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無邪気

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1部分:第一章


第一章

                       無邪気
 子供達は遊んでいた。ただそれだけだった。
「ねえ」
 そのうちの一人の子が不意に言い出した。
「面白いことしない?」
「面白いことって?」
「何するの?」
 他の子達もその子に尋ねる。公園の砂場のところに皆集まる。いるのは子供達だけで大人達はいない。落ち葉がはたはらと散る中で小さな子供達がいた。
「この前さ、テレビで見たんだよ」
「テレビで?」
「うん、テレビで」
 男のこの一人がにこりと笑って皆に話すのだった。
「お父さんとお母さんが映画を見ていたんだ」
「えいが?」
「あめりか?そんな国の映画でね」
 まだアメリカという国がどういった国かもよくわかっていない。そんな歳の子供達だった。
「怖い映画だったんだ」
「えっ、怖いの?」
「怖いの嫌だよ」
「ねえ」
 皆そう言われて嫌がる顔を見合わせた。
「怖いのじゃなくて楽しい遊びしようよ」
「そうだよ」
「ううん、楽しいよ」
 しかしその男の子はにこりと笑ってこう言うのだった。
「皆武器を持ってね。それで追いかけ合うんだよ」
「追いかけっこなの」
「武器を持ってなの」
「そうだよ。それで相手を捕まえたらね」
 男の子の言葉は続く。至って無邪気な笑顔のままで。
「その武器でやっつけるんだ」
「やっつけるんだ」
「その武器で」
「追いかけるのはいい人で追いかけられるのは悪い人だからね」
 だからだというのである。男の子の言葉は続く。
「やっつけていいんだって」
「ふうん、そんな遊びなんだ」
「それをするのね」
「まずは武器を探そう」
 すぐにこうした話になった。武器を探すと。
「それでその武器で遊ぼう。皆でね」
「わかったわ。それじゃあ」
「武器は何でもいいんだよね」
「うん、何でもいいよ」
 男の子は皆の問いに答えた。
「何でもね」
「それじゃあわたし包丁持って来るから」
「僕バット」
 こう言って皆まずはそれぞれの家に戻ってその武器を持って来た。皆棒や植木用の大きな鋏や包丁、バット、木刀、鋸等を持って来た。どれも小さな身体に不自然なまでに大きくそして禍々しかった。
 そうしたものを持ってそのうえで皆集まっていた。男の子がここでまた言った。
「それじゃあ鬼ごっこをしてね」
「捕まえたらなのね」
「うん、やっつけるんだ」
 そうするというのである。
「悪い奴をやっつけるんだ」
「やっつけられる方はそのままやられるの?」
 中の一人が尋ねた。
「そのままやられるだけ?」
「ううん、武器持ってるじゃない」
 男の子が答えたのはこのことだった。
「だからさ。その武器でね」
「やり返していいんだね」
「いいよ。これでルールはわかったよね」
「わかったわ。それじゃあ」
「はじめよう」
 こうしてその鬼ごっこがはじめられた。皆それぞれ散って追いかけ合いをはじめる。公園の中でそれぞれ武器を持ってそのうえで追って追われるのだった。
「ははは、待てよ」
「待たないよ」
 にこやかな顔で追って逃げる。そして捕まえるとだ。
「捕まえた」
 言いながら両手に持っているバットを思いきり振りかぶる。そうしてそれで相手の頭を思いきり殴りつけるのだった。
 殴られた相手はそれで頭から血を流す。しかしそれでも生きていて自分が手にしている大きな鋏を前に突き出してその相手の腹を刺す。
 
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