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真田十勇士

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巻ノ十五 堺の町その十三

「拙者もまだまだか」
「いえ、千利休殿ですぞ」
 筧がその幸村に言う。
「これ位のことはです」
「当然のことか」
「伊達に羽柴殿の懐刀のお一人ではありませぬ」
「弟君の秀長殿と共にじゃな」
「それ程の方ですから」
「こうしたこともか」
「普通かと」
 こう言うのだった。
「我等に気付くことも」
「そうなるか」
「ですからお気を落とされぬ様」
 自分が無力と思って、というのだ。
「ここは」
「わかった、ではな」
「はい、その様に」
「それで利休殿が我等に何のご用件であろうか」
 穴山は何時でも鉄砲を撃てる様に密かに手を背に回しつつ小坊主に問うた。若し何かあれば背の鉄砲を撃つつもりなのだ。
「一体」
「はい、実は旦那様がご一行とお話をしたいとです」
「それでか」
「こちらに参上したのです」
 こう一行に言うのだった。
「そうした次第です」
「利休殿が我等に」
「そうです」
 小坊主は幸村に答えた。
「ご自身のお屋敷に」
「今利休殿は堺におられるのか」
 由利は小坊主にこのことを確認する為に問うた。
「そうであるのか」
「左様であります」
「そして我等をお招き下さる為にか」
「私めをこちらに寄越されました」
「殿、どうされますか」
 望月は幸村に顔を向けて問うた。
「ここは」
「このお招きに応じるか」
「はい、どうされますか」
「殿、行くべきかと」
 伊佐はすぐに幸村に己の考えを述べた。
「この度は」
「そして利休殿とお会いしてか」
「お話を聞きましょう」
「利休殿が天下の傑物だからじゃな」
「はい、武士ではありませぬが」
 それでもとだ、伊佐は幸村に言うのだった。
「その器は相当に大きな方と聞いています」
「だからじゃな」
「お会いすべきです」
 是非にという言葉だった。
「ここは」
「わかった、では案内を頼む」
 幸村は伊佐の言葉も受けて小坊主に返した。
「これよりな」
「畏まりました、それでは」
 こうしてだった、幸村主従は今度は利休の前に案内されることになった。一行の旅はまたしても思わぬ方向に進むのだった。


巻ノ十五   完


                           2015・7・17 
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