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無邪気

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2部分:第二章


第二章

「やったなあ」
 その血だらけの顔で笑いながら言って刺すのだった。刺された相手は腹から血を噴き出す。そのうえで後ろにゆっくりと倒れていく。
 ある女の子は捕まえた相手に馬乗りになり包丁で滅多刺しにしている。刺されている相手は胸を鮮血に染めている。女の子の顔も身体も髪の毛までもが返り血に染まっている。
「悪い奴は許しちゃいけないから」
 ぐさぐさと何度も刺しながら笑っていた。
「ママも言ってたしね。悪いことしちゃいけないって」
 こんなことを言いながらだった。けれどその子も後ろから木刀で別の子に頭を割られて倒れるのだった。
「あはははは、鬼が死んだよ」
 倒れたその女の子を見てその木刀の子が笑う。そしてその子もまた。
 公園の中で子供達が血に塗れていた。一人が殺せばまた別の一人に殺される。そんなことを繰り返していたがやがて残ったのはあの言いだしっぺの男の子だけになっていた。
「あれ、いないの?」
 この子は手に斧を持っている。家の物置から持ち出したものである。その斧も男の子自身も鮮血や脳漿、その他の体液で汚れている。男の子自身もあちこちに怪我をしている。
「誰もいないの?」
 返事はない。誰もいない。ただ皆倒れているのが見えるだけだ。
「何だ。つまんないの」
 男の子はここで口を尖らせて言った。その返り血でまみれた顔で。
 それでふてくされもしたがある女の子が足元に転がっているのが見えた。頭が割れてそこから血を出して白目を剥いて仰向けに倒れている。この男の子が斧で頭を割ったからである。
 その女の子を見て男の子はふとその映画のことを思い出したのだった。そうして。
「そうだ。これ持って家に帰ろう」
 こう言ってにこにことして斧を振った。そのうえで自分の家に帰ったのだった。
「只今」
「遅いじゃない」
 台所からお母さんの声がする。夕食の仕度をしているらしい。
「何処に行ってたのよ」
「公園で鬼ごっこしてたんだ」
「公園ってすぐ側の?」
「そうだよ。皆で遊んでいたんだ」
 家の廊下を歩きながら台所に向かいつつお母さんに対して答える。何かを両手にそれぞれ持ちながら。左手に持っているそれはやけに重かった。
「皆でね」
「それはわかったけれど早いうちに帰って来なさい」
 お母さんは用事に夢中だった。だから自分の子供の方を見ていなかった。いつもの小言を言うのもどちらかといえばなおざりなものであった。
「わかったわね」
「わかったよ」
「早いとこおやつ食べなさい」
「おやつは何?」
「お饅頭よ」
 それだというのである。
「テーブルの上に置いてるわ」
「ああ、これなの」
「あっ、待って」
 ここでさらに言うお母さんだった。
「あんた手は洗いなさい」
 言いながら我が子がいる後ろの方を見る。すると。
「なっ・・・・・・あんた・・・・・・」
「手を洗わないといけないの?」
「その手に持ってるの何?」
「斧だよ」
 まさにおもちゃを持っているかの様な言葉だった。
「それがどうかしたの?」
「斧って・・・・・・それに」
「ああ、これ?」
 男の子もお母さんが何を言いたいのかわかった。自分の左手に持っているものに対してである。それについて言いたいのだとわかったのだ。
「これ?よし子ちゃんじゃない」
「あんたまさかよし子ちゃんを」
「面白い遊び考えたんだ」
 にこりと笑ってお母さんに話すのだった。
「皆でね。追いかけっこするんだけれど」
「追いかけっこ・・・・・・」
「そうだよ。追いかけっこ」 
 自分の方を向いたまま身体をガタガタ震わせて顔を真っ青にさせているお母さんへの言葉である。
「追い付いたら武器を持ってそこで殺し合うんだ。映画みたいにな」
「それでよし子ちゃんを・・・・・・」
「面白かったよ。けれどね」
 それまではにこりと笑って話していた男の子の口調がここで変わった。その顔も如何にもつまらなさそうになった。そのうえでの言葉だった。
「皆一回死んだら終わりだから。面白くないよね」
 言いながら左手に持っているその女の子を見た。頭が割られそこから血を流し顔全体が真っ赤に染まっている。口からも血を流し白目をむいている女の子を。
「ねえ、よし子ちゃん」
 女の子は言葉を返さない。首だけでそこにいるだけである。男の子は首だけになった女の子に対して無邪気に語り掛けていた。まるで天使の様な笑顔で。


無邪気   完


                 2009・10・7
 
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