| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

真田十勇士

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

巻の十七 古都その一

                 巻の十七  古都
 一行は堺を出て奈良に向かっていた、途中険しい山があったが。
 一行は山に入る前にだ、道中だったので入った村の老人にこう言われた。
「これから進む山にはご注意を」
「何か出るのか」
「出る山は別の山ですじゃ」
 これから入る山ではないというのだ。
「そちらの山は十二月二十日に入ると化けものが出て来て襲われます」
「そういえばこの辺りであったな」
 筧はその話を聞いて言った。
「化けものが封じられた山があったのは」
「まさにその山ですじゃ」
 老人は筧にもこう返した。
「出て来るのは」
「そうであるな」
「ですがお侍様方がこれから入られる山はです」
「化けものは出ぬか」
「獣も少ないです、ですが」
 それでもとだ、老人は言うのだった。
「相当に険しい山ですじゃ」
「そこまで険しいのか」
「わし等地元の者でも越える時は覚悟して行きます」
 その山にとだ、老人はまた幸村に話した。
「非常に」
「そうか」
「別の山もありますが」
「いや、険しくともじゃ」
「行かれますか」
「その山が一番奈良に近いな」
「そのことはその通りですじゃ」
 老人は幸村にだ、彼等が今から越える山が一番奈良への近道であることを約束した。地元の者として。
「あの山を越えればすぐに奈良ですじゃ」
「ではあの山を越える」
「そこまで言うのなら止めませぬが」
 老人は一行の決意が固いのを見てこれ以上言うのを止めた。
 そのうえでだ、こう言ったのだった。
「道中お気をつけて」
「ではな」
 幸村は老人に微笑んでだ、そのうえでだった。
 家臣達と共に山に入った、山は確かに険しいが。
 それでもだ、その山の険しい道を何なく進んだ。猿飛は山道をカモシカの如く進みながら他の者に言った。
「確かに険しいがな」
「これ位は何ともないな」 
 清海も巨体からは信じられない身軽さで進んでいる、他の者達も同じだ。
「我等にとってはな」
「並の忍の者では辛いが」
「それでもな」
「我等ならばな」
「平気じゃ」
 こう言ってすいすいと進むのだった、それは幸村も同じでだ。
 何でもないといった顔で歩いていた、その幸村に霧隠が問うた。
「やはり上田も」
「うむ、山ばかりでな」
「ですから殿もですな」
「山道には慣れておる、それにな」
「忍術も身に着けておられるので」
「どんな山道でも平気じゃ」
「では飛騨等も」
 日本の中でも特に険しい山が多いこの国の名をだ、霧隠はここで出した。
「大丈夫ですから」
「あそこで修行したこともある」
「そうですか、それを聞いて安心しました」
「上田から堺まで多くの山も越えておる」
「信濃も険しい山が多いですからな」
 諏訪で彼と会った穴山も言う。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧