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人面痩

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4部分:第四章


第四章

「何だ」
「彼氏持ちか」
「しかもあんな身体の奴かよ」
「こりゃ駄目だ」
「諦めようぜ」
「仕方ないな」
 そんな話をして陽子から視線を外す。だがまだチラチラと見ている。それは身体全体ではっきりと感じていた。同時に女の子の視線も。
「よかった、彼氏いたのね」
「あの人にいったらどうしようかと思ったわよね」
「そうよね、全く」
 彼女達は彼女達で陽子をチラチラと見ながら話していた。
「それが何もなくて」
「よかったわよね」
 やはり彼女達の視線も感じる。それに内心であるが満足感を覚える。それに気をよくしながら敦に声をかけた。
「泳ぐ?」
「準備体操は?」
「もう済ませたわ」
 水着を着てすぐに。それは忘れていなかった。
「じゃあいいよね」
「ええ」
 敦はこうしたことには細かい。やはり格闘技をやっているだけあって準備体操やその後のアフターケアには厳しかった。それをしないと怪我をすると言う。陽子もそれは当然だと思い彼の言う通りにしていた。
 プールに入る。そして二人で遊びはじめた。
 中で敦の身体にもたれかかりながら甘えたりする。プールの中のカップルがよくすることでありよく見られる姿であった。二人は今そうした時間を楽しんでいた。
 その時であった。またあの声が聞こえてきた。
「見せたい」
 女の声で。敦もそれに気付いた。
「今何か言った?」
「えっ、いいえ」
 陽子はそれに答える。今度ばかりはギョッとしていた。
「何も言ってないけど」
「じゃあ一体誰が」
「ねえ見てみる?」
 プールの端からまたあの高校生達の声が聞こえてきた。
「水着の中。どう?」
「えっ、いいよそんなの」
「気にしなくていいのよ」
「ほらほら」
 あの娘達がそう言って一緒に来ている男子高校生達をからかっていた。半分誘いのからかいである。
「プールに入ろうよお」
「う、うん」
 半ば強引に手を掴んでプールの中に引き摺り込もうとしていた。
「見せてあげるから」
「それはいいって」
「遠慮しないでよ」
「あたしは遠慮していないしさ」
「そういう問題じゃなくて」
「まあまあ」
「一緒にね」
「何だ、あの娘達か」
 敦は彼女達を見て言った。
「誰かと思ったら」
「またあの娘達ね」
 陽子は彼女達を見て困った様な苦笑いを浮かべた。
「着替えの時も騒がしかったし」
「そうだったの」
「そうなのよ。また何か声が私に似てる娘もいるし」
「そういえばそうだね」
 今話している声を聞いて敦もそれに頷いた。
「あの娘だね」
「ええ」
 その中の一人が指差されると陽子はそれに頷いた。
「何かと思ったよ」
「そうよんね、私も」
 陽子は内心胸を撫で下ろしていたがそれは隠していた。そして敦に声をかけた。
「まあ何かわかったし」
「そうだな、こっちはこっちで楽しくやるか」
「泳ぎ教えてよ」
「って陽子ちゃん泳げるじゃない」
「バタフライよ、私あれできないのよ」
「そうだったっけ」
「上手くはね。だから教えて」
「わかったよ、それじゃあ」
「ええ」
 二人はバタフライだけでなく他のことも教わっていた。そしてプールの中で楽しい時間を過ごしていた。それが終わりアパートに帰る頃にはもう疲れ果てていたが心地よい疲れであった。
「部屋に帰ったらどうする?」 
 敦は車を運転しながら陽子に尋ねてきた。
「そうね」
 陽子はそれに応えて口を開いた。
「まずは夕食は」
「途中で食べないか?疲れてるしさ」
「じゃあそれでいいわ」
「ラーメンか何かでも」
「ハンバーガーにしない。何でもいいけど」
「ファミレスは昼に行ったしな」
「それ以外なら何でもいいわよ」
 こう断る。
「じゃあ適当なところで」
「ええ」
「そして家に帰ったら」
「水着は洗濯機に入れてね。それで」
「御風呂に入って?」
「シャワーだけね。それでもう寝ましょう」
「ビールは・・・・・・もういいか」
 敦はこう言って諦めた。
「昨日あれだけ飲んだし」
「飲み過ぎると太るからな、あれも」
「太った私は嫌でしょ」
「まあね」
 陽子の言葉に応えてにこりと笑った。だが車を運転しているので彼女の方には振り向きはしない。そうした分別はちゃんとあったのである。
「陽子ちゃんだって嫌だろうし」
「ええ、嫌よ」
 彼女もそれを認めた。
「太る位なら最初から飲まないわよ」
「あまり、ね」 
 実は陽子は酒好きである。それもビールや甘いカクテルが好きだ。一緒にソーセージや脂っこいものがあると尚更いい。だから太る要素はあるのだが彼女はそれには自分も気をつけているのである。
「まあ気を着けるのはいいことさ。健康の為にもね」
「そうよね」
「じゃあ今日はこのまま食べてそのまま帰って」
「シャワー浴びて寝ましょう」
「うん」
 二人は適当に夕食を済ませて部屋に帰った。まず敦がシャワーを浴びた。次は陽子の番だった。
 陽子は服を脱ぎ風呂場に入る。そして湯を出しながら今日のことを考えていた。
「楽しかったけど何か引っ掛かることがあったわね」
 あの声のことだ。高校生の声だとはわかったが。
「何だったのかしら。見せたいだなんて」
 その声が。昨日ここでも聞こえたのを思い出した。やはり気になる。
 だが考えてもどうしようもない。シャワーで身体を濡らし洗いはじめる。髪を洗い、次には身体だ。スポンジにバスタオルをつける。上から下へと洗っていく。その時またあの声が聞こえてきた。
「見せたい」
「!?」
 陽子がその声にギョッとした。思わず辺りを見回す。
「またあの声」
 だが誰もいない。いる筈もない。今このアパートの部屋にいるのは彼女と敦だけである。しかも風呂場にいるのは。他に誰かいる筈もないのだ。
「見せたい」
 また聞こえてきた。今度は聞き間違えようがなかった。確かに彼女以外の誰かが声を発していた。それを認めるしかない状況であった。
「誰なの!?」
 誰もいない筈なのに。声だけが聞こえる。あまりにも異様なものがそこにはあった。
 誰もいないのがわかっていても辺りを見回す。そしてまた声が聞こえてきた。
「見せたい」
 耳を澄ませる。それは下の方から聞こえてきていた。
「見せたい」
 そしてまた。慌てて下に目をやる。それは泡がまだ残っている自分の脚、腿の内側にあった。隠れていたのだ。
 
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