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赤い目

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2部分:第二章


第二章

「何時か行くから。それでいいね」
「ええ」
 母からは何とか逃げられた。だが何時かは行かなくてはならないと思う様になってきていたのは事実であった。
「おかしいな」
 高志はそれを不思議に感じていた。
「何でラーメン屋にどうしても行かなくちゃいけないんだろう」
 そう思うと根拠は不明だった。葉子は母親に言われたからだがそれだけでこうも義務的に考えるのはやはり不自然であった。
 だがすぐにそれは頭の中から消えた。ゲームをはじめたからである。高志はラーメンのことはすっかり忘れてゲームに熱中しはじめたのであった。
 それから数日後高志は学校の帰り道を歩いていた。やはり目の赤い者が目立っていた。
「まただ」
 すぐにそれに気付いた。今度は皆前に見たよりも目が赤かった。そして赤い目を持つ者自体が増えていたのであった。
「何なんだ、これは」
 学校でもそれは同じであった。葉子も他のクラスメイトもその目がさらに赤くなっていく。またそうした者も増えていった。何時の間にか先生達もそうであった。もう目が黒い者はクラスに数人しかいないといった有様であった。
 だがそれに誰も気付かない。誰もおかしいとは思わない。高志はそれが不自然でならなかった。そんな時であった。
「もし」
 ふと左手から声がかかった。年老いた男の声であった。
「そこの坊や」
「僕ですか?」
 高志は坊やと言われ声がした方に顔を向けた。もういい加減子供扱いされたくもないがそれでも応えた。
「そう、あんたじゃ」
 見れば年老いた易者であった。易者のあの独特の着物を着て白い髪と顎鬚を持っている。見るからに温和そうな顔を
しており易を手に椅子に座っていた。
「気付いてくれたようじゃな」
「僕に何の御用でしょうか」
 高志はこの老易者に声をかけられ戸惑いながらも声を返した。
「あんたは大丈夫なようじゃな」
「!?」
 そう言われて今度は訳がわからなくなってきた。
「どういうことですか」
「ここでは何じゃ」
 易者はまた言った。
「場所を変えようか。こっちへ来なさい」
「はあ」
 易者は店仕舞いをした。そして彼を案内して裏道に入った。そしてアパートに入って行ったのである。
「ここが今のわしの家じゃ」
「ここがですか」
「どうじゃ。中々立派な家じゃろう」
「はあ」
 どうということはないごくありふれたアパートである。中もテレビに布団、本棚の他にはこれといってなく一人身の老人らしい質素な部屋であった。だが本棚を見て少し不思議に思った。
 そこにあるのは占い関係の本だけではなかったのである。やけに古い、まるで百年も二百年も経ったかの様な古い本まであった。古風な字で書かれており中々読めるものではない。そうした本も何冊もあった。それを見るとこの老人はとても只の易者ではないようであった。
(名のある人なのかな)
 高志はそれを見て思った。だが確証はない。そんなことを思っている間に老人は茶を彼に差し出してきた。
「まあ飲みなされ」
「はい」
 二人は向かい合ってちゃぶ台に座った。見れば茶も結構高そうなものであった。増々只の易者ではないように思えてきたのであった。
 茶を飲む。実際に飲んでみるとやはり美味かった。いつも家で飲んでいるものとは明らかに違っていた。
「美味いじゃろう」
「ええ、まあ」
 高志は老人に言われるままそれに頷いた。
「この茶は普通の茶ではないからのう」
「違うんですか」
「そうじゃ。この茶は力を高める茶じゃ」
「力を」
「霊力をな。高める効果を持っておる」
「霊力!?」
 高志はそれを聞いて顔を顰めさせた。
「まさか。そんな御冗談を」
「いやいや、本当のことじゃ」
 老人は笑いながら応えた。
「これからのことを考えるとな。飲んでおかねばならんのじゃ」
「これからですか」
「左様。近頃おかしなことに気付かぬか」
 老人は高志に尋ねてきた。
「おかしなことですか」
「もう気付いていると思うがの」
「目のことでしょうか」
 彼はとりあえず思いついたことを尋ねてきた。
「最近どういうわけか赤い目をした人が多いんですけれど」
「あんたは学生さんじゃな」
「はい」
 高志は答えた。
「中学生です」
「学校でもそうかな」
「そうです。クラスメイトや先生も。皆目が赤くなってきています。それも段々増えていってます」
「そうか。それは思ったより深刻じゃな」
 老人はそれを聞くと目を閉じた。そして着物の中で腕を組んで大きく嘆息した。
「何かあるんですか?」
「中国では何故目が赤くなると言われているか知っているかの」
 老人はこう尋ねてきた。
「目が、ですか」
「中国ではな、人を食うとその罪により目が赤くなると言われておるのじゃ」
「人を食べる!?まさか」 
 流石にそんなことは信じられなかった。
「街中の人がですか。まさか」
「じゃが確かに目が赤くなっている者は増えていよう」
 老人はそれを必死に否定しようとする高志に対して言った。
「それはそうですが」
「それが何よりの証拠じゃ。わしはそれを聞いてこの街に来たのじゃからな」
「引っ越されてきたのですか」
「うむ。どうやらこの街には魔物がおる」
 彼は言った。
「魔物が」
「そやつが人の肉を街の者に食わせておるのじゃ。赤い目の者がいるのはそのせいじゃ」
「けれどどうやって」
 高志はそれでもわからなかった。
「あれだけ多くの人に。どうやって食べさせるんですか」
「方法は幾らでもある」
 彼はまた言った。
「店に出すとかのう」
「店」
 それを聞いてハッとした。
「心当たりはあるか」
「あるどころか」
 彼は言った。
「最近話題のラーメン屋でしょうか。最近皆あそこで食べていますから」
「ラーメンか」
 老人はそれを聞いて厳しい顔になった。
「成程な。それなら人の肉を入れるのも容易じゃ」
 彼は言葉を続けた。
「ラーメンはどうやって作るか知っておるな」
「はい」
「骨でダシを採るな。そこじゃ」
「そしてチャーシューも使いますね」
「本来は豚や鳥から採ったりするが他のものも使えないわけではないのじゃ」
「嘘だ・・・・・・」
「じゃがその線が一番高いのではないか」
 老人は高志を見据えてこう述べた。
 
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