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竜のもうひとつの瞳

作者:夜霧
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第三十九話

 海賊船で長曾我部の本拠地がある土佐にやって来た私達を待ち構えていたのは、一人のおかっぱ頭の女の子だった。
セーラー服っぽい着物を着た、元気一杯って感じの子で、普段むさ苦しい男共に囲まれてるこっちとしては何かすっごい癒される。
いやぁ、伊達にもあんな子が一人欲しいもんだね。
むさ苦しい野郎共で固めてると空気が澱んでくるような気がしてさぁ。
絶対にあんな子がいれば空気が浄化されるから。

 「テメェ、鶴の字! 何しに来やがった!」

 イケメンのモブ武将をいっぱい引き連れた女の子、鶴姫ちゃんは、アニキに向かってビシッと指を差していた。
ぶっちゃけイケメンばかり側に置いてるってのが羨ましくて堪らないんだけど、それはさて置いて。

 「何しに、じゃありません! 伊予河野にガラクタを捨てていったでしょう! さっさと撤去して下さい!」

 ……ガラクタ? 何、不法投棄って奴? 駄目だよ、アニキ。ゴミはきちんと決められたところに捨てないと。
いや、廃品回収じゃないんだからそういう問題じゃないか。

 「ガラクタじゃねぇ!! アレは俺の自慢のからくりよぉ。アレの良さが分からねぇとは……これだから小便臭ぇガキは……」

 「何てこと! 純真可憐なお嬢様とおっしゃいな!」

 ……純真可憐なお嬢様って。小便臭いガキからグレードアップしすぎだっての。

 私達を余所に喧嘩を始めた二人の様子を見つつ、近くにいたイケメンモブ武将を捕まえて事情をさりげなく聞いてみる。
ちなみに野郎共に聞かなかったのは、私の個人的な好みの問題です。
だって話すんならイケメンの方が良いでしょ? you see?

 「長曾我部殿が四国の覇者になられてからの付き合いなのですが、あの方は時々伊予河野の社にからくりを捨てて行かれるのです。
その引取りを巡ってこうして喧嘩になるのですが……」

 「からくりねぇ……ちなみにどんな?」

 何となく小十郎の声に似た、イケメンモブ武将が小さなからくりを取り出した。
一体どういう用途のものか分からないというそれを受け取って見てみれば、何となくだが用途が分かったような気がする。

 箱型の小さなからくりの側面にあるネジを巻いて蓋を開けてみる。
すると、予想通り私も聞いたことが無い音楽が流れ始めた。
曲調は和風というよりも洋風で、女の子が好みそうな曲であったりする。
けれど、何の曲か分からないところからすると海を渡った異国の曲ではないのかと思う。

 「おおっ、これは面妖な……」

 面妖……まぁ、確かに知らなければ面妖だろうけども。

 「オルゴールって言うのよ。南蛮のからくりでね、仕組みは分からないけれど……
まぁ、歯車とかそういうのを組み合わせて音を作って曲にするのよ。
で、このくぼんだところに化粧道具とか小物を入れたりして使うんだと思うよ」

 しかしオルゴールなんかこの世界にあるとは思わなかった。
なんでも有りの世界だけどさ、デザインは無骨だけど芸術品の類があるなんて思いもしないじゃない。
イケメンモブ武将も流石に聞きなれない言葉だったのか、言い難そうに反芻していた。

 「おる、ごーる……ですか。聞いたことの無い響きですね」

 「女の子はこういうの結構好きだよ……ははぁ、なるほどねぇ」

 不法投棄ってわけじゃなくて、これってもしかしてアニキから鶴姫ちゃんへのプレゼントじゃないのかしら。
だって、こんなものアニキが作るとは思えないしさぁ。
けど、プレゼントだって言えないから勝手に置いてってんじゃないのかしら。
で、向こうは何だか分からないからゴミだと思ってる、とか。
やだ、アニキ。何可愛いことやってんのよ、もう。ニヤニヤしたくなってくるじゃないの。

 「多分、他のも何かしら仕掛けがあって、あの子が好みそうな何かが出てくるんじゃないのかしら」

 「なるほど……ならばそう言ってもらえれば宜しかったというのに」

 「まぁ、それが不器用な男心って奴じゃない?
女の扱い知らないから、どう接していいのかも分からなくて喧嘩になっちゃうとか」

 子供染みた言い争いをしている二人の様子を見ていると、何だか微笑ましくなってくる。
ついイケメンモブ武将さんと一緒に微笑ましい目で見ていれば、二人が急に言い争いを止めた。

 「……鶴の字ぃ、今日という今日は許せねぇ! 勝負だ!」

 「望むところです!」

 「よぉし……今日の夕方にこの港を出向して、日本をぐるりと一周していち早く四国に帰って来た方が勝ち、ってのはどうよ。
テメェみてぇな小便臭ぇガキに戦って勝っても自慢にならねぇからな。
負けた方は……そうだな、何でも言うこと聞くってんでどうだ」

 「受けて立ちましょう! こちらもガラクタ作りの名人に勝ったところで、自慢にもなりません!」

 また喧嘩になりそうな二人を引き離して、妙な勝負を始めることになってしまった。
無論、そんな二人に対して周囲は完全に置いてけぼりだ。イケメンさんも呆れ顔でこの様子を見ているくらいだし。

 ……三河まで送ってくれるって話は反故にされないかしら……。
なんかそれが凄く心配になってきたのは言うまでも無い。



 さて、約束の刻限になり、両者は港を出港する。
妨害の為に互いの船に攻撃を仕掛けたりしないのはアニキが作ったルールで、純粋に船の速さで競い合うという。
流石に向こうが戦う為に作られた船じゃないってのは分かってるみたいで、そういう卑怯なことはしたくないとアニキが言っていた。

 いやぁ~、流石アニキ。勝つ為なら手段を選ばないっていう外道でなくて良かった~。
そんなことやったら本当に鶴姫ちゃんに嫌われちゃうもんね。
っていうか、手段を選ばないんならとっくに鶴姫ちゃんのこと掻っ攫ってるよね。
今頃無理矢理手篭めにして自分の女にしてるよねぇ~。

 「で、これからどうするの?」

 「予定通り三河を目指す。どのみち何処にも寄らずに日本一周すんのは無理だ。
ところどころで補給しながら進むしかねぇ……まぁ、三河の前に一箇所寄らねぇといけねぇ場所があんだけどもな」

 「はぁ……何処に行くの?」

 「それは着いてからのお楽しみよ!」

 豪快に笑ったアニキに、野郎共が何処か呆れた目を投げかけている。

 いやぁ~……大変だね、海賊ってのも。頭のアホみたいな決定に従わなきゃならないんだからさぁ。
……ま、そんなのは何処も同じか。うちだって政宗様が妙な思いつきをしたら、従わないといけないしね……。
無論、あまりにも許容出来ないものなら殴りつけてでも止めるけど。 
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