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洗髪屋

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1部分:第一章


第一章

                         洗髪屋
 デンマークの首都コペンハーゲンの話である。
 この街にある男がいた。本名はわかっているがあまりにも奇怪でかつ異常な事件である為に偽名を使うことにする。その偽名はマリオ=グワロとしておこう。
 マリオはイタリア移民の子供としてスイスに生まれた。彼に異常が見られたのは十歳の頃のことである。
 十歳頃といえば性的に目覚めがある頃である。彼もまた然りであり欲求の対象が出て来た。しかし問題はその欲求の対象であった。
 髪の毛だ。それに異様にこだわったのである。
 異性を見てまず第一にその髪を見てだ。彼は欲情を覚えた。もっと言えば髪以外のどの部分にも、顔や胸、腰に足といったものの全てに欲情を感じずにだ。彼は異性の髪だけを見たのである。
 このことに気付いた周囲もだ。マリオについてこう言うのだった。
「妙な奴だな」
「ああ、女の髪だけを見ているな」
「胸は見ないのか?」
「顔は?」
「足も見ないのか」
 とにかくだ。そうしたものは全く見ようとしないのだ。相手の顔や胸やそういったものもひいては職業や背丈もだ。彼は全く見ない。
 とにかく髪だけを見てだ。彼は楽しんでいた。そして挙句にはだ。
 彼はその欲情のままにだ。周囲にこう漏らしていた。
「俺は何時かな」
「何時か?」
「何時かっていうと?」
「奇麗にしたいんだ」
 こうだ。いささか病んだ目で言ったのである。
 次第に異性の髪の毛を洗う妄想ばかりしていってだ。一度は分裂症とされ精神病院に入院した。しかし退院してからトラックの運転手をしながらだ。彼は奇行に走った。 
 何と女と見ると声をかけてだ。髪を洗わせろと言うのである。この奇行をしていきだ。
 ヒッチハイクの女性を特に引っ掛けて髪の毛を洗った。とにかく彼は髪の毛を洗えればそれで満足だったのである。それこそが彼にとっては性的欲求でありそれの解消手段であったのだ。
 彼を知る者はこの奇行に目を顰めさせた。それでだ。
 また精神病院に入院させようと思った。そうしなければまた恐ろしいことだけをしかねないと思ったからだ。それで何とか入院させようと動きはじめた。だがそれは残念だが遅かった。
 彼はその前にだ。してしまったのだ。
 ある日ヒッチハイカーの、名前をエリザとしておこう。このヒッチハイクの旅人を見つけてだ。車の中からこう声をかけたのだ。
「あんたヒッチハイクしてるんだよな」
「ええ、そうよ」
 エリザは彼に気さくに答えた。見れば奇麗な長い髪をしている。マリオはそれを見て声をかけたのである。
「ぢょっとね。コペンハーゲンまで行くのよ」
「ああ、それならな」
 エリザの話を聞いてだ。マリオはすぐにこう言ってきた。
「そこまで乗せていってやろうか?」
「いいの?」
「俺もコペンハーゲンまで行く途中だしな」
 笑顔でエリザに話すのだった。屈託のない笑顔で。
「それだとな。ただしな」
「ただし?」
「その髪の毛を洗わせてくれ」
 いつもの頼みをだ。エリザにもしたのである。
「それをさせてくれたら乗せてもいいぜ」
「あら、髪の毛をなの」
「シャンプーな。それをさせてくれないか?」
「そんなのでいいの?」
 エリザは思わず笑ってだ。マリオに問い返したのだった。
「それじゃあ私が一方的に得するじゃない。コペンハーゲンまで連れて行ってもらってしかもシャンプーで髪の毛を奇麗にしてくれるなんて」
「悪い条件じゃないだろ」
「それどころか最高よ」
 エリザも笑顔で応える。こうしてだった。
 二人は一旦マリオの部屋に行き髪を洗った。だがここでだ。
 マリオは二度、三度と髪を洗うのだ。その彼にだ。
 エリザは異変を感じだ。こう彼に言った。エリザは散髪屋にある椅子、あの頭を洗う為の椅子に座りそうして散髪屋にあるものそのままの洗髪用シャワーで頭を洗われていた。その中でだ。
「ちょっと、もういいわよ」
「いや、この髪は奇麗だから」
「だから。もう洗ってもらったから」
「いや、まだだ」
 マリオは何かに取り憑かれた様な声で返してきた。
「まだ洗うから」
「じゃあリンスを」
「いや、リンスじゃ駄目だ」
 こう言ってだ。シャンプーでエリザの見事な髪を何度も何度も洗うのだ。そしてだ。
 彼女が席から立とうとする。マリオの異常さに気付き逃げようとしてだ。しかしその彼女に対して。
 マリオはロープと猿轡で動けないようにして黙らせてだ。それから再びだった。
 髪を荒い続ける。そのうちにシャンプーが全てなくなり石鹸になりリンス、とにかく全て使ってしまった。それで諦めるかというと。
 今度は蜂蜜やオリーブオイルやドレッシングだった。調味料まで使いだしたのだ。ぬるぬるとした感じの液体なら何でもだった。
 
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