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禁じられた舞台

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5部分:第五章


第五章

「だったらですよ」
「だったら?」
「今日までじゃないですか」
 彼は怪訝な顔で皆に言うのだった。
「今日までですよ。まだ」
「今日まで、か」
「だったら」
「もう今日はあと一時間程度ですけれど」
 若田部は自分の腕時計を見た。見れば時間は丁度夜の十一時であった。本当にあと一時間である。
「まだ何があるかわかりませんよ」
「その一時間の間にか」
「何があるか」
「そりゃ何もないに越したことはないです」
 彼は言った。
「それにあと一時間で何か起こるとは思えませんし」
「そうだよな。あと一時間しかない」
「何も起こる筈がないか」
「ですよね。ところで」
 彼はここで話題を変えてきた。
「これからどうします?」
「これから?」
「はい。二次会しますか?」
 皆に尋ねたのはこのことだった。皆まだ足はしっかりとしていた。店の前はまだまだ賑やかで人も多く行き交っている。夜の街の灯りが誘っているようだった。
「これから」
「そうだな。明日は皆休みだしな」
「いいよな」
「ああ、そうするか」
 皆彼の言葉に自然と二次会の流れになった。こうして彼等は夜の街の中に入っていった。とりあえずよさそうな店に入って一日を楽しむのだった。
 その次の日。昨日結局皆と二次会どころか三次会までやった若田部は自分の家で完全に二日酔いになっていた。中々起き上がらずベッドの中で寝ていた。しかしその彼の部屋の扉をノックする音が聞こえてきてここでようやく自分の頭の鈍い痛さに気付いたのだった。
「つう、飲み過ぎたな」
「ねえお兄ちゃん」
 扉の向こうから女の子の声がしてきた。
「起きてよ」
「ああ!?まだ七時半だぞ」
 自分の側の目覚まし時計を見てその声に応えた。
「今日は休みなんだよ。もっと寝かしてくれよ」
「そんなこと言ってる場合じゃないわよ」
「場合じゃないって何なんだよ」
 妹の言葉にとりあえずベッドから身体を起こした。やはり頭が痛く身体が重い。完全に二日酔いであった。
 とりあえずシャツを着てトランクスの上にジーンズをはく。それから半分這いながら部屋の扉に向かう。そのうえで扉を開けるとそこに新聞を持った黒いツインテールの女の子がいた。
「御前、学校は?」
「今からだけれど」
 そのツインテールの女の子は赤いブレザーにミニスカートの制服だった。ブラウスは白でネクタイは青である。何処かトリコロールを思わせる色だ。その女の子が彼の前にいて答えてきたのだ。
「それよりもよ。大変よ」
「大変なのは今の俺なんだけれど」
 不機嫌そのものの憮然とした顔で妹に応える。
「二日酔いでよ。もうちょっとゆっくりさせてくれよ」
「そんなのシャワー浴びればすぐに消えるじゃない」
「無茶言うな」
 今の言葉にはすぐに抗議で返した。
「そう簡単にいくか。それより何なんだ?」
「お兄ちゃんがスタッフだった舞台あるじゃない」
「昨日までのあれか?」
「そう、それよ」
 妹の声がここで少し早くて強いものになった。
「それなんだけれど」
「あの舞台がどうしたんだ?成功だったろ?」
「それは新聞にはないわよ」
「何だ」
 そうした話ではないと聞いてまずはがっかりとした。
「っていうかそういうことは記事にならないでしょ、新聞なら」
「まあそうだけれどな」
 わかってはいた。わかっていても言ったのだ。しかし話はここで暗転してしまったのだった。
「けれどその舞台の話よ」
「それで何だよ」
「ほら、プロデューサーさん」
 言うまでもなく高山のことである。
「お兄ちゃんがいつも横暴だ無茶苦茶だって言ってるあの人いるじゃない」
「予算とか時間は今回珍しくまともだったけれどな」
「その人よ。大変なことになったわよ」
「大変なこと?」
「事故に遭ったのよ」
 目を顰めさせて彼に言ってきた。
「事故に。それが新聞に載ってるのよ」
「事故!?」
 若田部は妹の言葉を最後まで聞いてその二日酔いで野暮ったく、むくれさえしてしまっている目を顰めさせた。そのせいで頭が余計に重くなるのも感じた。
 
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