部分がものすごく熱を持ったように熱い!そう思ってわき腹を触ってみるけど、何か刺さっているわけでも、服に穴が開いてるわけでも、血が出ているわけでもない。そんな不思議なわき腹を抑えながら恨みがましくテンを見てみれば、そこでは何もないかのように箸を進めている。どうなっているのだろうか、これは。あれか?『夢の通りに殺す』ロアだからそれ以外の方法で殺すことが出来ないとかなのか?

「ん、どうしたんだ、カミナ?」
「いえ、何でもないです先輩。ホントに大丈夫ですから」
「そうか?ならいいんだけど」

 と、なんでなのかこんな奇行をしているのに先輩はさらっと流した。助かるんだけど、なんでこうもあっさりと?俺がそう言う人間だと認識でもされてたらちょっとショックなんだけど。

「ところであーちゃん先輩、その怖い噂話と言うのは何なんですか?」

 と、俺がそんなことを考えていることなど知らないのか、もしくは分かっていても気にも留めないのか、そんなことを先輩に尋ねている。いやまあ、確かに重要なことだけど。噂話、つまりロアに関わることなんだから。けど、できれば人の脇腹に何かを突き刺したことも覚えていてほしい。

「うん?そんなのに興味があるのか?」
「はい。あたしたち三人とも民俗学に興味があるので、どんなものなのかな、と」
「……カミナが、民俗学?」
「そんな心底ありえない、みたいな目を向けないでください!」

 あれ、今度は否定してこないんですけど……え、マジで?マジでそう言う印象?

「つっても、私も全部知ってるわけじゃねえんだけどな」
「ケホケホ……なるほど、怖くて途中で聞くのをやめてしまったんですね?」
「ティア、最近お前さん遠慮がなくなってきてないか?」

 うん、俺もティアがあんな発言をしたのは驚きだ。

「が、まあ悔しいことにその通りなんだけどな……聞いた通りに話したら怖いから超簡略化するぞ?」
「まあ、はい。大丈夫ですよ」
「んじゃま、簡略化して……昔、人が多いだとか食料が足りないだとかその他もろもろの理由から子供を殺してた村があるんだと。んで、山を歩いているとその村に迷い込んでしまい、その村人たちに殺されちまう……みたいな感じだったかな?」
「……まあ確かに、それをしっかりとストーリー付きで聞いたら怖いかもですね」

 さらっと言われたらそうでもないんだけど。

「それで、それはなんて言うお話なんですか?」

 そして、テンはさらに首を突っ込んで聞いていく。あれかな。しっかりと名前を聞いておいてあとから調べるつもりなのかな?

「知らん」
「……え?」
「怖かったから途中で聞くのをやめた。だからこの都市伝説の名前は知らないし、そもそもさっき話したのだってさわりでしかない」
「「「…………………………………………………………」」」

 なんかもう、いっそ清々しかった。それはもう清々しいほどにはっきりと言ってくれた。もうそこも素晴らしいとか思えちゃうくらい。

「まあでも、そんなに気になるんなら姫子に聞けばいいんじゃね?あいつなら暇つぶしにそう言うこと調べてるだろ」
「あー、言われてみれば確かにそうですね。では、それで行きます」
「ねえカミナ、姫子ってだれなの?」
「俺の幼馴染。ちょうど最近引きこもり期間に入ったらしくて、ちょうど今日の放課後に会うことになってるんだ」

 んでもって、そう言った引きこもり期間中は暇で暇で仕方ないから、漫画を読んだりアニメを見たり噂話を調べたり、本当に色々とやって暇をつぶしている。だから、その噂話について知っている可能性は高い。というか多分知ってる。間違いなく知ってる。だから、後はその名前をDフォンで調べればいいわけだ。

「……引きこもり期間?」
「あ、それ私も気になってました」

 ……うん、そこを説明するのはとても難しくなるのですけれども。それに詳細にしゃべるのはさすがに気が引ける問題だし。うーむ……ま、本人が聞かれたら言ってる程度の情報なら問題ないか。

「そいつ、一時期引きこもりやっててな……その辺の問題はもう解決したはずなんだけど、癖になったらしい」
「何よそのわけわかんない癖」
「判断に困るだろ?まあそんなんなんだけどちゃんと卒業に必要ない程度には出席してるし、テストの成績はむしろ上位陣に食い込むレベルだから学校も何も言わなくて、そのまま今に至る、ってわけだ」

 こうしていってみて改めて思った。わけ分かんねえ、と。

「あ、ついでに民俗学に詳しいんだったらその辺のことについて調べといてくれよ。私の心のために」
「あー……はい、了解です」

 まあ、うん。勝手なイメージだけど主人公ってこういうことに対して自分から首を突っ込んでいくイメージがあるし、聞いちゃった以上はいずれ巻き込まれそうだから自分から行くことには大いに賛成だ。テンかティアがいればそうそう大変なことにはならないだろうし、もしかしてもしかすると俺と縁のある物語なのかもしれない。
 なにより、先輩の心のためになるのなら、俺に断るという選択肢はないのだった。

◆2010‐06‐01T17:00:00  “Yatugiri High School Student council Meeting room”

 というわけで、放課後。俺は隣のクラスで配布物とか宿題の類を担任から、ノートのコピーを姫子の友人から受け取って姫子の家に向かっていた。

「そう言えばあんた、部活の方は大丈夫なの?」
「ああ、一応部長にメールはしておいたから大丈夫なはず。一日撃てないのは若干不安だけど、また明日の朝にでも練習するさ」
「部活動は真面目ですよね、カミナ君って」

 最初は興味本位だったわけなんだけど、去年上の大会に出場してからは結構マジになった気がする。大学ではピストルをやってる大学はほとんどないんだけど、それでも免許を取ったりして自分で射場に行って練習したりするんじゃないだろうか?と思う程度には。

「まあな。スポーツに打ち込む男子高校生、いいじゃないか」
「まあ、確かに青春っぽいけど……射撃ってスポーツなの?若干の違和感が……」
「ケホケホ……確かに私も、そう思ってたんですけどね。国体やオリンピックの種目の中にもありますし、立派なスポーツだと思いますよ」
「他のスポーツに比べて体力とか筋力よりも集中力が重要になってきたりするんだけどな」

 それでもやっぱり、体力は重要だったりするし、筋力も必要なものだ。一度の試合で最低でも四十発は撃つことになるんだけど、反動のない競技用の銃でもそれだけ撃っていれば腕は疲れてきて、最後には銃を上げるのも難しくなってきたりする。普段は使わない、他のスポーツでも使うことの少ない『静止筋肉』とか呼ばれるものを鍛えることは必須だ。あと、上の大会に行くほど体力の消費が激しいように思う。多分錯覚だけど。

「なんにしても、さ。興味があるんなら明日の朝見学するか?俺しか案内できないけど」
「うーん……それもそうね。頼んだわよ、カミナ」
「ふふっ、それなら私も久しぶりにお邪魔しますね」
「オウ、大歓迎だ」

 と、そんなことを話しながら足を進める。いやまあ、こんな普通な話題で話すのはここまでなんだろうけど。

「それで、えっと……先輩が言ってたのについて、この時点で分かってることってあるのか?」

 とりあえず、主人公は俺らしいので俺から聞くことにした。気になってた、ってのもあるんだけど。

「ああ、あれね。さすがに情報が少なすぎたから特定はできなかったんだけど……村系よね、あれ」
「確実に村系ですね。ここまでの情報だけで考えると、殺害系です」
「やっぱりそうよね……」
「はい……まだカミナ君には早いと思うんですけど」
「あたしやティアの時点で早すぎるレベルだし、今更よ」
「ふふっ、それもそうですね。カミナ君のレベルに見合ったロアの知り合いって、今の時点では鈴ちゃんと絵さんくらいですし」

 どうやら、普通なら俺くらいの初心者主人公で対処できるのは鈴ちゃんと絵さんくらいが限界らしい。
 確かに、言われてみれば相手を見せた夢の通りに殺すことが出来、しかもそれを連発してくるようなテン。それはもうたくさんの人を死に追いやった病気『黒死病(ペスト)』の名前を持ち、しかも魔女でもあるティア。この二人にロアになりたてまだ何もできませんの俺が対処するのは難しいだろうけど。

「え、でも絵さんって大抵どこの学校にでもある『音楽室の作曲者の絵が~』系だし、スズちゃんだって一種の神隠しなんだから、カミナにはまだ早いんじゃない?」
「確かに、言われてみればその通りですね……カミナ君がこれまで生き残ってこれたのは、奇跡としか言いようがないのかもしれないです」

 どうやら、絵さんと鈴ちゃんも無理だったようです。知名度がそのまま力になるって点では確かに絵さんは強そうだし(常に変顔、って要素でマイナスされてないだろうか?)、鈴ちゃんだって『入れ替わる』という形だけど神隠し。ついでに金縛りもできるような人材だ(一番重要な要素がまだできてないっぽいんだけど)。俺にはまだ荷が重い相手……なのか?

「若干釈然としないのですが」
「まあなんにしても、アンタがこれまで生き残ってこれたのは一番最初にあたしを攻略する、とか言う無茶無謀に成功したおかげよ。感謝しなさい?」
「どうもありがとうございます天樹さま。どうかこれからもお守りください」

 とりあえず、思いっきりへりくだってみた。と、その時俺は夢を見た。


  その夢は、とても単純なものだった。すぐ隣の少女が俺の死角から何かを突き刺し、そのまま死亡する。
  完全に死角、その上うつぶせに倒れたから、何をされたのかをはっきり認識することもできない。
  そして、完璧な角度、タイミングによって誰一人としてそれを見たものはいなかった。


「なーに主人公がなっさけないこと言ってんのよ!」
「うおっとぉ!?」

 本気で避けた。かなり本気で前に跳んだ。ノーモーションからここまで跳べるものなのか、と驚くくらい前に跳べたんだけど、ついでに若干無理な動作だったのか足がいたかったけど、でもそれよりも。

「本気で殺しに来ないでくださいよ、テンさん!?」
「大丈夫よ、ちゃんと知っていれば避けられるタイミングにしたはずだから」
「確かに避けられましたけど、問題はそこじゃなくてですね!?」
「なによ、ちゃんと活入ったでしょう?」
「超ド級の冷や汗と共にな!」

 さすがに本気で殺すつもりはなかったんだろうけど、とはいえそれで済ませていい問題でもないだろう。……いや、そうでもなかった。割と普通の日常だ。むしろ避けられる分、普段の傷跡も何も残らない激痛よりはましかもしれない。

「しっかりしてくださいね?カミナ君」
「ティア……」
「カミナ君は私たちの主人公なんですから、何かあったら私たちまで消えてしまうかもしれません」
「はい。カミナ、本気でしっかりします」

 よし、しっかりしよう。かなりしっかりしよう。
 と、そんな決意を固めている間に、目的地についていた。そこそこ距離があったはずなんだけど、話ながら来たおかげかそこまで歩いたという実感はない。

「よし、ついたぞ。ここだ」
「ここって……」
「駄菓子屋さん……ですか?」
「ああ。ここは姫子のばあちゃんの家で、今はばあちゃんと二人暮らししてるんだよ」

 そう簡単な説明だけをして、俺は店の裏側に回る。客としてくるときは表からは言ってしまえばいいんだけど、今日はそうじゃないから裏からだ。

「すいませーん」
「はいはい……あらカミナ君。いらっしゃいね」

 裏口の戸をノックすると、中からおばあさんが出てきた。先ほども話に出てきた、姫子のばあちゃんである。

「こんにちは、おばあちゃん。プリントを届けるように言われてきたんだけど、あいついます?」
「いますよ。ええ、そもそもあの子はこの期間に入ったら一人では外出しませんし」
「それもそうか」
「ええ、そうですとも」

 孫が体調がわるいわけでも何かあったわけでもなく、ただ気分で引きこもっているというのにこのおおらかさ。この人がこうだからこそ姫子が今の生活をできてるんだろうけど、もう少しおおらかじゃなくなってもいいと思う。

「ところで、その人たちは?」
「ああ、俺のクラスメイトで・・・」
「夢宮天樹です」
「園田ティアです」
「今日はお孫さんが都市伝説の類に詳しいと聞きまして」
「それで、少しお聞きしたいことがあるのでお邪魔させていただきました」

 なんで二人の息がこんなにぴったりなのだろうか?前もって打ち合わせをしていたのか?

「あらあら、そうなんですか。確かにあの子、こういう時いんたーねっとばっかりやってるからねぇ。って、こんなおばあさんのお話を聞いててもつまらないですよね。さ、上がってください。もしかしたら寝てるかもしれないけど、その時は起こしちゃっても大丈夫ですから」
「いいんですか?」
「ええ、いつものことですし」

 俺達を向かい入れてくれた後、おばあちゃんは表に向かっていった。ほぼ趣味でやっている駄菓子屋の店番に行ったのだろう。

「えっと、いつものことというのは?」
「俺が来たときにアイツが寝てることは結構あるんだけど、そう言うときは起こしていいって言われてるんだよ。それどころか、一回起こさずに帰ったら怒られたくらいだ……」

 正直なんで怒られたのだろうと思ったわけなんだが、『引きこもってると人との会話に飢えてくる』って言われて半分納得してしまったのだから仕方ない。なお、もう半分は納得してない。だったら引きこもるな、と言いたくなった。

「まあそう言うわけだから」
「なんだか、馴れきってるわね……」
「幼馴染だしな」
「そう言うものなんでしょうか……」

 まあ、仮にも異性なんだからってことなんだろうけど……正直言って実感がないのだから仕方ないと思う。
 と、そんなことを考えながらもう慣れた道を進み、階段を上ってから三つめの部屋に来る。さて、さっさと中に入るか……

「「ちょっと待った」待ってください」
「うん?」

 と、俺がドアノブに手をかけたところで二人からストップがかかった。

「どうしたんだ、二人とも?」
「どうしたとかそう言う問題じゃなくて」
「どうしてそうあっさり入ろうとしているんですか?」
「いや、いつものことだし」

 呆れられた気配がする。

「あのねぇ……着替え中とかだったらどうするのよ?」
「それはさすがに気まずいな……下着さえつけててくれればそうきにならないけど」
「アンタそんなに女慣れしてたっけ!?」
「あいつだけは例外なんだよなぁ……」

 どっちか片方だけでもなかったらあれだけど、両方付けていたらそこまで気にならない。何と言うか、うん。まさか俺に限ってそんなことがあるのだろうかと思ってしまうんだけど、なれちゃったのだ。うん。さらに言うなら、姫子の方も全然気にしないから問題なくなってしまうのである。

「なんにしても、これだけ騒いでて出てこないってことは寝てるんだろ。因みに言っておくが、アイツは扉の前から呼びかけた程度では起きないぞ」
「……それならまあ、仕方ないわね」
「初対面の私たちが起こすというのも、混乱させてしまいそうですし……」

 渋々、と言った様子で二人が同意してくれたので俺は再びドアノブに手をかけて部屋の中に入る。ぐるっと見回してみると、予想通りベッドに膨らみが見られた。
 もう間違いなくそこにいるのは分かったので、そのふくらみに近づいていく。そして枕もとを覗き込んで、確かにそこに顔があって寝ていることを確認。鼻をつまんで、それから口を逆の手ですっぽり覆う。
 しばし待つ。

「ぷはぁ!?」
「よし、起きたか」

 苦しさから目を開けたのを見て、俺も手をどける。幼馴染なだけあってコイツとの付き合いも長く、その中で何度も試行錯誤をした結果判明した起こし方は、今日も絶好調である。

「あー、苦しかった……って、やっぱりカミナか。ヤホーカミナ、元気してるー?」
「ああ、元気だ元気。そしてカミナって呼ぶなおかげで俺の名前を知らないような奴らからもカミナって呼ばれるようになってるんだぞ」
「いいじゃないの、ニックネームで親しみやすい言い先輩ってことで。それに、今更変えるのも無理っしょ」
「確かに、いまさら姫子からの呼び方が変わるのは違和感半端ないよなぁ……・」
「そーゆーことよ!」

 と、そこでようやく姫子は体を起こして……

「って、何だその寝間着?薄くねえか?」
「ああ、これ?ネグリジェってやつ。どうどう?薄くね?マジヤバいくらい薄くね?」
「ああ、これは確かにマジヤバいくらい薄いあばぎゃっ!?」

 漫画やラノベの中でたびたび寝間着として出てくるネグリジェ。当然ながら実物を見るのなんて初めてだからマジでこれくらい透けるものなのかと思ってみていたら、誰かに襟元を引っ張られてその勢いで足を狩られた。思いっきり腰を打って痛い。

「いつつ……何するんだよ、二人と」
「いいからアンタは部屋から出る!」
「いますぐに姫子さんを着替えさせますから!」
「「返事は!?」」
「はいかしこまりました失礼します!!!」

 その剣幕に、俺は脱兎のごとく部屋を出た。
 
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